2021年7月14日にリリースしたYAMAPの循環型コミュニティポイント「DOMO(ドーモ)」。 YAMAPのユーザー同士でおくり合える他、山の再生や登山道整備など様々な支援プロジェクトに参加することができます。「どんぐりで山を再生 in 和歌山県」は、その支援プロジェクトの一つ。いったいどんなプロジェクトで、DOMOポイントはどんなふうに使われるのか? DOMO提携パートナーとして本プロジェクトを推進する「株式会社中川」の創業者・中川さんをお招きし、9/28日に講演会を開催しました。本記事では、その模様を要約してお伝えします。
2021.10.13
YAMAP MAGAZINE 編集部
中川 雅也(なかがわ・まさや)
株式会社中川創業者兼従業員
1983年和歌山県生まれ。大学卒業後インドネシアのスラバヤで貿易の仕事を2年半経験し、地元にUターン。2008年、地元森林組合に就職。2016年に「育林は育人」という社訓とともに株式会社中川を創業。以来、「30年後の和歌山に緑を」を合言葉に地域の山々を育てている。また、虫食い木材を利用した家具、ワークショップ団体「BokuMoku」の事務局も2017年から兼務。持続可能な「あたりまえ」を林業で目指している。
春山 慶彦(はるやま・よしひこ)
株式会社ヤマップ代表
1980年生まれ、福岡県春日市出身。同志社大学卒業、アラスカ大学中退。ユーラシア旅行社『風の旅人』編集部に勤務後、2010年に福岡へ帰郷。2013年にITやスマートフォンを活用して、日本の自然・風土の豊かさを再発見する”仕組み”をつくりたいと登山アプリYAMAP(ヤマップ)をリリース。アプリは、2021年10月時点で270万ダウンロードを突破。国内最大の登山・アウトドアプラットフォームとなっている。
中川:はじめに簡単な自己紹介から。私たちは「木を伐らない林業」、すなわち「育林」に特化した林業の会社です。2016年の創業以来、和歌山県田辺市を拠点とし、「植栽放棄地ゼロ」を目標に、植栽や間伐、下刈などを実施しています。植栽用苗木の自社生産にも力を入れていて、紀州備長炭の原木・ウバメガシ等の広葉樹からスギ、ヒノキまで、様々な苗木を育てています。
現在従業員数は26名で、モットーは「どんな人でも働ける職場づくり」。20代や女性も多く、働きやすい環境の整備に力を入れていることから、創業時からの職場の定着率は約96%で推移しています。2020年には「熊野の森再生事業」でグッドデザイン賞やSDGs事業に認定されるなど、社会的活動も積極的に取り組んでいます。
中川:林業には、次のような4つの課題があると思っています。
① 林業従事者の減少と高齢化
②「切ったけど植えない山」の増加
③ 人工林の少子高齢化
④ 災害レベルの困りごとが多発する
どういうことなのか、一つひとつ説明していきますね。
まず、【① 林業従事者の減少と高齢化】について。林業の課題として一番大きいのが、働く人が年々減っていることです。これは全国的にもそうですし、私たちが拠点にしている和歌山県も例外ではありません。林業に従事する人材は、近年かなりのスピードで減っています。なおかつ、働く人の高齢化も進んでいて、将来、林業が生業として成立するかどうか…というのも、今後の不安材料となっています。
次に、【②「切ったけど植えない山」の増加】について。全国的に見ても和歌山県で見ても、伐採後の土地に、わずか4割程度しか植栽されていないのが現状です。山にはもともと、「水を蓄える機能」や「土砂崩れなどの災害を防ぐ機能」「野生動物の保護」といったさまざまな機能が備わっていますが、このまま ”切ったけど植えない山” が増えていけば、山が持つ多くの機能を維持しきれない状況に陥ってしまうと考えられます。
そして、【③ 人工林の少子高齢化】について。結局、切ったけど植えない山が増えているので、「若い山」というのがどんどんなくなってきています。つまり、人間以上のスピードで山も少子高齢化を迎えているんです。専門家の方いわく、山の少子高齢化が一概に悪いことではないようなのですが、我々、林業を営んでいる人間からすると、初めから樹齢の長い太い木を切ることは労働災害のリスクに繋がります。労働災害のリスクが上がると、また林業従事者の減少に繋がってしまう…。こうした悪循環を阻止するためには、ある程度、山や木の年数を平準化する必要があると考えています。
さらに③が進むことで【④ 災害レベルの困りごとが多発する】ことが危惧されます。具体的には、
・川の水が減少し、生活用水に困る
・雨が降ると崩れる
・おいしい水が飲めなくなる
・大気汚染
・地球温暖化
といったこと。森林の少子高齢化がこのままどんどん進んでいけば、これまで「山があるだけ」で受けることができていた恩恵を、将来は受けられなくなってしまう可能性があるのです。
