トレイルランニングレース『白馬国際トレイルラン』では、コロナ感染防止策としてYAMAPと連携した初の「バーチャル予選」を実施。トレラン大会が軒並み中止となる中、大会創設当初からのビジョンを大切にしながらも、さらなる進化を遂げた"白馬国際"の舞台裏を、実行委員会のみなさんに伺いました。
2020.11.13
YAMAP MAGAZINE 編集部
今年、第9回目を迎えたトレイルランニングレース『白馬国際トレイルラン』では、コロナ感染防止のための施策としてYAMAPと連携した初のバーチャル予選「トライアル・ウィーク」を実施しました。本戦への参加希望者は約1ヶ月の間に白馬村内の指定コース(約13km)を走り、ログを提出してエントリーするという仕組みです。男女各50位までの選手と抽選で選ばれた選手、合わせて約200名が本戦に参加しました。
コロナ禍によりトレイルランレースが軒並み中止となるなか、白馬ではなぜこの方法での開催を選んだのでしょうか……。そこには大会創設当初からのビジョンがあったといいます。実行委員会の丸山賢人さん、中沢直人さん、宮田誠さんにお話をうかがいました。
まずは大会の無事終了おめでとうございます。今回、なぜバーチャル予選という方法を選んだのでしょうか?
中沢:白馬は観光産業で成り立っている村です。コロナ感染防止を考慮すると、例年のように2000人規模での大会開催はできませんので、どれだけ参加者を分散させて白馬村に訪れてもらうかを考えました。スタッフの中から予選会というアイデアが出て、それなら一日に大人数が集中しないのではないかと思ったわけです。
丸山:開催にあたっては、村内からもネガティブな声はほとんど聞こえてきませんでしたが、「例年どおりのやり方ではダメだろう。ではどうするのか?」という意見はありました。白馬はスキーで盛り上がってきた地域ですが、僕らにはトレイルランをスキーと同じように盛り上げたいという想いがあります。大会設立当初からのビジョンとして、グリーンシーズン中、たくさんのお客さんに白馬に足を運んでもらうことを目標に掲げてきました。昨年は一度大会をお休みし、常設コースを設置して、当初のビジョンに向けての歩みを進めていたところに、コロナ禍が訪れました。1ヶ月間に渡るバーチャル予選という案が出てきたことで、大会本来のビジョンと上手くシンクロしたというわけです。
バーチャル予選に向けて、具体的にどのような話し合いをされましたか。
丸山:バーチャル予選をしようと決めてからは比較的スムーズで、むしろ時間をかけたのはそれ以前の部分、大会を開催するかしないかという判断でした。僕らは本業を持ちつつ、ほぼボランティアで大会運営を行っていて、これまでもどうしたら大会を継続していけるか議論を重ね、組織の立て直しなどを進めてきたんです。
コロナ禍を理由に大会を開催しないと決めるのは簡単なことですが、僕らの使命はお客さんに白馬に来てもらうことですから、そう簡単に中止という判断は下せませんでした。
宮田:今回の判断は、僕らがプロの大会運営者じゃないから可能だったと言えるのかもしれませんね。一年を通してお客さんを呼ぶための手段として、大会を開催しているわけですから。僕は東京在住なのですが、白馬の宿泊施設の予約が予想以上に減少している事実を知ったとき、この大会の開催が、白馬の観光業の安全意識の高さを伝える旗印になるのではと思ったんです。僕らは大会の存在理由である「Why」を議論し続けてきて、さらにコロナ感染防止に対する検討も十分に行い、結論として導き出した「How」がバーチャル予選と本戦だったというわけです。
丸山:なぜリスクを取ってまでも開催するのか、その意味についてとにかく話し合いました。白馬の観光業は冬がメインシーズンなわけで、その前にトレイルランレースを開催して仮に感染者が発生してしまった場合のダメージは相当なものです。ですから、誰もが絶対に感染者を出すわけにはいかないと思っていました。3〜4ヶ月議論を重ねるうちに、徐々に折衷案が見えてきました。自転車のバーチャルレースも参考にしました。
バーチャル予選に対する反響はいかがでしたか?
