山開きの7月から閉山の9月上旬まで、多い年で30万人を超える登山者が国内外から押し寄せる国内最高峰・富士山(3,776m)。一番混雑するのが山梨側の吉田ルートですが、登山経験者や一度登ったことがある人の間では、静岡側の名ルートとして「プリンスルート」の人気が高まっています。
2008年に登山好きとして知られる天皇陛下(当時は皇太子殿下)が登られたことに由来する同ルート。静岡県側の標高が高い富士宮口五合目(約2,400m)から出発し、比較的人の少ない御殿場ルートに合流でき、富士山最大の側火山である宝永山(2,693m)の火口付近の迫力も感じられます。
ルートの魅力だけでなく、安全に登山を楽しむための注意点も交え、登山ガイドの上田洋平さんに解説いただきました。
2024.06.29
上田洋平
登山ガイド
富士山の主要な登頂ルートは山梨側の吉田ルートと静岡側の富士宮ルート、須走(すばしり)ルート、御殿場ルートの4つ。今回取り上げる第5のルートは、2008年に当時の皇太子殿下(天皇陛下)が登ったことから「プリンスルート」と呼ばれています。
最も登山人口の少ない御殿場ルートを使うため、山頂手前の御来光待ち渋滞が少なく、迫力のある宝永火口を眺めながら登れる名ルート。
ただし、富士宮口六合目から御殿場口七合目まで山小屋が無いことに加え、分岐が多くあって道を間違える可能性があるため、できれば経験者やガイド同行で登るのが良いでしょう。
①標高の最も高い五合目である富士宮口五合目(2400m)からスタート
②宝永山の大迫力を感じながら、御殿場ルートへ合流して山頂へ
③下りは御殿場ルートの大砂走りで御殿場口五合目へ
コース定数:41(コース定数とは?)
コースタイム:10時間42分
歩行距離:16.3km
累積標高差(上り)1,586m
累積標高差(下り)2,519m
マイカーでプリンスルートへアクセスする場合、登山口である富士宮口五合目へ向かうため、御殿場口五合目にある駐車場に車を駐めてシャトルバスに乗り、富士宮口二合目にある「水ヶ塚公園駐車場」を目指します。
「水ヶ塚公園駐車場」でバスを乗り換え、富士宮口五合目へ向かいます。
富士登山協力金(任意)はバス停の近くで払うことができます。
シャトルバスで富士宮口五合目まで移動して降車し、駐車場の階段を登ると登山口があります。ここでも富士登山協力金(任意)を支払えます。
登山口の階段を少し登った所にある富士宮口五合目の看板。
ここから富士登山プリンスルートのスタートとなります。
歩き始めのうちは勾配のゆるい砂利道が続きます。
ここでは速く歩いてしまう人が多いのですが、高山病対策のため、ゆっくり歩きましょう。
五合目からゆっくりと登って30分程度で富士宮口六合目に到着です。
富士宮口六合目から先は富士山山頂方面では登るのでは無く、宝永山方面へトラバース(横移動)します。案内板があるので見落とさないようにして下さい。
宝永山方面へ向かっていると右手側に宝永山(2,693m)が見えるようになってきます。
宝永山は、江戸時代の宝永4年に起こった「宝永の大噴火」によって隆起してできた山です。南側の麓から富士山を眺めると、宝永山のシルエットも確認できます。
六合目から約10分程度歩くと宝永山第一火口縁に到着します。ここで宝永山方面(北東)に進みます。
さらに10分進むと宝永第一火口に到着。ここから先は砂礫の道を登るため、ベンチもあるこの場所で休憩してから進むと良いです。
宝永第一火口から宝永山までは約1時間。足元が埋まっていく砂礫の道を登るのはしんどいですが一歩一歩進んでいきましょう。
途中にある分岐を右手側に進めば宝永山山頂です。
宝永山から10分程で馬の背に到着。大砂走りの下山道に入らないように、登り方面に進みます。