中川:林業を取り巻く課題について説明してきましたが、ここで ”そもそも” の話を少しします。時は昭和20〜30年頃、当時の日本では、戦後復興等の木材需要が増加したことで政府主導の「拡大造林施策」が行われ、広葉樹の伐採と針葉樹林の植林(スギやヒノキ、マツなど)が各地で大々的に進みました。
広葉樹が減ったことで、まず、どんぐりが減り、獣の食料が減り、結果、農作物の獣害が増え、さらには獣の食害によって天然更新[※1] の阻害などが進んでいます。
世界的に見れば、日本は木材資源がたくさんある豊かな国ですが、かつての経済合理性によって生じた弊害が徐々に露呈しはじめ、昨今では「獣との共存」が難しくなってきているのです。
[※1] 森林伐採後、植栽を行わずに、前生稚樹や自然に落下した種子等から樹木を定着させること。(参考:林野庁 – 天然更新の基本)
中川:以上、林業、そして日本の山を取り巻く様々な課題を紹介してきましたが、我々はこれらを「どんぐり」で解決していきたいと思っています。言うなれば、「どんぐりによる山の再生」です。
我々が考える「どんぐりによる山の再生」とは、まず、一度切った山を再造林し、広葉樹の木を植え、山の中のどんぐりを増やす。どんぐりを増やすことで、獣たちに食べ物を与える。この一連のサイクルを回すことで、もともと山が持っていた持続可能なサイクルを再構築し、「持続可能な山づくり」を実現していきたいと思っています。
中川:また、かつては木が高く売れたため林業は大儲けができた業界でした。ですが、木の値段が下がり全体的に衰退傾向にある今は、山の所有者に50〜60年後の収益を目指して植林の提案をしても、なかなか受け入れてもらえないのが現実です。
そこで我々は、第一次産業の林業ではなく、山に木を植えて育てるというサービスを提供する第三次産業としての林業を展開しようと考えました。山に落ちていても獣に食べられてしまう、あるいは道端に落ちていてもゴミとして扱われてしまうどんぐりを、弊社では集めて苗に育て、山主さんたち(山林所有者・県・国)の山の管理・再生に使っています。
中川:ポイントは、地元で採れるどんぐり(ウバメガシ、アラカシ、シラカシ、イチイガシ、クヌギ、コナラなどの苗)を使って地元の山を再生すること。もともと地元の山に生えていた木で再生を図るので、山のストレスも少なく、外来の植物が混ざってしまうようなリスクも減らせます。二年間の育成費はかかりますが、どんぐりの仕入れ値はゼロ。さらに、山主さんたちのお子さんやお孫さんを連れて山にどんぐりを拾いに行く「どんぐり拾い」の機会をつくることで、子どもたちの自然教育や山主さん自身の意識変化の面で副次的効果も生まれ、地域全体として山への関心が高まったように思います。
「どんぐりって大事なんだよ」「この中には栄養がたくさん入っていて、これを植えるだけで山が再生するんだよ」と、そういったことを日々、教えながら接していると、通学路や近所で拾ったどんぐりを子どもたちが会社に持ってきてくれたり、彼らの話や活動に興味を持ったおじいさんおばあさんが朝の散歩の間に拾ったどんぐりを持ってきてくれたり。市民の皆さんの間で、どんどん「どんぐりの輪」が広がってきています。
中川:今回のDOMOのプロジェクトで植える樹種は「ウバメガシ」に選定させてもらっています。ウバメガシは、和歌山県の名産・紀州備長炭の原木。他のカシに比べ若干成長が遅い分、しっかりと根が混んで重たい木になります。和歌山ではかつてウバメガシの択伐[※2] が盛んでしたが、機械化などの事情により山の全ての木を切る皆伐が主流になったことで、今現在、ウバメガシの木が枯渇しています。こうした現状も踏まえ、今、弊社では和歌山県産のウバメガシの苗を精力的につくっています。
[※2]「択伐」… 用材などに適した木を選んで切り、その跡に後継樹を育てるなどして、森林の更新を図ること
まずはウバメガシの単相林をつくり、20〜30年後に紀州備長炭の原木として回収する。回収後、木が切られ光が入るようになった箇所に鳥がやってきて糞を落とす。糞の中に含まれていたウバメガシ以外の樹種が芽吹き、木の種類が増える。また20〜30年後に一部の木々を回収し、空いたところに低層木など他の樹種が増えていく…。
つまり、択伐をすればするほど生えてくる樹種が増えて、樹種が増えれば増えるほど生物の多様性に富んで、経済活動を繰り返せば繰り返すほど豊かな山になってくる。というようなサイクルで、100年後に生物の多様性に富んだ豊かな山を経済活動を続けながら続けられるのが、ウバメガシ育林の特徴となっています。
中川:植樹場所は熊野古道から見て対岸の場所、近露王子〜棟方地域の間で予定しています。熊野古道から眺めることもできますし、植樹場所付近まで車が通れる林道がありますので、実際に見に行くこともできます。
