登山の必須アイテム、レインウェア(雨具)。正しくお手入れできていますか?ザックの中に入れっぱなしだったり、一度も洗ったことがないという人は要注意。レインウェアはしっかり洗濯・メンテナンスすることで、機能を保ちつつ長く使えるアイテムなんです。では、どうすれば正しくお手入れできるのでしょうか。アウトドアショップ勤務の経験もある登山ガイド・石川高明さんに、レインウェアのお手入れについて解説していただきました。
2020.04.30
石川 高明
信州登山案内人・登山ガイド
レインウェアの機能を落とさず、長く使うには言わずもがな「お手入れ」が大事です。お手入れのポイントは「登山から帰ったらすぐ」、これが大切です。
最もNGなのは、たとえばこんなパターン。前回の登山で雨に降られて、濡れたままザックにしまったレインウェア。次に登山に行くときに前日準備をしていると、ザックの中から何やら異臭が。そこで初めてレインウェアをほったらかしにしていたことに気付き、慌てて汚れを落として乾かしているともう夜中に。ほとんど寝られないまま早朝に集合し、登山中も元気がでない…。睡眠不足は登山の大敵です。ケガや遭難のリスクも高まりますし、なにより登山を思いっきり楽しむことができません。
そんな最悪の事態を避けるためにも、登山から帰ったらすぐに道具のお手入れをすることが大切なのです。
「いやいや、登山から帰ってきたら疲れ切っているし、道具のメンテナンスなんてやってられないよ」というみなさん。じつはポイントさえ押さえてしまえば、お手入れはいとも簡単に済ませられるのです。これから、そのポイントと正しいお手入れ方法をご紹介します。
はじめに、一つ問題です。
「ゴアテックス」をはじめ、多くのレインウェアに採用されている「防水透湿性素材」。内部に溜まった湿気(汗など)を外に出し、外部からの水(雨)をブロックする機能を持った素材ですね。防水透湿性素材を使った製品は洗濯すると傷むので、なるべく洗わない方がよい。これは正しいでしょうか?
答えは、バツです。
一昔前までは、「洗濯しない方が長持ちする」という噂がありました。今でもベテラン登山者の中には、なるべく洗わないという方もいらっしゃいます。あくまで昔の話ですが、これはあながち嘘ではありません。
これらの防水透湿性素材は、レインウェアのどの部分にあるのでしょうか。じつは表地でも裏地でもなく、それらの間に挟まれており、表面からは見えないところにあるのです。
昔のレインウェアだと、表地・防水透湿性素材・裏地を貼り付けている接着剤が弱く、洗濯を繰り返すと剥がれたり変質することがありました。そういったことから、「洗濯しない方がよい」という都市伝説が生まれたものと思われます。ですが、今は接着剤の性能も向上し、洗濯した程度では傷むなんてことはなくなりました。
よって、レインウェアは「洗濯した方が長持ちする」のが正解となります。
レインウェアの表地は、濡れても水を弾きます。ただ、これは防水透湿性素材による「防水」ではありません。表地が持つ「撥水」という機能です。
よく使い込んだレインウェアは、雨にあたるとべちゃっとして、水が玉のように転がらなくなります。この状態は「撥水」の性能が落ちているのは間違いありません。ですが、「防水」の機能は生きています。
「防水性能が生きているなら、撥水機能がなくても問題がないのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、じつはそうではありません。防水透湿性素材が持つもうひとつの機能、「透湿」に大きな影響を与えてしまいます。
水蒸気となった汗を外に逃がす機能「透湿」は、レインウェアの表地が濡れてべちゃっとしている状態だと、機能を十分に発揮することができません。表地の水分に阻まれて出口を失った上記はそのままレインウェアの内側に留まり、結果的に中に着ている衣類を濡らしてしまうのです。
また、一見濡れていないように見えるレインウェアでも同じことが起こります。泥汚れなどはもちろん、着ているうちに溜まっていく汗の油脂などの汚れも、水蒸気が抜けにくくする要因のひとつです。防水透湿性素材を使っているはずなのに、蒸れが抜けにくいと感じている方は、もしかしたらレインウェアが汚れてしまっているのかもしれません。
防水透湿性素材が本来持っている機能を最大限に発揮するために、レインウェアを正しく洗濯することをおすすめします。
それでは、レインウェアを洗濯する手順を解説しましょう。
