茨城県の日本百名山・筑波山(877m)から関東平野を見渡すと、南側に気になる山がそびえています。この山が今回紹介する宝篋山(461m、ほうきょうさん)。低山ながら山頂の眺望は抜群とあって、実は関東の低山のなかでもYAMAP登頂者数でベスト10に入る月もある人気の山です。
多彩な登山コースがあり、植生も豊かなことから、季節を変えて楽しめる山として、近年注目を集めています。今回は登山ガイドの鷲尾太輔さんが、山歩きの初心者から家族連れまで楽しめる休日の日帰り山歩を提案してくれました。
2024.05.24
鷲尾 太輔
山岳ライター・登山ガイド
①筑波山・富士山・霞ヶ浦など、山頂から絶景のオンパレード
②休憩に適したベンチ・テーブルが多く、初心者でもゆっくり歩ける
③多彩な登山コースがあり、登るたびに違った自然の表情を楽しめる
宝篋山の山頂は広く開けており、抜群の眺望が自慢です。北側の間近にそびえる筑波山が、日本百名山にふさわしい、美しい山容を見せてくれます。空気が澄んだ日であれば、関東平野の彼方に日本一の富士山を望むことも可能です。
東側を見下ろすと、琵琶湖に次ぐ日本で二番目に大きな湖・霞ヶ浦。標高は筑波山の半分程度ながら、負けずとも劣らぬ絶景を、ベンチに腰掛けながら楽しめます。
宝篋山には、山頂以外にもベンチやテーブルが親切すぎるくらい小刻みに設置されています。こまめに休憩できるので、時間にゆとりを持って歩けば、家族連れでものんびりと歩ける嬉しい配慮ですね。
宝篋山へは、南西麓の小田からは
・常願寺コース
・極楽寺コース
・小田城コース
北西麓の大池公園からは
・山口コース(1)
・山口コース(2)
・新寺コース
以上の6つのコースが整備されています。往復・周回・縦走などコースの組み合わせ次第でさまざまなルート設定ができ、何度でも楽しめます
宝篋山はコースだけでなく、季節を変えて登ることもおすすめ。その理由は、こぶしの森・山桜の森など、四季折々の豊かな森が見せる表情の変化です。
春にはこぶし(見頃は例年3月中旬〜4月中旬)に始まり、山桜(見頃は例年3月下旬〜4月上旬)、ヤマツツジ(見頃は例年4月下旬〜5月中旬)など、さまざまな花を楽しめます。
もちろん秋の紅葉も見事です。例年11月には森全体が紅葉に染まり、カラフルな木々を愛でながらの山歩を堪能できます。秋から冬は空気が澄むため、富士山が見える確率もぐっと高まります。
ここからはおすすめコースの詳細に加え、違った表情を楽しむことができるおすすめコースもふたつ紹介します。
ポイント
①登りは最短距離の極楽寺コースを利用
②極楽寺コースは沢のせせらぎを眺めながらの山歩道
③下りの小田城コースは展望ポイントも随所に
コース情報
コースタイム:3時間10分
歩行距離:5.9km
累計標高差(上り):484m
累計標高差(下り):484m
スタート・ゴール地点となる小田休憩所。屋内で休憩できるだけでなく、トイレ・自動販売機・ベンチ・テーブルが設置されています。
小田休憩所前の2つの駐車場の間にあるあぜ道を進んでいきます。やがて、目指す宝篋山を背景に、のどかな田園風景が広がります。
極楽寺コースの名前は、かつてこの地にあった寺院に由来します。登山口手前には極楽寺を中興して周囲に仏の教えを広げた僧侶・忍性を記念する公園があり、東屋も設置されています。
登山口には猪の侵入防止のための柵が設けられており、これを開閉して通行します。
極楽寺コースは基本的に沢沿いを進みます。沿道には白滝をはじめとする小さな滝が点在しており、潤いを感じながら登ることができます。
小田城コース・極楽寺コース・常願寺コースの中腹を結ぶ、純平歩道にぶつかります。ここは右手へ進みましょう。
純平歩道は宝篋山の南斜面をトラバース(横断)するように伸びているので、比較的平坦な道が続きます。