中川:土地の所有者は近野振興会さん、現場はもともとはスギ・ヒノキの60年生の山でした。「伐採後、裸になった山だけ返ってきても、新たに木を植えるお金がない。どうしよう…」と困られていたところに、ちょうどDOMOプロジェクトのお話がありまして、弊社でマッチングさせていただきました。
土としては若干痩せ気味です。尾根筋までずっとスギ・ヒノキが植わっていたので、このまま放置しておくとどうしても大雨が降ったら土が浅い分だけ災害が起こるリスクも高い。そんな現場となっています。
中川:我々はウバメガシの苗を街中で育てています。これ(下の写真)はその一つ、耕作放棄地を利用した、弊社の苗畑になります。こういった場所で、苗木になるまで育てていくわけです。
中川:10〜11月にかけてどんぐりを拾ってまわって、それらをコンテナ容器の中に入れます。その後は、基本的には置いておくだけ。4月頃には芽を生やし、約2年で立派な苗木に育ちます。発育過程で蝶や蛾に葉を食べられてしまうリスクもありますが、今回のプロジェクトで育苗場に選定した場所周辺は水源に恵まれているため、カエルが害となる虫たちを食べてくれるんですね。おかげで、農薬や肥料を加えず、どんぐりの中にある栄養だけで育てることができるというわけです。
中川:DOMOプロジェクトへの支援を活用させていただくことで、今回、「山に負担をかけない山づくり」にチャレンジをすることができます。獣が入らないように取り付けるネットは、7年ほどで土に還るとうもろこし由来のポリ乳酸仕様に、ネットの支柱となるポールや支柱に打ち込むアンカーは、プラスチックから錆防止のコーティングを施した鉄製のもの、竹素材にそれぞれ変更しています。このような、従来の活動にはない新しい取り組みにもチャレンジしながら、本プロジェクトを進めていけたらと考えています。
春山:自分たちで始めたことが地域ぐるみの取り組みとなり、街の緑を増やしているというのは、とても素晴らしいとことだと感じています。どんなふうに広がっていったのでしょうか?
中川:きっかけは、道ゆく人たちの小さな好奇心ですね。ここまで地域を巻き込んだ動きにできたのは、その機を逃さず、興味を持ってくれた方々一人ひとりを「どんぐりのファン」にすることができたからだと思います。
突如、街中に現れた育苗場を見て、最初は街の人たちも「またソーラーパネルができるのかな」くらいに思っていたんじゃないでしょうか。ところが、ある日、そこからニョキニョキと芽が出ているのを発見し、「何をしているんだろう?」と興味が湧くわけです。で、そのちょっとした好奇心から、声をかけてくれるわけです。
通行人:「何をやってるんですか?」
中川:「トトロになりたいんです。どんぐりを撒いて踊ったら芽を出したでしょ。我々はどんぐりを育てているんです。」
通行人:「なるほど、トトロですか! 面白そうですね。」
中川:「水さえあげられれば、日当たり抜群の場所じゃなくても育てられますよ。苗も原価で提供できます。」
通行人:「やってみたい! でも、育てても売れないこともあるのでは?」
中川:「我々は年間100ha近くの山林区域で管理・植林活動をしているので、そういった心配は要りません。」
そんなやりとりを繰り返すうち、いつの間にかトトロ2号が増え、3号が増え…と、地域ぐるみの活動へと広がっていきました。
春山:非常にユニークな取り組みですね。また、中川さんたちは、経済的な面でも、この育苗を推進されています。耕作放棄地や駐車場として貸し出されている土地を育苗地として活用し、土地の利用価値を上げている。こちらも素晴らしい取り組みだと思うので、ぜひご紹介をお願いします。
中川:1つのコンテナで40個のどんぐりを育てることができるんですが、駐車場約1台分のスペースがあれば、40個入りの容器を25個置くことができます。田辺市の駐車場が月3,000〜5,000円が相場で貸し借りされているところ、どんぐりの苗は1本300〜500円の買い取り。仮に1,000本の苗をつくることができれば、安くても1,000本×300円で30万円のお金になります。育苗期間含め現金化までは2年かかるわけですが、2年間で30万円ということは、1年間で15万円、月平均1万円程度の儲け(駐車場の倍以上の収益)になるわけですね。
育苗地として土地を活用することで、これまで以上の収益が見込める。さらに、和歌山県の山が豊かになる。そういった環境的な背景を考えられる大人が増えれば増えるほど、経済価値以上のもっと豊かなものがある地域になっていくのかなと考えています。
春山:経済的に潤いながら、街の至るところに緑が広がっていく。とても素敵な取り組みです。今回のDOMOプロジェクトで支援させていただく植樹場所の所有者・近野振興会の方々は、どんな想いで参加してくださったのでしょうか?
