YAMAPフォトコンテスト2020で特別賞に輝いた、雲海Lover/フォトグラファーことスズキゴウさんが、写真がもっと楽しくもっと上手になる方法を伝授してくれる本連載。第3回目は「山で写真を撮る」ということについて、スズキゴウさんなりの考えを伝えてくれるようです。彼の山に対する・写真に対する「熱い想い」を受け取ってください!
山の写真をもっと楽しく上手に撮る方法 #03/連載一覧はこちら
2021.08.24
スズキゴウ
雲海Lover/フォトグラファー
突然ですがみなさまは
なぜお山で写真を撮るのでしょうか?
お山に登る人のほとんどが山頂に着いた時や日の出や夕景の瞬間になにかしらの方法で写真を撮っていると思います。むしろ一枚も撮らずに下山する人のほうが珍しいのではないでしょうか?みなさんが写真を撮る理由は「山頂を踏んだ記念」や「お山がかっこいい」などそれぞれあると思います。
かくいう私は…なんでなんだろう… 明確な理由はあまり考えたことがないのですが、とにかくお山と稜線、雲海や朝焼けのドラマチックな自然の贈り物を写真に切り取りたい欲が止まりません!
お山の上で信じられないような絶景を一度でも経験してしまうと「この瞬間を生きているんだ!」と感じれるあの瞬間…。アドレナリンがダダ漏れ状態なのにピースマインドというか心の平穏が同居する、なんとも表現しずらい気持ちになります。
そしてそういった絶景の時間は長くて数分、短いと数秒だったりするので、もっともっとこの瞬間を感じていたいと後ろ髪を引かれる思いがあります。また絶景に出会いたい、出会えるかもしれないからお山でシャッターを切り続けるんだと思います。書いていて思いますが、自分はもう、お山のドラマチック絶景中毒なのかもしれません(笑)
ちなみに、私はその絶景の瞬間を「山の呼吸」と名付けています。今を逃すと数秒後には消えて無くなる一瞬の煌めきこそまさに「山の呼吸」であり、その山の呼吸を追いかけて毎週お山に登っています。
とはいえ、やっぱり登山は毎回しんどいです(笑) 思い返すと登山中は「キツいぃ><」って何回も言っている気がします。特に登山の前半戦は「もうこのキツい山に登ることはないだろうなぁ」なんて思ったり、「明日の今頃はもう下山して温泉かぁ」と、下山したあとのことを考えたり、実は絶景のことってあまり考えていないかもしれません。それよりも、できるだけ心を無にして登っている時間が多いと思います。
でも、たとえば日の出狙いでナイトハイクをしている時にだんだんと山頂が近づき、夜明けを感じる時間になってくると、やっぱりソワソワしてきます(みなさんも経験ありませんか?)。
雲海が出ているのか、鞍部に滝雲が流れているか、撮影地の山頂付近にガスが溜まっていないか、狙っている山の上にオレンジに焼ける雲が広がっているのか、そもそも太陽が出る東の空から陽が刺しそうなのか…気がつけば、大当たりした時の絶景の妄想を膨らませながら歩いています。
そして、山頂で夜明けを待ちながら、お山の神様が魅せてくれる大自然に一喜一憂し、その空気感や威厳、美しさに毎回魅了され、その一瞬を逃さないようにシャッターを切り続けるようになりました。
InstagramやTwitterなどのフィードに流れてくる素晴らしいお山の作品たちを見ていると、自分もまるでそこにいるかのような錯覚に陥ります。どれも素晴らしい作品ばかりですよね。そんな絶景を見てみたい、写真に収めてみたいと思うことはお山が好きなら当たり前の欲求!というわけで、第1回、第2回の中では準備的なお話が多かったのですがここからは実際に撮影する際のお話をしていきたいと思います。
お山で写真を撮影するときには「場所」と「構図」(被写体)がとても重要なポイントになります。
まずは、ご自身のお気に入りのカメラマンさんが撮影している写真を目標にしてみましょう。写真を見て場所を特定できる方はそれでいいのですが、初心者にとっては特定することも結構難しいと思います。
撮影場所を公開していない可能性もありますが、投稿されている文章や場所のタグ、コメント欄に記載があったりヒントが隠されていたりすることも多いです。そこからたどってお山の名前をググって検索し、似たような画像があるかどうか調べてみてください。そこからまた新たな素敵な場所の発見があるかもしれません。
とにかく撮影場所は調べまくること。画像検索や名前での検索、SNSだけでなくお山の写真家さんのBLOGなども調べまくって「ここで撮ってみたい!」と思う場所を見つけましょう。ちなみに私はいまでも撮影場所はめちゃくちゃ調べますよ!
撮影場所候補を決めたら、今度は登山道の危険箇所や現在の状況などをYAMAPを使って調べます。直近の活動日記の投稿をチェックし、どのくらい時間がかかっているのか、雪渓がまだあるのか、チェーンスパイクは必要か、そもそも山小屋はちゃんと営業しているのか(コロナの影響もあるため)、お水の確保はできるのか、などをチェックし、ご自身の登山の力量と相談して候補にしていきましょう!
