これまで全4回にわたって紹介してきた、地図読みマスターになるために必要なさまざまな知識や技術。それぞれのスキルは、実際に山登りで実践できるかがとても重要です。今回はおさらいもかねて、全7問のクイズを用意しました。バランスよく実践力が身についているかをチェックするために、チャレンジしてみましょう。
地図読みマスターへの道|記事一覧
2023.08.02
YAMAP MAGAZINE 編集部
針葉樹・広葉樹などの森林や荒地の低草木などの植生、荒地・砂れき地・がけ・雪渓・噴気孔など山の景色は、地形図に記載された地図記号である程度把握することが可能です。
この写真は北アルプス・唐松岳(2,695m)へ向かう八方尾根の、とある場所から撮影したものです。では、この場所は以下の地図では、どこにあたるでしょう。
答えはAです。ここから伸びる矢印の先は、荒地(背が低い草)の地図記号で表示された、お花畑の斜面になっていますね。矢印の右側には写真の背後に映っている、ダケカンバなどの灌木が、広葉樹林の地図記号で表示されています。
では、不正解のBとCはどのような景観になっているのでしょうか。
Bの場所からは万年雪の地図記号で表示されている扇雪渓を見上げているので、上の写真のような景観となります。
Cの場所からはハイマツの地図記号が手前に表示されているので、上の写真のような景観となります。
登山道が、沢やそれに架かった橋を渡る場所、山中の寺社仏閣を通過する場所、山頂や稜線上の電波塔の直下を通る場所など、特徴的なランドマークを通過する際には、地図記号だけでも現在地を特定することが可能です。
この写真は丹沢・シダンゴ山(758m)から下山中のとある場所から撮影したものです。では、この場所は以下の地図では、どこにあたるでしょう。
答えはBです。登山道が送電線を潜る場所なので、目の前に送電線が見えているのです。
もうひとつ、Bの場所では地形図で送電線の角度がわずかに変わっていることに気づいたでしょうか。送電線は自力で曲がることは不可能。すなわち、送電線の角度が変わっている場所には、鉄塔も存在していることがわかるのです。
では、不正解のAとCはどのような景観になっているのでしょうか。
Aの場所は送電線とほぼ並行に急斜面を下る区間なので、前方に送電線が見えることはあり得ません。
Cは稜線にかかる送電線と背後のシダンゴ山を、標高が低い橋の上から眺める場所です。写真で見ると、このような景観となります。
これは高尾山(599m)の6号路・通称琵琶滝コース周辺の地形図です。琵琶滝から山頂直下までをア・イ ・ウの区間に分けました。以下は、各区間がどんな地形を通過するかを説明した文章です。
・ア区間:川の(①)をトラバースしながら進む
・イ区間:川の(②)をトラバースしながら進む
・ウ区間:最初は(③)を登り、右折したら斜面を(④)登り、左折したら(⑤)を登る
以上の説明の①〜⑤に当てはまる語句のうち、正しい組み合わせはどれでしょう。
A:①南側 ②北側 ③斜面 ④ふたたび ⑤斜面
B:①右岸 ②左岸 ③沢 ④トラバースしながら ⑤尾根
C:①左岸 ②右岸 ③尾根 ④ジグザグに ⑤沢
答えはBです。まずトラバースとは、等高線にほぼ平行に登山道がついており、斜面を横断することをいいます。等高線にほぼ平行ということは、アップダウンが少ないので体力的には楽ですが、低い方に川が流れており転落には注意が必要です。
川の右岸・左岸とは、上流を背に下流を見た時の右側・左側のことを呼びます。この琵琶滝コース沿いもそうですが、上高地から梓川沿いを明神〜徳沢〜横尾と遡る場合も、見え方と呼び名が異なります。下流から上流へと向かうので、梓川の左が右岸、右が左岸となるのです。この時点でCは不正解となります。
Aは完全な不正解ではありません。地形に詳しくない人であれば、登り・下りの傾斜がある場所はすべて「斜面」と説明しても通じるでしょう。ただし実際には③は谷底の道、④は斜面中腹のトラバース道、⑤は尾根道(現在は木製階段が設置)と、登山道が通っている場所の地形が変化するので、やはり説明不足と言わざるを得ません。
これは、大垂水峠から高尾山(599m)と城山(670m)の間にある展望所・一丁平へ向かう途中の景観です。登山道が下り坂になっており、奥には上り坂が見えます。では、この場所は以下の地図では、どこにあたるでしょう。
答えはCです。ピーク(山頂)は矢印で指した箇所のように、等高線が輪っかの形に一周している部分でしたね。ただし赤丸で囲った箇所のように、片側もしくは両側の等高線がひょうたんのようにくびれており、そこから膨らんでいる部分も隠れピークで、アップダウンが存在します。
答えは上の隠れピーク、すなわちCとなります。Cから下っていく道とその先のピークへの登り返しが写真に映っていますね。
では、不正解のAとBはどのような景観になっているのでしょうか。
Aは大垂水峠からBに向かうトラバース道で、平坦な登山道が続いています。
Bは、実線で示された軽車道と破線で示された徒歩道(Cへ向かう登山道)が分岐する場所。Cへ向かう尾根には階段が続いています。
