YAMAPユーザーの実体験をもとに、山岳遭難ルポの第一人者・羽根田治さんから遭難しない方法を学ぶ連載企画「山岳SOS!命を救う遭難回避術」をお届けします。なぜ遭難してしまったのか、どうすれば遭難しなかったのか。遭難事故の核心に迫ります。
今回の舞台は剱岳(富山県、2,999m)。登山口まであと10分ほどの地点で滑落、負傷して救助隊によって救助された登山者の体験談です。
2024.12.11
羽根田 治(監修)
フリーライター/長野県山岳遭難防止アドバイザー/日本山岳会会員
● 遭難者…50代女性、登山歴5年
● 事故現場…剱岳(富山県)
● パーティ…Aさん(遭難者本人)、Bさん(登山仲間)の2名
● 時期…8月下旬
● 登山計画…早月尾根を剱岳まで日帰りでピストンする、約14kmのルート
(標準的なコースタイムは約14時間)
● 登山中、2,000メートル地点で、吐き気やめまいなどの不調を感じてしばらく休憩
● 休憩後、体調が回復し登山を続行
● 山頂まではよいペースで歩いていたが、下山中に疲れを感じ始める
● 登山口まであと800メートルほどの地点で、疲れていないBさんを気遣い先に下山してもらう
● Bさんの姿が見えなくなった直後に気が緩み、登山口まであと10分の、特に危険な箇所もない、ごく普通の登山道で足を滑らせ滑落
● 50メートルほどの滑落で上半身を強く打ち行動不能となる
● スマートフォンを紛失し自力で通報もできない状態
● ケガと雨によるぬかるみで斜面を登り返すことができなかったため、その場で待機することを選択
● Bさんが異変に気づき富山県警に救助を要請
● 緊急連絡先であるAさんの息子さんにも一報を入れる
● YAMAPの『みまもり機能』について事前にAさんから説明を受けていた息子さんが、位置情報を確認して富山県警へ知らせる
● 遭難から約3時間後に救助
● 肺気胸に加え、肩甲骨・鎖骨・肋骨の骨折、頭部に外傷を負い、約3週間入院、療養に3ヶ月を要する大ケガを負う
【原因】
・登りで一度、体調不良を自覚しており、それが下山時に影響した可能性がある。
・体力的にギリギリのコースだったのかもしれない。
【対策】
・行動中に不調を感じたら、無理せずに計画を中止する決断をするのが賢明です。
・自分の体力に見合ったコースを選定し、山小屋を利用するなど、余裕を持って歩ける計画を立てることも大切です。
【原因】
・転滑落事故は、疲労が蓄積し、かつ「あとは下るだけ」という油断が生じる下山時に多発傾向。特に下山間際となると、もう下り着いたつもりになってしまい、注意力が散漫になりがち。
【対策】
・下山時は転滑落事故が多発していることを意識し、最後まで集中力を欠かさないようにします。疲れを感じ始めたら、休憩をとってストレッチを行うなどして、疲労回復やリフレッシュを図りましょう。
【原因】
・グループ登山では、みんなが “一緒に” 行動するのが基本。ペースの違いなどから離れ離れになると、万が一の事態に気づかず対処が遅れてしまう。
・お互いの姿が見えなくなるほど離れてしまうのはNG。
【対策】
・お互いの姿が確認できる距離を保ちながら行動しましょう。
遭難してしまったAさんの命をつないだのは、2つの事前準備です。
(1)普段から登山前には家族へ登山計画を共有し、YAMAPの『みまもり機能』を活用して家族に位置情報を送信。万が一遭難したときの対応についても事前に説明していた。
(2)同行者であるBさんに緊急連絡先を共有していた。
これにより、Bさんが一連の緊急対応(警察への連絡〜救助要請、ご家族への連絡)までをスムーズに行い、家族が『みまもり』機能の位置情報(=緯度・経度情報)を救助隊に共有。救助隊は短時間で遭難ポイントまで直行することができたのです。
今回の遭難事故では、ケガの治療費に約20万円かかりましたが、万が一の時に備えていた保険で、治療費のほとんどをカバーすることができたそうです。
遭難者は必ず「まさか自分が遭難するとは」と言います。誰にでもありえる山岳遭難だからこそ、備えが大切。ヤマップグループの登山保険なら最大300万円の遭難救助費用に加え、ケガも補償します。万が一のための装備の一つとして、登山保険への加入をご検討ください。
承認番号:YN24-126
承認日:2024年9月30日