純平歩道と分かれて、左手の尾根を進みます。大きな岩が多くやや急な登りになるので、ゆっくりと進みましょう。
その名にふさわしい形の巨岩・富士岩を過ぎると、道はややなだらかに変わって行きます。
常願寺コースと合流したら、いよいよ山頂への稜線です。風通しがよくなり、さらに広くなだらかで快適な道が続きます。
バイオトイレの奥に見える階段を登っていけば、山頂は目前です。
山麓からもひときわ目立つ電波塔を右手に見ながら、鳥居を潜ると宝篋山の山頂です。
山頂の中心には、山名の由来となった宝篋印塔が安置されています。南麓に国史跡の小田城跡があることから地元では小田山と呼ばれることもあり、国土地理院が発行している地形図には「宝篋山(小田山)」と記載されています。
電波塔の脇からは、極楽寺で活躍した僧侶・忍性が菩薩像となって、山麓の人々を見守っています。
山頂からの展望を楽しんだら同じ道を少し下り、ここで右手の小田城コースへと進んでいきます。
小田城コースの下りは、スリップ防止のため階段状に整備された道を下っていきます。
やがて道は洗堀(せんぼり・溝)状に変わっていきます。この先が北西麓の大池公園に通じる、新寺コース・山口コースとの分岐。小田城コースは直進しましょう。
コースから左手に1〜2分寄り道した場所にある下浅間神社展望所。関東平野はもちろん、空気が澄んでいれば富士山も眺望できます。
少し下った下浅間神社の境内からも、山麓の展望を楽しめます。
この分岐はどちらを進んでも300m先で合流。小田城コースは左手へ進みます。
硯石から先は七曲とよばれる小刻みなジグザグの道を下っていくことになります。
純平歩道との分岐を直進すると、しばらくやや幅が狭いトラバース道が続きます。左斜面へ落ちないように注意しましょう。
道はやがてほぼ平坦な尾根上を進みます。この周辺は堂平と呼ばれています。
この分岐は左手に進んだ方が近道となりますが、小田城コースを忠実にたどるのであれば、右手へ進みましょう。
ひっそりとした富岡山(109m)の山頂。展望はあまりよくありませんが、ベンチ・テーブルが設置されています。
富岡山から下った場所にある分岐。小田城コースは右手との表示がありますが、こちらへ進むと愛宕神社という別の登山口へ下山します。小田休憩所へ戻る場合は、直進しましょう。
小田休憩所へ戻る途中にも2箇所ほど展望所があり、ベンチ・テーブルが設置されています。
岩肌が露出した急斜面の下りが現れますが、ロープが設置されているので、これに掴まりながらゆっくり下りましょう。
石仏や祠が安置された大師堂。宝篋山が信仰の対象としても重要な存在であったことを実感できる場所です。
大師堂から先は舗装された箇所もある林道をゆるやかに下ります。猪侵入防止柵を出て右手に進めば、小田休憩所は目前です。
ポイント
①登りは最短距離の極楽寺コース
②宝篋山の支峰・尖浅間山にも登頂
③下りの常願寺コースは、滝が点在する爽快な沢沿いの道
尖浅間山・宝篋山周回コース
コース情報
コースタイム:3時間30分
歩行距離:6.2km
累計標高差(上り):516m
累計標高差(下り):516m
登りはおすすめコース①と同じ極楽寺コースを登ります。小田休憩所から少し進んだ分岐を左手に進むと極楽寺コース、右手に進むと常願寺コースとなります。
山頂で展望を楽しんだら、バイオトイレのある広場、極楽寺コースとの合流地点まで戻ります。
ゆるやかに下りながら野鳥の森を過ぎると、小さなピーク(山)を登り返します。ふたつめのピークが尖浅間山(とがりせんげんやま・315m)です。
尖浅間山から下ると、沢の小道と呼ばれる川沿いのコースになります。途中にはくずしろの滝・宝名の滝などが点在しており、爽やかなせせらぎを聴きながらゆるやかに下ります。
