登山者の遭難や交通事故を無くしたい|ビッグデータが変える登山とクルマの未来

マイカー登山の帰り道、ナビゲーションアプリを見ると数キロ先で渋滞が発生! 渋滞を避けて帰路を選ぶ、という方が増えています。アプリの渋滞情報はスマートフォンユーザーの位置データから割り出されたものですが、このようなビッグデータが、山岳遭難や登山の行き帰りでの交通事故の防止にも役立っていることをご存知でしょうか?
今回は、人気モデル/YouTuberの山下舞弓さん、事故のない世界をめざす新しい自動車保険「&e(アンディー)」の企画推進担当の宮藤春菜さん、YAMAP MAGAZINE編集長の原田佳奈さんの3人に「ビッグデータが変える登山とクルマの未来」をテーマに語っていただきました。

2022.10.21

大関直樹

フリーライター

INDEX

山下 舞弓(やました まゆみ)
モデルとして活躍しながら、2020年よりYouTubeで『オトナ女子の山登り』チャンネルをスタート。登録者数は5万人を超える人気YouTuberとなる。長野県在住で登山の際の交通手段は、ほとんどマイカー。

宮藤 春菜(みやふじ はるな)
イーデザイン損害保険にてCX(カスタマーエクスペリエンス)推進部に勤務。現在は事故のない世界をめざす新しい自動車保険「&e」に携わっている。登山未経験だが、登ってみたい山は、高尾山。

原田 佳奈(はらだ かな)
学生時代から山登りに目覚め、国内外の山々へ。現在は、YAMAP MAGAZINE 編集長を務める。お気に入りの山は、秋田県と山形県の境に位置する「鳥海山」。ペーパードライバー歴が長かったが、マイカー登山の便利さを実感し、最近は積極的に運転をするようになった。

登山者のビッグデータの活用で道迷いが激減

山下さん:最近は、山岳遭難のニュースをよく耳にします。私が登山を始めた10年前は、これほど多くなかった気がするのですが、遭難自体は増えているんでしょうか?

原田さん:はい、警察庁が発表している山岳遭難に関するデータを見ると、ここ20年くらいは増加傾向にあります。コロナ禍での外出制限などもあって2年連続で減少していましたが、令和3年は増加に転じました。

山岳遭難の発生件数推移(出典:令和3年における山岳遭難の概況 警察庁生活安全局生活安全企画課)

宮藤さん:私は本格的な登山をしたことがないのですが、遭難とはどんな状況のことなのでしょうか? 生死に関わるような危険な状態であることは、わかるのですが…。

原田さん:遭難で最も多いのは「道迷い」で、全体の41.5%を占めています。遭難というと滑落や転倒を思い浮かべる方が多いと思いますが、滑落は16.1%、転倒も16.6%なんです。ただし、このような滑落・転倒には迷って歩き回り、疲れた結果として転んでしまったというケースも多く含まれています。そう考えると、遭難事故を減らすためには、道迷いを防ぐことが最も大切なのかなと思います。

態様別山岳遭難者の割合(出典:令和3年における山岳遭難の概況 警察庁生活安全局生活安全企画課のデータを基にグラフを作成)

山下さん:私も、山登りを始めて10年経った今でも、道迷いが怖いと感じています。だから、不安なときはYAMAPの活動日記やフィールドメモを必ずチェックしているんです。以前、編笠山(長野県・山梨県)に登ったときに登山道で倒木が道をふさいでいて、このまま進んでいいのか迷ったんですよ。そこで、YAMAPユーザーさんが投稿しているフィールドメモを見たら「倒木があるけどこっちだよ」というコメントが書いてあって、本当に助かりました!

宮藤さん:そんなピンポイントでコメントがアップされているなんて、すごいですね! 現在、YAMAPのユーザーさんってどのくらいいらっしゃるんですか?

原田さん:日本の登山人口は、600~700万人といわれているんですけれど、アプリのダウンロード数は、330万を超えています。そんな多くのユーザーさんたちの登山データなどが、日々YAMAPに届いているんです。ちなみに、ユーザーさんから集まるビッグデータを分析したところ、「日本一道迷いしやすい登山道」を特定することができました。昨年からは、それをランキング形式にして公表しています。

「日本一道迷いしやすい登山道2022」発表|「なぜ迷う?」を徹底解説

原田さん:この結果を対象の自治体さんにお伝えしたところ、記事に掲載されていたポイントに道迷いを防ぐための道標を建ててくれたんです。その後、YAMAPユーザーさんの軌跡データを分析したところ、間違った方向に進む登山者が0人になったんですよ。

山下さん:それは、すごいですね!

