ミュージシャン・EVISBEATSさんインタビュー|大事なのは「調和」と「いい時間」

心地良いサウンドを生み出すトラックメーカー(作曲家)として、日本のHIPHOPシーンでコアな人気を誇るEVISBEATS(エビスビーツ)さん。大阪を中心に活動していた彼は現在、都会から離れ、和歌山県にある高野山の麓で家族と暮らしています。自然豊かな山間の地での生活は、EVISBEATSさんの人生観や音楽にどのような影響を与えたのでしょうか? 古民家をDIYしたという自宅兼スタジオで、田舎暮らしのリアル、自然観、現代社会、そして音楽について語っていただきました。

2022.11.01

吉玉サキ

ライター・エッセイスト

INDEX

田舎暮らしは意外とやることが多くて忙しい

―EVISBEATSさんは自然豊かな土地で暮らしていますが、今のようなライフスタイルを始めたきっかけは?

2010年の終わりに、エベレスト街道のカラパタールに一人で行ったんです。20日間かけて歩いたんですけど、牛が畑を耕していたり、なんていうか、日本の飛鳥時代みたいな光景なんですよ。当時の僕はまだ独身で一人暮らしで、大阪の人工的な環境の中で生きていて。一方エベレスト街道の人たちは、自然の中で、家族単位で暮らしているんですね。それを目の当たりにして、「自分はめちゃくちゃ不自然な生活をしているんじゃないか」と感じました。

もともと自然を求めて週末はよく登山をしていたんですが、カラパタールに行ってからは、より自然を求めるようになりました。あと、家庭を築きたいと思うようになりましたね。

―その後、ご結婚されたんですね。

はい。大阪で結婚して子どもが生まれたんですが、子どもがひどいアトピーだったんですね。当時住んでいた場所は工業地帯で、化学物質のにおいがすごくて。それでいろいろ調べているうちに自然な生活に目を向けるようになり、水や空気がきれいな環境で子育てしたくて引っ越しました。6年くらい前です。

―移住し、お子様のアトピーは治ったのでしょうか?

治りました。もちろん環境だけじゃなく、食べものに気をつけたこととか、いろんな要因があったとは思いますけど。

―大阪にいた頃と今とで、もっとも変わったことはなんですか?

当たり前ですけど、どこに行くにもめちゃくちゃ遠いし、家族以外の人となかなか会えないから、エンタメを自分たちで作るしかないんですよ。レストランがないから自分たちでご飯を作らなあかんし、お店や遊ぶ場所もないから家で楽しむしかない。だからリビングの近くにDJブースを作ってクラブみたいにして家族で踊ったり、自分たちで楽しみを作るようになりました。

和室にあるDJブース

―人が恋しくなったり、退屈したりはしませんか?

します、日々してます。めちゃくちゃ人に来てほしい。「何もない」という理由でここに来たけど、実際に何もないとキツいです(笑)。

ここに住んでから、週末は逆に都会に行くようになりました。前はいいホテルとかいいレストランとか興味なかったんですけど、そういった体験をして「いい気分になる」ことが曲作りのためにも大事かなって。ずっと都会だと疲れるし、ずっと田舎だと退屈するので、バランスを取っています。

―とても正直な感想だと思います。田舎暮らしに関する発信ってポジティブな内容ばかりなので……。

そうなんですよ! いいことばかり言ってる人を見ると「絶対嘘やん」って思います(笑)。田舎暮らし、いいところもたくさんあるけど寂しいし、なにより自然って厳しいですよ。ここはめちゃくちゃ寒いし、谷だから湿気がすごくて油断したら家中カビるし。台風のときも、山から吹き下ろす風がとんでもなくてほんま恐ろしくて。地獄みたいでした。

写真中央にあるのがEVIS邸。近隣には柿の木がたくさん生えている

―毎日の過ごし方について教えてください。

毎日子どもを送って帰ってきて、やらなきゃいけない用事をやって。音楽が生業なんですけど、毎日は作れていないですね。いろんな用事をして、最終的に何もすることがなくなったらやっと曲を作り出すみたいな。

―「やらなきゃいけない用事」とは?

畑の手入れや草刈り、薪割り、あとはイノシシが来るからイノシシ対策の柵を作ったりだとか。田舎暮らしって意外とやることが多くて忙しいんですよ。

―いわゆる「スローライフ」のイメージでしたが、意外とやることに追われるんですね。この環境になってから、作る音楽に変化はありましたか?

