埼玉県長瀞町の宝登山(ほどさん、497m)は、登山初心者や子どもに山歩きの楽しさを気づかせてくれる山。蝋梅(ロウバイ)や梅、桜、ツツジ、シャクナゲと、四季折々の花を鑑賞できる場所としても知られています。そんな花の山を堪能できるおすすめコースについて、登山ガイドの上田洋平さんが解説してくれました。
2023.09.20
上田洋平
登山ガイド
埼玉県のなかでも、自然豊かな観光地である長瀞町。宝登山は、長瀞地域の風光明媚な場所を選んだ「長瀞八景」の一つで、「桜と梅と宝登の山」として親しまれています。
その名前が表す通り、「宝の山に登る」という縁起のいい山であり、さらに公共交通機関でのアクセスもよく、登山未経験者や子どもと一緒に行くのに最適な山。感動のポイントは以下の3点と言えるでしょう。
①四季折々の花が咲き、12月下旬~2月下旬の蝋梅(ロウバイ)や、2月上旬~3月下旬の梅の花は特に有名
②山頂には秩父有数のパワースポット「寳登山(宝登山)神社」の奥宮がある
③ロープウェイで山頂近くまで行け、長瀞の周辺には観光スポットも多数
宝登山が登山未経験者・初心者の友達におすすめできる一番の理由は、なんといってもロープウェイがあること。
上空から景色を眺めながら、ほんの約5分ロープウェイに揺られていれば、あっという間に山頂駅に到着。そこからは、体力に自信がない年配の方や小さな子どもでも、少し頑張るだけで山頂に到達できます。もちろん、疲れてしまった場合の下山時にも安心です。
下山後の観光スポットの多さも魅力。山麓にある寳登山(宝登山)神社本社の社殿はきらびやかな装飾が施されており、山頂近くにある奥宮と両方お参りして比べてみるのも面白いでしょう。
それでは、魅力別に、初心者向けの3コースに絞って、詳しく紹介していきましょう。
①登山が全く未経験の入門者に最適なコース
②体力が不安な場合、宝登山ロープウェイ利用でショートカット可能
③下山後の観光も充実
コースタイム:約2時間30分
歩行距離:5.2km
累積標高差(上り):344m
累積標高差(下り):344m
体力度:1(5段階中)
スタート&ゴール地点は寳登山(宝登山)神社。ここから南東側に進んで墓地がある登山道に入り、山頂を目指します。
ちなみに、同神社の創建に関係していると伝えられているのが、日本武尊(やまとたけるのみこと)。
この山に登拝していたときに、賊に火を放たれ、辺り一面が火の海となる山火事に遭遇します。そこに山犬(狼)が火を消して助けたため、火を止める山、「火止山(ほどやま)」と呼ばれていたのが、いつしか宝登山(ほどさん)と呼ばれるようになりました。
マイカーでアクセスする場合、宝登山ロープウェイの山麓駅南側に駐車場があるので、そこからスタートして登山道に入るとよいでしょう。
山頂までの登山道は、幅も広くて歩きやすい道が続きます。
スタート地点から1時間ほど登ると、宝登山頂レストハウス脇の分岐点に出るので、ここから北へ進み、宝登山小動物公園を経由して宝登山山頂へ向かいます。
例年2月には、蝋梅が満開になります。週末は、山頂付近がかなり混雑しますが、広いので休憩にピッタリ。週末のみの不定期営業ですが、宝登山頂レストハウスで食事もできます。
例年12月下旬〜2月下旬は蝋梅園の花が見頃になります。約15,000平方メートルの広大な園地に約3,000本の蝋梅が植えられており、満開の季節は圧巻の光景です。
山頂からは秩父連山を見渡せます。写真右側奥に見えるのは日本百名山の両神山(りょうかみさん、1,723m)。
宝登山山麓の寶登山(宝登山)神社では、御祭神として、次の3神を祀っています。
・神日本磐余彦尊(かんやまといわれひこのみこと/神武天皇)
・大山祇神(おおやまづみのかみ/山の御神霊)
・火産霊神(ほむすびのかみ/火の御神霊)
山頂には奥宮があり、狛犬に守られています。家内安全、商売繁盛、火防盗賊よけ、交通安全、金運招福のご利益があると言われています。
下りは宝登山ロープウェイ山頂駅前を経由して宝登山頂レストハウス前の分岐まで戻り、そこから登ってきた道を下山します。
もし同行者に疲れている方がいる場合、ロープウェイを使って下れます。
水洗トイレは、登山口付近にある宝登山ロープウェイ山麓駅周辺と、ロープウェイ山頂駅周辺にあります。
①秩父鉄道野上駅を起点に長瀞アルプスの尾根歩きを楽しめる