原田さん:これまで自治体さんが道標を設置する場所って、経験とか勘で決めていることが多かったと思うんです。それをデータに基づいて「ここに立てたら、迷う人が少なくなりますよ」と具体的にお伝えできたのはよかったですね。YAMAPとしても、こうしたユーザーさんから集まるビッグデータの活用は、道迷いを防ぐために今後も継続していきたいと思っています。

登山の行き帰りは危険が多い? 山道や林道の運転時に潜む危険

山下さん:今年の夏にYAMAPユーザーさんへ「登山にいく際の安全運転に関するアンケート」をお願いしたところ、7,761人もの方から回答があったそうです。これを見ると、登山の行き帰りのクルマの運転について多くの方が不安を抱えていることがよくわかります。

日常生活の運転に比べて、登山の行き帰りでの運転はリスクが高いと感じますか?(YAMAPが実施したアンケートの回答からグラフを作成)

山下さん:私も登山の行き帰りの運転はすごく不安なんです。特に日帰りの際は、早朝から夕暮れまで行動して疲れがたまっている中で、狭い林道を運転して帰ることもあります。そんなときほど事故が怖かったりするのですが、山道や林道ではどんな交通事故が多いのでしょうか?

宮藤さん:過去の事故を調べたり、お客さま対応をしている部署に聞いてみたところ、山道は狭くてカーブが多いので、すれ違いの接触事故が多発しているようです。また、街灯がないところも多いので、暗くてセンターラインが見えず、知らず知らずのうちに車線をはみ出してしまって対向車とぶつかってしまう事故もあるようです。

山下さん:確かにガードレールがない林道で、対向車とすれ違うときは「えっ! こっちはガケ、どうしよう!」と思ってしまいます。私は、バック走行が苦手なので、事前に「この林道は狭いので、すれ違いに注意しましょう」みたいな情報があると、心構えもできるんですけど…。でもそういう情報ってどこにも出ていないんですよね。

原田さん:そうですね。登山道の情報でしたらYAMAPで入手していただくことが可能なんですけど、登山コースではない林道までは現在のところフォローできていないんです。

宮藤さん:できるなら登山後の林道などの情報まで記載していただくと、マイカー登山者にとっては心強いですね。

原田さん:登山でヘトヘトになった後に、狭い林道で緊張を強いられるのは大変なので、事前に林道のリスク情報を得られたら安心でしょうね。

山下さん:本当は下山した後に、山麓で一泊したり、しばらく休んで体調を万全にして帰るべきなんですけど。やっぱりお仕事があると、なかなかそうはいかないところもあって。

宮藤さん:確かに、どこかで休憩をして体力を回復させてから運転していただくのは、大事かなと思います。

山下さん:「あなたは疲れているので、今は運転しないでください。ピピピ」とか通知が来るといいんですけど(笑)。

宮藤さん:実は、私たちが開発している新しい自動車保険「&e」では、Apple Watchで収集されたヘルスケアデータと交通事故の関係を検証する実験を行っているんです。将来的には、運転をする前にコンディションの変化を検知したらアラートを通知するなど、いくつかの機能を検討しています。

原田さん:ヘルスケアデータというのは、心拍数などでしょうか?

宮藤さん:はい。ヒトの心拍数の上下には波があって、それと危険運転の挙動を紐づけることで、安全運転と体調の相関関係を調べているところです。

原田さん:なるほど。現在はデータを集めて分析していて、今後はそれをどう実用化していくかというフェーズなんですね。疲労を感じて休息するのは、まずは本人が気をつけるべきことだと思うんですけれど、客観的なデータに基づく注意喚起があるとセーフティーネットになりますね。

事故のない世界をめざす新しい自動車保険「&e」とは?

山下さん:マイカー登山は、「移動の計画を自由に組み替えられる」など便利な反面、多くの人が不安を感じていることもアンケートからわかりました。宮藤さんの手がけている自動車保険「&e」は、こうした不安に応えるサービスをめざしているんですよね?

宮藤さん:はい、「&e」には大きく分けると3つの特徴があります。1つは「普段の運転を安全にサポート」することです。具体的には、クルマのダッシュボードに3cm四方・高さ1cmほどの大きさのセンサーを貼り付けると、急ブレーキ、急ハンドル、急加速などの危険挙動を測定できます。そのデータが10点満点の運転スコアとしてスマホに送信され、自分でも気づかない運転の癖を知らせてくれるんです。

山下さん:ドライバーにとっては、運転を採点されるのはちょっとドキドキしますね。

宮藤さん:運転を客観的に評価してもらう機会ってあまりないですよね。自分では安全運転のつもりでも、データで見ると荒い運転だったりとか。そういうことに気づくことが、事故を防ぐためには大切なのだと思います。また、安全運転を続けると「ハート」というポイントがもらえて、有名コーヒーショップやコンビニのスイーツなどと交換できるんですよ。

原田さん:それはすごくいいじゃないですか!

