2024年は初詣とあわせて「歩き初め」をしてみませんか。お正月太りの解消だけでなく、霊験あらたかな山を歩くことで新年早々元気をもらうことができるに違いありません。自宅からほど近いホームマウンテンがパワースポットであることも多い関東周辺。短時間で手軽に楽しめる、おすすめの初詣ハイキングコースを紹介します。
2022.12.09
YAMAP MAGAZINE 編集部
「山を歩く」というと色々な装備が必要では?と思うかもしれませんが、今回ご紹介するコースは登山靴や大きなザックは不要。歩きやすい靴と防寒を考慮した服装が揃っていれば、初詣とあわせて楽しく歩けるコースを厳選しました。
選定基準は以下の通りです。
・歩行時間:2時間半以内
・歩行距離:5km以内
・上り累積標高差:300m以下
※一部、上記基準を超えるコースもあります。
※カロリーは総荷重で決まります。ここでは体重50kg+荷物5kg=55kgを想定して計算しています。
※以降に記載する所在地は神社・寺院の所在地となります。
初詣ハイクの注意点
・積雪などがある場合、低い山でも事故の危険があります。状況に応じて、無理な行動は慎みましょう。
・寺社の駐車場は参拝客に向けたものがほとんどです。登山の場合は、近隣のコインパーキングなどの活用も検討し、迷惑をかけないようにしましょう。
・寺社によっては拝観料などがかかる場合があります。現地案内に従いましょう。
作家・随筆家である深田久弥が『日本百名山』(新潮文庫)を執筆した際、山の選定基準の付加的要素は“標高1,500m以上の山”とされていました。筑波山(877m)の標高がこれを大きく下回りながらもっとも低い日本百名山とされたのは、主な選定基準である“山の品格・歴史・個性”を存分に備えていたからにほかなりません。
創建は有史以前とも言われる筑波山神社は、男体山・女体山の2つの山頂にある本殿に、日本神話のさまざまな神々の始祖である伊弉諾尊(イザナギノミコト)・伊弉冊尊(イザナミノミコト)を祀っています。山麓にある拝殿だけが筑波山神社だと思われがちですが、ここから上部の筑波山南面全体が神社の境内とされているのです。
さまざまな登山コースがある筑波山ですが、初詣では手軽なハイキングがおすすめ。拝殿近くの宮脇駅から、男体山・女体山の鞍部にあたる御幸ヶ原にある筑波山頂駅(794m)まで筑波山ケーブルカーを利用し、そこから歩き始めましょう。元旦には御幸ヶ原から初日の出を鑑賞する人々のために、早朝運行も実施されます。
御幸ヶ原からは男体山(871m)にある男体山本殿で伊弉諾尊に、女体山(877m)にある女体山本殿で伊弉冊尊に参拝しましょう。日本では伊勢神宮・内宮と外宮、善光寺と北向観音のようにどちらかのみの「片参り」でなく「両参り」を推奨する風習がありますが、筑波山では関東平野を見下ろし、遠く富士山を望む絶景を楽しみながらの「両参り」ハイキングが可能です。
*寺社所在地:茨城県つくば市筑波1-1
*歩行時間:50分
*歩行距離:1.6km
*上り:156m
*消費カロリー:205kcal
*アクセス:常磐道・土浦北ICから車で約40分
秩父のシンボル・武甲山(1,304m)を御神体とする秩父神社、次項で紹介する寳登山(ほどさん)神社と並んで秩父三社に数えられるのが三峯神社。日本武尊(ヤマトタケル)が東征中に登り、伊弉諾尊(イザナギノミコト)・伊弉冊尊(イザナミノミコト)を祀ったのが起源とされる、由緒ある古社です。
厳かな雰囲気漂う巨木の森に現れるのは、本殿・拝殿ともに総漆塗りで極彩色が施されたきらびやかな社殿。関東有数のパワースポットとして多くの参拝客が訪れます。元旦には歳旦祭と元旦祈願祭、1月3日には元始祭が開催され、初詣にもぴったり。標高約1,100mの凛とした空気に背筋を正しながら、新年の誓いを祈りましょう。
