YAMAPユーザーの実体験をもとに、山岳遭難ルポの第一人者・羽根田治さんから遭難しない方法を学ぶ連載企画「山岳SOS!命を救う遭難回避術」をお届けします。なぜ遭難してしまったのか、どうすれば遭難しなかったのか。遭難事故の核心に迫ります。
今回の舞台は英彦山(福岡県、1,199m)。実力に見合わないコースかつ不慣れなソロでの登山を決行し、道迷いをしてしまったことへの焦りから不安定な足場で滑落、負傷してヘリによって救助された登山者の体験談です。
2024.12.11
羽根田 治(監修)
フリーライター/長野県山岳遭難防止アドバイザー/日本山岳会会員
● 遭難者…50代女性、登山歴13年
● 事故現場…英彦山(福岡県)
● パーティ…Aさん(遭難者本人)1名のソロ登山
● 時期…2月初旬
● 登山計画…別所登山口から四王寺の滝までの約8kmのルート
(標準的なコースタイムは約5時間半)
● 9時22分、別所登山口から登山開始
● 英彦山には無雪期に何度か登ったことがあったが、積雪期かつこの日のルートでの山行は初めてだった
● 過去に何度も道迷い経験があり、ソロ登山にも慣れていなかったため、不安を感じていた
● ほかのソロの男性登山者に同行をお願いしようかと思ったが、やめておいた
● 11時頃、道に迷ったことに気づき正しいルートを探していると、急坂の下にピンクテープがあるのを発見
● 正しいルートなのか疑問に思いつつも、当日夜の仕事があったので早く下山したいと気持ちから焦りが生じ、ピンクテープを目指して進んでしまう
● 岩をつたって下っている途中、次の足場を探すために木の枝に捕まって全体重をかけたところ、枝が折れて滑落
● 5mほど落下し、岩に骨盤・頭を打ちつける
● 滑落直後は歩けたため自力で下山を試みるが、次第に歩けなくなる
● 近くを通った登山者(YAMAPユーザー)に助けを求める
● 登山者が電波の通じるところまで移動し、福岡県警へ通報、YAMAPで確認した遭難者の位置情報を伝える
● 救助隊が到着しヘリまで担架で移動、その後救急車で病院へ搬送
● 第二腰椎破損骨折、仙骨骨折を負い、療養に約2ヶ月を要する大ケガを負う
【原因】
・Aさんはこれまでにもよく道に迷い、目的地に行けなかったことも多かったそう。基本的な地図の見方、使い方が身についていない可能性がある。
【対策】
・技術書を読んだり講習会に参加したりするなどして、読図のノウハウをしっかり身につけましょう。YAMAPの地図を見るときにも、それが必要になります。
・道迷いに気づいたときは、進まずにただちに引き返すのが鉄則です。
【原因】
・不慣れなコースに、ソロ登山という不安から、Aさんはほかのソロ登山者に同行をお願いしたくなったそう。裏を返せば、そのコースをひとりで歩くだけの実力が伴っていなかった。
【対策】
・自分の力量に合った山、コースを選びましょう。不安なら、信頼できるリーダーとパーティを組むか、ガイド登山やツアーと山に参加するのがベターです。見知らぬ人に同行をお願いするのは、どんなトラブルが起こるかわからず、非常に危険です。
【原因】
・不用意に全体重を木の枝にかけてしまった
【対策】
・手掛かり・足掛かりとする木の枝や岩などは、折れたり動いたりすることもあります。安全かどうかを判断したうえで、三点支持(両手・両足の4点のうち一度に動かして良いのはひとつだけ。残りの3点は、しっかりと足場や手掛かりとなる岩などをとらえている状態をキープすること)を心がけながら体重をかけるようにしましょう。
遭難してしまったAさんが助かったのは滑落した場所が登山道に近く、かつ人気のルートだったため、登山道を通る登山者へ助けを求めることができたから。
もし、同じ場所でも声が出せない状況だったら…人通りの少ない登山道だったら…Aさんは助からなかった可能性も。
ソロではなく同行者がいたら、道迷いに気づいた時に適切に対処でき、滑落しなかったかもしれません。ソロ登山はグループ登山に比べて危険度が高いもの。登山仲間を作るのも、遭難を防ぐことに繋がります。
今回の遭難事故では、ケガの治療に約15万円かかりましたが、万が一の時に備えていた保険で治療費のほとんどをカバーすることができたそうです。
遭難者は必ず「まさか自分が遭難するとは」と言います。誰にでもありえる山岳遭難だからこそ、備えが大切。ヤマップグループの登山保険なら最大300万円の遭難救助費用に加え、ケガも補償します。万が一のための装備の一つとして、登山保険への加入をご検討ください。
※このシリーズは、ほかの登山者に同じ経験をしてほしくないという想いで遭難者に体験談をお話しいただいたものです。ご本人を批判するような投稿はお控えください。
承認番号:YN24-127
承認日:2024年9月30日