神戸のシンボル「六甲山」と名湯「有馬温泉」を満喫する、ゆるり山歩(さんぽ)旅

山・街・海がなめらかにつながる自然の安心感と、洗練された印象を同時に感じられる街、神戸。今回ご紹介するのは、そんな神戸のシンボルも言われる「六甲山」をじっくりと満喫しながら、歴史ある名湯「有馬温泉」をゆるりと目指す山歩(さんぽ)旅。モデル・ブランドディレクターとして活躍中の新田あいさんと、神戸旅の醍醐味を探ります。

2024.01.30

武石 綾子

ライター

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クラシックなケーブルカーで山上へ

キンと冷えた風と澄んだ空気が気持ち良い、初冬の朝。「六甲ケーブル下駅」で合流したのは今回の旅人であり、神戸に約5年前からお住まいの新田あいさん。

「とにかく山と街が近くて、思い立ったらすぐにハイキングに行けるのが神戸の良いところ。六甲山にもよく遊びに行くんですよ。でも今日のコースははじめて歩くのですごく楽しみ!ケーブルカーを使えば山上でゆっくりできるから良いですね」

クラシックな外観が目を惹くケーブルカーに乗り込めば、ゆるり山歩旅のはじまりです。

デザインがかわいいケーブルカー。行ってきます!

今回のコースは、六甲ケーブル下駅からケーブルカーに乗ってスタート。六甲山上駅で下車後、六甲ガーデンテラス・六甲山山頂を経由し、有馬温泉まで約11km、約5時間半の道のりを歩く

ハイカーを懐深く受け入れるシティマウンテン、六甲山

神戸の市街地に寄り添うように近接する山塊「六甲山」。西から東まで50kmほどの距離の間に拓かれた登山道は70以上とも言われ、タフなトレッキングからお散歩ハイク、トレイルランまで、幅広い楽しみ方ができるのが魅力です。

特徴はアクセスが抜群に良いこと。中心地である三ノ宮から六甲山ケーブル下駅までは、公共交通で40分ほど。ケーブルカーに乗り込めば、標高240m地点から740m地点の山上まで所要時間10分ほどでたどり着きます。

「山か、街か」ではなく、「山も街も、グルメも温泉も」。旅に欠かせない要素を一帯のフィールドの中にぎゅっと詰め込みながら神戸の魅力をじっくりと堪能できてしまうのが、六甲山の歩き旅なのです。

乗車中も外を眺めれば、四季折々の景色が楽しめる

アール・デコ様式を取り入れ、経済産業省の「近代化産業遺産」にも登録されている「六甲山上駅」の駅舎

紅葉の名残を眺めているとあっという間に「六甲山上駅」に到着。
隣接する「天覧台」は定番の夜景スポットでもあり、大阪・和歌山方面までの景色を一望できます。

天覧台から眺められる神戸市街地の様子

秋の名残ある冬の道をのんびり歩く

景色を眺めつつ準備を整えたら、まずは1つめの経由地「六甲ガーデンテラス」へ。「六甲山上駅」からは接続バスが運行されていますが、この日は30分ほどの道のりを歩いて向かいます。

実は六甲山、現代では当たり前になったアクティビティとしての山登り=「近代登山」発祥の地と言われています。

明治時代に入り、神戸で欧米人を中心に登山グループが誕生したことをきっかけに、神戸の人々も彼らの行動を真似し、「早朝登山」が行われるようになりました。
早朝に山に登り、軽く朝食をとったり、体操をする人、神社で手を合わせる人など、これらの活動を総じて「毎日登山」と呼び、神戸では1万人もの人々がこれを日課としていたとされています。
現在でも、毎日登山は神戸の多くの人々の生活に根付いています。

「六甲ガーデンテラス」までは、同じく欧米人によって開発された日本初のゴルフ場など、六甲山が拓かれた歴史の痕跡を感じる道が続きます。

山の上に広がる小さな街「六甲ガーデンテラス」

「六甲ガーデンテラス」はカフェやレストランなどお店が充実。写真手前の網目状のドームは、眺望とアート、自然が融合した山上の有料展望台ロッコウシダレ。

樹林のハイキングコースを抜けると、山上の街「六甲ガーデンテラス」に到着。眺望が広がる広大な敷地には、ショップやイングリッシュガーデン、期間限定でアートイベントやライトアップが楽しめる「六甲枝垂れ(ロッコウシダレ)」など見どころがいっぱい。山の上とは思えない充実ぶりに新田さんも驚いた様子。

六甲ガーデンテラス内の「見晴らしのテラス」からは、神戸の山々や神戸市街が見渡せる

見晴らしのテラスを頭上からみた光景。テラスで座りながらゆっくりと景色を楽しむことができる

「カフェにお土産屋さんに雑貨屋さんに…かわいいお店がたくさんありますね。こんなに充実しているなんて知らなかった!眺めも良いですねー!天気が良ければ金剛山の方まで見えるんですって」