自宅にある洗剤を使う場合は、柔軟剤や漂白剤を使わないようにしてください。撥水性能を弱めてしまう可能性があります。同様に、おしゃれ着用洗剤などの柔軟剤が入っているものは避けるようにしましょう。
できればアウトドア専用の洗剤を使うことをおすすめします。撥水性・防水透湿性・吸汗速乾性といったアウトドアウェアの機能を阻害することなく、強い洗浄力で汗や泥の汚れ・染み付いた皮脂の臭いを根こそぎ落とすことが可能です。また、レインウェア・ベースレイヤー・化繊のシェル・バックパック・ツェルト・シューズなど、水洗いできる素材ならなんでも洗うことができます(ダウン・レザー製品を除く)。
今回の講座では、finetrackの「ケアファイン オールウォッシュ」をご紹介しました。YAMAP STOREでも取り扱っていますので、この機会にぜひお試しください。
手洗いの場合
1. レインウェアを準備します。ジッパー・ベルクロは必ず閉じておいてください。ジッパーの金具やベルクロは、裏地に当たると生地を傷めてしまうことがあります。フードは出して、絞ってあるドローコードは戻しておきましょう。
2. 袖口や襟などの汚れが強い箇所は、軽く汚れを拭ったり、古い歯ブラシに洗剤をつけて汚れを落としておきましょう。直接洗剤などをかけてもよいですが、色落ちする場合もあるので、目立たないところで試してからにしましょう。
3. 洗濯物が浸るくらいの水(できればぬるま湯がよい)を準備し、規定量の洗剤を投入して、よく溶かします。
4. 洗剤を入れた水の中に、レインウェアを5分くらい浸しておきます。
5. 優しく押し洗いしましょう。
6. 汚れが落ちたら、洗剤が残らないようにしっかりすすぎます。
洗濯機を使う場合
1. レインウェアを準備します。ジッパー・ベルクロは必ず閉じておいてください。ジッパーの金具やベルクロは、裏地に当たると生地を傷めてしまうことがあります。フードは出して、絞ってあるドローコードは戻しておきましょう。
2. 袖口や襟などの汚れが強い箇所は、軽く汚れを拭ったり、古い歯ブラシに洗剤をつけて汚れを落としておきましょう。直接洗剤などをかけてもよいですが、色落ちする場合もあるので、目立たないところで試してからにしましょう。
3. レインウェアをネットに入れて、洗濯機に規定量の洗剤を投入します。
4. デリケートコースで洗濯します。
5. 普段洗濯する倍くらいの長さのコースを選んですすぎましょう。
6. 洗濯機の脱水機能は使わないでください。レインウェアの内部に水が溜まって洗濯機が揺れ、故障の原因となります。
1. 漬け込むタイプの撥水剤・濡れた状態で使用する撥水スプレーは、干す前に使用します。撥水剤の容器に記載の使用法に従ってください。(これらは乾燥機の使用が推奨されています)
2. 一時的にお風呂場などの濡れてもよい場所に干しましょう。干しているうちにレインウェアのフードやポケットの中に水が貯まるので、これらをしっかり出したり、バスタオルで拭き取ります。
3. 自然乾燥させる場合は、風通しの良い場所で陰干しします。乾燥機を使える場合はそちらがベストです。乾燥機の熱が加わることで、撥水性能も回復しやすくなります。乾燥機を使用する際の温度や時間は、洗剤や撥水剤の説明、レインウェアの洗濯表示タグに記載がありますので、それらの指示を目安にしてください。
4. よくある撥水スプレーを使用する場合は、しっかり乾燥した状態で表裏にまんべんなく振りかけましょう。
付属の袋に入れて持ち運ぶ方も多いですが、これだといざ雨が降ってきたときに素早く取り出すことができません。なので、袋には入れないようにしましょう。
まず、上着の前面ジッパーを開けたまま折りたたみ、くるっと丸めてフードの中にしまいます。ズボンも同様に腰・すそのジッパーは全て開けて、丸めたら上着のフードの中に押し込んでしまいましょう。その状態で、バックパックの雨蓋や外のポケットなど、すぐに取り出せる場所に入れておくのがベストです。こうすることで、雨が降ってきたときにさっと取り出して着用することができます。
濡れたレインウェアを山小屋の乾燥室で乾かす場合は、手ぬぐいなどで表面に付着している水滴をしっかり拭き取ってからハンガーにかけましょう。濡れた状態だとなかなか乾きませんが、水滴を拭ってあげるだけで、早ければ20〜30分ほどでしっかりと乾かすことができます。
長い間レインウェアを使っていると、穴が空いたり破れてしまうことがあります。そんなとき、みなさんはどうしていますか?
