何らかの川の流域に属している私たちの生活圏。しかし現代の暮らしは都市化によって自然と切り離され、その存在を意識するのは、豪雨災害の危険が迫るときぐらいになっていないでしょうか。
そんな時代に提唱したいのが、私たちの暮らす流域の源流を登ること。自分たちの生活が源流から始まり、自然とつながっているという理解がきっと深まるはずです。
YAMAPがリリースした「流域地図」をもとに、北海道・東北・北陸地方の大河川の源流となる山を紹介します。
2024.10.10
鷲尾 太輔
山岳ライター・登山ガイド
私たちが生活している流域の中心となる川(ホームリバー)の源流はどこかを決める方法は、ひとつではありません。例えば仙台平野を潤す名取川も、上流へ遡れば広瀬川・暮石川などに分かれ、さらにそれぞれの川に流れ込む小さな支流が存在しています。
これらすべての支流の最初の一滴が源流とはなりますが、今回は国土交通省など治水に関わる公的機関が源流としている山や、各河川の源流碑が存在する山を中心に選定しました。
北海道最大の流域人口(約256万人)を持ち、豊平川・千歳川・空知川などの支流を集めて石狩湾へと注ぐ大河川が石狩川。その源流である稜線から10分ほど東側にそびえるのが、三国山(1,541m)です。
石狩川源流部に立つのが、北海道大分水点の碑。三国山は石狩川だけでなく、オホーツク海へ注ぐ常呂(ところ)川、太平洋へ注ぐ十勝川支流の音更(おとふけ)川源流のひとつともなっているのです。
三国山の山頂からは大雪山・阿寒岳・知床連山など360°の眺望が広がります。ただし登山道は最初は沢沿いで湿り気が多く、稜線へ出ても薮が深いので、虫刺されやクマ対策はしっかり準備して登りましょう。
コース情報【三国山 往復コース】
コースタイム:2時間40分
歩行距離:4.1km
累計標高差(上り):470m
累計標高差(下り):470m
北海道第2位の流域人口(約33万人)を持つ十勝川。北海道大分水点の観点では先ほどの三国山が源流とされていますが、国土交通省が源流としているのが、大雪山系に連なる日本百名山・十勝岳(とかちだけ、2,077m)です。
大雪山系は「北海道の屋根」と呼ばれているのにふさわしく、十勝岳は南東へ流れる十勝川と南西へ流れる石狩川の分水嶺でもあります。この分水嶺には同じく日本百名山のトムラウシ山(2,141m)も連なっています。
十勝川の源流に沿って歩くのは東側からの新得コースですが、もともと登山者が少ない上に、2024年7月現在通行止め(復旧未定)です。石狩川流域側とはなりますが、登山には望岳台からのコースがおすすめ。とはいえ活火山であることに変わりはなく、最新の噴火警戒レベルを確認してください。
コース情報【望岳台登山口-十勝岳 往復コース】
コースタイム:6時間40分
歩行距離:10.4km
累計標高差(上り):1,143m
累計標高差(下り):1,143m
東北地方第2位の流域人口(約131万人)を持つ北上川は、七時雨山(ななしぐれやま、1,063m)・田代山(たしろやま、945m)南麓の田代平高原周辺が最北の源流です。また、この2座が連なる稜線は、八戸市へと注ぐ馬淵川との分水嶺にもなっています。
国土交通省では、岩手県岩手町にある北上山新通法寺正覚院の境内の「ゆはずの泉」が源流とされていますが、これは一級河川・北上川としての定義です。ほかにも、田代山のさらに東にそびえる西岳(にしだけ、1,018m)山麓が源流という説もあり、最初の一滴を決める難しさを物語っています。
七時雨山は三角点が設置された北峰(1,059.9m)と南峰(1,063m)で構成される双耳峰で、どちらからも日本百名山・岩手山(2,038m)を一望できます。田代山からはさらに田代平高原と七時雨山が前景に加わり、奥行きのある絶景が広がります。
