神奈川県・静岡県の県境に位置し、箱根外輪山(二重火山の外側の噴火口の壁)で最も北にある金時山(1,212m)。富士山の壮麗な景色を眼前に望め、日本三百名山としても知られる人気の山です。
金太郎の伝説が今も一帯に残り、山頂には、金太郎像と、まさかりの形をした標高を示す標柱も。未経験・初心者はもちろん、友人・知人を連れていきたい経験者におすすめコースについて、登山ガイドの上田洋平さんが厳選してくれました。
2024.05.17
上田洋平
登山ガイド
①箱根外輪山の鋭峰。山頂から見る富士山は箱根随一の絶景
②山頂には2軒の茶屋とバイオトイレ(有料)があって女性も安心
③新宿駅から登山口への高速バスが運行されている
登山コースが複数あり、初心者から中級者まで楽しめるのが金時山。箱根外輪山をぐるりと走るトレイルランナーにも人気です。
登山口にトイレ、山頂には茶屋やトイレがあるため、初心者が不便な思いをして山から遠ざかってしまう心配もありません。
金時山はどこから見てもそれとわかる鋭峰で、山頂周辺の登山道はどのコースから来ても岩場混じりの急峻な斜面が続きます。一部ですがロープ場やクサリ場もあるので、下山時には十分な注意が必要。
また、山頂へのコースが多いため、どの道がよいのか分かりづらいことも。そこで、登山ガイドの上田洋平さんに、魅力別な3コースに絞って紹介していただきました。
①バスでも車でもアクセスしやすい登山口
②最初はなだらかでウォーミングアップによい登山道
③山頂からは富士山や箱根の山々、芦ノ湖を一望できる
コース定数:11(コース定数とは?)
コースタイム:約2時間50分
歩行距離:3.7km
累積標高差(上り)516m
累積標高差(下り)516m
国道138号沿いにあるバス停や有料駐車場から歩き始めます。
少し奥まで行くとエヴァンゲリオンをモチーフにしたトイレがあります。山頂までトイレは無いので、登山開始前に立ち寄っておくと良いです。
少し登った所にある公時神社が登山道のスタート地点。安全登山を祈願しておくのもよいでしょう。
歩き始めのうちは勾配のゆるい階段が続きます。
しばらく登ると「はこね金太郎ライン」の道路を横切ります。歩道もあり、脇に寄って休憩できるので、衣服調整をしたり水分補給に最適です。
道路を渡って登ると、見えてくるのが巨大な「金時宿り石」です。
幼少期は金太郎と呼ばれた坂田金時(さかたのきんとき)。
高さ1.2mほどのこの金時宿り石には、金太郎が育ての親である山姥と一緒に夜露をしのいだという伝説があります。また、昭和6年に轟音を響かせて突如割れてしまったとの話もあります。
各地に伝説が残り、神奈川県南足柄市の地蔵堂地区にある、平安時代の「四万長者」と呼ばれたお金持ちの屋敷跡を金太郎の生家とする説や、静岡県小山町の金時公園のあたりにあった屋敷を生家とする説があります。南足柄市と小山町は足柄峠を挟んで隣り合っています。
後に源頼光の家来となり、四天王の一人に数えられ活躍しました。
金時山では金太郎伝説にちなんだ、金時宿り石、金時蹴落石のほか、遊び石、踏み割り石等を見ることができます。
金時宿り石を過ぎると傾斜がキツくなってきますが、樹林帯の隙間から時折箱根の山々を見渡せるポイントに出くわすことができます。
さらに進むと金時登山口との合流点に到着。ここから山頂までは階段が続くので、ペースを上げすぎないように注意して登るとよいでしょう。
階段エリアを過ぎると急な段差部分が出てきます。ロープがある場所がありますが、体重は足にかけた上で補助的にロープを使いましょう。
樹木のトンネルを抜けると、まもなく山頂です。