三峯神社の奥宮が鎮座するのが妙法ヶ岳(1,326m)の山頂。標高差が本記事の選定基準をやや超えますが、初詣ハイキングとして登拝してみましょう。埼玉・山梨・東京にまたがる日本百名山・雲取山(2,017m)への稜線を進み、北に分岐した尾根を進むとスリリングな鉄製の橋・階段や鎖場を経て、奥宮がある山頂に登拝できます。
三峯神社の境内にある奥宮遥拝殿は、妙法ヶ岳の岩峰を遥拝することができるポイントです。なお、妙法ヶ岳へのハイキングコースは北斜面が多く、積雪や凍結があると難易度がぐっと上がります。路面の状況次第では、無理して登拝することは避けましょう。
*寺社所在地:埼玉県秩父市三峰298-1
*歩行時間:2時間8分
*歩行距離:3.7km
*上り:424m
*消費カロリー:513kcal
*アクセス:関越道・花園ICより車で約120分
三峯神社の祖でもある日本武尊(ヤマトタケル)が宝登山(497m)の美しさに魅せられて登った際、山中で突然の山火事に見舞われます。そんな日本武尊を救ったのが忽然と現れて火を消し止めて山頂へ導いた山犬たち。これを山の神様である大山祇神(おおやまづみのかみ)の使いとして謝意を込め、神日本磐余彦尊(かんやまといわれひこのみこと・神武天皇)・火の神である火産霊神(ほむすびのかみ)とともに祀ったのが寳登山神社(ほどさんじんじゃ)の起源です。
宝登山に抱かれた森に広がる境内には、美しい彫刻が欄間に施された本殿、幣殿、拝殿からなる社殿群が立ち並びます。縁起にあやかった火難除けをはじめとする諸難除けを祈願しに来る関東一円からの参拝客は年間100万人以上とされ、吉祥寳守(きっしょうたからもり)という真っ黒なお守りやお犬様の描かれたお守りが人気です。
寳登山神社の奥宮が座するのが宝登山山頂。斜面をジグザグに登るハイキングコースは歩きやすい林道として整備されており、ロープウェイ山頂駅を過ぎるとお犬様が見守る奥宮を経て山頂に到着。秩父盆地や武甲山を見渡すことができます。なお、山頂での火器使用は禁止されています。
宝登山には山頂直下の451mまで宝登山ロープウェイが架設されています。天候・体力やスケジュール次第では、登り・下り片道だけでもロープウェーを利用してもよいでしょう。お犬様の山だけに、キャリーケース(手回り品料金が必要)に入れれば、犬などペットも一緒に乗車できます。
*寺社所在地:埼玉県秩父郡長瀞町長瀞1828
*歩行時間:2時間34分
*歩行距離:5.2km
*上り:344m
*消費カロリー:542kcal
*アクセス:関越道・花園ICより車で約20分
開山は8世紀半ばに遡る薬王院有喜寺。奈良の大仏造営にも携わった高僧・行基が薬師如来を祀ったことが寺名の由来です。14世紀後半に俊源大徳(しゅげんたいとく)によって中興され、現在の御本尊である飯縄大権現(不動明王の化身)を祀り、周辺の相模国・北条氏などの戦国武将や、徳川幕府からも信仰を集めました。
成田山新勝寺(千葉県)・川崎大師(神奈川県)と並ぶ真言宗智山派(ちさんは)の三大本山であることから、弘法大師空海を祀る大師堂も有し、山中に点在する弘法大師像をめぐる八十八ヶ所巡りも可能。また修験道の行場としても栄え、修行者である山伏の姿が高尾山のシンボルである天狗のモデルとなったと言われています。
ケーブルカーの高尾山駅で下車したら1号路を進みます。蛸杉の先の浄心門が薬王院境内の入口。門に掲げられた「霊気満山」の言葉は、東京都唯一の日本遺産「霊気満山 高尾山 ~人々の祈りが紡ぐ桑都物語~」に選定された際にも使用されました。かたわらには修験道の開祖・役行者(えんのぎょうじゃ)を祀る神変堂(しんぺんどう)があります。男坂の石段を登ったら、右手にある「三密の道・苦抜け門」を進みましょう。仏舎利塔がある広場は神変山と呼ばれ、男坂・女坂が人で混みあう初詣シーズンでも、人もまばらな穴場スポットです。