ため池を過ぎて田園地帯の中の猪侵入防止柵を過ぎれば、小田休憩所は目前です。
ポイント
①スタート・ゴール地点の大池公園は桜の名所
②山口コースの稜線からは展望が開ける箇所も
③筑波山を背景に広がるのどかな田園風景も堪能
コース情報
コースタイム:3時間40分
歩行距離:7.9km
累計標高差(上り):543m
累計標高差(下り):541m
大池公園から田園地帯を進むと、墓地を正面に分岐があります。左手に進むと山口コース、右手に進むと新寺コースとなります。
山口コースは静かな森の中をなだらかに登っていきます。途中には宝篋水という湧水がありますが、現在の水量はわずかです。
稜線に出ると、山麓の展望が開ける場所もあります。空気が澄んでいる時期であれば、ここからも富士山を望むことができます。
1985年に開催されたつくば科学万博(国際科学技術博覧会)を記念して建てられたモニュメントを過ぎると、山頂まではあとひと息です。
山頂からはおすすめコース①の小田城コースを下り、この分岐を右手に進みます。さらに山口コース(2)との分岐を左手に進みます。
車道まで下山したら、筑波山へ向かって北方向へとのどかな田園地帯を歩いていきます。左手にため池が見えたら、山口コースとの合流地点は間近です。
多くの人が登る宝篋山、特に沢沿いのコースでは正しいルート以外にも多数の踏み跡があり、間違って入り込んでしまうことも。正しいルートには写真のように黄色い測量杭が設置してあるので、この間を通るようにしましょう。
もしも道に迷ったりケガをしてしまったら、近くにこのような標識がないか探しましょう。救助要請をした際に、この番号を伝えることで捜索・救助隊はピンポイントで助ける人の現在地を特定できるのです。
おすすめコース①・②の両方で立ち寄るのが、山頂直下のバイオトイレです。おすすめコース③でも山頂から下る際に5分ほど寄り道をすれば、利用することができます。
おすすめコース①・②の場合は、スタート・ゴール地点にある小田休憩所のトイレを利用しましょう。
おすすめコース③では、スタート・ゴール地点の大池公園南側にある筑波総合体育館のトイレを利用しましょう。
おすすめポイントで紹介した通り、宝篋山には至るところにベンチやテーブルが整備されています。特に山頂から筑波山を眺める場所のベンチには背もたれまであり、快適に過ごすことができます。
公共交通機関利用の場合はJR常磐線・土浦駅西口から、関東鉄道バス・筑波山口行に乗車します。おすすめコース①・②最寄りの「宝篋山入口」バス停まで約28分、おすすめコース③最寄りの「平沢官衙入口」バス停(「宝篋山入口」バス停の6つ先、「北条駅入口」バス停の2つ前)まで約33分です。
あわせて帰りのバス時刻もチェックしておきましょう。
おすすめコース①・②
関東鉄道バス|宝篋山入口バス停 時刻表
おすすめコース③
関東鉄道バス|平沢官衙入口バス停 時刻表
自動車利用の場合、常磐自動車道・土浦北ICが最寄りとなります。おすすめコース①・②で登山口に近いのは、小田休憩所の駐車場です。
小田休憩所の駐車場は小規模なため、天気が良い日や週末・休日には早朝から満車になってしまうこともあります。この場合は、小田休憩所から500mほど離れた筑波山麓・小田駐車場を利用しましょう。
おすすめコース③では、トイレのある筑波総合体育館駐車場や大池公園北側にある平沢官衙遺跡駐車場は、宝篋山に登る人は駐車不可です。
山口コース・新寺コース分岐から700mほど離れますが、平沢官衙遺跡の北側へ進んだ場所にある平沢駐車場を利用しましょう。
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執筆・素材協力・トップ画像撮影=鷲尾 太輔(登山ガイド)