中沢:参加者の皆さんからは「何回も走れるのが嬉しい」「密にならないのがいい」というご意見をいただきました。
宮田:僕は自社内にワーケーション制度をつくり、会社のメンバーを10名ほどバーチャル予選で白馬村へ連れていきました。友人も何十人も参加してくれています。彼らが口を揃えて言っていたのは「白馬をこんなにゆっくり楽しんだのは初めてだ」ということ。友人たちは大会の常連ですが、通常なら前泊して翌日に50km走らなければならないプレッシャーがあり、なかなか白馬そのものを楽しめないんですね。でも今回の予選では約13kmを思い思いのペースで走れるため、前日に八方池を走った仲間もいました。みんな「旅として白馬を楽しめた」と喜んでくれました。本線への切符に繋がるというゲーム性を含んでいたところも、旅ランとしての魅力を高めたように思います。
登山でもトレイルランでも、アクティビティ自体の距離や時間が短くなることで旅全体に余裕が生まれ、地域を十分に楽しめるということはありますね。
宮田:そうですね。地元の居酒屋さんから「一度にたくさんは来ないけれど、閑散期にも関わらず、1ヶ月に渡ってお客さんが白馬に来てくれた。ありがとうね」と言われたのが本当に嬉しかったですね。
そのほか、バーチャル予選ではトップ選手のトライアルも目立ちました。スカイランニングのチームや地元のクロスカントリー選手、駅伝選手や国体レベルの選手がアタックしていました。大会HPで常にランキングを更新していたので、コンペ性も生まれたのがよかったのかなと思います
初の試みで手探りな点も多かったと思いますが、反省点などはありますか?
丸山:当初、どれだけの人が予選に参加してくれるか、まったく予測できなかったんです。そのため、本戦の大会規模を決めるのが難しかったですね。感染リスクを避けるため300人以下と想定していましたが、そもそもそんなに人が集まるのかもわからなくて。
中沢:バーチャル予選をスタートして週を追うごとに走りに来てくれるランナーが増えていきました。「コース案内がわかりにくかった」というご意見をいただいたので、まだまだコース整備には課題があるなと思っています。
丸山:予選から本戦までの期間がタイトだったこともあり、情報発信が足りない部分がありました。「現地で走らなくても抽選権が得られる」と誤解した方もいたようです。ギリギリの中で準備したことが要因していると思います。
宮田:「短期間に2回白馬に来るのは難しい」という声もいただきました。抽選に当たったのに本戦には来られなかったランナーもいたようで、それは残念だったなと思います。
本大会ではYAMAPがサービス提供で携わったとのことですが、具体的にはどのようなサポートを行ったのでしょうか?
YAMAP佐藤バーチャル予選と本選のコースの地図を作成しました。また本選では、各ランナーの走っている場所をリアルタイムで大会運営者が把握できる、「参加者トラッキングシステム」でご協力させていただきました。近年、トレイルランニングレースで遭難が発生したといった問題を受けて、大会の安全対策により大きな関心が集まっていると感じています。現在YAMAPでは、複数のトレイルランニング大会に対して、大会コースの地図作成と、大会当日のランナーの位置を把握できる「参加者トラッキングシステム」、そしてレース当日のみ、など単日加入もできる「登山保険」で、ランナーと大会の安心・安全の助けとなるようなサービスを開始しています。
今回、実行委員のみなさんから、「コロナ禍ながら工夫して大会を開催するために、コースを設定してバーチャル予選を実施したいと考えています」とお声がけいただき、初の取り組みとなるバーチャル大会に協力させていただきました。YAMAPの白馬国際トレランの活動日記もたくさん投稿され、多くの方がバーチャル予選を楽しんでいる姿が伺えました。今後の取り組みにも手応えを感じています。
YAMAPとは初連携でしたが、サービスを活用しての感触はいかがでしたか?