中川:このまま少子高齢化が進めば、自分たちが暮らしてきた里山には誰も住まなくなり、獣たちに荒らされてしまう…。近野振興会の方々も、そんな未来を非常に危惧されています。スギ・ヒノキ中心の山をつくり、山から食べ物を奪ったのが人間ならば、山を再生させ、里山の暮らしを守り、未来に繋いでいくのもまた人間であるべきではないか。彼らの根本にあるのは、そんな想いなんだと思います。
DOMOプロジェクトを通じてウバメガシの苗を植え、紀州備長炭の原木を育て、製炭業で生業を成す。この一連のサイクルが、自分たちの里山の暮らし、経済活動を支える要素になり得るのではないかと、非常に可能性を感じていただいています。また、本プロジェクトに参加することで、県外の方々にもこの土地の実情や未来に関心を持ってもらえるというのも、非常に大きな魅力の一つとなっているようです。
春山:地元の方にも理解していただきながら一緒に森づくりができるのは貴重な経験です。僕らとしても一生懸命取り組みたいですし、DOMOのポイントで支援してくださるYAMAPユーザーの皆さんとも、しっかり見守っていけたらと思っています。最後に、この植樹活動のスケジュールについて詳しく教えてください。
中川:10月〜3月末までの間でコンディションがいいタイミングで、植林をしたいと考えています。現場のネット設置は9月末で完成し、苗の用意もできています。植える前の土地整備なども仕上がっている状態ですので、あとはYAMAPさんやYAMAPユーザーさんと調整しながら進めていけたらと思っています。
今回の記事ではご紹介できなかった話を含め、講演会の模様を下記YouTubeにて配信しております。ぜひご覧ください。
DOMOの支援プロジェクトによって林業という分野に興味を持ちました。
知ってはいたけど、全く身近に感じたことはなく、日常生活とは遠く離れた存在でした。
登山を始めた事で、自分でも、一般人でも関わることができるとわかりました。
何かできることから少しずつ始めようと思います。
「森を育てる」という言葉だけ聞くと「よくある環境系のボランティア」と思いがちだったが、しっかりとした未来を見据えた将来性のある事業だということが分かった。
木と人がともに育つ、より自然体に、という社訓や中川さんの大切にされている考えは私が日頃漠然と大切にしたいと感じている思いを言葉にしてくださった気持ちになりました。元気やパワーを頂いた講演でした。
山の豊かさが動物や人の暮らしを豊かにし、みんなが幸せになる、木を育てる林業という取り組みを具体的に知ることができたました。少しでも山の助けになればと思ってDomoさせていただいたことが、具体的にどのような取り組みにつながっているのか知ることができてよかったです。 中川さんのアイディアや、ポジティブな考え方、優しそうな笑顔など、感動することがたくさんあり、人柄にも惹かれました。 山登りして、Domoさせていただいたことが微力ながら、お力になれたのなら嬉しいです。 いつかどんぐりの森 を見てみたいです。
2022年2月に、和歌山県田辺市の現地にて植樹ツアーを開催いたします。
ご興味・ご関心のある方は、以下リンク先よりご回答ください。植樹ツアーに関するご案内を、後日優先的にお送りいたします。
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