四天王が守護する山門を抜けると、本堂・本社・奥之院と石段を登り、山号でもある高尾山(599m)の山頂まで、舗装されたハイキングコースが続きます。山頂南の大見晴園地からは、丹沢山塊を前景に富士山を遥拝することができます。なお初詣時期はケーブルカーの混雑も予想されます。時間にゆとりを持っての登拝をおすすめします。
*所在地:東京都八王子市高尾町2177
*歩行時間:1時間42分
*歩行距離:3.7km
*上り:237m
*消費カロリー:368kcal
*アクセス:高尾登山電鉄・高尾山駅よりすぐ
丹沢山塊の東にそびえる大山(1,252m)は別名・雨降山(あふりやま)と呼ばれ、古くから雨乞い信仰の山として、五穀豊穣を祈る人々が畏敬の念を持って遥拝していました。大山阿夫利神社はその中腹に位置し、創建2200年以上と言われる古社。東大寺(奈良県)も開山した良弁によって雨降山大山寺が建立され、修験道の行場としても栄えました。
この大山がひときわ賑わったのが江戸時代。大山を信仰する人々が「講」と呼ばれるサークルを形成し、山麓の宿坊に泊まって登拝する大山詣が、江戸庶民に大流行します。中世は武家の信仰をあつめ、源頼朝が太刀を奉納した伝えも。これにあやかり木製の大太刀を担いで大山詣する風習は、「江戸庶民の信仰と行楽の地~巨大な木太刀を担いで「大山詣り」~」として日本遺産にも認定されています。
大山山頂までは岩が露出した登山道となるため、初詣ハイキングには厳しめ。そこで山麓から大山阿夫利神社まで、大山寺や弘法の七不思議など見どころが満載の女坂を歩いてみましょう。大山ケーブルバス停から続くこま参道には、名物・大山豆腐を味わえる宿坊・茶店や、店先にコマが並ぶ土産物店が続きます。大山詣の参拝者をもてなすために豊かな水の恵みで作られた豆腐、大山詣の参拝者が講の仲間への土産物としてこぞって購入したコマ、いずれも大山講が生み出した名産品です。
中腹にある大山寺では「かわらけ投げ」という一風変わった儀式を体験できます。かわらけという2枚の土器を購入。1枚は赤い輪に向かって投げて通ると願いが成就し、もう1枚は下の岩に向かって投げ当たって砕けると厄が祓われるとされています。大山寺から大山阿夫利神社までの間には、岩窟の祠に近づいて耳を当てると潮騒の音が聞こえるという「潮音洞(ちょうおんどう)」をはじめ、「弘法の七不思議」と呼ばれるスポットが点在。飽きることなく歩けます。
*所在地:神奈川県伊勢原市大山355
*歩行時間:2時間
*歩行距離:3.0km
*上り:380m
*消費カロリー:499kcal
*アクセス:小田急線・伊勢原駅からバスで約30分
日蓮宗の開祖・日蓮上人は、現在の鴨川市にあたる漁村で生まれました。彼が12歳の時に入山して16歳で出家得度したのが、当時は天台宗の寺院であった千光山清澄寺です。鎌倉・比叡山・高野山などで遊学した後に千光山清澄寺(せんこうざんせいちょうじ)に戻り、境内の「旭が森」で太平洋から昇る朝日に向かって日蓮宗の開宗を宣言して日蓮と名乗った、まさに日蓮宗始まりの地なのです。
その後は戦争や火災などで衰退と復興を繰り返し江戸時代には幕府の命で真言宗に改宗と数奇な運命を辿りましたが、日蓮宗の聖地として信者の熱心な願いもあり、1949年にようやく日蓮宗として再び改宗。日蓮宗の大本山として現在を迎えています。
千葉県で3番目に高い清澄山(きよすみやま、377m)=妙見山=は山頂一帯が清澄寺の境内となっており、最高地点の清澄山を筆頭に宝珠山(350m)・如意山(330m)・露地山(330m)などの小ピークが点在しています。地形図に「清澄の大スギ」と記された巨木は国指定の天然記念物で、境内では千年杉と呼ばれています。
