高山都さん・安井達郎さんの山歩スタイル|山を起点に広がる自然との繋がり

山を歩き、自然を感じることで豊かになり満たされる心と体。YAMAPが提案する「山歩(さんぽ)」には、多様な自然環境を育む日本という風土を存分に楽しむためのヒントが詰まっています。自然の楽しみ方は人それぞれ。今回お話を伺ったのは、モデルとして活躍する安井達郎さんと高山都さんご夫婦。お付き合いを機に一緒に山に出かける機会も増えたというおふたりに、山歩にまつわるあれこれをお聞きしました。

2023.06.21

小林 昂祐

撮影と執筆業

INDEX

山との出会いは「一緒に行こうよ」から

「今週末は天気がよさそうなので、山に行こうと計画を立てていたんです」と、高山さんは山の話となると自然と笑顔が溢れる。

モデルとして活躍する傍らプロデュース業など多忙な日々を送るなか、思いがたっぷりと詰まった自身のライフスタイルについての発信にも力を入れている高山都さんは、「まだまだ初心者なので」と謙遜しながらも、どっぷりと山と自然に魅了されているよう。

そんな高山さんが山へと足を運んだキッカケは、同じくモデルのご主人・安井達郎さんとの出会いだったのだとか。

気持ちの良い稜線歩きと山頂からの富士山の眺望が楽しめる金峰山(2,599m)に、大弛(おおだるみ)峠側から登った際の一枚(写真提供:安井さん・高山さん)

高山「山への興味はあったんです。『いつか行ってみたいな』と思っていたのですが、どこに行ったらいいかわからないし、道具も何があればいいか悩んでしまっていて。だから、誰か連れてってくれないかなって。その期間が長かったのですが、達郎くんの趣味が山だったこともあり『一緒に行こうよ』と、連れて行ってもらったのが最初です」

安井「一緒に行きたい山がたくさんあるのですが、まずは都さんが山を嫌いにならないように気をつけています(笑)。楽しめる山、というのが大前提。それこそ、YAMAPの活動日記を見て、『これなら都さんも歩けそうだな』という基準で調べています。

いきなり大変なところに行って、『もう山に登らない!』って言われたら困るんで。なので、登りやすいところから選んで、徐々に、徐々に……という感じですね」

はじめてふたりで歩いたのは上高地。「いま振り返ってみると、本当に簡単なハイキングだったのですが、当時の私にとっては、大冒険!」と高山さん。記憶に残っているのは、「都会にはない山の匂い」。山の匂いを嗅ぐと、どこか懐かしい気持ちになるのだそう。

高山「きっと、子どもの頃に母が私を自然に触れされていたからなんですよね。『嗅いでみなさい』『触ってみて』と、草木と触れ合う機会をつくってくれていたんです。

大人になって、自然との関わりは何十年もブランクがあったのですが、達郎くんが連れ出してくれたおかげで思い出したんですよね。『懐かしい! これが好きだった!』って、あらためて自然に感動しています」

安井「山を歩いていると、都さんはゾーンに入ったみたいに、無になっちゃう(笑)。そういう瞬間を見ていると、一緒に山に来てよかったなって思います」

高山「山を登っていて好きなのは、花や植物を見ること。頑張って登った先で、絶景のなかで咲いているお花を見つけるとすごく嬉しい。植物の芽吹きや露に濡れた葉っぱも、『なんて綺麗なんだ!』って、感動が止まらなくなっちゃうんです」

高山さんを山に案内する安井さんが、登山をはじめたのは大学時代。友人に誘われて関西の伊吹山に出かけたのだそう。「本当に若者のノリだった」といい、服装も考えずデニムで登っていたのは今ではいい思い出になっているのだとか。

