「雲海」を見たい! 気象予報士に聞く山の絶景に出会う方法とは?

眼下に広がる雲海や、幻想的なブロッケン現象など、気象や地形などの条件が合ったときだけに発生する貴重な絶景たち。「運がよければ見られる」と言われているものですが、お天気アプリで気温や湿度、風の強さなどを調べておけば、実は「狙って見る」こともできるんです。

今回は『tenki.jp』を運営する日本気象協会の気象予報士さんと一緒に、雲海をハンティングする計画を立てました。取材日は10月上旬。せっかくなので紅葉×雲海の絶景を求め、YAMAPの『リアルタイム紅葉モニター』と『活動日記』を使って、行き先を検索。栃木県・那須茶臼岳が第一候補に挙がりました。果たして、雲海ハンティングは成功したのか。驚きの結果に乞うご期待です!

『tenki.jp』さんも記事を公開中。併せてお読みください!
「秋山ならではの絶景に会いに行こう! 「紅葉」情報や「雲海」の条件は? 登山天気アプリの活用法も紹介」
「この秋は雲海と紅葉を狙え! 登山アプリを活用した秋山登山の楽しみ方を気象予報士が徹底解説」

2021.10.27

YAMAP MAGAZINE 編集部

INDEX

雲海ハンティングにいざ挑戦!

雲海は気象や地形などの条件がそろったとき、偶然に見られるものだと思っている人も多いはず。日の出を拝もうと山に登ってみると、朝焼けの雲海が広がっていた……なんてことがあったら、「こんな絶景に出会えるなんてラッキー!」「今日は何かいいことがありそう!」とめちゃくちゃ気分が盛り上がりますよね。

こーいちさんの日記より/こんな雲海をねらって見られたら…すごいですよね!

「雲海に出会えるのは運任せ? いいえ、そんなことないんです! じつは雲海こそ、ハンティングしやすい気象現象なんですよ!」と力説してくれるのは、日本気象協会の安齊理沙さん。気象予報士としてデータの分析や予報をまとめるほか、「tenki.jp」のアプリやウェブサイトで天気にまつわる記事も執筆されています。じつは山登りも大好きで、時間を見つけては仕事の仲間と一緒にハイキングを楽しんでいるそう。

「社内には『雲海ハンター』もいますよ。雲海の発生を予測するなんて一見難しそうですが、普通に公開されている気象データだけで十分。チェックポイントは気温・湿度・風の強さの3つだけです」。なんと!雲海の発生を予測できるとは! 安齊さんにご協力いただいて、早速『雲海ハンティング』に挑戦してみることに。

気象予報士の安齊理沙さん。遠方へ取材に出るときは、ご当地ハイキングを楽しむことも。「『tenki.jp 登山天気』アプリを登山に活用する方法や、登山がもっと楽しくなる情報を発信すべく、日々研究中です」

YAMAP「リアルタイム紅葉モニター」で行き先を決定

取材地を決めるに当たっては、YAMAPアプリをうま〜く活用。取材時期は10月上旬。せっかくなので紅葉×雲海の絶景を取材したいと、まずは『リアルタイム紅葉モニター』で色づきのよい山を検索します。さらに『活動日記』にて、山名(エリア名)と雲海をキーワード検索してみると…すてきな雲海写真が大量に見つかりました。その中で、高頻度で雲海が見られる山をいくつか選定し、安齊さんにご相談。近々、好条件がそろいそうな山を絞っていただいたところ、栃木県の那須茶臼岳が第一候補に挙がりました。

取材の前々日、安齊さんから連絡があり、「那須茶臼岳で行きましょう。先にお知らせした雲海ハンティングのためのチェックポイントは、ある程度条件をクリアしています。詳しくは現地にて」とのこと。前日の夜、那須塩原駅近くのホテルに集合して、いざ作戦会議です。


『リアルタイム紅葉モニター』は、日々YAMAPに寄せられる何万もの「活動日記」を分析し、紅葉の写真をリアルタイム抽出したもの。地図をグリグリ拡大・縮小しながら、お目当てのエリアでどのくらい紅葉が進んでいるか、確認できる

雲海出現 3つのポイント

チェックポイント① 昼夜の気温差があり、かつ快晴

まずは天気予報で気温を確認します。チェックポイントは、前日の夜から当日の早朝にかけて気温がしっかり下がるかどうか。併せて確認したいのが夜の天気なのだそう。「夜に晴れていると、地面が冷えやすい。つまり放射冷却が起きてくれるんです」と安齊さん。放射冷却とは、地面から熱が逃げて(放射)、地表近くが冷える(冷却)現象のこと。地面の熱が逃げていく際、雲があるとそれを妨げることになります。満天の星空が広がっていればOKというわけです。