②下りは宝登山ロープウェイ利用でショートカット
③宝登山山頂付近、裏参道の約200段の木段はがんばりどころ
コースタイム:約2時間30分
歩行距離:5.2km
累積標高差(上り):476m
累積標高差(下り):159m
体力度:1(5段階中)
秩父鉄道 野上駅がスタート地点。ここから一般道の脇を道なりに歩いて、北西方面に進みます。
10〜15分ほど歩くと、登山口とトイレの分岐に出ます。登山道の途中にはトイレは無いので、ここで済ませておきましょう。
トイレから分岐へ戻り、西側の長瀞アルプス登山口方面へ進むとすぐに登山口があり、ここから登山道が始まります。
難しい箇所はありませんが、最初はやや急登が続くのでスピードを出しすぎず、ペース配分に気をつけながら登ります。
道の途中には私有地を通らせてもらう箇所があります。ここでは100円(2023年2月時点)を支払って進みます。
途中には分岐点がいくつかありますが、「宝登山」の方面へ進みます。
尾根歩きなので登りと下りを繰り返します。
途中からアスファルトの林道に出ると、宝登山山頂に近づいてきた印です。
宝登山北登山口から再び登山道へ入ります。
このあたりは急登で、約200段続く木段が始まります。
山頂付近には少しだけ岩場がありますが、右側から巻いて登ることもできます。
この最後の木段を登り切れば、山頂です!
宝登山の山頂からは秩父連山と秩父盆地を一望できます。
宝登山山頂からは南東方向へ進み、宝登山ロープウェイ山頂駅へ。ここからロープウェイを使って楽々と下山。山麓駅まで下りたら、長瀞駅まで徒歩20分ほど歩いてゴールです。
トイレは長瀞アルプス登山口の手前、および宝登山ロープウェイ山頂駅にあります。登山道の途中には無いので注意して下さい。
①秩父鉄道 野上駅を起点に長瀞アルプスの尾根歩きを楽しめる
②下りもロープウェイを使わず下山
③長瀞アルプスも宝登山もしっかり歩きたい、体力に不安がない人向き
体力度:1(5段階中)
コースタイム:約4時間
歩行距離:8.3km
累積標高差(上り):486m
累積標高差(下り):482m
③のコースは、②の野上駅から長瀞アルプスコースを登り、宝登山の山頂を経由して①のコースで下山するコースです。約4時間、8.3kmのやや健脚者向けコースです。
長瀞アルプスコースで宝登山の山頂に着いた後は、宝登山頂レストハウス脇の道から下山します。
宝登山山頂は広々としていて見晴らしも良いため、長時間の食事休憩を取ってもよい場所です。ただしベンチはあまり無いため、レジャーシートなど敷物を持っていくのがおすすめです。
宝登山はバーナーなどの火器の使用は禁止されているので、山ごはんを作りたいと考えている方はご注意下さい。トイレは山頂から少し下った、宝登山ロープウェイ山頂駅にあります。
宝登山ロープウェイ山頂駅、宝登山頂レストハウス、ロープウェイ山麓駅には自動販売機が設置されています。夏場でも万が一のときには安心。山で飲む至福のコーラを味わえます。
宝登山ロープウェイ山麓駅から秩父鉄道 長瀞駅までの間の道沿いにある、創業130年の老舗かき氷屋。
天然水を秩父の自然の中にある氷池で製氷させた氷から作られるかき氷は、夏には行列ができるほどの人気ぶり。下山後に立ち寄って、涼を取ってみてはいかがでしょうか。
阿左美冷蔵の公式サイト:http://asamireizou.blog.jp/
時間があれば、創業100年以上の歴史を持つ長瀞ライン下りを体験してみるものよいかもしれません。長瀞駅の東側に案内所があり、そこで申し込みができます。
長瀞ライン下りの詳細:長瀞町観光協会
宝登山の帰りには、少し離れてはいますが、登山後に立ち寄れる温泉があります。お風呂で登山の汗を流せば、最高の休日を過ごせます。
源泉100%の満願の湯は、秩父の四季折々の自然、そして眼下を流れる奥長瀞渓谷の清流と満願滝を望む露天風呂があり、すべての露天風呂から満願滝が望めます。お湯はpH9.3以上の強アルカリ性なのが特徴です。
満願の湯の公式サイト:https://www.chichibuonsen.co.jp/
梵の湯の泉質は、ナトリウム・塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉(低張性、アルカリ性)で、関東でも屈指の重曹泉です。入浴後もしばらく体がポカポカするだけでなく、重曹泉が皮膚の脂肪を分解して洗い流してくれるので、お風呂上がりはかなりさっぱりします。