日蓮上人が開宗を宣言した本堂の南に位置する旭が森は、小笠原諸島・伊豆諸島、富士山などの高山を除く本州本土では最も早く日の出を見ることができる場所として知られています。2022年8月には、ここに立つ日蓮上人銅像の建立100周年を記念して立派なスロープが完成。さらに快適な初日の出鑑賞が可能になりました。
*寺社所在地:千葉県鴨川市清澄322-1
*歩行時間:39分
*歩行距離:1.3km
*上り:99m
*消費カロリー:144kcal
*アクセス:館山道・君津ICから車で約65分
富士山(3,776m)の御祭神・木花之佐久夜毘売命(このはなのさくやひめのみこと)は浅間大神(あさまのおおかみ)とも呼ばれており、これを祀るのが浅間(あさま、せんげん)神社。富士山本宮浅間大社・村山浅間神社(静岡県富士宮市)、冨士御室浅間神社・河口浅間神社(山梨県富士河口湖町)・北口本宮冨士浅間神社(山梨県富士吉田市)など、世界文化遺産の構成資産となっている富士山周辺の浅間神社だけでも9社を数えます。
世界文化遺産には登録されていないものの、数ある浅間神社の中でもひときわフォトジェニックなのが、新倉富士浅間神社(あらくらふじせんげんじんじゃ)。富士吉田市内の戦没者を慰霊する忠霊塔である朱塗りの五重塔は富士山を正面に望む高台に建ち、桜と富士山を組み合わせた風景は、写真を見たことがある人も多いでしょう。
三國第一山と書かれた赤い鳥居をくぐり表参道の階段を昇ると、愛宕神社・塩釜神社・荒濱神社などを従えた本殿へ。まずはここで初詣をしましょう。忠霊塔まで続く398段の石段の途中には、隣接する新倉山浅間公園(あらくらやませんげんこうえん)への遊歩道も延びています。
ここから新倉山(1,180m)までは、要所にベンチが設置された森の中のハイキングコースが続きます。振り返ると随所から富士山を眺望することができ、初夢への出現に期待が膨らむでしょう。新倉山は森の中にあるため、もう少し登ったところにある御殿周辺から見事な富士山を眺めましょう。ただし番外編として紹介した通り、標高差は400mを超えます。冬場は積雪・凍結することもあり、滑り止めや防寒対策などが必要になるので、リアルタイム積雪モニターなどを活用して最新状況をチェックしてください。
*寺社所在地:山梨県富士吉田市浅間2-4-1
*歩行時間:2時間19分
*歩行距離:3.1km
*上り:424m
*消費カロリー:529kcal
*アクセス:中央道・河口湖ICから車で約10分
※積雪が始まると投稿された写真が表示されます。
冷え込みも厳しいこの時期、天候や気象条件によってはコースが積雪・凍結していることも。こうした場合は転倒などのリスクもあるため、山麓での初詣だけに留めた方が良い場合もあります。
そこで活用してほしいのがYAMAPの「リアルタイム積雪モニター」です。400万ダウンロードを超えるYAMAPアプリのユーザーのみなさんが投稿した写真などのビッグデータをリアルタイムで分析、集計。今、積雪している全国のスポットをひと目でチェックすることができるのです。
使用法は簡単!
1.MAPを拡大・縮小するとエリア内の積雪に関する投稿写真が表示されます
2.興味のある絶景を見つけたら写真をクリック
3.写真撮影場所までのルートなど、詳細な登山情報を確認できます
の3ステップです。
さあ、まだYAMAPアプリを使っていない人は早速ダウンロードして「リアルタイム積雪モニター」をチェックしてみましょう!
※神社・寺院の開門日や時間、参拝料などは事前にご確認ください
トップ画像撮影:鷲尾 太輔
編集協力:鷲尾 太輔