さまざまな登山道具に関する異様ともいえる偏愛論をお伝えしている「低山トラベラー大内征の旅する道具偏愛論」。今回のテーマは「パッキングに活躍するケースについて」です。前回のテーマ「パッキングに活躍するスタッフバックについて」と何がどう違うのか、一般人にはすぐには理解し難いところですが…。そこにはスタッフバックとはまた違った、実に奥深い世界が広がっていました。ようこそ、めくるめくケースの偏愛万華鏡へ。
低山トラベラー大内征の旅する道具偏愛論 #05/連載一覧はこちら
2021.04.01
大内 征
低山トラベラー/山旅文筆家
前回の「スタッフバッグの考察」から、ひと月以上も経ってしまった。その間に、ぼくのメインフィールドたる低山からは冬が去り、舞台袖に待機していた春に先んじて、花粉が跋扈している。気がつけば三日周期で低気圧がやってきて、陽光と春雨が交互に桜の開花を促しているではないか。この原稿が更新されるころには、日本の各地から満開の便りがあることだろう。
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さて、前回のテーマだったスタッフバッグとパッキングについては、ぼくの周囲で小さくない反響があった。ハイカーにとっては関心の高い普遍的テーマであり、誰にとっても磨きをかける余地のある課題的テーマなのだろう。 「かさばる登山道具の収納方法を常に見直し、余計な荷物を持たないようにしたい!」と思っている自称“収納下手”も多いに違いない。
特にここ数年は、山に持っていく道具自体が著しく機能的進化を遂げている。とはいえ、道具は手段であり、目的によって使うものが決まるものだ。
常に考えておきたいのは、そうした道具の多くがむき出しのまま持ち運ぶものではなく、なにかしらの収納方法が必要になるということ。そして、それを解決してくれるのが「ケース」である。
ここからは、前回の「スタッフバッグ」とあわせて読んでもらえると、より立体的で創造的な収納イメージが湧いてくるだろう。この春からの山旅に活かせるヒントが見つかることを祈って、筆を執りたい。
子どもの頃のことだが、お歳暮やお土産でいただくお菓子の箱が好きで、あらゆる遊び道具をその箱にしまっていた。ミニカーだったり、めんこやコマだったり、ガンプラだったり。釣り用のルアーは上等なクッキーの缶に入れてたなあ。
当時、祖母が笑いながら「子年生まれだから、ネズミのように物をこちゃこちゃとっておく」と言っていたことを思い出す。確かに捨てずにとっておくタイプで、どんどんどんどん物が溜まっていく、そんな子どもだった。で、また新しい箱を見つけてきては収納し直す……。はて、いいんだか、悪いんだか。
そんなわけで、登山をはじめてからは当時のお菓子の缶や箱に変わって、さまざまなケースを使うようになった。ちょっとは成長しただろうか。ケースは道具を収納して持ち運ぶための「手段」であり、実際に試してみないと気が済まない性格。だからあれこれテストしているうちに、いつしかケースだらけになってしまった。果たして、ケースをしまうためのケースまで買ったりして。はて、これでいいんだか、悪いんだか……。
登山に使う道具をケースに入れて、ザックにパッキングする。となると、スタンダードな方法は重ね収納だろう。出番の少ない道具や行程の後半で使うような道具をザックの下部に入れるなどして、自分なりのルールや工夫をすればそう不便ではない。重さやバランスを考慮しなければならないとはいえ、その工夫そのものが登山の面白さのひとつだったりする。難点は、下にしまった道具を取り出すのが、行動中は面倒になることだろうか。
色と大きさで区別したスタッフバッグやケースを積み重ねると、こんなイメージ。ここで注目したいのは、これら横に重ねたバッグ類とザックとの間に生まれる“縦方向の隙間”だ。そこに挿し込むようにしてケースを収納することができれば、デッドスペースの活用になるとともに、出し入れがしやすいというメリットにつながる。
そのためにも、縦長のケースが必要となるわけだ。ぼくはこの挿し込み収納を効果的に用いているので、縦型のケースやバッグに目がない。キャンプ用のポールやペグを収納するケースは縦長だし、ザックの外側に取り付けるタイプの収納ケースも縦型が多い。
雨が降ったり風が出たりしなければ出番のないレインウェアは、だからこそ底に追いやられがち。ところが、いざ必要となると出すのが大変で……。そんな人は、グラナイトギアのパックポーチ(L)にレインウェア上下を入れて、ザックの隙間に挿し込んでおこう。ぽつりときたら、さっと雨蓋を開けてすっと引き抜くだけだ。
そうそう、自分の登山靴がまるっと入るくらいの大きなレジ袋も一緒に入れておくといい。レインパンツを履く際にそのレジ袋を靴にかぶせれば、わざわざ登山靴を脱がなくて済むし、パンツの内側が汚れることもない。