それから山への興味がつのり、装備を揃え、仲間と登りに行ったり、時間があればひとりでピークを目指すようになったと話してくれた。

山をはじめて、そこかしこの自然に興味を持つ高山さんを、優しく見守る安井さん。そんなふたりの関係性は、「夫婦で山を楽しむ」ひとつの理想像だ。

ちなみに、高山さんがはじめて山に出かけたのはちょうどコロナ禍の真っ只中。マスクをしたり、人との距離を取ったりと、制限されることがたくさんあった時期だった。

高山「私は、五感を基本的にフルに使いたい人間なんです。感覚をとても大事にしているので、あの時期はすごく窮屈でした。そんなときに、達郎くんに山に連れていってもらって、視覚も嗅覚も、感覚がぜんぶ解き放たれる気持ちになれたんです。『山はなんて気持ちのいい場所なんだ』って」

山で感じる風の音や小鳥のさせずり、虫の鳴き声。自然に出かけるということは、窮屈な都会での日常からすっと抜け出す手段のひとつ。それはコロナ禍が終わっても変わらない、普遍的な山の魅力でもあるのだろう。

ふたりで見つける、山の楽しみ方

ふたりで登るようになり、山の楽しみ方が大きく広がった(写真提供:安井さん・高山さん)

マラソンランナーとしての顔ももつ高山さん。なんとベストタイムは3時間42分。モデルさんなのにそんなに速いの!?と驚かれることも多い一方、実は運動は苦手なのだとか。

高山「歩くのと走るのは得意なのですが、どうやらバランス感覚はセンスがないみたいで……。でも、ガッツと根性はある(笑)。だから山は岩場を登っていくようなハードな場所よりも、長く歩いていく方が好きなんです」

安井「僕は、独身時代は山に登ることそのものが目的だったから、行って帰るだけ。でも、結婚してからは山への向き合い方が変わりました。ピークハントばかりではなく、山登りに何かを加えて休みを有意義に使おうっていうスタイルが楽しくて。山の見方が広がったんですよね」

日々の丁寧なゴハンづくりで有名な高山さんも「山ではじめてカップラーメンを食べた時は、『なんて美味しいんだ!』って感動しちゃいました(笑)」(写真提供:安井さん・高山さん)

たしかに、山といえば「頂上を目指す」ことを思い浮かべることも多いだろう。しかし、道中にはたくさんの楽しみがある。登山道に咲く花や道中の景色、山小屋での時間はもちろん、山の周辺の魅力的なロケーションをめぐるのも面白い。

安井「とにかく都さんが楽しめるような場所を探すこと。危ないところがないかもそうですし、花のシーズンを調べたり、歩くだけではなく、プラスでできることがあったらいいなと思っています」

最近は、「せっかく遠出するなら楽しいことを全部くっつけたい!」と、「山歩き+温泉」「山歩き+キャンプ」というように、山に何かの要素をプラスすることにハマっているのだそう。

高山「山の近くにいい温泉宿がないかなって探したり、おいしいお店を探したり。帰りに地元の食材を買って帰るっていうのも恒例のイベントになっています。道の駅に行くと見たことのない野菜がいっぱいあるし、値段も手頃。家に帰ってからも、山の思い出に浸かりながら食事ができて、ちょっとだけまだ旅がつづいている感じになれるんですよね」

お気に入りの山道具のキーワードは「オンとオフ」

モデルという職業柄、コーディネートはお手のもの。とはいえ、山のアイテムには「道具」としての機能面もある。好きなポイント、気をつけているところなど、おふたりのスタイリングのコツも教えてもらった。

高山「『自分らしさ』でしょうか。やっぱり好きなものというのはあって、山であってもその“好き”と一緒でありたいと思っています。もちろん、靴であれば歩きやすいもの、パンツも動きやすくて乾きやすいものであることは忘れずに。

オンとオフの両方で使えるとベスト。例えば、旅先でそのままご飯を食べに行っても浮いて見えないものとか。普段の自分とあまり離れたくないというか、どこに行っても自分でいたいと思っていて。

だから、このリュックで出張に行ったり、1泊旅行に出かけることもあります。時計も山用のモデルですが、普段のカジュアルな格好のときにもつけています」

高山さんのお気に入りはターコイズのピアス。ターコイズには魔除けの意味があり、しかも誕生石という思い入れのあるアクセサリー。スタイルとしてだけでなく、山や旅のお守りという目的もあるのだそう。