まずは「六甲おみやげ館」でお土産を物色。お菓子に銘酒、グッズなど幅広い商品が所狭しと並びます。おすすめは「六甲山ミツバチやまみつ」。六甲山の豊かな植生のもと育てられたハチミツ、それを使用したドーナツやパイなどは上品な甘さで手が止まらなくなるおいしさ。同品を使用したオリジナルビールは、後述の「グラニットカフェ」で楽しむことができますよ。行動食に最適なお菓子も充実。ハイキング前にぜひ立ち寄ってみて。

「六甲山ミツバチやまみつ」を使用したドーナツ

この日はハイキング前にちょっと贅沢なランチを、窓外に絶景が広がる「グラニットカフェ」で。地元産の素材を使用した六甲山発のメニューが楽しめます。中でも「神戸ビーフカレーセット」は、ごろっとした上質な神戸牛とピリ辛のカレーがベストマッチする極上の一品。口にすれば思わず顔がほころびます。山の上にいることを忘れてしまうような、優雅なひとときをぜひ楽しんで。

絶景が望めるカウンターでおいしいひととき

「グラニットカフェ」の向かいにある「ホルティ」では、「六甲おみやげ館」とは少し趣きの異なるお土産、オーガニックフーズやアーティスト雑貨、アロマグッズなど神戸らしいお洒落なアイテムがいっぱい。六甲ケーブルカーを模したエコバッグや手ぬぐいなど、ここでしか買えないアイテムがたくさん!

懐かしのペナント発見!登山記念にいかが?

六甲山最高峰を目指して

「六甲ガーデンテラス」を満喫したら、六甲山最高峰(931m)を目指して出発!コースタイムは概ね90分。よく整備された歩きやすい道ですが、多少アップダウンがあるのですべりにくい靴がおすすめ。

ちなみに有馬温泉へは六甲ガーデンテラスから徒歩約5分のところにある六甲有馬ロープウェーを利用することも可能。体力や時間に応じたエスケーププランが立てやすいのも六甲山の魅力のひとつです。

樹林帯と車道が混じるコース

はじまりはブナの樹林帯から。少し歩けば眼下にふたたび絶景が広がります。撮影をしながらのんびりと歩きましょう。

季節の移ろいを感じながら、時に車道を横切ったり、小さなはしごを登ったり、ちょっとした変化が楽しい。ハードすぎずゆるすぎない、会話しながら歩くのにちょうど良いハイキングコース。定期的に出現する道標が目的地までの方角と距離を教えてくれるので道迷いの心配もさほどありません。

「六甲山って割とハードな登山道もあるんですけど、この道は歩きやすくて登山ビギナーの方にもおすすめできそう。まさに山歩(さんぽ)にぴったり!」と気持ちよさそうに深呼吸する新田さん。

のんびり歩いているとコース終盤であらわれる心臓破りの階段…。

「もうすぐ到着だ〜!」と声を掛け合いながらひと踏ん張りし、ついに最高峰(931m)に到着!

「着いたー!らくちんな道かと思いきや、歩きごたえありましたね。風が気持ち良い!」
広々とした山頂からは、阪神の街並みを見渡すことができます。眼下に広がる大阪湾の雄大さを見て感じるのは、山と海が近接する神戸ならではの開放感。

「六甲山最高峰」の道標で記念撮影。「六甲最高!」

山頂(最高峰)直下には広々としたレストスペース。登山者やサイクリストが休憩する傍らにある折れ屋根のウッディな建物が目を惹きます。おや、ビジターセンターか何か…?と思いきや、なんとお手洗い。スタイリッシュ…!こちらで小休止していきましょう。

一部に六甲山の木材が使用され、複数のデザイン賞も受賞している「六甲最高峰トイレ」

歴史薫る古道「魚屋路(ととやみち)」を抜け、有馬温泉へ

休憩を挟んだらお楽しみの「有馬温泉」へ。趣きある石畳で始まる古道「魚屋路(ととやみち)」を抜け向かいます。時は江戸の頃、灘(なだ)の海で水揚げされた魚が天秤棒で有馬温泉まで運ばれていたことから「魚屋路」と名付けられたこの道。数ある六甲山の登山道の中でも「最古の道」(出典:芦屋市立図書館「芦屋の生活文化史」)と言われています。

有馬温泉に続く古道「魚屋路(ととやみち)」

地図をながめれば「魚屋路」の他にも、油売りが険しい道のりを油をこぼして歩いたことが由来の「油コブシ」や、木材を炭にするための炭焼き窯が多く存在した「炭屋道」、有馬の伝統工芸品として人気だった筆を運ぶ「筆屋道」など往来の痕跡が感じられる道が多数存在するのが六甲山の興味深いところ。人々の営みや文化、歴史に思いを巡らせてみると山旅がより味わい深いものになりますね。

東屋で「やまみつドーナツ」をぱくり。行動食にぴったり!