ここに来る前は、「自然の中で暮らしたら民族楽器とかやりだすかもな」とか思ってたけど、意外と作る音楽のジャンルは変わらなかったです。でも、人間的な感性や強さは変わったかな。ずっと薪を割ったり農作業したりしてるから、そういうパワフルさが音に宿っていると思う。あと、田舎に来たからこそ、より都会っぽい音を求めるようになりました。

でも、録音してたら自然と鳥の声が入ったりとか、そういうことはありますね。

庭は緑にあふれ、散策できるほど広い。育てているハヤトウリをもいでくれた

意識ひとつで、都会にいても自然と調和できる

―日々の中で、「地球とつながっている感覚」を実感することはありますか?

朝起きて景色を見て、自然と「ありがとう」と言いたい気持ちになることがあります。テラスで夜空を眺めながらお酒飲んでると、ナナフシがやってきて可愛く思えたり。そういう瞬間は、自然と同調できているのかも。

だけど、僕は常に美しい心で暮らしているわけじゃないんで、その日の気分によって世界の見え方が変わります。機嫌悪いときはナナフシ見ても「なんやねん!」って追い払うし。本当は常に自然に感謝するのがベストだけど、それはまだできていないですね。

―やはり環境が重要なのでしょうか?

究極を言えば、場所は関係なくて、自分の意識次第だと思います。

僕は、この世のすべては気というか、エネルギーでできていると思っていて。そのエネルギーを本来の「自然と同調している状態」にすれば、都会にいても地球とつながっている感覚を持てると思うんです。

―「自然と同調している状態」とは?

抽象的な話で申し訳ないんですが、場とか相手と、思いやりや感謝の心でもって調和している状態。

合気道の先生から聞いたんですが、日本人には日本人のDNAに組み込まれた生活スタイルがあり、それに従うと場と同調しやすくなるそうです。たとえば、初対面の人と何かをするとき、「よろしくお願いします」ってお辞儀したりするじゃないですか。これを「ウェーイ」ってタッチしたら、場の空気がぜんぜん違ってくると思うんですよ。

―その人に最適なやり方で、相手や場所に敬意を払うんですね。

そうです、それが自然と調和するコツなんじゃないかな。自然と調和できれば、都会にいても地球とつながる感覚を持てると思うんですよ。

近所に繁盛してる温泉があるんですけど、そこはよく社長さんが拝んでるんです。従業員の方もみんな、笑顔と挨拶が気持ちよくて。だからそこに行くたび、神様に祈るとか、感謝することって大事なんやなと思いますね。自然の中にいても祈りや感謝の気持ちを持たない人はいるし、逆に、都会でそれができる人もいる。究極、場所は関係ないのかなと。

家のいたるところに世界各地の工芸品・アートなどが置かれている

現代社会を生き延びるための「いい時間」

―昨今流行したフリースタイルダンジョン(ラップでのバトルをテーマにしたTV番組)などをはじめ、EVISBEATSさんは今のHIPHOPをどう感じていますか?

僕はめちゃくちゃいいと思います。フリースタイルダンジョンも好きで見ていますよ。もちろん、悪影響な言葉とかもありますけどね。だけど、そういう言葉も一概に悪いとは言えないです。たとえば、「ドラッグやって金稼いでメイクマニー」みたいな曲は、ある人からしたら下世話でひどい曲かもしれません。だけど、今にも死にたい人にとってはパワーになるかもしれない。

世の中にはいろんな状況の人がいるから、愛とか希望とか素晴らしいものだけ投げてもドン底の人には届かないかもしれない。だから、その人が曲に触れてちょっとでもいい気分になれるんやったら、たとえ残虐だったり下品だったりしても、どんな作品も必要やと思います。

―今、社会の情勢も安定せず、なんとなくみんな行き詰まっている状況ですが、こんな世の中で正気を保って生きていくにはどうしたらいいのでしょうか……?

