11月22日はいい夫婦の日。この日にちなんで今回紹介するのは、YAMAPユーザーで、北海道に暮らす佐藤力さん(50歳)・百貴さん(36歳)夫妻。2人は山好きが高じて昨年結ばれ、結婚しました。現在、仕事の関係で、力さんは帯広、百貴さんは中標津に住み、道内で約200kmの距離を超えて別居婚の状態ですが、月に一度会うときは、もちろん山の中……!これまで山を通じて積み重ねてきた愛の絆について話を伺いました。結果、見えてきた、意外なメリット、デメリット、そして感動秘話とは?
写真提供/佐藤さんご夫妻
取材・文/庄司真美(EDIT for FUTURE)
企画・編集/YAMAP MAGAZINE編集部
2021.11.22
YAMAP MAGAZINE 編集部
そもそもスノーシューハイクが趣味で続けていた百貴さん。普段は牛の人工授精師の専門職として働きながら、プライベートでは山好きが集まるYAMAPのコミュニティでのやりとりを楽しんでいました。そこで知り合ったのが、養護学校の職員として働く夫の力さんです。2人が知り合った経緯は?
「たまたま力さんの共通の友達と登った羅臼岳の投稿をしたら、力さんがそれに反応してくれて、そこから自然なかたちでお互いをフォローし合うようになりました」(百貴さん)
「共通の友人はとにかく体力がずば抜けているので、その投稿を見たとき、この人について行けるなんて、なんてタフな女の子……!と感心したのが第一印象でしたね(笑)」(力さん)。
百貴さんは、地元まわりの道東の低山で、犬とのソロ活がメインの登山スタイル。本格的に登山を始めてまだ3年程ですが、力さんは、バックカントリースキーをはじめ、難易度の高い冬山などを歩きながら、四季の写真を撮るのが趣味。山の経験が豊富な力さんへの尊敬の念が、いつしか好意につながっていったといいます。
「よくゲレンデマジックともいわれますが、山にいる力さんはかっこいいんです(笑)。山の装備だけでも手一杯なのに、力さんは本格的な機材を山に持ち込み、きれいな写真を撮っていて、すてきだなと興味を持ち始めました」(百貴さん)
2019年11月、力さんが住む帯広エリアで山スキーや山岳写真のイベントがあり、初めて顔を合わせた2人。一気に意気投合し、翌日、百貴さんが予定していた剣山への犬とのソロ登山に、急遽力さんも参加することに。つまり、初対面の2人がとんとん拍子に登山する運びとなったのです。そのときのお互いの印象を振り返ります。
「初対面なのにもかかわらず、一緒に歩くのがとても楽しいなと感じました」(力さん)
「共通の友達から、力さんは『普段はマイペースを好むソロハイカーだよ』と聞いていましたが、むしろたくましくて、アスリートだと思いましたね」(百貴さん)
かくして知り合ってすぐに、結婚を前提におつきあいを始めた2人。その後のデートも、お互い「晴れたら山に行こう」というノリで、山がメイン。朝陽や夕陽が美しい瞬間を撮影する目的で、泊まりがけで行く登山スタイルだといいます。
「力さんは、降雪後などの私にとっては登山が難しいタイミングで山に連れて行ってくれるんです。登山のキャリアが浅い私に対して、力さんはキャリアが長いので、いつも冷静にリードしてくれるところが頼りになりますね」(百貴さん)
「三脚を山に持って行くと、どうしても枝に引っかかるのですが、いつも後ろから百貴ちゃんがとってくれるよね(笑)。あと動物好きな彼女が、犬に優しく話しかけるところにキュンとしました」
やはり、お互いに「結婚するなら山好きがいい!」と思っていたのでしょうか。
「それはありますね。それから私は犬と山に登ることが多いので、うちの人見知りの犬たちとがんばって仲良くなろうとしてくれるところも、仲良くしようとしてくれたところも、好感が持てました(笑)」(百貴さん)
昨年11月に入籍し、晴れて夫婦となった2人。2人で行った思い出深い登山について振り返ります。
「ちょうど昨年の今頃、入籍記念登山として、初めて一緒に登った山でもある剣山にご来光を見に行きました。ただ、後から百貴ちゃんに『力さん、中断しようっていってくれないかなと思っていた』といわれたほど、当日は寒くて風が強くて大変な山行でしたね」(力さん)
「一生忘れられない日にしたくて、そもそも私から提案した経緯もありましたが、無事にご来光に間に合うことができました。その登山の少し前に、『ピンク色に染まる山を一緒に観よう』ということで、難易度の高いニペソツ山に初めて登ったのですが、予想外の積雪に困難を極めました。でも、夕陽に染まる山々や満月を見て感動しました。夜中から天候が急変して爆風の中、テントで眠れぬ一夜を過ごしたのも、今ではいい思い出ですね」(百貴さん)
翌朝はニペソツ山でのホワイトアウトにより、山頂は諦めて、あえなく撤退。このとき、力さんにあった強い思いは、「百貴さんを絶対に無事に連れて帰るぞ」ということ。だからこそ撤退を決めたといいます。
そんな力さんの英断に、頼もしさを感じた百貴さん。これが2人の間で、「結婚」が確信に変わる瞬間となりました。
別居婚ゆえに、会うたびに新鮮さが続いているというお2人。山好き同士の夫婦だからこそのメリットは?