魚屋路を覆い隠すように続くブナ林。溢れる木漏れ日に癒されながら歩を進め、少しずつ標高を下げていくと「有馬温泉癒しの森」とも称されるエリアに到着。温泉へとはやる気持ちを抑えながら、ぜひ森の気持ち良さを感じながら歩いてみて。

「やっぱり山の上はひんやりしますね。でも、この澄んだ空気の中歩くのが気持ち良くて好きなんです。この先に温泉が待ってるんだ!と思うとより気持ちが高まります」

そうそう。山の後の温泉はもちろんどこで入っても最高だけれど、六甲越えの先にあるのは何と言っても有馬の名湯。格別であることは間違い無し。もしかしたら「魚屋路」で魚を運んでいた魚屋さんも、同じような気持ちで六甲越えに精を出していたのかも…。

日本三古泉のひとつ「有馬温泉」で心も体もあたたまるひとときを

魚屋路を抜け有馬稲荷神社で旅の無事を報告したら、待ちに待った「有馬温泉」に到着!その起源は飛鳥時代まで遡る、1400年の歴史を持つ温泉地です。日本書紀に道後・白浜と並んで登場し、「日本三古泉」と数えられ、その発展に大きく寄与した逸話は現在にも受け継がれています。

ごはんものからスイーツまで、多種多様なお店が並ぶ温泉街。思わず食べ歩きしたくなります。メインストリートは風情ある店舗が軒を連ねる湯本坂。最初に立ち寄ったのは新田さんおすすめの「炭酸煎餅本家 三津森本舗」

明治40年、有馬の炭酸泉を使用して最初に製造・販売した、元祖炭酸煎餅。店頭を覗き込むと「1枚食べてって〜」と笑顔で渡してくれる焼きたての試食が嬉しい。築120年の重厚な店構えがまた良い雰囲気なんです。

「はいどうぞー!」と焼きたてをいただける

「できたての炭酸煎餅ってキラキラしてる!」と満面の笑み

待ちに待った温泉は有馬を代表する名泉「金の湯」!

公共の外湯は、泉質の異なる「金の湯」「銀の湯※」の2ヶ所。その他にも、日帰り入浴ができる旅館や、温泉テーマパーク「太閤の湯」など、様々な温泉施設を楽しむことができます。今回は湯本坂にある「金の湯」へ。
(※銀の湯は2024年2月5日から4月下旬まで改修工事のため休館しています。)

有馬温泉の金泉は、温泉の療養泉成分が10種類に分かれる中で7つもの成分が含まれる世界でも珍しい温泉です。また、塩分は海水の1.5倍とも言われ、冷えた体がぽっかぽかにあたたまります。時間があればぜひ銀泉へも湯めぐりをして効能を味わって。ほんと、温泉って最高のごほうびですよね。

温泉後の1杯は太閤通りの「ARIMA BREWARY」で。100年の歴史を誇る老舗酒屋「有馬片山幹雄商店」により2022年11月にオープンしたクラフトビール専門店です。

代表ブランド「有馬麦酒」は、原材料に麦芽・ホップの他、六甲山の伏流水、酒米の代表的な品種である山田錦が使用された「酒どころ・神戸」を感じる一品。店内には、スタンドバーが併設され、店舗限定のビール以外にもワインや日本酒を楽しむことができます。

ジャパンエールにブラックエール、温泉後のビールはどちらも美味!

日帰りながら、山と街が近い神戸ならではの、密度濃い旅を楽しんだこの日。

とことん自分の足で歩くも良し、疲れたらケーブルカーやロープウェーに乗るも良し。フィールドに足を運べば遊び方は無限大。山も街も贅沢に楽しみたい、そんな方はぜひ、六甲山と神戸へ訪れてみてください。

登山道まで徒歩0分のベースキャンプ、「トレイルステーション神戸」のご案内

「登山口まで徒歩0分」。そんな印象的なコピーが店頭に掲げられ、2023年に神戸市が「神戸登山プロジェクト」の一環として、新神戸駅の1階にオープンした「トレイルステーション神戸」(愛称:トレコ)。

登山道まで徒歩0分は、決して誇張したコピーではなく、新神戸駅の裏手は山!新幹線から降りたらすぐに登り出すことが可能なんです。「旅行に来たから山も歩いてみたいけど、装備が不十分かも…」そんな不安がよぎる時にも安心。登山用品のレンタルや行動食の販売、荷物のデポ、コース選びのアドバイスなど山を熟知したスタッフが手厚くサポートしてくれます。山旅のベースキャンプとして、ぜひお立ち寄りください。
また、神戸市では、登山者へのおもてなしを提供する飲食店や宿泊施設などを「神戸登山サポート店」として紹介しています。登山前の食料調達、登山後のお楽しみや休憩に、ご利用ください。

今回歩いたコースはこちら

六甲ケーブル山上駅-六甲ガーデンテラス-六甲山-有馬温泉駅 コース

時間:約5時間30分(休憩込み)
距離:8.7km
のぼり:483m
くだり:866m

執筆:武石綾子
撮影:小寺晴雄

武石 綾子

ライター

武石 綾子

ライター

静岡県御殿場市生まれ。一度きりの挑戦のつもりで富士山に登ったことから山にはまり込み、里山からアルプスまで季節を問わず足を運んでいる。コンサルティング会社等を経て2018年にフリーに。執筆やコミュニティ運営等の活動を通じて、各地の山・自然の中で過ごす余暇の提案や、地域の魅力を再発見する活動を行っている。