宝永山周辺は分岐が多いため濃霧の時は迷いやすいです。「プリンスルート上り」の標識が随所にあるため、見逃さないようにしましょう。
御殿場ルートの六合目から合流する箇所にも標識があります。
御殿場ルートの七合目から下は登山道と下山道が分かれているため、間違えて上りで下山道に入らないようにしましょう。
御殿場口七合目の下が標高3,000m地点です。
このあたりから空気が薄くなってくるのを実感するかと思います。
ゆっくりペースで呼吸を深くして歩いて下さい。
御殿場口七合四勺にあるわらじ館。
七合五勺にある砂走館。
一日目はこのわらじ館か砂走館、もしくはさらに50分登ったところにある赤岩八合館に宿泊して、二日目の行程に備えます。
御来光を山頂で見るスケジュールの場合、二日目は深夜に出発してヘッドライトの明かりを頼りに進みます。
御殿場ルートの七合目から先は一本道になるため迷うことは無いですが、夜間で視界が悪い場合は良く確認しながら上ります。
山頂に近づくにつれて空が明るくなってきます。
御殿場ルートは御来光直前の山頂手前はそれほど渋滞しませんが、週末やお盆の場合は少し早めに出発することをオススメします。
御殿場ルート山頂手前の鳥居が見えたらゴールは間近です。
山頂付近は御来光待ちのひとだかりができています。
そして、御来光。
ここまでの苦労が報われる瞬間です。
御来光を望んだ後は、日本最高地点の剣ヶ峰(3,776m)を目指します。
西側へ進んで砂礫の道を注意しながら登ると左手側に階段があり、階段を登れば日本最高地点の剣ヶ峰(3,776m)へ到達です。
剣ヶ峰は、御来光直後は写真撮影のため、渋滞になることが多いです。
時間や体力があれば、富士山の火口を一周する「お鉢めぐり」をしても良いでしょう。
一周約1時間30分程度かかります。
下りは御殿場ルートを下ります。
山頂に着いた安心感から呼吸が浅くなると高山病になりやすいため、深い呼吸を意識しながら下ります。疲れが出てくるときなので、転倒や滑落には注意しましょう。
御殿場口七合目までは上りと同じルートで、そこから下が御殿場ルートの下山道「大砂走り」の始まりです。
大砂走りの下り方としては、大股の歩幅でかかとから接地し、ガシガシ下っていくイメージです。
砂が服の中に入るのを防ぐため、足元にはゲイター、口元にはネックゲイターかマスクがあると良いです。
大砂走りの登山道の端には柱が目印として建っているため、霧で視界が悪い時は目印にして下さい。
七合目から約2時間下ると大石茶屋がありますので、暑い時は名物のかき氷を食べてひと休みしても良いです。
大石茶屋から約10分下れば、御殿場口の新五合目に下山できます。
各合目毎にある山小屋に有料(200〜300円/回)のバイオトイレが設置されています。
コイン式で硬貨を入れると個室の扉が開くタイプや、トイレの入口で料金を支払うタイプ等、さまざま様々です。
山小屋付近には休憩するのに適したテーブルやベンチ、スペースがあるのでゆっくり休めます。
富士宮名物の「富士宮焼きそば」は静岡県富士宮市のご当地グルメで、あっさりしたソースが特徴です。
富士宮ルート六合目 宝永山荘には、名物の富士宮焼きそばに、生ビールも用意されているので、飲み過ぎにはご注意を。
富士山富士宮ルート周辺には、良質の温泉が多くあります。
下山後にお風呂で山の汗を流せば、最高の休日が出来上がります。
「富嶽温泉花の湯」は富士宮市街の国道139号線沿いにあり、大露天風呂、高濃度炭酸泉、死海の塩の湯など、多彩な湯が楽しめるのが特徴。
お風呂のみをメインに使う場合、80分利用の立ち寄り券だとお得に利用できます。
詳細はこちら:公式サイトを見る
「富士八景の湯」は国道138号線沿いにある温泉です。車で来た場合は御殿場ICへの帰り道沿いになり、アクセス至便です。
