初めてのテント泊登山。教科書どおりにできればいいけれど、ペグを打てない岩だらけのテント場や、雨の中の設営&撤収など「対応力」を求められるシーンも。テント泊をこよなく愛する”テント泊の達人たち”に、岩場や雨の日のテント設営のコツ、テントを張るのがラクになる&テントが使いやすくなるカスタマイズ方法を聞きました。ナルホド!と納得のハウツーが満載です。
はじめようテント泊|登山テントの選び方、おすすめアイテム、活用アイデア #08/シリーズ一覧はこちら
2020.09.02
YMテント泊同好会
テント泊の達人たち
ーまずお伺いしたいのは、テントを購入してから手を加えているところはあるか。市販されているものでもそのまま使えると思いますが、それぞれ使いやすいようにカスタマイズしているところがあれば教えてください。
ちゅーた:基本的にそのままですが、テントのフライシートの長辺にあるガイライン(細引き)を長めのゴムのループに変えています。このガイラインはフライシートをひっぱることでインナーとの空間を作ってくれて、テント内の結露防止とテントの固定に役立ってくれるのですが、もともと付属しているガイラインだとちょっと短いんですよね。
船山:僕もそうしています! ガイラインを長くしておけば、ペグを使えないようなテント場で石を使ったりもできますよね。
田所:わたしもだけど、みんなやってるんですね(笑)。北アルプスとかだとそもそもペグが打てないようなテント場もたくさんあるし、基本的に石とか岩を使ってテントを固定できるようにしています。
船山:僕はガイラインの先端を自在結びでループにしています。石や岩はいろんな大きさがあるので、ループの長さを変えられるようにしておけば、ほとんどのシチュエーションに対応できますね。
ーみなさん結構ガイラインをカスタマイズしてるんですね。
田所:私はもともと付属していたものを付け替えて、結び直しています。結び変えるだけでもOKだと思います。テントによって長さが足りなければ買ってきた細引きを使ってもいいですよね。
船山:テントもツエルトも、すべてガイラインやロープは変えていますね。僕はアルパインクライミングに行くこともあるので、ダイニーマなどの細くて強度が高いものを選んでいます。アウトドアショップに行くといろんなタイプのガイラインがあるので、用途に合わせて使うといいと思います。リフレクターが内蔵されているものは視認性もいいので、夜に足を引っ掛けたりしなくて済みます。
ー他にガイラインでカスタマイズすることはありますか?
伊藤:テントの天井にガイラインを通しています。天井にはだいたいループがついていて、専用のメッシュやガイラインを通せば、いろいろ小物を乗せたり吊るしたりできますよね。テントで過ごす時間が長かったり、長期の山行で役立ちます。テントに付属しているネットでも十分ですが、ガイラインでつくってもいい。
田所:天井のガイライン、私は靴紐を使っています。もし山で靴紐が切れてもそれを使えばいいかなって(笑)。そんなことはなかなかないんですけど。
伊藤:いやいや、ありますよ! 靴紐って意外と切れます(笑)。
田所:たしかに、私もテント場で靴紐が切れた人を見たことがあります。それで「これはやっておかないと」と思ったんですけど、予備を持ち歩くのも面倒だから代用できればいいな、と。テントの中だし、歩いているときはバックパックの奥にあるから出しにくいんですけどね…。
船山:靴紐に限らず、ガイラインや細いロープは持っていた方がいいと思います。小物を吊るしたりもできるし、バックパックが壊れたときとか、縛ってくくりつけたり、思ったより役に立ちますよね。
ちゅーた:あと、ダクトテープも便利! あるとき友達のテントがポールが折れて壊れちゃって。ダクトテープを持っていたおかげで、簡易的な修理ができたんです。テント泊のときは何かしらトラブルシューティングも考えておいた方がいいですよね。フライに穴が空いてしまったときの臨時補修テープとして、テーピングを持っておくとか。
ー逆に、これは「持っていかない」というものはありますか?