コース情報【七時雨山-田代山-駒木立 周回コース】
コースタイム:6時間20分
歩行距離:12.0km
累計標高差(上り):1,010m
累計標高差(下り):1,010m
仙台平野に暮らす多くの人々にとってのホームリバーは、名取川やその支流でしょう。そんな名取川の源流にあたる山が、仙台神室岳(せんだいかむろだけ、1,356m)です。国土地理院発行の地形図では、単に神室岳と表記されています。
仙台神室岳へ向かう稜線は宮城・山形県境となっており、トンガリ山(1,241m)・山形神室岳(やまがたかむろだけ、1,344m)などが連なっています。そしてこの稜線は、太平洋へ注ぐ名取川と日本海へ注ぐ最上川の分水嶺にもなっているのです。
仙台神室岳の登山は、前述の県境稜線と、東側の仙人沢沿いを周回して変化に富んだ景色を楽しむのがおすすめです。点在する滝の中でもとりわけ大規模な仙人大滝は迫力満点。この滝から流れ落ちた水が釜房ダム・暮石川を経由して、名取川へ注いでいるのです。
コース情報【大関山-ハマグリ山-トンガリ山-山形神室岳-神室岳-笹谷峠 周回コース】
コースタイム:6時間30分
歩行距離:10.4km
累計標高差(上り):1,067m
累計標高差(下り):1,067m
松尾芭蕉の俳句でも知られ、山形県を代表する大河が最上川。その源流は、日本百名山・西吾妻山(にしあづまやま、2,035m)から流れる火焔滝(ひのほえのたき)です。
最上川の流域を取り囲む山々には大朝日岳(おおあさひだけ、1,870m)・月山(がっさん、1,984m)・蔵王山(ざおうさん、1,841m)など、日本百名山がずらりと並んでおり、これらから流れ出る支流も最上川の豊かな水を育んでいます。
西吾妻山の稜線上には湿原や池塘が点在しており、爽快な木道歩きを楽しむことができます。初夏から夏にかけてはチングルマをはじめとしたさまざまな高山植物が咲き競い、山自体からも水の恵みを感じとることができるでしょう。
コース情報【天元台リフトで西吾妻山コース】
コースタイム:3時間20分
歩行距離:5.7km
累計標高差(上り):406m
累計標高差(下り):406m
北陸地方では信濃川に次ぐ第2位の流域人口(約54万人)を持ち、福島県会津地方から新潟県を経て日本海へ注ぐ阿賀野川。その源流は日本三百名山の一座でもある荒海山(あらかいさん、1,581m)です。
荒海山は北へ流れる阿賀野川と南へ流れる利根川支流・男鹿川との分水嶺でもあり、日本海と太平洋へ注ぐ2つの大河の源です。同じ分水嶺上には、尾瀬ヶ原を見下ろす日本百名山・至仏山(しぶつさん・2,228m)も連なっており、尾瀬沼や猪苗代湖も阿賀野川へ水を注いでいます。
阿賀野川の源流をめざすため、コース前半は沢沿いを進みます。スリップや水難への注意はもちろん、増水時には無理に登らないようにしましょう。稜線をめざす急斜面にもロープが連続。それだけに、山頂にある源流碑へたどり着いたときの感慨はひとしおでしょう。
コース情報【八総鉱山跡-荒海山 往復コース】
コースタイム:5時間50分
歩行距離:9km
累計標高差(上り):913m
累計標高差(下り):913m
今回は北海道・東北・北陸地方の大河川の源流の山を紹介しました。あなたの暮らしている地域や故郷のホームリバーはどこですか。YAMAP 流域地図をチェックして、その流域の源となる山に登ってみてはいかがでしょうか。
また2024年6月からは標準モードからハザードマップモードへの切り替え機能が追加となり、豪雨時のさまざまな災害危険度も可視化できるようになりました。ぜひお住まいの地域をチェックして、防災にも役立てて下さい。
執筆=鷲尾 太輔(登山ガイド)
トップ画像=fujisunさんの活動日記