高山さんのお気に入りアイテムたち。バックパックは安井さんからのホワイトデーのお返し

ハットや手拭いは、ちょっと色で遊ぶときに役立つアイテム。山用ということもあり機能的で快適性がありながらも、かわいさも兼ね備えているのがポイント。

「かわいいものをついつい集めてしまう」という高山さんの最近のお気に入りはチャオラスのバンダナ。竹由来の天然素材でつくられたもので、アクセントとして重宝しているのだそう。

映像制作も手がける安井さんはカメラなどのギアにもこだわりが。ケトルはミニマルなパッキングにもってこいとのこと

一方、安井さんは街と山でオンとオフを切り替えたい派。

安井「僕、あまのじゃくで、最近多いナチュラルなカラーじゃなくて、派手な方に行きたいんですよ、逆に(笑)。チェックのネルシャツやビビッドな色のジャケットを入れたりするのも好きなんです。今日はピンクの帽子をアクセントに。山では山のファッションというのも、いいなって」

自然で過ごす時間が教えてくれたもの


「なぜ山に登るのか」という、山に親しむ者にとっては永遠の命題とも言える問い。おふたりに、あらためて山に行くことで豊かになること、目的としていることを伺った。

高山「山の挨拶って、すごくいいなと思っていて。すれ違う方たちと、『こんにちは』『気をつけて』『もうちょっとですよ』って、本当にたった一言だけど、そこにちゃんと思いやりの精神が込められていて、お互いが気持ちよく行き来できるような配慮もある。あの感じがすごく好きなんです。

もともとコミュニケーションをとるのが好きな方なので、何かその一言で自分も頑張れたりするし、下山してるときに辛そうな人を見ると、余計なおせっかいかもしれないのですが、声をかけたくなっちゃうんですよね」

たしかに、日常ですれ違う人と挨拶をすることはほとんどない。わずかな時間であっても、「山」という共通の目的を持った人とのつながりは、あらためて「山ならでは」の豊かさだと言えるだろう。

安井「日常生活では得られない偶然性みたいな、ちょっとした冒険心を味わいたいんですよね。普通の生活では、 全部が予定通りというか、アクシデントやハプニングは起きないけれど、山の中では何が起きるかわからない。それが楽しいと感じています。

それに日常から自分を解放したいという思いがあるのかも。雨が降ってきたり、コースタイムどおりに歩けなかったりなど、予定調和ではない何かが山にはあって、そのなかでどうやりくりするかを楽しんでいるのかもしれません」

安井さんが言うように、山では何が起こるかわからない。天気が急に変わったり、インターネットで調べたことがすべてそのままその場所にあるわけではない。もちろん、予期せぬ出会いや、想像を超えた絶景に出くわすこともハプニングのうち。「行かなければわからない」。山の楽しさは、山を歩いた者だけが触れられる特権なのだ。

思い出に残る山歩道と旅を豊かにする「+α」

最後に、お気に入りの「山歩道」を聞いてみた。これまで数々の山を歩き、素晴らしい体験をしてきたおふたりだからこその、思い出の場所をエピソードとともに教えてもらった。

高山「やっぱり、最初に行った上高地ですね。河童橋から見える山々、綺麗な川も、人で賑わう感じもすごくよくて。ほんとうに上高地周辺しか歩いていないのですが、すごく思い出に残っています。

そしてハイキングのあとはすぐに帰らずに、宿をとって滞在するんです。私たち、クラシックホテルが好きで、このときは上高地帝国ホテルに泊まりました。なので、山の服はもちろん、ちょっと綺麗めな服、洒落たシャツにネクタイみたいな服も持っていったのですが、ひとつの旅で2つ楽しめて、すごく旅が贅沢になりました」

安井「さっきまですごい泥んこになって歩いてたのに、パリッとした服装でディナーをしているというのも、なんか不思議な感じもして面白かったよね」

五感が解放されたという上高地にて(写真提供:安井さん・高山さん)