ところで、なぜ気温差があると雲海が発生しやすいのか。ここで大事なのが『空気は暖かいほど、たくさんの水分を含むことができる』という性質です。暖かい空気が冷やされると、取り込める水分の量も減ります。取り込めなくなったものは、目に見える水滴(水蒸気)になって漂います。これが霧や雲ができるしくみです。

ところで、那須茶臼岳周辺の気温はというと、「今日の最高気温は21度。かなり暖かいので、空気が水分をたくさん含んでいるはず。予報通り明日の早朝、放射冷却で12〜13度前後まで冷え込めば、気温差はバッチリ。空気中の水分が水蒸気になって、雲海ができると思います」と安齊さん。一般的に気温差が10度程度あると雲海ができやすくなるそうです。ちなみに、水蒸気が地面近くにたまると『霧』で、地面から離れたところにあると『雲』。発生する場所で呼び方を変えているだけで、どちらも同じものなのだそうです。

前日の日中の気温は21度、当日朝は13度。夜は晴天が続く好条件だ(日本気象協会「tenki.jp登山天気」のアプリ画面より)

チェックポイント② 湿度が高い

雲の原料は空気が含む水分で、地面からも供給されます。そのため、前日までに雨が降るなど、多少は地面が湿っている方がベター。晴天続きで地面がカラッカラに乾いた状態だと、空気も湿り気を帯びることができません。

那須茶臼岳周辺は、昨日は雨が降り、今日(取材日前日)は一日中晴天でした。安齊さんにこの条件の善し悪しをうかがってみると、「微妙なところですね。昨日の水分がどのくらい残っているか。湿度を見ると、夜中のうちに90%まで上がるので、悪くはないですが、もう少しほしいところ」とのこと。

雲海の条件としては限りなく100%に近い方がよいそう。

「チェックポイント① 気温差がある」をクリアしていても、空気が乾燥しているとダメということは新しい気づきでした。暖かくて湿った空気が冷やされて初めて、霧や雲が発生するんですね。

チェックポイント③ 風がほとんどない

「理由はシンプルです。風があると、せっかくできた雲が吹き飛ばされてしまうから。水蒸気がとどまっていられるよう、風がほとんどないのが理想です」と安齊さん。早速天気予報を確認してみると、風速は1mになっています。「天気予報で風速0mを発表することはありません。許容範囲は風速1〜2mくらいなので、明日は大丈夫そうですね」。安齊さんの一言でほっとするスタッフ一同。

アプリが示していた風速は「1m/秒」。条件としてはベストな風速(日本気象協会「tenki.jp登山天気」のアプリ画面より)

チェックポイント①〜③の条件をほぼ満たしている那須茶臼岳にて、果たして雲海は見られるのか。期待に胸が高まる中、早朝4時半、日の出に合わせて出発です!

雲海を求め、いざ那須岳へ

実践編① ほぼ無風で冷え込みはバッチリ。若干水分の量が足りないかも…

出発前、車のフロントガラスに水滴がびっしりついているのを見て、「これは湿度100%の証です!」と興奮する安齊さん。予報よりも湿度は高かったようです。風も平地ではほとんど感じられません。

車を走らせること30分。雲海が見られる場所として有名な那須高原展望台駐車場に到着。車を降りる前から薄々気がついていたのですが、「雲海はないですね…」と落胆する安齊さん。うっすらとモヤは出ているものの、雲と呼べるほどの濃さはありません。「湿度は100%でしたが、やっぱり前日の晴天のせいですかね。水分の量が少なかったのかもしれません」。

那須高原展望駐車場からの景色。うっすらモヤが出ているけど…雲海の姿はどこにもなかった…残念

とはいえ、昨日の夜に比べて、空気はピリッと冷えています。一晩中、星空が見えていたので、放射冷却は起きているようです。第二の雲海観測スポット、那須ロープウェイの駐車場へ進んでみることにしました。

実践編② カーブを曲がった先に雲海を発見!

「モヤも水蒸気によるもので、1km以上、10km未満を見通せるものを言うんです。1km未満しか見通せないときは、霧になります。う〜ん…水蒸気はあるんだけどなぁ…」と残念そうな安齊さん。見通しのよいカーブを曲がったところで、驚きの景色が広がっていました。「あれって、雲海じゃない?!」。

急いで車を停め、眼下を確かめてみると、確かに白い雲が広がっています。

那須ロープウェイに向かう途中の大丸園地より。みごとな雲海が広がっていました!