長財布を使っている人は、カーカムスのペグバッグに注目だ。そもそもこれはペグ用のケースだから丈夫なことこの上なしで、さらには生地が防水ときている。ジッパーは止水仕様ではないため“完全防水”ではないけれど、たとえば地図や保険証のコピー、公共交通のチケット、メモ帳とペンなどを入れておくのに重宝する。
ちなみに、サイズはS~Lまで揃っていて、ぼくの使っているものはMサイズ。登山に限らずさまざまなシーンで活躍してくれるので、個人的には手離せない愛用品のひとつになっている。
スマートフォンやカメラの予備バッテリー、絶対に濡らしたくない電子機器などは、防水性と耐久性に優れたタフなケースがおすすめ。モンベルのドライバッグレクタは、まさにそんなケース。縦型で開閉口がロールトップ式だから、中身のサイズによっては巻いて小さくすることもできる。沢歩きや水遊びのとき、持っててよかったと思えるケースだ。
そういえば、今シーズンの雪山では、ミステリーランチのクイックアタッチゾイドバッグを予備グローブの収納に使っていた。
厳冬期のグローブは、メインは薄手ウールのインナーグローブに防水のオーバーグローブを重ねて使うことが多い。そのうえで、必ず予備のグローブも持っておくのだ。こうすれば、体温や気温に応じたレイヤード対応ができるし、突風に飛ばされて紛失したり濡れて使えなくなるようなリスクの分散にもつながる。
一体型のグローブは便利だけれど、これしか持たずに雪山に入るのは、失くした場合にとても危険なのだ。そういうこともあって、極寒対応の分厚い一体型グローブの方を、ぼくはザックに忍ばせて予備にまわすことが多い。一体型グローブは形状が縦に長いから、まさに縦型ケースの出番というわけ。
主に行動食の類は、フラットケースに入れている。チョコレート、羊羹、飴、クッキーなどなど、行動中に頻繁に出し入れするので、ザックの一番上に平たく載せておくのが個人的なベストポジション。
この時、マチの広いケースだと膨らんで雨蓋がしまらなくなることがあるため、フラットなケースがおさまりよく調子がいい。ちょっとしたことだけど、こういう視点でケースを選ぶだけで、パッキングに対する思考が深まる。パッキング脳になっていくのだ。
さまざまな形状の小さな道具を“雑”に入れるなら、マチの広いケースが最適だ。このミステリーランチのゾイドバックは、横から見ると台形の形状が特長的。個人的には、素材として使われているロービックナイロンの手触りがクセになってしまい手離せない。今年は新しい素材とカラーも登場したので、自分の好みで選ぶ楽しさが広がった。
PRIMUSの小型ガス「IP-110」缶と比較してみると、サイズ感がつかめるだろう。小型なら小物類かマスクや消毒ペーパーなどの衛生用品にちょうどいい。中型はメスティンや小型のクッカーとカトラリー、そして110缶も収納できる。ぼくはよくこの組み合わせで山に持ち出している。大型は折り畳みチェアやカスケードワイルドのウルトラライトテーブルも入る長さなので、チェアリングに持ち出す時に便利。着替えの収納にもよさそうだ。
アルミシートが温度の変化を防いでくれる、よくあるタイプの保冷バッグ。日用雑貨のお店で数百円で買ったもので、お昼ごはんを持って山に行く場合に出番が多い。充分に機能的だし、雑に使っても意外とタフな作りなのだ。
ちょっと気になるのは、表面に汗をかいたり、持ち手がなくてやや不便なこと。そこで、手持ちのフラットケースをカバー代わりにしようと入れてみたら、これがピッタリ!
ケースの方には、カトラリー類はもちろんウェットティッシュやガベッジバッグ(ゴミ持ち運び用の機能的なバッグ)も忍ばせておけるので、この組み合わせはなかなかのお気に入り。
とまあ、こんなことを考えるのが楽しくて、雑貨屋やホームセンターに足を運ぶ頻度は、アウトドアショップに行く以上かもしれない。
いやはや、登山に熱中しているのか道具に夢中になっているのか、たまに自分がわからなくなる。とはいえ、そもそも登山にはDIY精神が必要だとも思うのだ。そういう視点から山を楽しむのは、アリだと思っている。
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今回は、ぼく自身がよく試しているアイテムに絞って「ケース」を考察してきた。世の中には本当に呆れる(いい意味で!)ほどの種類のケースがあるのだから、そういうものを手に取ってみて、実際に山で使えるかどうかを試してみてほしい。きっと楽しくなってくる。
ここまで「うん、うん」と頷きながら読んでくれた、そこのあなた。気がついたら、ぼくのように「ケースをしまうためのケース」まで買うハメになるかもしれない。もしそこまでのめり込んだのなら、自分なりのナイスな工夫を見出すことだろう。その時は、ぜひそのアイデアをシェアして欲しい。
ところで、おばあちゃん、聞こえる?
あれから40年以上も経つけれど、やっぱりぼくは相変わらず“子年のぼくのまま”みたいだよ。
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