宮田:バーチャル予選を行うにあたって、何らかのランニングアプリを使わないと計測が難しいということになり、山に入るには高低図のあるYAMAPさんが最適だと考えて、今回ご協力いただくことにしました。「参加者トラッキングシステム」による安全の確保や保険加入が可能な点も決め手になりました。何よりスピーディーなバックアップ体制がありがたかったですね。
中沢:本戦ではYAMAPアプリのトラッキングシステムが非常に見やすくて、選手の現在地把握に役立ちました。すべての参加者がアプリを導入してくれたら、さらに安全管理に活かせるのではと思います。救護メンバーと情報共有できたこともよかったと思っています。
コロナ禍という特別な状況の中での本戦開催は、いかがでしたか?
丸山:本番ではいかに感染リスクを抑えるかに注力しました。マツモトキヨシさんや武田製薬さんにご協賛いただいていたので、フェイスシールドや消毒用アルコール、マスクなどを十分に用意することができ、「これだったら大丈夫」というレベルで感染予防対策が施せたと思います。
レース形式としては、15秒間隔のインターバルスタートを採用しました。これも出場人数を200名弱に絞ったことで可能になった方式で、密も避けられたと思います。
東京に在住する運営メンバーがチームを組んで、オンラインでコロナ対策やバーチャル予選の仕組みをサポートしくれました。当日の受付も担当してくれたので、かなり助けられました。
宮田:今回、白馬×東京の混合チームで進めたんです。大会を持続可能な形にしていくために、さまざまなトライをしたんですね。インターバルスタートはスキーではよく行われる方式で、地元メンバーにはノウハウがあったのですが、トレイルランナーにはほとんど馴染みがありません。それによりスタート時の緊張感が増し、コンペ性が高まったという副次的な効果が生まれました。
丸山:予選の成績でゼッケンを色分けし、スタート時にはMCが選手一人ひとりの名前をアナウンスしたのも雰囲気を盛り上げたと思います。
中沢:インターバルスタートだとゴールした順番と実際の順位が異なるんです。最終ランナーがゴールするまで順位がわからないというワクワク感がありましたね。
今回の大会開催で気づいたこと、次回以降に繋げていきたいことがあれば教えてください。
丸山:今回はイレギュラーな開催方法でしたが、白馬村へ訪れるお客さんのピークを分散させるという意味では非常に成功したと思っています。また大会本来のビジョンという意味においても、ポテレンシャルを感じることができました。今後、たとえばグリーンシーズンを通して予選会を開催するといった方法もありなのかもしれませんし、年間を通してお客さんを呼べるヒントを得ることができたと思っています。
宮田:まだ来年の開催については何も決まっていませんが、コロナが収束しても、今回の経験を次回以降に活かしていきたいと思っています。たとえばYouTubeを使ったオンラインのブリーフィングは参加者の皆さんにもなかなか好評でしたし、今後も活用できるなと思っています。
例年スポンサー企業20社くらいで大規模にブース展開を行っていたのですが、今回は感染リスクを軽減する意味もあって、ブース出店をお断りしたんです。運営費減少の不安もありましたが、数社に絞らせていただきました。そしてバーチャルエキスポとして、ご協力いただいた企業の商品はYouTubeのブリーフィングの最後にしっかりご紹介し、ECサイトに誘導するなどしました。こうした取り組みは、今後の大会でも続けられるかなと思います。
オンラインブリーフィングは、密を回避できるほか、場所や時間を選ばずチェックできたり、ゲストランナー鏑木毅さんのトークが楽しめたりなど、コンテンツとしても充実していた
今回の白馬国際トレイルランでの取り組みは、他のエリアのトレイルランニング大会においても参考になる要素がたくさんあるのではないかと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
丸山 賢人さん
村のHOTEL信屋 経営者
白馬国際トレイルラン実行委員会 事務局長
中沢 直人さん
スノーボード・スキー用品買取 モンスタークリフ株式会社 社員
白馬国際トレイルラン 実行委員会 事務局
宮田 誠さん
白馬国際トレイルラン実行委員会
発起人/コーディネーター
株式会社ユーフォリア 代表取締役
インタビュー:春山慶彦、佐藤ユキ丸、千葉弓子
構成:YAMAP MAGAZINE編集部、千葉弓子