その名の通り富士山を一望できる露天風呂が魅力です。
詳細はこちら:公式サイトを見る
<東京方面から>
・JR御殿場線 御殿場駅経由 殿場駅→富士宮口二合目 水ヶ塚公園(バス乗換)→富士宮口五合目
・東海道新幹線 三島駅経由 三島駅→富士宮口五合目
<大阪・名古屋方面から>
・東海道新幹線 新富士駅経由 新富士駅→富士宮口五合目
・JR身延線 富士宮駅経由 富士宮駅→富士宮口五合目
プリンスルートの場合、登山口は富士宮口、下山口は御殿場口。
下山口である御殿場口五合目にある駐車場に車を駐めてシャトルバスに乗車。富士宮口二合目にある「水ヶ塚公園駐車場」まで行き、そこから富士宮口五合目行きのシャトルバスかタクシーに乗り換えます。
※富士山 御殿場口新五合目はマイカー規制が無いため車で直接行けます。
※富士山 富士宮口五合目は7月10日~9月10日の山開き期間にマイカー規制が行われます。
下山口側の御殿場口五合目駐車場(無料)、もしくは登山口側の水ヶ塚公園 駐車場(マイカー規制期間は1,000円/台)を利用。
満車の場合は臨時駐車場が利用できるので、係員の案内に従いましょう。
富士山では開山期(7月上旬〜9月上旬)になると、初心者も含め多くの人々がその山頂を目指します。
登山道は整備されていて歩きやすいですが、3,776mの日本一の頂に立つのは簡単ではありません。
初心者の方は、以下の3つを準備していくと登頂率を上げることができます。
整備されているとはいえ、大小の石がゴロゴロと転がっているのが富士山の登山道。
スニーカーでは滑りやすく転倒の危険があるため、登山靴を履くようにしたいところ。
登山靴は足首までサポートされていて足を捻りにくくソールが硬いため、不整地や岩場を歩いても安定して歩くことができ、疲れにくくなります。
突然の天候急変に備えてレインウェアも必須装備。上下セパレートタイプのものを準備しましょう。
また、夏でも朝の山頂付近は約5℃程度と平地の真冬と同じくらいの寒さとなるので、防寒着(ダウンジャケット等)も必要になります。
近年、主に外国人の軽装登山が問題になっていますが、現地で大変な思いをしないように、必要な装備はしっかりと揃えましょう。
装備について詳しく知る:「まず揃えたい山道具の基本6アイテム|登山装備のチェックリスト」
急にそんなに揃えられないし、富士山に登った後、登山を続けるか分からない、という方は山道具をレンタルするのもよいでしょう。五合目の登山口にレンタルショップがあるので、受け取り、返却が現地でできて便利です(要事前予約)。
ちなみに、YAMAPレンタルでも山道具のレンタルサービスを展開しており、道具別のレンタルのほか、初めて富士登山に挑む方向けのこだわりの山道具をパッケージにした「富士登山7点セット」(13,500円/3泊〜)も提供しています。
富士山は五合目(プリンスルートは富士宮ルートと同じで2,400m)から登れるとはいえ、約1,400mの標高を登る必要があるため、体力が必要です。
富士山に登る前に、ほかの山へ練習登山に行くのがおすすめです。
登山が初めての場合、標高差(登山口から山頂までの高低差)300mくらいの山からスタートし、標高差1,000mの山を日帰りで登れるようになっておくと、富士山本番では楽に登れるようになります。
富士山は標高3,776mの山のため、高山病対策も不可欠。
寝不足は避け、ゆっくり登る、水分をたっぷり摂取することを意識して下さい。
頭痛やめまいが激しければ登山はあきらめ、高度を下げましょう。
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執筆・写真協力:登山ガイド・上田洋平