アウトドアショップなどではリペアシートが販売されていますが、これらは一時的な補修に使うものなので、ぜひメーカーに修理に出すことをおすすめします。小さな穴であれば、プロの手で500円くらいから修理してもらうことができます。ただし、混み合うシーズンなどは数週間かかることもあるので、時間に余裕を持って修理を依頼しましょう。
レインウェアに限らずアウトドアウェア全般に言えることですが、可能な限り、風通しのいい場所にハンガーにかけた状態で保管しましょう。しっかり乾かしたつもりでも乾ききっていないこともあり、その状態で付属の袋にしまうとそれがダメージとなってしまいます。
撥水スプレーを使うタイミングについて。1シーズンに何回くらい、と一律で使う頻度を決めるというよりは、レインウェアに水を垂らしてみて玉状に転がるかどうかが判断基準となります。撥水性能をキープすることが重要なので、表地が水を弾かなければ、撥水スプレーをかけてあげてください。一般の登山者であればシーズンに1〜2回で事足りる場合が多いとは思いますが、ガイドのようにしょっちゅう使用する方は、月に1回くらいはメンテナンスします。また、撥水スプレーの臭いについてですが、スプレーのあとにしっかりと乾かせば、それほど気にならない場合が多いです。乾かさずにしまうと、臭いが残ることがあります。撥水剤の容器に書いてある細かい説明もよく読んで、その通りに作業することを心がけましょう。
きちんと洗濯されて返ってくる場合が多いので、クリーニングに出すこと自体がNGというわけではありません。ですが、たとえば柔軟剤入りの洗剤を使ってしまったりということも考えられるので、先に説明した手順に沿って自分で洗濯する方が確実でしょう。
正しい洗濯方法を知らずに、今まで柔軟剤入りの洗剤を使って洗濯していたという場合でも、安心してください。きちんと洗濯して撥水効果を施せば、回復する場合が多いです。まずは正しい方法で洗濯してみましょう。
アイロンがけをすると撥水効果が回復する、という話もありますが、熱を加えることで撥水効果が回復するので、これは正しいといえます。あて布をしてアイロンをかけてあげましょう。ただ、レインウェアはフードなどが立体裁断になっている箇所もあり、そういった箇所にまんべんなくアイロンをかけるのは至難の業です。できればコインランドリーなどで乾燥機にかける方がよいでしょう。
正しいお手入れ方法を続ければ撥水・防水機能は長続きしますが、袖・すそ、ザックのストラップが当たる肩の部分といった生地がどうしても傷んでしまいます。そうなったときが買い替えのタイミングでしょう。メンテナンスをしっかりすれば、ハードに使っても10年くらいは持ちますので、なるべく長く使ってあげてくださいね。
登山に使う道具はとても高価ですが、その分頑丈さと機能を持ち合わせています。流行り廃りに乗って次々と買い換えるのではなく、しっかりとお手入れして、長く使うことを心がけましょう。愛着の湧いたお気に入りの道具を持って、もっと登山を楽しんでくださいね。
「おうちで学べる登山講座 #1レインウェアのお手入れ」配信動画はこちら
山へ行けないときでも登山について学びたい。山の世界に触れていたい。登山にまつわる動画コンテンツをお届けする「YAMAP CHANNEL」は、そんな山好きの声から生まれました。ギアメンテナンスなど、山をやるなら知っておきたいノウハウを学べる「おうちで学べる登山講座」をはじめ、登山にまつわる様々な動画を配信中。気になる今後のラインナップのチェックや、チャンネル登録は下記リンクよりお願いします。
※この記事は、「YAMAP CHANNEL」にて配信した講座の内容を文章・画像で読みやすく編集したものです。