登山レポート【屋久島・宮之浦岳縦走】プロ写真家 横田裕市がめぐる世界遺産の森と絶景

言わずと知れた人気観光スポット「屋久島」。日帰りトレッキングもいいけれど、テントを担いで縦走路を歩く本格的な登山もおすすめです。縦走だからこそ出合える圧倒的な大自然を求めて、写真家の横田裕市さんが「宮之浦岳縦走コース」を歩きました。美しい風景写真とともに、屋久島の登山コースガイドをお楽しみください。

2020.08.31

横田 裕市

風景写真家

INDEX

屋久島・九州の最高峰「宮之浦岳」の縦走登山に挑戦

初めまして、写真家の横田裕市と申します。普段は国内外の風景写真を撮影しています。昨年の夏から登山の世界に足を踏み入れ、山の風景も撮影するようになりました。

本格登山を始めて最初に登った谷川岳より

屋久島へは13年前、大学時代に友人と縄文杉トレッキングに訪れたのが最初。その後、いつかまた訪れたいと思いつつ、気が付けば10年近く時が過ぎ、2017年にようやく再訪。この時は妻と共に白谷雲水峡トレッキングを楽しみました。それから2年後、2019年に登山を始めたことがきっかけで、登山として屋久島を楽しみたいと考えるようになりました。

そして2020年の7月、ついに念願の屋久島登山「宮之浦岳縦走コース」に挑戦することにしたのです。

宮之浦岳縦走コースでは、その名の通り、屋久島及び九州地方の最高峰でもある宮之浦岳(みやのうらだけ)を通過します。南側の淀川登山口から入り、北側の白谷雲水峡登山口、もしくは荒川登山口へと抜ける総距離25km前後。多くの方は行程によって1泊2日、もしくは2泊3日でトライするようです。私の場合、撮影も兼ねてコースタイムよりもゆっくりと時間をかけて歩くため、余裕を持って3泊4日の行程で臨みました。


屋久島の地図(YAMAP)

宮之浦岳の山域は、ユネスコの世界遺産「屋久島」として登録されています。そのため、ルートを外れて苔や植物を傷つけるようなことをしてはいけません。整備されたルートを外れないよう注意しましょう。

到着初日は、淀川小屋がゴール

これまでは高速フェリーで宮之浦港へ上陸していましたが、今回初めて屋久島空港を利用しました。空港利用は、陸路と違い移動がスムーズなので荷物が多い場合は特におすすめしたい。(※屋久島空港行きの飛行機は小型のプロペラ機のため機内持ち込みスーツケースのサイズ制限に注意しましょう。私はサイズ規制でつまづきました…。)

登山口へのアクセスは、タクシーかバスの利用をおすすめします。今回は屋久島交通バスを利用しました。「空港〜合庁前行き」から乗り継ぎ「合庁前〜紀元杉行き」で終点の紀元杉に向かいます。紀元杉に到着したら、淀川登山口までは道なりに道路を1.5kmほど歩きます。時間にして30分前後。到着前にバスの中等で事前に靴紐を締めておきましょう。淀川登山口は分かりやすくトイレと休息所があります。

淀川登山口の様子、私が訪れた日は土砂降りの前

雨の屋久島、それは水を纏った島本来の姿

屋久島は年間降雨量が日本一なのですが、大変有り難いことに私は過去2回とも雨にほとんど遭遇しませんでした。

土砂降りの屋久島の森を撮影するのが初めてで、どんな写真が撮れるのか楽しみにしながら入山。待っていたのは、雨粒を一身に受ける屋久島の森の表情でした。雨降る中の撮影は大変でしたが、その苦労に報いるだけの写真が撮れました。

雫滴る苔と新芽

艶やかに濡れる新葉

淀川小屋までの行程は高低差も少なく、シンプルな山歩き道。コースタイムで40分、準備運動がてらの山行です。森の植物を観察しつつ、淡々と進みましょう。

朽ちた木々に、栄える苔

雨水を受けて染み入る深い緑

淀川小屋のすぐ横には、その名の通り淀川が流れています。小屋へ荷物を置き、水汲みに訪れた際に初めて淀川を目にしたのですが、その水の澄んだ色に心を奪われました。この場所に留まり、流れる清流をずっと眺めていたい。そう思わずにはいられない美しさがそこにありました。

激しく雨打つ水面、とても澄んだ淀川

淀川小屋は広く綺麗で使いやすく、小屋泊初心者にも優しい施設。常設トイレもあります。この日は5組ほどの宿泊。翌朝が早いので19時頃には就寝の雰囲気に。

湿気対策をしよう

湿気対策に、電子機器の保管方法は乾燥剤入りのジップロックを持参するのが良いです。私は今回対策不足で、雨水と湿気が原因でいくつかの電子機器を故障させてしまいました。教訓として今後に活かします。予備や着替えの服等も、湿気を遮断する袋に入れて封をしましょう。