船山:僕はペグを使わないですね。石や枝を使って固定することが多いんです。北アルプスだと、とくに穂高あたりは岩ばかりでペグが使えないんです。もしペグが使えたとしても固定する力が弱いこともありますし、それであれば岩を使った方が安心かなって。
伊藤:僕も持っていかないですね(笑)。ペグはテントを固定するための一般的な方法ですが、あまり頼りすぎるのもよくないと思います。打ち込めない場所もありますし、ペグが曲がったり、なくしたりということもあるかなと。もちろんペグを打って、石などで補強すれば完璧ですが、だったら最初から石を使えばいい。
船山:基本的には持っていく方が推奨されると思いますが、重さをできるだけ削りたいのであればペグを持たないというのも選択肢になりますよね。もちろんその分ガイラインを石で固定できるようにしたり、石を使って固定する方法をしっかり覚えておくことが前提ですが。
田所:わたしも、それで今日探すの大変でした(笑)。行く山域にもよるんだと思います。低山で樹林帯で、テント場が土ならペグがいいと思いますが、標高が高いところは岩が多いので、一見ペグが打てそうでもすぐ石に当たっちゃったりして。たまに木のデッキのところもありますよね。ペグって思ったより使える場所が限定的なのかも。
ただ、私は岩稜帯でも使えるような細いペグを持っていくことはあります。最初からテントに備え付けられている断面がL字のものではなくて、ストレートな形状のものですね。細いから差し込みやすいですし、ペグを工夫するのもいいかも。
伊藤:ペグだけで結構奥が深い(笑)。
ー次にお聞きしたいのは、テント泊の難関のひとつ、雨の日のテント設営について。晴れていればスムーズに設営・撤収できるけれど雨になると…と、不安を抱えている人は多いはず。テント泊を何度もしたことがあるという方でも、苦戦することのあるお題だと思いますが、皆さんはいかがですか?
船山:濡れてしまうのは仕方ないので、いかに素早く立てるかということに尽きると思います。テントをバックパックのどこに収納しているかということもありますが、基本的にはモタつかないこと。設営の仕方がわからなくなったり、順序で戸惑っているうちにどんどん濡れてしまうので、いかに最短で設営できるかがカギだと思います。
伊藤:もう練習あるのみですね(笑)。僕もめっちゃ練習しましたもん。だから雨でも晴れでも時間変わらないと思います。
ちゅーた:雨もそうですが、風もですね。でも二人が言うように、雨がどうかということよりも、設営慣れしているかどうかなんです。濡れてしまうと低体温症になるかもしれないですし、早く設営する練習はしておいていいと思います。
そういう意味でも試し張りは重要。天気のいいときに、何分くらいで設営できるか計ってみるのもいいかも。私は着いたらすぐにテントを出して、傘を差して荷物と設営で使わないものは濡れないうようにしていますね。
田所:すぐに取り出せるところにテントを収納しておくようにしています。私は2気室のバックパックを使っているのですが、基本的にはコンパートメントはつなげて使っていて、下からすぐに取り出せるようにしています。テント場に着いたらまずはバックパックからテントだけ出す。インナーを立てたらバックパックはすぐにその中に入れて、できるだけ濡れないように工夫しています。
船山:僕はテントはバックパックの一番下ですね。荷物が濡れるのだけは嫌なので、テント以外の荷物は基本的にドライバッグに入れていて、テントだけ別にしています。テントは濡れても拭けばいいんですよね。とにかく防寒着や寝袋を濡らさないこと! これがとても大事だと思います。
ちゅーた:あと私の場合、常にフットプリント(グラウンドシート)つけっぱなし!で、時間短縮してます。テントのインナーに最初っからフットプリントをつけておけば、設営のときに一手間省けるので、雨の日の設営・撤収にも一役買っているのかも。
船山:僕はそもそもフットプリント使わないですね。
田所:私も、持って行くのめんどくさい(笑)。岩稜帯でテント泊をすることもありますが、なくても気にならないんですよね。
ちゅーた:おお、持っていかないという手も(笑)。
伊藤:僕は使います。フットプリントがないとテント汚れませんか?