なぜここに雲海が広がっていたのか。その理由を挙げてもらったところ、「地形と風がうまく合わさったのだと思います。雲海が見られた大丸園地の北側には、朝日岳の方から尾根が伸びています。そして、弱い風が南から北へ吹いていました。水蒸気が北へ流されて、尾根にぶつかって貯まっていった結果、雲海を形成したのだと。もう少し風が強かったら、吹き飛んでなくなっていたかも」。やはり前日の晴天で湿気は少なくなっていたこと、しかし、うまい具合に1か所に集まったので雲海になったというわけです。

「雲がたまりやすい地形や、風が吹き込みにくい場所は、雲海が発生しやすい。まさにここですね。風向きにも左右されるので、諦めずに場所を変えてみるのはいいですね。私は那須高原展望駐車場で心が折れかけましたが…本当に雲海が見られて本当によかった!」と胸をなで下ろす安齊さん。日の出とともに、ゆっくりと溶け始めた雲海に別れを告げ、紅葉に色づく那須茶臼岳の登山へと向かう私達でした…。

実践編③ 2つのアプリを使って、雲ひとつない錦秋の那須茶臼岳へ

ロープウェイ駐車場まで上ると、登山客ですでに大にぎわい。紅葉真っ盛りの時期なので、平日の早朝でも駐車場は満車寸前です。

スタートは峰の茶屋の登山口。朝日岳を眺めながら那須茶臼岳山頂を目指し、南側の鉢巻き道を通って牛ヶ首へ出て、紅葉の名所・姥ヶ平まで足を伸ばすルートを予定しています。入山前、電波が入るところで『tenki.jp 登山天気』アプリを開いて最終確認。

スタート前に、天気予報をチェック! YAMAPを起動するのもわすれずに!

雲海発生の条件を見極めるために活用した『tenki.jp 登山天気』アプリは、登山口や山頂付近の山の詳細な天気が確認できるスグレものです。

「雨雲レーダーの予報と、時間毎の天気予報を見ておきます。逐一、最新の情報に更新されていきますが、天気の傾向はわかるはず。午後から崩れるなら早めの下山を心がける、行程を短くするなど、行動や計画を見直す材料として頭に入れておきましょう」

この日は風がほとんどなくて、まさに登山日和

朝、眼下に広がる雲海が見られたことを忘れてしまいそうなくらい、登山中はアプリで見た通りの快晴が、ずっと続いてくれました。雲ひとつない、高い秋の空。まさに登山日和とはこのこと。

姥ヶ平から見上げる那須茶臼岳。荒々しい火山を艶やかな紅葉が彩り、絵画のような美しさに

那須茶臼岳・雲海ハンティングは大成功。「今回は『tenki.jp 登山天気』アプリを使って、雲海のチェックポイントとなる気温・湿度・風の強さを確認しましたが、じつは「登山で気をつけたい天気のはなし」や「ご来光登山を成功させるポイント」など、登山に役立つコラムもたくさん掲載しています。ぜひ、登山を楽しむツールとして活用してください。それにしても、紅葉最高でしたね!」と笑顔の安齊さん。

こちらこそ、美しい雲海が見られて大満足です。安齊さん、tenki.jpのスタッフのみなさま、ありがとうございました!

取材・編集協力:池田菜津美
写真・茂田羽生


〈YAMAP〉と〈tenki.jp 登山天気〉で絶景を狙おう!

先々の山の天気を、もっと詳細に、簡単に確認できる方法があればいいのに…。そんな登山者の悩みを解決すべく、YAMAPでは「tenki.jp 登山天気」と連携し、アプリ上で数日先の山麓の天気を確認できるようになりました(無料ユーザーは2日先、プレミアムユーザーは10日先まで)。

「tenki.jp登山天気」との連携によって、登山地図の情報と天気情報をシームレスに確認することが可能に!

まだうまく使いこなしていないという方は、こちらの記事を一度チェックしてみてくださいね。

「YAMAPで、山麓の天気を10日先まで確認できるようになりました!」

また、更に詳細に、山頂や登山口の天気など知りたいという方には、「tenki.jp 登山天気」のアプリのダウンロードもおすすめです。日本気象協会公式アプリだからこそお届けできる豊富な情報が、登山者に役立つ形で提供されています。

今回のように、天気や風速、気温といった気象条件をもとにして絶景ハンティングしたい!という場合にも活用できますね。ぜひ、〈YAMAP〉と〈tenki.jp 登山天気〉を使いこなして、印象に残る絶景が見られる、楽しい登山を!

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。