雨上がりの森を歩く贅沢

本当に幸運なことに雨天は最初の1日で終わり、以降は梅雨明けを感じさせる晴天が続きました。水面が慌ただしかった淀川も、本来の澄んだ美しさを取り戻しました。出発前の早朝、淀川の風景だけで贅沢すぎるご褒美です。

雨上がりの淀川、まるでそこに水が無いかのような驚異の透明度

淀川の澄んだ水面との別れを惜しみながら、この縦走のメインともいうべき2日目が始まりました。目指すは宮之浦岳。標高は1,400mから1,900mの宮之浦岳山頂まで、行程はアップダウンの容赦ない急登が何度か続きます。

淀川小屋を出発し、まずは花之江河(はなのえご)を目指します。花之江河を日本最南端にある高層湿原。美しい高山植物と清流が広がっています。この時点で淀川小屋の標高1380メートルから標高1,640mまで上がります。ここまでの道のりはひたすら登ります。

雨と太陽の光を吸った植物の緑は輝く

少し手前に小花之江河(こはなのえご)という湿原があります。森を抜けて一気に空が開けた場所に出ますので、勘違い注意。(私は勘違いしました…。)

小花之江河で出合った美しい蝶・ツマグロヒョウモン

花之江河には美しい湿原の中に清流が流れています

体力と時間に余裕がある方は、花之江河から少し先にある黒味岳(くろみだけ)登山にも挑戦してみてはいかがでしょうか。私も計画上挑戦する予定でしたが、今回は余裕が無く見送り。次回リベンジします!

溢れ出る清水に癒やされながら

雨上がりの屋久島は、島そのものが水をたっぷり含んだスポンジの如く至る所で水が溢れ流れています。水のせせらぎに耳を傾けながらの山行はとても心地良いです。

水は冷たくとびっきりに美味しい

雨上がり直後、登山道の至る所で水が流れている

緑と水に癒やされつつ、水流に逆らい登山者は登っていく

屋久島といえば、苔

苔を撮影していると、そこにはひとつの小さな宇宙が広がっているような感覚を覚えます。撮影していたら切りが無いのですが、行く先々で目に止まった被写体を直感的に撮影しています。

星屑のような苔

苔の中に咲く小さな花

清流にひたる広大な苔

縦走前半のハイライト、宮之浦岳登頂へ

花之江河を過ぎてからは、3kmほどのアップダウンのある登り道。宮之浦岳山腹に連なる山々を突き進みます。宮之浦岳へ到達する手前には栗生岳(くりおだけ)を登頂しますが、巨大な岩があるだけであまり登頂の達成感はありません。ここはさっさと通過して、ゴールである宮之浦岳登頂の達成感を味わいましょう。

栗生岳から臨む、ここまで歩いてきた山々の雄大な連なり

宮之浦岳から臨む、青空と栗生岳

宮之浦岳山頂から臨む、永田岳まで続く山景

上空から見る宮之浦岳山頂

今回、自身の山行でも最高クラスの荷物の重さ(機材を含め総重量24キロ)に身が持たず、中盤から疲労困憊の山行に。それでも進む度に目の前に広がる癒やしの風景や動植物に心を動かされ、着実に前進し、宮之浦岳登頂を成し遂げることができました。

淀川登山口から宮之浦岳登頂までの縦走前半戦。それだけでもあまりに見所が多く、なんと贅沢な山行なのか。新しい風景に出会う度に、そう思わずにはいられませんでした。次の登山編後編では、登山から緩やかにトレッキングコースへ。縄文杉や白谷雲水峡のルートを中心にご紹介します。

登山レポート【屋久島 縄文杉・白谷雲水峡】プロ写真家 横田裕市がめぐる、悠久の時を刻む樹木と苔の世界

横田 裕市

風景写真家

横田 裕市

風景写真家

福島県出身 85 年生、東京都在住の写真家。雄大な自然のスケールを伝える大胆かつ 繊細な絵を得意とする。プロとして10年のキャリアを持ち、主に商業向けに国内外の風景を撮影。Appleでの広告採用や国際フォトコンテスト ipa2016 での部門優勝、海外メディア 掲載等、国内外問わず活動の幅を広げている。今秋、TAMRONの新作レンズ広告撮影を担当。全国でSONYのセミナー講師を務める。20 ...(続きを読む

福島県出身 85 年生、東京都在住の写真家。雄大な自然のスケールを伝える大胆かつ 繊細な絵を得意とする。プロとして10年のキャリアを持ち、主に商業向けに国内外の風景を撮影。Appleでの広告採用や国際フォトコンテスト ipa2016 での部門優勝、海外メディア 掲載等、国内外問わず活動の幅を広げている。今秋、TAMRONの新作レンズ広告撮影を担当。全国でSONYのセミナー講師を務める。2019 年ソニーイメージングギャラリー にて初写真展「フィンランド 冬の光」が大成功を収め、全国で巡回展を開催。

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