山頂からは西側から南東側にかけて富士山(3,776m)、愛鷹山(1,187m)、南アルプス、駿河湾、箱根峠方面へ延びる箱根外輪山、箱根山最高峰である神山(1,438m)と中腹に広がる大涌谷の噴煙地などを望め、カルデラ内には芦ノ湖や仙石原を望むことができます。
テーブルやベンチもあるので休憩しやすいです。バーナー等の火気使用禁止のベンチもあるので、山ご飯を作る場合は周りに気をつけながら岩場等で調理しましょう。
山頂には、新田次郎『強力伝』のモデルとなった男性の娘さんが経営する金時茶屋、そして金太郎茶屋の2軒の茶屋が立ち、バイオトイレもあります。それぞれのお店には登山者の登頂回数が書かれており、その多さに驚かされます。
下りは往路を戻ります。山頂近くの急な段差は、腰を下げ座り込むようにしてから足を出すと下りやすいです。下りはやや疲れが出てくるときなので転倒や滑落に注意。時間に余裕を持った計画を立てましょう。
金時神社登山口にエヴァンゲリオンをモチーフにしたトイレ、山頂には2軒の茶屋の間にバイオトイレ(有料)があります。山頂トイレは休日のお昼の時間は混雑するので、余裕をもっていっておくとよいです。
①矢倉沢峠付近からの見晴らしの良いコース
②金時登山口まではバス移動がオススメ
③車で矢倉沢峠にある金時見晴パーキングへ行けば最短で登れる
コース定数:12(コース定数とは?)
コースタイム:約2時間50分
歩行距離:3.9km
累積標高差(上り):550m
累積標高差(下り):550m
スタート地点は国道138号線沿いにある「金時登山口バス停」。
「金時山ハイキングコース 矢倉沢口」の道標に沿ってアスファルト道を北へ進みます。
やがて右手側に見えてくるのが金時山コース登り口。
ここから階段を登ると登山道が始まります。
樹林帯を山頂方面へ進みます。
矢倉沢峠との分岐にあるうぐいす茶屋。
うぐいす茶屋からは見晴らしの良い笹の尾根道を登っていくと金時神社分岐に出ます。
ここから先は①金時神社入口バス停-金時山 往復コース を参照して下さい。
下りは往路を下ります。
山頂にバイオトイレ(有料)がありますが、登山口や登山道途中には無いので注意が必要です。
①長尾山、乙女峠を通る周回コース
②乙女峠までは長い急登で体力が必要
③乙女峠には悲しい伝説が
コース定数:11(コース定数とは?)
コースタイム:3時間45分
歩行距離:5.5km
累積標高差(上り):633m
累積標高差(下り):633m
金時山山頂まではコース①で紹介したコースを辿り、山頂では「天下の秀峰 金時山」の標識の左側から下り始めます。
下り始めの最初は木段があり、展望もあります。
下っていると段差の大きい急登になってきます。
ロープがある箇所もありますが、あくまで足に体重をかけて下り、ロープは補助的に使用しましょう。
途中でシロヤシオの木々もあるので5月頃には花も見ることができます。
やがて、展望はないですが広々とした広場になっている長尾山山頂へ出ます。
さらに下ると乙女峠に到着。天気がよいと富士山が見えます。
乙女峠にはその名の由来となった悲しい伝説があります。
昔、仙石原に住む乙女という娘が父親の病気を治そうと、峠の先にある地蔵堂へ100日参りをしました。満願の日に父の病気は治りましたが、乙女は雪に埋もれて死んでしまったことから、霊を哀れむため乙女峠とよばれているそうです。
乙女峠からは仙石原方面の標識に従って南東方面に進みます。
樹林帯の後は沢地形をジグザグに下っていくと、国道138号線がある乙女口登山口に着きます。
ここからは乙女口からバスに乗るか、車で金時神社登山口へアクセスしている場合は、道路沿いを歩いて駐車場に戻ります。
金時神社登山口のエヴァンゲリオンをモチーフにしたトイレ、山頂のバイオトイレがあります。山頂から乙女口方面の登山道にはトイレは無いため、注意して下さい。