ここから3問は、記事を読んでいる端末(スマートフォン・タブレット・パソコンなど)の画面に表示されている地形図に、実際にコンパスを当てると解きやすいです。ただしコンパスは端末が発する磁気の影響を受けやすいので、解答が終わったら離れた場所に置いておきましょう。
八ヶ岳・東天狗岳(2,640m)から中山峠へ下山しようとして赤丸の分岐まで来たものの、ホワイトアウトで視界がほとんどなくなってしまいました。コンパスを使って正しく赤矢印の方向へ進む場合、以下のA・Bどちらが正しいでしょうか。
答えはBです。現在地(赤丸の分岐)から目的地(中山峠)へ続く登山道の方向と、磁北の“角度の差”を計測してみましょう。
分岐から中山峠へ続く登山道の方向と、磁北の“角度の差”は約20度です。このためBのように20度までコンパスの回転盤を回して、回転盤矢印と磁針が重なるまで自分が回れば、進行線は正しい方向を示すのです。
なお不正解のAは、分岐から中山峠を経由しないコースへの方向を示したものでした。
ちなみに中山峠への登山道周辺の等高線を見ると、右側(東)斜面の等高線が“密”な状態、すなわち急斜面になっています。おまけに岩がけの地図記号まであり、かなりの断崖絶壁であることが想像できます。
日本は基本的に偏西風で、西から東に風が吹いています。特に冬の八ヶ岳周辺では、強い西風が常に吹きつけます。こうした際に注意しなければならないのが、風下側である東斜面に雪が庇(ひさし)のように張り出す雪庇(せっぴ)です。
前述の通り中山峠までの東斜面は断崖絶壁です。もし誤って雪庇の上を歩いてしまい、これが崩壊すると、かなりの距離と標高差を滑落してしまいます。こうした場合には、YAMAPなどの登山GPS地図アプリも併用して、自分がきちんと稜線の上を歩いているかチェックすることも必要です。
これは高尾山(599m)から稲荷山コースを下山中の、稲荷山展望台から見える風景です。街並みの手前に気になる山がそびえています。コンパスを使えば、その山が地図上でどれなのかを特定することができます。
コンパスの進行線を気になる山にまっすぐ向けて、回転盤を磁針が回転盤矢印と重なるまで回します。すると、写真のようになりました。
現在地の稲荷山展望台は、赤丸の場所です。では、気になる山はA・B・Cどれでしょうか。
答えはBです。「・302」という標高点が記載されたピークで、地元では東麓の寺院にちなんで高乗寺城山(こうじょうじしろやま)と呼ばれています。
現在地からA・B・Cそれぞれを結ぶ直線と磁北線との角度の差を計測してみると、上のような結果となりました。回転盤の目盛りが約66度だったので、Bが正解となるのです。
ちなみにAは、エコーリフトの文字が重なった尾根をはじめ、手前の3つの尾根に隔てられてしまうので、現在地から見ることは地形図からも不可能であることが想像できます。Cの方向も、実際には樹木が生い茂っていて、望むことはできません。
大菩薩嶺(だいぼさつれい、2,056m)から大菩薩峠へ縦走中に、スマートフォンのバッテリー切れで登山GPS地図アプリ・YAMAPが閲覧できなくなってしまいました。ただし山麓に大きなダムが見えて、地形図で確認すると大菩薩湖であることがわかりました。
コンパスの進行線を目標物である大菩薩湖の東側の入江にまっすぐ向けて、回転盤を磁針が回転盤矢印と重なるまで回します。すると、写真のようになりました。
目標物である大菩薩湖の東側の入江は、赤星の場所です。では、現在地はA・Bどちらでしょうか。
答えはAです。A・Bそれぞれと目標物を結ぶ直線と磁北線との角度の差を計測してみると、上のような結果となりました。回転盤の目盛りが約206度だったので、Aが正解となるのです。
とはいえこのケースではAとBの数値が近いため、角度の差を計測するだけでは難しい場合もあります。そんな時は等高線を見てみましょう。
Aは尾根を下っている途中、Bは小さなピークであることがわかりますね。視界不良で大菩薩湖も見えないような場合には、等高線で表された地形だけでも大きなヒントになりますよ。
明治時代に始まった登山スタイルは、それまでの宗教的な登山とは一線を画して近代アルピニズムと呼ばれ、その黎明期の主流のひとつが測量登山でした。地形図を発行している国土地理院の前身・陸軍参謀本部陸地測量部の測量官が、全国の山に登って三角点を設置し測量を行ったのです。こうした歴史を経て作成されてきた日本の地形図、特に等高線で表現される山の起伏は驚くほど正確です。
地形図が読めるようになると、YAMAPなどの登山GPS地図アプリの画面を見て得られる情報量もケタ違いに多くなります。また、最後のクイズのようにスマートフォンが使えない状況でも、地形図とコンパスは強い味方になってくれます。
そして同じ山に何回通っても毎回新しい発見があり、地形図から読み取れる山の地形の解像度が上がっていくのが、地図読みの何よりの魅力です。ゲーム感覚でも全く問題なし! 楽しみながら地図読みマスターを目指してください。
執筆・素材協力・トップ画像撮影=鷲尾 太輔(登山ガイド)