梵の湯の公式サイト:https://www.bon-chichibu.jp/bon/
*情報は2023年7月時点。公式サイトなどで事前にご確認ください。
公共交通機関は、コース①の場合、秩父鉄道長瀞駅から登山口となる寳登山神社まで徒歩約15分。宝登山ロープウェイ山麓駅まで無料シャトルバスがあることも。運行日や時刻については宝登山ロープウェイ お知らせを参照。
コース②と③の場合は、秩父鉄道野上駅から長瀞アルプス登山口まで徒歩約10分。
自動車の場合、関越自動車道の花園ICからロープウェイ山麓の駐車場まで約50分。
コース①で登山する場合には、宝登山麓駐車場(約150台)を利用します。
コース②・③の場合は、スタート地点の野上駅前にある有料駐車場もしくは長瀞町役場(有料)に駐車。下山後はゴールの長瀞駅から、スタートとした野上駅まで秩父鉄道で戻ります。
もしくはゴールとなる長瀞駅近くの有料駐車場に停め、秩父鉄道で野上駅まで移動してスタートするパターンもできます。
アクセスや駐車場の情報の詳細はこちら:宝登山ロープウェイ公式サイトを見る
宝登山を登る際には、以下のような装備が必要です。
登山靴:
長瀞アルプスはスニーカーで登っている人も多くいますが、登山靴を準備すればソールが滑りにくくて安心。
●登山靴について詳しく知る:足の疲労度が変わる!登る山をイメージして登山靴を履き分けよう
服装:
季節に応じた防寒・防水・通気性のある服装を用意しましょう。肌着には速乾性の高いものを。急な天候変化に備えて、防風・防水のレインウェアも必要です。
●服装のレイヤリングについて詳しく知る:基本6アイテムを活用した、1日のシーン別レイヤリングをご紹介|登山装備のチェックリスト
ザック(バックパック):
水や食料、着替えなど必要なものを入れるためのザック(バックパック)。雨の日でなければ、ご自身が持っている旅行用のリュックサックでもよいでしょう。
●ザック(バックパック)について詳しく知る:登山用バックパックの選び方を徹底解説|「どれがいいかわからない」に終止符を
水筒:
季節や体質にもよりますが、1L程度を準備しましょう。宝登山ではロープウェイ山頂駅で飲み物を購入できますので、下りに足りない分は補充するようにしましょう。
●水筒について詳しく知る:登山用水筒(ボトル)を3タイプで解説|自分にぴったりな一本を見つけよう【山登り初心者の基礎知識】
行動食:
エネルギー補給のために、栄養価の高い軽量な食料を用意しましょう。ドライフルーツ、ナッツ、チョコレート、スポーツドリンクなどが適しています。
●行動食について詳しく知る:山でバテない行動食の選び方とポイント|山のお悩み相談室 Vol.2
GPSアプリ・地図:
迷子にならないように、登山GPS地図アプリ「YAMAP」と地図をインストールしたスマートフォンで、事前にコースを確認しておくことも重要。GPSアプリを使う場合、バッテリーが減った場合に備えてモバイルバッテリー(容量10,000mAh程度)も用意しましょう。
●登山地図GPSアプリについて詳しく知る:登山地図GPSアプリの活用法をガイドが解説【山登り初心者の基礎知識】
ヘッドライト:
日帰り登山であっても、怪我などのトラブルがあった場合、予定通り下山できずに日没を迎える可能性があります。その場合に備え、ヘッドライトを準備して下さい。
●ヘッドライトについて詳しく知る:登山用ヘッドライトの選び方|日帰り登山でも必要なアウトドアの必需品【山登り初心者の基礎知識】
あると便利なもの:
手袋、帽子、サングラス、日焼け止め、ストック、防虫スプレー、タオル、救急セットなど、そのときの天気などに応じて用意しましょう。
●手袋について詳しく知る:登山用グローブの悩みを解消! 理想の一双が見つかる選び方を徹底解説
●サングラスについて詳しく知る:目の日焼けが体力を奪う原因に! 登山の紫外線対策に必須のサングラスを正しく選ぼう
事前にしっかりと準備し、安全に登山を楽しんでください。
装備について詳しく知る:「まず揃えたい山道具の基本6アイテム|登山装備のチェックリスト」
執筆・写真提供:登山ガイド・上田洋平
トップ画像:PIXTA