宮藤さん:ほかにも、これまでの事故データの研究から、「夕暮れ時は早めにライト点灯」といった安全運転のヒントを2週間に1回配信しているんです。これを実践して、普段から安全運転への意識を高めていただけたらと思っています。

山下さん:なるほど。

宮藤さん:2つめの特徴が、「事故発生時の対応がスムーズに進むようにサポートする」です。センサーが事故の衝撃を検知すると「衝撃を検知しました 事故の場合タップしてください」というプッシュ通知がスマホに届きます。そこで「はい」と押すと、「ケガ人がいたら110番してください」とか、「ロードサービスは●●に電話してください」といった形でナビゲートしてくれるんです。

原田さん:それは、頼もしいですね。私はペーパードライバー歴が長かったのですが、2年ほど前に運転を再開したんです。3か月ぐらい乗ると自信がでてきて「私、結構運転いけるんじゃ」と思ったのですが、その矢先に駐車場でバックとドライブを逆に入れてしまって。

山下さん:大丈夫だったんですか?

原田さん:人を傷つけることはなかったんですが、ブロック塀を破損させてしまって…。そのときは、心臓がドキドキして「私はまず何をやらなきゃいけないんだっけ?」と焦りました。結局、クルマの中でスマートフォンで必死に調べてなんとかなりましたが、もしそのとき「&e」にサポートしてもらえたら、すごく助かったと思います。

宮藤さん:私も事故対応の部署でお客さまの電話を受けていたことがあるのですが、事故のときってパニックになってしまう方が多いんですよ。そんなときでも「&e」なら、適切かつ迅速な事故対応ができるので安心だと思います。

宮藤さん:そして、3つめの特徴が「ドライビングデータを活用し、事故のない世界をめざす」という取り組みです。先ほどのApple Watchとのコラボもそうですが、ほかにも渋谷区と共同で市街地の危ない道を特定するプロジェクトを進めています。例えば、ある道で急ブレーキを踏むクルマが多いことがわかれば、自治体や警察に対して、標識や信号の設置を提案できるのではと思っています。

原田さん:それは、データで登山道の道迷いポイントを分析して、そこに道標を立ててもらうというのと、まさに同じ発想ですね!

新しい自動車保険「&e」の特徴
①普段の運転の安全をサポートする
②事故発生時の対応がスムーズに進むようにサポートする
③ドライビングデータを活用し、事故のない世界をめざす

 

ユーザーさんと協力して遭難・事故のない世界をめざす

山下さん:ここまでお話をうかがっていて、データを活用することが山岳遭難や交通事故の防止にとても役立っていることがよくわかりました。

原田さん:そうなんです。YAMAPって本当に面白い仕組みで、ユーザーさんが山に登れば登るほど山の安全につながっていくんです。山下さんがおっしゃってたようなフィールドメモで「ここ危なかったですよ」という情報もユーザーさん同士ですぐに共有できますし、みなさんが歩いた軌跡のビッグデータの活用で迷いやすい場所をお伝えすることもできます。

宮藤さん:「&e」もYAMAPと同じで、ユーザーさんが運転すればするほど、街の安全につながっていきます。これから「&e」のユーザーさんがもっと増えたら、コラボレーションする自治体さんや企業さんにもより正確な運転データをお渡しできて、さらに安全で住みやすい社会を創っていけるのではと思っているんです。

山下さん:個人レベルでもデータの恩恵ってすごく大きいんですけど、それが集まったビッグデータを活用して社会全体がよくなるっていうのは、すごいことですね。

原田さん:「&e」もYAMAPもユーザーさんからのビッグデータをもとに、交通事故・山岳遭難をなくしたいという目的の部分は一緒なんですね。それを実現するのには、一人ひとりのユーザーさんから寄せられるデータがベースになっています。この記事を読んでくださっている読者のみなさんも、私達と一緒に「事故のない世界」を創っているんだと思っていただけたらうれしいですね!

▼この記事でご紹介した新しい自動車保険「&e」についての感想などをぜひ教えてください。

出演:山下舞弓さん(モデル/YouTuber)、宮藤春菜さん(イーデザイン損保)、原田佳奈さん(YAMAP MAGAZINE)
原稿:大関直樹
撮影:宇佐美博之
協力:イーデザイン損保

大関直樹

フリーライター

大関直樹

フリーライター

小中学校はボーイスカウト、高校はワンダーフォゲル部で自然に親しむ。好きなものは、タバコとお酒と競輪。最近は、山頂で一服すると周りの目が厳しいので肩身が狭いのが悩み。「みなさんが山で嫌な思いをしないように風下でこっそり吸いますので、許してください」