山頂付近には休憩するのに適したテーブルやベンチ、岩場のスペースがあり、周辺には茶屋もあるのでゆっくり休めます。
エヴァンゲリオン仕様の公衆トイレの奥に自販機があります。
金時山山頂にある元祖金時茶屋で大人気なのがなめこ汁。
なめこ汁を飲みたいがために金時山に登る人もいるくらいです。
金時茶屋では、なめこや練り物名物入りの「金時うどん」も有名です。
金時山は温泉地である箱根の近くに位置するため、良質の温泉が周りに多くあります。
下山後にお風呂で山の汗を流せば、最高の休日が出来上がります。
「仙石原品の木一の湯」は国道138号線沿いにあり、箱根登山バス停留所「品の木・箱根ハイランドホテル」から徒歩約1分とアクセスがよいのが嬉しい温泉です。
また、箱根の旅館・ホテル 一の湯グループなら日帰りで湯巡りも可能。温泉の近くには箱根ガラスの森美術館があり、時間があれば下山後に観光もできます。
詳細はこちら:公式サイトを見る
*営業時間は2024年4月時点です。公式サイトなどで事前にご確認ください。
「富士八景の湯」も国道138号線沿いにあり、便利な場所にある温泉です。車で来た場合は御殿場ICへの帰り道沿いになります。
その名の通り富士山を一望できる露天風呂が魅力です。
詳細はこちら:公式サイトを見る
*営業時間は2024年4月時点です。公式サイトなどで事前にご確認ください。
小田急線箱根湯本駅から箱根登山バスで約25分「金時神社入口」(コース①, ③)下車
もしくは「金時登山口」下車(コース②)
新宿駅から高速バスで「金時神社入口」(コース①, ③)下車
もしくは「金時登山口」下車(コース②)
東名高速道路「御殿場」ICから国道138号線で南東方面へすすみ金時山登山 駐車場へ。
駐車場は、無料の金時山登山 駐車場か、有料の金時山登山口駐車場を利用
金時山を登る際には、以下のような装備が必要です。
登山靴:
登山靴はソールが滑りにくいことをチェックして下さい。
服装:
季節に応じた防寒・防水・通気性のある服装を用意しましょう。
肌着には速乾性の高いものを。急な天候変化に備えて、防風・防水のレインウェアも必要です。
ザック(バックパック):
水や食料、着替えなど必要なものを入れるためのザック(バックパック)。雨の日で無ければ、ご自身が持っている旅行用のリュックサックでも良いでしょう。
水筒:
季節にもよりますが、1L程度を準備しましょう。金時山では山頂で飲み物を購入できますので、足りない分は補充するようにしましょう。
行動食:
エネルギー補給のために、栄養価の高い軽量な食料を用意しましょう。ドライフルーツ、ナッツ、チョコレート、スポーツドリンクなどが適しています。
GPSアプリ・地図:
道迷いしないように、登山GPS地図アプリ「YAMAP」と地図をインストールしたスマートフォンで、事前にコースを確認しておくことも重要。GPSアプリを使う場合、バッテリーが減った場合に備えてモバイルバッテリー(容量10000mAh程度)も用意しましょう。
ヘッドライト:
日帰り登山であっても、怪我などのトラブルがあった場合、予定通り下山できずに日没を迎える可能性があります。その場合にそなえ、ヘッドライトを準備して下さい。
あると便利なもの:
手袋、帽子、サングラス、日焼け止め、ストック、防虫スプレー、タオル、救急セットなど、そのときの天気などに応じて用意しましょう。
事前にしっかりと準備し、安全に登山を楽しんでください。
装備について詳しく知る:「まず揃えたい山道具の基本6アイテム|登山装備のチェックリスト」
執筆・写真協力:登山ガイド・上田洋平
トップ画像:PIXTA