富士山の眺望といえば必ずや名前が挙がるであろう、箱根の金時山。金太郎伝説でも有名なこの地で、のんびりソロハイクはいかがですか? 初心者にもおすすめの矢倉沢口から歩くコースを紹介します。
2021.04.13
YAMAP MAGAZINE 編集部
富士山の裾から裾までを山頂から見ることができ、金太郎伝説が眠る山としても知られる金時山。
都会の慌ただしい生活から距離を置き、世の中の人が心や体のケアをする時間を持ってもらうために、ハーブティーブランドを立ち上げようとしている松見さんと一緒に、紅葉も終わりかけの天下の秀峰を登った。
今回登るのはハーブティーのブランドを立ち上げ中の松見さん。彼女と一緒に天下の秀峰を巡る。
往路は、金時神社口の東側から登る、矢倉沢口ルート。
金時山には複数のルートが存在し、金時神社口から登るルートが最も短いが、上りのほとんどが樹林帯で眺望が望めない。一方、矢倉沢口ルートは難所もなく、明神ヶ岳へ続く美しい稜線を見渡せる。初心者にはお勧めのルートだ。
スタート直後は、樹林帯を歩くことになる。
松見さんは変わった形の木や苔を見るたびに、足を止めて観察していた。ハーブに詳しい彼女が「野草もハーブにできる」と言っていたのは印象的だった。
樹林帯を抜け、分岐に到着。ここから金時山方面へ向かう。
少し開けた道を歩いていく。ふと足元に目をやると、リンドウの花が咲いていた。「リンドウかなぁ」と呟きながら観察する松見さん。
通りすがりのご高齢グループも、リンドウが咲いていることを楽しそうに語り合っていた。
“野花を見てすぐに名前を答えることができる若者”が、今どのくらいいるのだろうか。
おそらく、ほとんどいないだろう。ただ、花の名前は分からなくても、野に咲く小さな花は愛おしいと感じるはずだ。それは、生物の本能なのかもしれない。
しゃがみ込んでリンドウを写真に収める松見さんを見て、そんなことを考えた。
しばらくすると、金時神社から登るルートとの合流地点に到着。山頂まであと少しだ。この地点で踵を返してみると、美しい光景が広がっていた。明神ヶ岳へと続く、稜線だ。
周囲を見渡せば、芦ノ湖方面も綺麗に色づいている。
明神ヶ岳を背に、再び歩く。山頂まであともう少し。
平日にも関わらず、金時山の山頂は、大勢のハイカーで賑わっていた。
この山の人気の秘密。それは何といっても山頂から眺める富士山だろう。
富士山が見える山はたくさんあるが、金時山の富士は、遠すぎず近すぎず、絶妙な距離感で全容を見ることができる。
実は、山頂に着いたとき富士山は暑い雲に隠れていた。そこにいたほぼ全員が半ば諦めモードだったかもしれない。誰かが「あっ!」と声をあげる瞬間までは。
山頂にいた全ハイカーが富士山の方向へ顔を向ける。そこには、山頂を雪化粧であしらった富士山の姿があった。山頂は歓喜の渦に包まれた。
「山はドラマがあるね」と松見さんも呟く。
興奮冷めやらぬ中、金時山のもう一つの名物にありつく。それが、金時茶屋の巨大なめこ汁だ。
なめこ汁を食した後は、暖かいコーヒー。
下山は、金時神社へ降りるルートを選んだ。こちらはずっと樹林帯なので、紅葉を間近で見ることができる。
たくさんの人が触れるからか、表面が滑らかになっている根っこが印象的だった。人の手によってでき上がったこの表面も、自然の一つといえるのだろうか。
金時神社に降りて、無事下山。
山頂からの富士山、なめこ汁、紅葉色づく山、危険箇所も一つもなく、大満足の山行となった。
中高の行事や大学のゼミなどで、半ば強制的に八ヶ岳や妙見山に登ったことがあるという松見さん。
彼女にとって、登山はきついものというイメージが強かったらしい。
「登山ってこんなに楽しくできるものなんだね」
彼女が下山後にそう言ってくれたのがとても印象的だった。
標高:1,212m
箱根外輪山の中で最も北にあり、神奈川・静岡の県境に位置する。金時山はどこから見てもそれとわかる鋭峰で、山頂周辺の登山道はどのコースから来ても岩場混じりの急峻な斜面が続く。