めっちゃわかります。こんな世の中で正気、保たれへんもん。だから命を絶ってしまう方も増えているんだろうし……。

本当に、どうしたらいいんでしょうね。しょうもない答えやけど、少しでも自分が気分よく過ごせるよう心がけていくしかないのかな。音楽でも山でもコンテンツでもいいから、なにかしら自分の救いになるものを見つけて、「今ここ」の時間を楽しむしかないというか。

EVIS家のキッチン。家のあちこちでDIYをしていて、大体のことはできるようになったとのこと

―EVISBEATSさんの代表曲にも『いい時間』という楽曲がありますね。自分にとっての「いい時間」を作ることが大切なのでしょうか。

そうですね。誰にとっても絶対に「いい時間」ってあるはずなんですよ。だけど、それに気づかない人も多いんじゃないかな。みんな、ずっと何か考えてるから。本当は自分にとっての「いい時間」をただ感じればいいだけなのに、人間ってどうしてもいろいろ考えてしまうじゃないですか。「どうしたらもっと幸せになれるんやろ」とか「お金がない」とか。

―つい不安になったり、他人が気になったりしますよね。

でも、山の頂上ではそんなこと考えないじゃないですか。それって音楽にも言えることで。素晴らしい音楽を聴いて涙が溢れてくるときの最高に気持ちいい状態と、山登りの気持ちよさって似てるんです。どっちも思考を止める高揚感があるというか。余計なことを考えなくなって、「ありがとう」しか出てこなくなる状態。

この世の中で正気を保つためには、そういう時間をどれだけ持つかじゃないでしょうか。

山に住むようになって、山頂を目指す登山の機会は減ったとのこと。それでも、この取材の少し前にはお子さんと槍ヶ岳を登っていた

―先ほどのお話にも出てきた「自然と調和する」状態ですね。

そうです。たぶん人間って、そういう状態で産まれてきたんじゃないかなと思います。赤ちゃんがオギャーと泣くのは、ごちゃごちゃ考えずにただ全力で生きて、自然と調和してるからなんじゃないかな。

「もっと自由でええやん」と伝えたい

―EVISBEATSさんは、MCのときは「アミダ」を名乗っていますよね。もともと仏教がお好きなんですか?

好きです。詳しくはないですけど、般若心経にある「色即是空」の考え方とかには共感しますね。僕も、すべてはマインドでできていると思っているので。

京都の六波羅蜜寺を創建した空也上人という人は、疫病が流行ったとき、疫病退散を祈って踊念仏を始めたと言われています。人々に無償で施しを与えたヒーローみたいな人で、かっこいいですよね。ラップも念仏みたいなもんだし、仏教の精神を音楽で表現できたらいいなと思います。

アーティスティックなジャケットが印象的なEVISBEATSさんの音源。アナログレコードもリリースしている

―「世の中のために何かしたい」という気持ちはありますか?

ありますね。さっき「自分にとってのいい時間をどれだけ持つか」って話をしましたけど、自分の音楽でそういう時間や気持ちを提供できるか、それはアーティストとして考えなきゃいけないと思います。

―他に、アーティストとして意識していることは?

昔、TSUTAYAでDVDを選んでいるときに、店内BGMがJ-POPからフジコ・ヘミングのピアノに切り替わったんですよ。その瞬間、場の雰囲気が一瞬でバンと変わって、ドキッとしました。波動ですかね、音がその場を浄化していくような感じで。そんなことも、目指しているかもしれません。

音に「こだわり」があるというワークスペース

―音楽を作る上で、もっとも大切にしていることは?

ありのままの自分を出すことですかね。自分を偽ったり、実物よりもよく見せようしないで、ありのままをどんと出す。

だけどそれが難しくて。直感的に「これだ!」と思うものがあっても、「ここをこうしたほうがウケるんちゃうか」と計算してしまったり。でも、僕が届けたいのは計算していない直感の部分。ありのままの自分の表現をしたいし、それを楽しんでほしいです。

元々スケーターであるEVISさん。廊下で滑ってくださいという無茶振りに応えてくれた

―最後に、聴いている人に届けたいメッセージを教えてください。

たとえばやりたいことがあっても、恥ずかしがってやらないとか、「そんなんして何になるの?」みたいに悩む人は多いと思うんです。だけど僕は、自分を制限しなくていいんじゃないかと思っていて。みんながありのままに自分を解放できれば、すごく幸せなことですよね。だから、聴いた人が「もっと自由でええんや」と思えるような音楽を作りたいです。

写真:﨑村昂立(YAMAP)

吉玉サキ

ライター・エッセイスト

吉玉サキ

ライター・エッセイスト

北アルプスの山小屋で10年間働いていたライター・エッセイスト。著書に『山小屋ガールの癒されない日々(平凡社)』がある。通勤以外の登山経験は少ない。