もうひとつ、高山さんの記憶に残っているのが、広島の弥山。厳島神社のある宮島の山頂をなす、535mの山だ。なんとはじめてのひとり登山だったのだとか。

高山「朝、神社まで行って、登ったんです。でも、途中に鹿がいてびっくり。どうしようって(笑)。そんなに高い山ではないのですが、結構登りごたえは十分。山頂の岩場からはパッと景色が広がって、海も見えて。最後ロープウェイで降りて、厳島神社で食べ歩きして帰れば完璧(笑)。山も旅も楽しめる最高の山歩ルートだと思います」

山を起点に、旅をつくる

安井達郎さん、高山都さんご夫婦の、山にまつわるあれこれのお話。いかがでしたでしょうか。登山と聞くと、道具を揃えるのが大変、辛い登りが待っている、などなど、一歩を踏み出すには尻込みしてしまうイメージがあるかもしれません。

でも、おふたりが楽しんでいるように、自然を感じる山歩きを軸にお気に入りの要素をプラスした「ちょっとぜいたくな旅」として捉えてみると、見方がガラッと変わってきます。

山や自然の楽しみ方は人それぞれ。まずは、歩いて、感じて、山歩をはじめてみてはいかがでしょうか。

お二人のおすすめ山歩道はこちら

|上高地帝国ホテル・河童橋周回コース
上高地(長野県)は北アルプスの南部に位置する標高1,500メートルの美しい山岳景勝地。安井さんが高山さんをはじめて山歩きに連れて行ったという、おふたりにとっては思い出深い場所。上高地帝国ホテルをスタートし、澄んだ空気のなか梓川沿いの歩きやすい道を進んで河童橋まで到着すると、穂高連峰の雄姿が眼前に広がります。

アップダウンがほとんどない1時間半弱の山歩道で、ただただ気持ちよく歩くことができるコースです。余裕がある方は、明神池や徳沢まで足を伸ばすのもおすすめです。

左:上高地帝国ホテル(もじゃべるさんの活動日記より)、右:河童橋を背景に(写真提供:安井さん・高山さん)

|厳島神社・弥山周回コース
海上にせり出すように建つ寝殿造りの建物と朱の大鳥居で有名な広島県宮島の厳島神社。その背後にそびえるのが弥山です。高山さんが、はじめてひとりで登った「ちょっとした冒険」の山。名所をめぐる街歩きとセットで山に登れるのがおすすめしたいポイントだそう。

登山中に見ることができる歴史を感じる神社仏閣の数々、巨岩、山頂から見渡せる瀬戸内海と広島の大パノラマは圧巻。3時間ほどの道のりはロープウェイで短縮することも可能です。

左:宮島のシンボル大鳥居(na_miさんの活動日記より)、右:山頂から瀬戸内海を一望(tomoさんの活動日記より)


高山 都(たかやま みやこ)
1982 年生まれ。モデル、女優、ラジオパーソナリティ、商品のディレクションなど幅広く活動し、丁寧な生き方を発信するinstagramも人気。趣味は料理、ランニング、器集め、旅行。著書『高山都の美食姿』(双葉社刊)シリーズ1~4も好評発売中。instagram

安井 達郎(やすい たつろう)
モデルとしてファッション雑誌をはじめとした各種メディアで活躍するほか、MV監督など映像作家としても活動。ライフワークはVlog制作。instagram

協力:ル・ジャルダン

小林 昂祐

撮影と執筆業

小林 昂祐

撮影と執筆業

旅雑誌の編集部を経てフリー。在籍時には「アウトドアを科学する」をテーマにした『terminal』を創刊。実体験とインタビューを中心に、自然そのものの美しさやその地に暮らす人びとの営みを取材し、対象に寄り添うことで得られる情景を文章と写真で伝える。著書に西表島を特集した『NatureBoy』ほか、おやつの世界を巡る『OYATTUmagazine』など。趣味は登山。