「百貴ちゃんが所属する山岳会の山行が僕の住むエリアであるときは、僕の家を基地にできることかな?」(力さん)
「それだけではなく、山をきっかけに、山でのテン泊、キャンプやスキーにまで手を広げるなど、これまで以上に世界が広がったと思います」(百貴さん)
逆にデメリットを感じることはあるのでしょうか?
「強いていえば、休みが合わなかったり、行きたい山が違うときかな(笑)。その場合、別々で行くことになるんですけど、その後、山であったとこを報告し合えるのは楽しいですね」(百貴さん)
「別々で山に行ったときは、無事に下山して家に帰れたのか、必要以上に心配になることはありますね。それから百貴ちゃんは休みを柔軟にとれるのですが、会う予定の日が予報で雨や雪だとわかると、山に行けないから、普通に下界で会おうとはならずに、彼女、仕事を入れちゃうんです(笑)」(力さん)
そして夫婦が山と向き合うスタンスが変わるきっかけとなったのが、日高山脈の「1839m峰(いっぱさんきゅーめーとるほう)」での登山でした。
「下山している途中、ある登山者とすれ違いました。ただそのとき、この後天気が崩れることがわかっていました。でも、私も力さんも、『あえてこんなときに登るくらいだから、かなりベテランの登山者なんだな』と思い、普通に見送ってしまったんです。ところが後になって、翌日その方が遭難して亡くなられたを知りまして…」(百貴さん)
そのときすれ違ったのは、佐藤夫妻だけ。2人はそれを機に、自分たちが山に登る上で、できることや情報発信の仕方、特にSNSとの向き合い方についても深く考えさせらたといいます。
「その後、YAMAPのコミュニティを通じて『父が最後に山に登る姿はどうでしたか?』と、亡くなられた方のご遺族から連絡をいただきました。事故のことを知ってやるせない思いを抱いていたので、ご遺族の方にお伝えする機会をいただけたYAMAPには感謝しています。力さんも冬山に行くので、リスクはもちろんあるのを覚悟での上で、安全対策をしっかりして、ちゃんと楽しんで帰って来てほしいという思いがより強まりましたね」(百貴さん)
「実は2年前、真冬のトムラウシ山で天気が急変して、氷点下25度くらいまで気温が下がって遭難しかけたんですけど、YAMAPのおかげで助かったんですよ。この場を借りてお礼をいいたいです」(力さん)
「天気の悪い日には決して登らないスタンスで、経験を積んでいる力さんでもそういうことがあるんです。そういうこともあって最近、夫婦揃ってプレミアム会員になりました。こっそり山に行ってることがバレて恥ずかしいこともありますが(笑)、ココヘリとみまもり機能を使うことで、お互いむやみに心配する必要がなくなりました」(百貴さん)
自分たちにとっての「いい夫婦」、そしてそのためのパートナーシップの重要性についても聞きました。
「我慢したり包み隠したりせず、意見を日常的に言い合えることかな。それから頻繁に愛の言葉を発すること(笑)」(力さん)
「お互いやりたいことを我慢せずできて、もちろん、山登りのように、一緒にできることは一緒に。実は山を長時間歩いて帰って来ると、けっこういろんなことを夫婦で話すので、帰って来るとすっきりするんです」(百貴さん)
「逆に、本当にしんどいときは一切しゃべらなくなるけどね(笑)」(力さん)
「他人だと気まずさが生じて『なんかしゃべらなきゃ!』と思うけど、夫婦だと無言でもいいので楽ですね(笑)。犬たちが間をとりもってくれますし」(百貴さん)
山あり谷ありの人生は、よく登山に例えられます。この先、末長く夫婦としてやっていくこともまた然り。最後に、今後のお2人が進みたい方向性について教えていただきました。
「うちはひとまわり以上年の差があるので、いつか体力差が出てきても、長い人生をかけて一緒に山を楽しめたら幸せです。今はピークを目指す登山がメインですが、将来は山頂に行かずにお花を見に行くだけでも。もっと年をとって山に行けなくなっても、力さんが撮り続けてきた山の写真を一緒に見られたらいいなと思います」(百貴さん)
「いつか百貴ちゃんに荷物を背負ってもらうときが来るのかな。そのときはよろしくお願いします(笑)」(力さん)
「がんばります(笑)」
*
お互いがしっかり自立しながら、大好きな山登りという共通点でより深く、豊かにつながる姿が印象的な佐藤夫妻。
これまで山で経験してきた印象深い思い出も含めて、今後も山でさまざまな出来事を積み重ねていきそうな予感がします。
なんだかんだいって、昨年結婚したばかりの新婚のお2人。末長くお幸せに!
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