「森林のいま・これからを考える」THINNING×福岡市×YAMAP オンラインイベントレポート

秋も深まる2020年11月9日、YAMAPが運営に協力するトークイベント「森林(もり)のいま・これからを考える」が福岡市にある六本松蔦屋書店の一角で開催されました。今回は当日の様子を動画でお届けします。私たちの生活を支える森林の現状と課題、そして森林を守るために奮闘する人々の物語をどうぞお楽しみください。

2020.12.04

YAMAP MAGAZINE 編集部

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福岡・大分・北海道から森林の守り人たちが集結

森林のいま・これから? ちょっと固そうなテーマだけど大切そう…。でもやっぱりちょっと固そう…。きっと多くの方がそう感じられたかと思います。でもご安心を。そんな真面目で固くなりがちなテーマを楽しみながら解決していこうと言うのが、このイベントの趣旨なのです。

当日は、糸島を中心に青空マーケットなどのイベントを通して”森林づくり”の普及活動をしている「THINNING」実行委員の林博之さんと薦田雄一さん、大分県日田市で林業従事者や地域の人々も巻き込み、森林づくりの活動を行う「ヤブクグリ」宣伝係の伊藤敬生さん、九州大学大学院にて森林政策学・山村社会論の研究に従事する佐藤宣子教授、そしてファシリテーターとしてYAMAPの吉川裕樹が会場にてトークセッションを繰り広げました。

さらに今回は、オンラインでもスピーカーが登壇。大分県日田市とつなぎ「ヤブクグリ」会長の黒木陽介さんとプロデュース係の江添直樹さん、さらには、遠く北海道東川町で白樺の森林を産業的・文化的に再生させる活動を行う「白樺プロジェクト」の代表理事、鳥羽山聡さんにも参加いただきました。

日本各地で森林を支え、次の世代に繋ごうと奮闘する守り人たち。熱い思いの詰まったトークセッションの様子を当日の録画映像でお楽しみください。

オンライン中継の様子

森林に関する学術的なことから、楽しみ方まで! 充実のプレゼンテーション

イベントの前半は、各登壇者のプレゼンテーション。まずマイクを持ったのは九州大学大学院の佐藤先生です。長年にわたり森林の研究に従事されてきた専門家としての観点から、森林の恵みや災害、森林と人が共生するために始まっている取り組みについて、お話いただきました。

印象的だったのは、地理的・気象的な観点から、福岡市周辺地域の森林と川の価値を説明している点。

筑後川・脊振山系・博多湾沿いの防風林。私たちの生活が、いかに都市周辺の森林に支えられているか? 具体的な地名を挙げながら説明してくださいました。飲み水がどの山からやってきて、どういった森林によって災害から私たちの生活が守られているのか、福岡に住む方にとっては必見の内容です。

佐藤先生のプレゼンテーションから。福岡市で使われる水がどこから確保されているかが細かく示されています

続いては、「THINNING」の林さんと薦田さんからのお話。衰退する日本の林業の実態、そしてその課題を解決するために彼らが取った「青空マーケット通して楽しみながら課題を解決していく取り組み」について話は熱を帯びていきます。薦田さんのご実家は林業を生業としておられるとのことで、リアルな林業現場のお話も印象的でした。

11月6日〜15日にかけて今回のトークイベント会場でもある六本松蔦屋書店に出展されたTHINNINGの特設ブース。間伐材を用いたテントには魅力的なプロダクトが並びます(画像提供:THINNING実行委員 STB STUDIO 石橋 整)

3番目にバトンを受け取ったのは「ヤブクグリ」の伊藤さん、江副さん、黒木さん。自然、そして森林を愛する仲間がいかに集い、目的を持ち、チームを組むに至ったか? 聞いているこちらまでワクワクしてしまうエピソードの数々が披露され、会場からは笑い声も。活動の楽しさ、そして社会的な意義に惹かれ、森林を守る仲間がどんどん増えていく様子は聞いているだけでも痛快です!

当日の発表資料にもあったヤブクグリ発足の瞬間を収めた写真。この後、人が人を呼び、話が盛り上がり、発足の運びとなったそうです(画像提供:ヤブクグリ)

プレゼンテーションの最後を飾るのは、北海道東川町を拠点に活動する「白樺プロジェクト」の代表理事、鳥羽山さん。荒地でも育つ白樺の特性を生かして、森林の再生を促す活動に取り組んでおられます。

また木材としてはほぼ価値がないと言われる白樺を活用して家具や工芸品、楽器などの様々なプロダクトを世に送り出す活動にも着手し、未来に豊かな森林を残そうとされています。数多くの職人さん・企業と協業し、白樺の森林に新たな価値を産み出そうと奮闘される様子をご紹介いただきました。

森林の保護活動やワークショップ、プロダクトの制作など、白樺プロジェクトの活動は多岐に渡ります(画像提供:白樺プロジェクト)

後半のフリートークでは、森林の現状や未来像について熱く議論

(画像提供:THINNING実行委員 STB STUDIO 石橋 整)

各登壇者からのプレゼンテーションの後は、フリートークの時間。各地の森林の現状や課題、これからの山の理想像についてなど、多岐にわたるテーマでディスカッションが行われました。

会話の中では、福岡県朝倉郡東峰村や大分県日田市中津江村など、近年九州で多発している豪雨被害についても言及。被災時に復興の先駆けとなる林業従事者の活躍にも話は及びます。「チェーンソーを使える、倒木の処理ができる」といった林業従事者は災害復興の要ともなりうる貴重な人材。地域に林業従事者がいるということは災害インフラとしても有効なのだそうです。

また、皆さんが異口同音に言われていたのが「きっかけ」という言葉。いずれのメンバーも、自分たちの活動がきっかけとなり、ひとりでも多くの人に森林について興味を持ってもらいたいという思いを持って、活動をされているとのことでした。

ヤブクグリが手掛ける日田の郷土弁当「きこりめし」。大分県日田市の林業衰退に歯止めをかけるべく、そしてひとりでも多くの人に森林に興味を持って欲しいという思いを込めて開発されました。2013年には、GOOD DESIGN賞を受賞。日田駅前にある食堂「寶屋」やTHINNINGの青空マーケットで購入が可能です(画像提供:THINNING実行委員会)

これからの時代、地球温暖化や山の荒廃など、私たちが背負わなければならない課題は非常に大きく難しいものです。

そのような中にあって、ひとつ確かなことは「多くの人がこの現状を知り、そして、興味を持つことが解決の第一歩になる」ということ。会の最後、THINNINGの林さんが発した言葉がそれを象徴しています。

“ひとりひとりの活動は、小さな取り組みかもしれない。「こんなことやったって…」と思いがちだけど、そういうことでも、集まってつながっていけば、いつか「すごいこと」になりうる。”

大切なのは、知ること。そしてつながること。日本各地で小さく芽吹いた守り人たちの動きは今、着実につながり、そして大きな潮流となろうとしているのです。

この動画をきっかけに、ひとりでも多くの方が森林とつながり、そしてその解決に向けての潮流に加わってくれることを私たちYAMAPも願っています。

イベントの様子はこちらから

※動画中の1時間50分13秒部分において「台湾沖縄に杉はない」とする発言がありますが、台湾には標高1000m周辺域に、植林した杉が生育しています。ここに訂正させていただきます。

ご視聴の後にはぜひ、アンケートにご回答ください。ご回答結果は、今後の活動の参考とさせていただきます。

TOP画像提供:THINNING実行委員 STB STUDIO 石橋 整

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。