テクニカル・フリースの代表格として登山者に愛され続けているパタゴニアの「R1(アールワン)」が、さらに蒸れにくく動きやすくなってリニューアル。
ミドルレイヤーとしての機能性だけではなく、コンパクトになることで携行性も高まり、快適さと使い勝手の良さが大きく進化しています。今回は、実際に愛用者でもあるアウトドアライターの大堀啓太さんが春のフィールドで試した「R1」の実力を解説します。
2025.03.26
大堀 啓太
ライター・編集
パタゴニアの「R1」といえば、「軽くて暖かくて、着心地がいい!」と登山者に定評があるテクニカルフリースの元祖。1999年に発売されたときには、蒸れず寒すぎずのちょうどよさで行動し続けられる体温調整機能に、登山者の間で衝撃が走りました。動きやすくてやわらかな着心地もウケて、登山の快適さを高めるミドルレイヤーとしてあっという間に定着。
それでも快適さへの追求は止まらず、より動きやすく、より着心地よく、よりタフに使えるようにと生地を2回もアップデート。3回目のアップデートは、機能はそのままにリサイクル素材を採用して環境に配慮しました。
そんな「R1」が2025年春に4回目のリニューアル。より蒸れにくく、さらに動きやすくなります。
リニューアルの最大のポイントは、旧モデルから使用されていた『ポーラテックパワーグリッド』生地に加え、通気性・保温性・伸縮性のバランスがとれた『キャプリーン・サーマルウェイト』生地を使用したこと。
新モデルの「R1ジャケット」では、腕の可動域や蒸れを排出したいサイド・脇下に『キャプリーン・サーマルウェイト』生地を配置。これによって動きやすさと通気性を高め、ミドルレイヤーとしてさらに快適になりました。
ベースの生地はこれまでと同じ、適度な保温性と通気性を両立したポーラテックパワーグリッドを採用。そのため定評のドライ感がある着心地などの基本的な機能は、これまでの「R1」と変わりありません。
「R1」が発売されたのは1999年と、なんと25年以上も前です。長い期間にわたって、多くのファンを魅了する秘密は何なのか? 愛用歴の長いお二人にお気に入りのポイントをお聞きしました。
世界中の山にチャレンジするパタゴニアのアルパインクライミング・アンバサダーの横山勝丘さんは、「R1」を着用してなんと20年。長年にわたり愛用してきた理由を聞いてみました。
横山さん:保温と通気のバランスがよくて動きやすく、どんな状況で着ても間違いのないウエアといったところが気に入っているポイントです。
一日中はもちろんのこと、一週間の遠征でも快適に着続けられます。運動強度が高い活動で汗ばむシーンや、厳冬期の極寒シチュエーションでも問題ありません。
横山さん:高い汎用性がある、まさに使い倒してナンボのウエアなので、近所のフリークライミングでは一枚で着たり、長期山行では半袖Tシャツの上にちょっとした羽織りものの感覚で着たりしています。
どんなシーンでも活躍するウエアを一枚持っていると便利なので、全登山者にぜひ着てほしいですね。
金井さんは日本山岳ガイド協会の登山ガイドステージⅡを所有しながら、patagoniaの店舗で働くスタッフ。入社して初めて買ったのが「R1」で、それ以来14年以上も愛用しているといいます。
金井さん:「R1」は山でとても使いやすいので、山を登る夫や両親にもすすめています。自分でも複数モデルを買い足しているので、家族分を合わせるといったい何着持っているのか…(笑)。
山では厚みと風の抜け感がちょうどよくて、いろんなシーズンに着回しが効くので、もう手放せない一着。秋山ではアウターとして、冬山ではミドルレイヤーとして、汗処理能力も高いので春にはベースレイヤーのようにも着用していますね。
フィット感はぴったり目ですが、やわらかな伸びと着心地のよさもあって、着ていると体に馴染んできます。登山者からクライマーまで、もっといろんな人におすすめしたいウエアです。
金井さん:10年くらい前に初めて買った「R1」は、使い倒した今となっては寒い季節の寝間着として活用しています。暖かいし着心地がいいので、ぐっすり寝られるんですよ。
どうやら、ついつい着てしまう快適な着心地と、さまざまなシーンで着用できる機能性の高さが長年愛されているポイントのようです。ここからは、フィールドで実感した「R1」の良さをご紹介しましょう。
リニューアルした「R1」を、日差しの暖かさも風の冷たさも感じられる春の山でさっそく試してきました。
実は僕も10年以上のR1愛用者。秋や春の登山では「R1 ベスト」を、冬山や残雪期には「R1 プルオーバー」を着て山に登ってきたため、リニューアルした「R1」を試せるのをとても楽しみにしていました。