田所:最初はそれで買ったんですけど、そんなに変わらないかなって。穴が空くのかなと思ったんですが、テントの中にマットを敷くので関係ないのかなって。
船山:整地すればいいんですよね。ほんとにストレスないようにするのは面倒なのですが絶対やります。テントを立てる前にしっかり整地できればいらないかもですね。
田所:そのためには、いかにテント場に早く着くか(笑)。テント場に着く時間が遅くなると、条件がよくない所しか残ってないこともありますよね。
伊藤:テント場の確保は戦い! 整地を考えると早めに場所取りしたいですよね。
ちゅーた:背中に一個気になる石があると寝られなかったりするんですよね。斜めにだけはならないようにしています。マットごと滑って行っちゃうので(苦笑)。
雨であろうがなかろうが、できるだけテント場には早く到着したいですよね。雨の中でのテント設営が心配な人はとくに。風が当たらない場所ってすぐに埋まっちゃうんですよ…。到着が遅くて吹きさらしの場所しかなかったら余計に大変。心配な分、余裕を持つといいかも。
伊藤:やっぱりドライタオルですね。雨の日だけでなく、結露したときに拭くためのシートです。レインウェアも、山小屋に到着してバスタオルスタイルで拭いてから脱いでいます。もともと車拭く用のものみたいなのですが、吸水がよくて絞れば水が切れるので重宝しています。
ちゅーた:わたしはスイムタオル。ちょっと小さく切って使っています。
田所:わたしもそれ! すぐ乾くし、いいですよね。下山後のお風呂もそのタオルです(笑)。できるだけ荷物を少なくしたいので、トコトン兼用。
ちゅーた:雨でも結露もお風呂でも、何でも使えますね。テント泊だと雨が降らなくても結露で濡れることもありますし、濡れたらすぐ拭いて、荷物が浸水しないようにするのが大切ですよね。雨の設営のときも、テントに入って荷物を広げる前にテントと荷物の水滴を全部拭き取っておけば大丈夫。濡れないということよりも、濡れたらあとの対処をしっかり考えておくことが大切なんですよね。
ーもしテント泊1日目に雨に降られてしまったら、撤収のときのパッキングはどうしているのでしょうか? 濡れたテントを何に入れるか、どうやってパッキングしているか教えてください。
田所:私はビニール袋(笑)。ぎゅーっとして、ぐるぐるっとまるめてます。他の荷物が濡れなければOK。テントも畳まないでそのまま突っ込んでます。
船山:僕は90ℓのドライバッグを使っています。夏でも冬でも、荷物が全部入るくらいのでっかいドライバッグをインナーとしてバックパックに入れています。テントはそのドライバッグの下へ。このやり方なら水滴が落ちるし、歩いているうちに軽くなるんですよね。大切な荷物はドライバッグの中なので絶対に濡れません。
ちゅーた:なるほど、下に入れればいいんですね。いつも防水のドライバッグの上に置いてました。
伊藤:それだと水が入りませんか?
ちゅーた:ドライバッグをしっかり閉めているから水は入ってこないんですけど、下の方が便利だなと。歩いているときはテントを出すこともないですし。
船山:バックパックを濡らさないのが大事と思いがちですが、結局レインカバーをしていても肩のところやボトムから濡れてきてしまいますし、ドライバッグなどで荷物をしっかり防水していればいいんですよね。そうすればテントはどこに入れてもいいと思います。濡れたテントをそのまま入れるのに抵抗があれば、テント用のドライバッグを使うのもいいですよね。
伊藤:防寒着や寝袋、小物などの濡らしたくないもの用のドライバッグと、テントやジャケットなど濡れたもの用のドライバッグ。テント泊というといろんなスタッフバッグを集めがちですが、まずは大きめのドライバッグを買いましょう!ということで(笑)。
ガイラインをカスタマイズする
ペグだけでなく、岩や石を使った設営を想定しておくこと。付属のガイラインを結び変えるだけで対応できるケースもあるので確認してみよう。
ペグのみに頼らない設営を
必ずしもペグを打つことができるテント場とは限らない。上記の岩や石を使った設営ができるのであればペグは不要という判断もできるのだ。
テントの設営に慣れておく
いかに早く、無駄なく設営できるかが大切。手順をしっかり覚えておきましょう。
取り出しやすい場所にパッキングする
荷物をできるだけ濡らさないためにも、バックパックに詰めるときは「出すこと」を考えておくとベター。
ドライバッグを活用して防水を完璧に
雨で濡らしてはいけないものをしっかりと防水しておけば安心。「濡らしたくないもの」と「濡れてもいいもの」を分けておくのもポイント。
ドライタオルや傘を活用しよう
濡れたテントのインナーやバックパックを拭くには吸水性のよいドライタオルやスイムタオルが便利。テント設営時に傘を使って荷物を雨から守るのも効果的。
雨の日のテント設営のポイントは大きくわけて2つ。いかに早く、スムーズに設営するという点と、荷物(とくに寝袋や防寒着)を濡らさないという点。スムーズな設営は「練習あるのみ!」という声もありましたが、組み立てる流れをしっかり理解しておくことが大事。また、設営するテント場に合わせてガイラインをカスタマイズするのも達人のワザ。これも素早い設営につながります。
荷物の防水に関しては、テント泊に限らず気をつけておきたいことですが、ドライバッグによる防水処理とドライタオルで雨を拭き取ればOK。準備は万端にしておきましょう。次回は最終回、「テント泊だからできること」をお届けします!
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取材・文/写真:小林昂祐