日本最高峰であり、世界文化遺産にも選定されている富士山(3776m)。堂々とそびえるその姿は古来から数多くの文芸作品に登場し、日本人にとっては眺めるだけで元気がもらえる存在です。
そんな富士山を、その山自体に魅力あふれる日本百名山から望むことができれば、さらに充実した山歩になるのではないでしょうか。今回は富士山の眺望も見事な日本百名山を紹介します。
2026.03.09
鷲尾 太輔
山岳ライター・登山ガイド

金峰山からの富士山(shiroさんの活動日記)
奥秩父山塊からは、同じく日本百名山の甲武信ヶ岳(2475m)や最高峰・北奥千丈岳(2601m)など随所から富士山を眺望することが可能。
そんな中で「信仰の対象と芸術の源泉」として世界文化遺産に登録された富士山を望むのにおすすめなのが、同じく信仰の対象として登拝されてきた歴史がある金峰山(2599m)です。
南側の山麓にある金櫻(かなざくら)神社は金峰山そのものを御神体としており、山頂にそびえる巨石・五丈石が本宮とされています。
いにしえの人々が登拝した金櫻神社から五丈石までの登山道は一時期通行者が激減して幻の登山道となっていましたが、クラウドファウンディング「金峰山古道復活プロジェクト」によって整備が行われ、2024年に開通しました。

大日岩から金峰山へ続く稜線(たーくんさんの活動日記)
ただし、この「金峰山 表参道・御嶽古道ルート」は距離・高低差とも大きく1泊2日が必要で、途中には危険箇所もあります。最短コースである東側の大弛峠(例年12月〜翌年5月はアクセスする林道が冬季閉鎖)からの往復であれば、無理なく日帰り可能です。
また、西側の瑞牆山荘バス停からのコースもおすすめです。奥秩父らしい静かな原生林や大日岩を過ぎると、山頂までの美しい稜線を、少しずつ近づいてくる五丈石を望みながら歩くことができますよ。
コース情報
コースタイム:8時間10分
歩行距離:10.6km
累計標高差(上り):1,214m
累計標高差(下り):1,214m
コース定数:30(コース定数とは)

大菩薩峠への稜線と富士山(撮影:鷲尾 太輔)
大正初期から昭和時代まで長期にわたって連載された歴史小説『大菩薩峠』(中里介山作)の舞台である大菩薩峠は、甲州街道が開通する以前に武蔵国と甲斐国を結んだ古甲州道も通っていたという深い歴史を持つ場所です。
その北側にそびえる大菩薩嶺(2057m)は、首都圏からのアクセスのよさや、上日川峠(例年12月中旬〜翌年4月中旬はアクセスする林道が冬季閉鎖)を起点に手軽で飽きることのない周回コースで登頂できることから、日本百名山の中でも初心者向けとして人気を博しています。

大菩薩峠付近から振り返る大菩薩嶺(撮影:鷲尾 太輔)
大菩薩嶺の山頂自体は樹林帯の中で眺望はありませんが、山頂直下の雷岩から大菩薩峠にかけての稜線は草原状で展望がよく、前方に富士山を望みながらゆるやかに下っていく気持ちのよい登山道となっています。
また大菩薩峠手前の賽の河原などから振り返れば、先ほど登った大菩薩嶺が堂々とそびえています。その背後には八ヶ岳や南アルプスの山並みも連なっており、まさに眺望抜群の爽快な山歩を楽しむことができます。
コース情報
コースタイム:4時間10分
歩行距離:7.2km
累計標高差(上り):554m
累計標高差(下り):555m
コース定数:15(コース定数とは)

間ノ岳山頂と富士山(T,Akazaさんの活動日記)
富士山との距離が近いこともあり、南アルプス連峰はどの山からも迫力ある富士山を望むことができます。中でも間ノ岳(あいのだけ・3190m)はなだらかな山頂そのものと背景の富士山が一幅の絵のような風景。上記の写真はYAMAPフォトコンテスト2023でスマートフォン優秀賞を受賞しました。
約100万年前に伊豆半島が本州に衝突して形成された南アルプスは現在でも毎年4〜5mmずつと活発に隆起しています。間ノ岳もかつては標高3189mで奥穂高岳(3190m)に次ぐ日本第4位の高峰でしたが、2014年の測量で現在の標高となり、日本第3位タイとなったのです。