その期待以上に、動きやすさも使い勝手もよくなっていたので、またひとつ「R1」のアイテムが増えてしまいそうです。
今回一緒に山を歩いたのはYAMAPメンバーの小島彩音さん。「R1」をはじめて着用するという小島さんが、思わずつぶやいたひと言が印象的でした。
「ふわさら」
ふわっと包まれるような暖かさと、さらっとした着心地を彼女なりの言葉で表現したこのひと言は「R1」が長く愛され続けている理由なのかもしれません。
小島さんが着用したのは「R1 プルオーバー・フーディー」。袖口がサムホール仕様で、寒いときにはサッと手首まで保温できるのがとくにお気に入りポイントとのことです。
中厚手ベースレイヤーに、「R1 ジャケット」をレイヤリングして登山開始。するとさっそく、リニューアルした「R1」が、その真価を発揮することに。
気温は肌寒いものの、登りはじめると火照ってくる体。そんなシーンでもムレ感はありません。従来の通気性に加えて、新モデルでアップデートされたサイドと脇下の高い通気性が効いているようです。暑すぎず寒すぎずの絶妙な状態で快適に登り続けられて、会話も弾みました。
うれしいリニューアルポイントのひとつが、腕まくりをしやすくなったこと。登ってる最中でもジャケットを脱ぐことなくスムーズに体温調整ができます。
やわらかく伸縮性のある『キャプリーン・サーマルウェイト』生地のおかげで、腕まくり特有の圧迫感もありません。
樹林帯を抜けて、ひと休み中に実感したのがドライ感による暖かさ。登りで汗をかいたはずなのに、着心地もさらっとしています。
高い吸汗速乾性と肌面のグリッド構造による点接触で、汗による冷えや不快感を感じることなく、ひと休みできました。
行動シーンに合わせてウエアを着脱する必要がないのは、すごく楽です。ウエアの着脱が多いと行動時間に影響しますが、そんな心配もありません。
急登シーンではトレッキングポールを使って登りましたが、腕や脇が引っかかるような感覚はいっさいなく登れました。
この動きやすさは、サイドパネル、脇下、腕の内側にかけて配置された『キャプリーン・サーマルウェイト』によるもの。
腕を大きく上げても、ぐるぐる回しても体の動きに合わせて生地が伸びてくれるため、岩場やクサリ場などの難所でもストレスなく行動できそうです。
身長175cm、チェスト88cm、ウエスト75cmでSサイズを着用
シルエットは、きれいなスリムフィット。脇下や腕の内側が素材の変更により薄手になったため、よりスマートなフィット感になりました。
登山中は「R1」をアウターとして着用していましたが、もちろんミドルレイヤーとしても活躍します。軽量のウインドシェルとレイヤリングしても、着膨れすることはありません。
アウターとして着用したときに気になるのが、バックパックとの擦れです。そのため、肩の縫い目はバックパックに干渉しないオフセット仕様で、摩擦が軽減されています。
生地表面もアウトドアフィールドに耐えられるタフさを備えているため、安心して着用できます。
旧R1のグリッド面(ライター大堀の私物)
これは僕が10年以上使った「R1」の肌面ですが、グリッド構造は健在。袖口が摩耗していたり、縫製糸が少しほつれていたりする箇所もありますが、まだまだ現役で使えるほど。長く使えるのはうれしいポイントのひとつです。
重量は343g(メンズ・R1ジャケット/Mサイズ)
ハイブリッドタイプになったことで、よりコンパクトに収納できるようになりました。くるくる丸めると1Lボトルほどの大きさにまとめられて、パッキングしやすいサイズ感です。
夏のアルプス縦走登山などでは、テント場や山小屋での防寒着としても、早朝行動のミドルレイヤーとしても使える一枚二役の便利なウエアとして活躍。荷物の軽量化にもなります。
また、肌に直接着ても心地よい肌当たりのため、長期山行ではベースレイヤーの着替えとしても備えられそうです。
シーズンを選ばずにさまざまな使い方ができる「R1」は本当に重宝するので、一枚持っていると間違いありません。
今回のリニューアルで、使い勝手がさらによくなった「R1」。もはや完成形と思っていましたが、その進化に感動した今回のレビュー登山でした。
行動中のムレ感はより軽減され、腕周りの動きやすさも高まっているため、春や秋の登山でミドルレイヤーとして、いままで以上に快適に着続けられます。それだけではなく、夏山の防寒着としてもコンパクトに携行しやすくなりました。
新たな「R1」を手にすると、その使い勝手の良さに手放せなくなる一枚になることは間違いありません。まだ手にされていない方も、これまで愛用されてきた方も、まずはぜひ一度袖を通してみてください。
取材・原稿:大堀 啓太
写真:宇佐美 博之
協力:パタゴニア/横山 勝丘さん/金井 麻美さん