山頂付近に到達したらロケハンです!ロケハンは実際の撮影時間(私なら日の出や夕景の時間)の前の明るい時間に余裕を持って行います。まずは、お気に入りのカメラマンさんの写真の構図を探してみてください。
素晴らしい作品を撮影しているフォトグラファーさんは独自の視点で独自の構図を作っていることが多く、全く同じ構図は見つけられない可能性がありますが、その時は自分なりの構図を見つけてみましょう。
実際にテストで写真を撮ってみて、素敵な構図になるように工夫してみてください。本番の日の出や夕景時は長くてもほんの数分、短いと数秒しかないチャンスを撮影することになります。ロケハン中にしっかり構図や撮影ポイントを固めておくことで、一瞬のシャッターチャンスのタイミングに焦ることなく撮影できる可能性がぐっと高まりますよ!
さらに、もっとも大事なことは「写真にはこれが正解というものはない」ということ。ご自身の感性にしたがって、たくさんシャッターを切ってください!デジタルは何枚撮ってもお金がかからない(フィルムの場合は一枚数百円〜数千円かかります)ので遠慮せずガンガン撮りましょう。その時は気づかなくても後で見返したら「結構いいじゃん」みたいなことはよくあります。
撮影現場で周りにいる上級そうなフォトグラファーさんがレンズを向けている方向じゃなくたってぜんぜんOK!自由であることが写真の素晴らしいところ、可能性は無限大です。たくさん撮って自分だけの一枚を探してみてください!
ここからは私自身の考えをお伝えします。私独自の考えなので、「正解」とかそういうものではないのですが、参考になればと思います。
私はお山での撮影において「効率」を重視しています。何の効率かというと「撮れ高」です。ようするに、作品として発表できるレベルの最高の瞬間を、一度の登山でどれだけ撮って下山できるかを優先しています。
私は「稜線越しに見るかっこいいお山」が個人的に大好き(みなさんも好きですよね)なのですが、例えば北アルプスの後立山連峰のような連なったお山なら、山頂に行けば山の北側に伸びる稜線と南側に伸びる稜線と2方向の稜線が伸びています。場合によってはさらに長野側、富山側に尾根が伸びていたりしています。つまり、一つの撮影場所で色々な方向を狙えるというわけです。
もちろん、見た目のかっこよさや好みに関しては事前にググって調べておくのですが、例えば鹿島槍ヶ岳の山頂は北側の五竜岳/八峰キレット側、南側の爺ヶ岳側に伸びる稜線、そして西側に見える立山三山や剱岳方面と3方向にお山があるので、少なくとも3箇所を狙えます。
望遠や広角などのレンズを変えたり、前景や空など組み合わせるものを変えればさらにバリエーションも増やすことが可能ですよね。効率を重視した撮影ポイントをセレクトし、撮る方向や狙うお山が多い場所の方が、自分なりに納得いく写真を撮影できる可能性が高まるというわけです。何度もいいますが、これは正解とかではなく、私が撮影場所をセレクトする時に考慮する大きい要素の1つです。
私のInstagramのギャラリーをご覧になったことある方ならなんとなく気づいている方もいるかもしれませんが、どこから撮ったものなのかわからないような、他の写真では見たことない写真が多いと感じませんか?直近の10枚の投稿のうち、写真だけで判断して何箇所撮影地がわかったでしょうか?
その理由は、私が撮影の際に意識している最重要ポイントにあります。それは、
「Digる!」
です!
「Dig」とはHIPHOP用語で、DJが良質かつマニアックなレコードを掘り当てること、つまりみんなが聴いたことないけど「めちゃCOOL」と思うような曲を探し出す行為から来ています。もちろん、私も有名なポイントでの撮影を数多く行っていますし、見たことあるような写真もあります。ですが、自分らしさを追求して、可能な限り誰も撮っていないオリジナルな写真を撮ることが自分の人生のテーマでもあります。
というのも、実は私はもともとブレイクダンサーです。ナインティナインの岡村さんがやっていた、クルクルまわったりするあれです。HIPHOPの原点でもあるブレイクダンスの歴史においては、ダンスが「上手い」ことより「オリジナルである」ことのほうがリスペクトされてきました。
自分はHIPHOPの歴史や考え方に大きく影響され、共感しています。上記の「Digる!」も、オリジナルであることへのリスペクトと同じアプローチです。つまりどんなに写真が上手くても誰かと同じような写真を撮ることより、技術的には上手くなくても独自の考えやアプローチをしている方がCOOLだと思っています。この考えが根本にあるので、できる限り新しい構図や撮影ポイントを探すようにしているのです。
もちろん、私もカメラ初心者時代は有名なフォトグラファーさんの模倣から入りました。でも、初心者の頃から「Digる!」の精神を頭の片隅にいれてチャレンジし続けた結果、今の自分があると思っています。
ということで、第3回は哲学っぽい話が多くなってしまいましたが、お山の絶景を自分が納得いく形で写真に残すために、私が実践している内容をお伝えしました。みなさんも、どんな些細なことでもいいので「これは自分なりの視点だ」と思えるような写真を撮るチャレンジをしてみてください。この記事がその一助になれば嬉しいです。
次回はさらに実践的に、お山で写真を撮る上でのお天気ついての考え方を中心にお届け予定です。みなさま楽しみにお待ちください!
第4回へ続く
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