北岳から望む間ノ岳(いわひろさんの活動日記)
そんな間ノ岳は、ぜひお隣にそびえる日本第2位の高峰・北岳(3193m)とあわせて登りたいものです。こちらもかつては3192mとされてきましたが、2004年に現在の標高に改訂されています。
日本最高峰である富士山を、それに次ぐ標高の高峰2座を縦走しながら眺める贅沢な時間。標準的なペースであれば2泊3日のスケジュールが必要ですが、それだけの時間を費やす価値は十分すぎるくらいあるといえるでしょう。
コース情報
コースタイム:15時間30分
歩行距離:18.6km
累計標高差(上り):2580m
累計標高差(下り):2580m
コース定数:60(コース定数とは)

天城山からの富士山(ゆきさんの活動日記)
先ほどの通り南アルプス隆起の成因ともなっている伊豆半島の最高峰で、日本百名山にも選定されているのが天城山(1406m)です。複数の山から構成される山脈ですが、万二郎岳(1299m)から最高峰である万三郎岳へと向かう稜線上で富士山を望むことができます。
富士山と天城山は駿河湾を挟んだ位置関係にあり、海を前景にそびえる姿は天城山をはじめとする伊豆半島の山ならではの絶景です。特に馬の背とよばれる展望ポイントからは、遮るものがない絶景が広がります。

アマギシャクナゲ(ひとり登山さんの活動日記)
天城山のもうひとつの魅力が山全体を包むブナやヒメシャラの原生林、雨が多い伊豆半島ならではの苔も幻想的です。春の新緑シーズンには残雪の富士山、秋の紅葉シーズンには新雪の富士山と季節ごとに彩りを変える森の表情と富士山の眺望の両方を楽しむことができるのです。
天城山はヒメシャラ(開花6〜7月ごろ)で花の百名山にも選定されていますが、それ以外にも有名な天城山の春の風物詩が、伊豆半島の山地にのみ自生する固有種で例年5月中旬〜6月上旬に大輪の花を咲かせるアマギシャクナゲです。この時期はヤマツツジやミツバツツジなども見頃を迎え、森全体が鮮やかに彩られます。
コース情報
コースタイム:4時間40分
歩行距離:8km
累計標高差(上り):705m
累計標高差(下り):705m
コース定数:18(コース定数とは)

丹沢山への稜線から望む富士山(ペールエールさんの活動日記)
神奈川県北西部に連なる丹沢山塊の多くの山々からは、西側に富士山を望むことができます。富士山とあわせて登拝されることも多かった大山(1252m)や名物の鍋焼きうどんが人気の鍋割山(1272m)など魅力的な山ばかりですが、その主峰が丹沢山(1567m)です。
山頂には一頭三角点が設置されており、通年営業のみやま山荘があります。こちらの人気グルメはカレー。登山好きで知られる今上天皇が皇太子時代に訪れた際に提供されて以来の名物です。

塔ノ岳からの丹沢山と蛭ヶ岳(撮影:鷲尾 太輔)
丹沢山塊の魅力のひとつが、複数の山を踏破する縦走コースが多彩に設定できる点。南側には丹沢の表玄関ともいうべき塔ノ岳(1491m)が、北西には丹沢山塊の最高峰・蛭ヶ岳(1673m)が連なっており、これらを南北に踏破する丹沢主脈縦走が代表的です。
春のツツジ群落で知られる西丹沢の檜洞丸(ひのきぼらまる・1,601m)から丹沢山をめざす丹沢主稜縦走も健脚向けながらポピュラーなコースで、以下で紹介する表尾根コースとの組み合わせもおすすめです。どのコースも歩きごたえが抜群で、トレーニングにもぴったりな山となっています。
コース情報
コースタイム:10時間
歩行距離:16.1km
累計標高差(上り):1,788m
累計標高差(下り):1,788m
コース定数:41(コース定数とは)

最難関の日本百名山といわれる剱岳からも富士山を眺望可能(右奥・撮影:鷲尾 太輔)
今回は富士山からの距離が近い山々を紹介しましたが、最難関の日本百名山と称される剱岳(2999m)や、富士山と逆にもっとも標高が低い日本百名山である筑波山(877m)からも、天候次第で富士山を眺望することが可能です。
登頂するだけでも達成感あふれる日本百名山。その頂から富士山が見えれば、きっと喜びや感動が倍増することでしょう。
執筆・トップ画像撮影=鷲尾 太輔(山岳ライター・登山ガイド)