実は軽い! ザ・ノース・フェイスの登山テント「マウンテンショット1」を徹底レビュー

山岳ライター・編集者として活躍される一方、数々の登山道具を使ってきた森山憲一さんが、長年使い込んだ登山道具の中から「これは!」と思う逸品を選定・レビューする連載「Long Term Impression」。第3回目はノースフェイスの山岳テント「マウンテンショット」について。重量などの基本スペックから使い勝手まで詳細にお伝えします!

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2020.09.01

森山 憲一

山岳ライター/編集者

INDEX

今回は「ロングターム」インプレッションではないことをお断りしておきます。紹介するテントはまだ2回しか使っておりません。ただしその2回で、これはとてもよくできたテントだと感じたので解説させていただきます。

もうひとつお断りを。

このテント、自腹で購入したものではありません。メーカーからの提供品です。となると、通常は公正なインプレッションが期待できないのですが、ここでは一切の忖度抜きにレポートします。もともとレポート前提に提供を受けたものでもありませんし、この記事を事前にメーカーに見せたりもしておりません。純粋に「このテントを知ってほしい」という個人的な思いから取り上げるものですので、そこはご安心ください。

さて、今回はまずは結論から。

このテントのよい点は以下にまとめられると感じました。

1.トータルバランスの高いスペック
2.抜群の居住性
3.夏山縦走に徹底フォーカスした合理的なディテール
4.テント場で燦然と光るTNF

ひとつずつ解説していきましょう。

トータルバランスの高いスペック

メーカー 製品名 価格 本体重量
(テント、フライ、ポールのみ)
総重量
(ペグ、張り綱、収納袋等含む)
ザ・ノース・フェイス マウンテンショット1 ¥48000+税 1090g 1270g
アライテント トレックライズ0 ¥38500+税 1250g 1470g
モンベル ステラリッジ1+フライシート ¥39000+税 1140g 1340g
ニーモ タニ1P ¥51000+税 1060g 表示なし
ファイントラック カミナドーム1 ¥55000+税 1130g 1280g

 

山でよく見る各社ソロテントと、価格と重量を比較してみました。

私の周囲では、「マウンテンショット、ちょっと重いよね」という声がちらほら聞こえていたのですが、じつはそんなことはなく、それどころかこのなかでは2番目の軽さです。実測してみても本体重量1126gで、ほぼ公表値どおりでした。

なぜ「重い」という印象になるのかというと、おそらくはメーカーのスペック表記のせいかと思われます。

ノースフェイスでは、公式ウェブなどで「総重量」表記を基本としています。一方、他社は「本体重量」表記にするところが最近は多くなっています。ニーモ・ホーネットストーム1Pをレポートした記事でもふれたのですが、ここはテントのスペック比較をするうえでの落とし穴。ノースフェイスはパッと見の印象として不利な表記方法を採ってしまっていると感じます。

価格も、安くはないですが、ライバル4モデルと比較すると特別高いほうでもありません。さらに、マウンテンショットにはフットプリント(グラウンドシート)が付属しています。他メーカーではこれは別売オプションとなっていて、4000円前後します。それを考えると、リーズナブルなところに抑えているといっていいでしょう。

 

メーカー 製品名 居室空間
(縦/横/高さ)
使用素材
(インナー/フロア/フライシートのデニール値)
ザ・ノース・フェイス マウンテンショット1 220 / 90~64 / 105cm 15D / 20D / 20D
アライテント トレックライズ0 205 / 80 / 100cm 28D / 40D / 30D
モンベル ステラリッジ1 210 / 90 / 105cm 10D / 30D / 20D
ニーモ タニ1P 202 / 105 / 103cm 15D / 15D / 15D
ファイントラック カミナドーム1 205 / 90 / 100cm

7D /  ?D / 15D

 

次に比較してみたのは、テント内の広さと、使われている素材です。

数字上での広さに関しては、この5モデル大差なしといったところでしょうか。

マウンテンショットで目を引くのは、縦を220cmと長めにしてあるところ。身長が高い人でも頭や足がテントに突っ張ってしまうおそれは少ないでしょう。横が90~64cmとなっているのは、足先にいくにしたがってすぼまっている台形のフロア形状になっているからです。

使用素材はデニール値を比較してみました。この数値が大きい素材は、一般に耐久性が高い一方で重くなる。近ごろの軽量テントはここを可能なかぎり薄くすることで軽量化を実現しています。マウンテンショットもその潮流にのっとり、薄手の素材を使っていますが、数値を見るとほどほどのところに抑えていることがわかります。

こうしてスペックを比較してみると、マウンテンショットは2020年発売の最後発品だけに、他社競合品をかなり研究したのだろうという印象です。すべてが絶妙なところを突いているのです。突出した特徴があるわけではないけれど、全科目で2番の成績をとるような、トータルバランスの高さが光るテントです。

余談ですが、上の表を見ると、このなかでは発売がもっとも古いトレックライズの生地の厚さが際立っていますね。この丈夫な生地を使って最新のテントと張り合う重量を実現しているのだからすごいです。同じ素材を使っている「エアライズ」を私は20年以上使っているのですが、いまだに壊れる気配がありません。最新の軽量テントではこうはいかないはずです。

抜群の居住性

このテントでもっとも気に入ったポイントです。とにかくテントにいるのが快適! このクラスでは最高レベルの居住性の高さを実現していると思います。

ここは言葉で説明するより見ていただくのが早いでしょう。

開口部の大きい入口。出入りはとてもラクです。全面にわたって開くニーモ・タニにはさすがに負けますが、それに次ぐ開口部の大きさといっていいでしょう。

テント内部に寝っ転がって外を見たところ。ガバッと大きく開く入口のおかげで開放感抜群です。

頭部分の横幅は90cmあるので、寝袋の横に荷物も置けます。

足先にいくにしたがって横幅がすぼまる台形フロア。再奥部は横幅64cmしかありませんが、テント壁が垂直に近く立ち上がっていることと、足先なので気になりません。

特筆すべきは頭上空間の広さ。数字上での室内高は105cmで、特別高いわけではないのですが、やけに頭上に余裕を感じます。

その秘密はこれ。天井部分に配置される短いポール。これが頭上空間を広げると同時に、テント壁ができるだけ垂直に立つような効果ももたらしているため、テント内部が数字以上に広く感じるのです。

横から見ると、このポールが生み出す効果がよくわかります。通常、テントは横から見るとシルエットが三角形になるのですが、マウンテンショットは四角形(台形)に近い形状になっています。同じ天井高でも頭まわりが広く感じる理由はこれです。さらにこのポール、フライシートをかぶせたときには、小さな庇を作り出す効果もあります。これ、わずかな庇ですが、あるとないとでは降雨時の快適さが大違いです。

前室の広さもうれしいポイント。ソロテントとしてはかなり広いほうでしょう。靴とかバーナーとか、外に置きたいものはほとんど置けます。

夏山縦走に徹底フォーカスした合理的なディテール

このテントを使っていると、かゆいところに手が届くというか、欲しいものが欲しいところにあり、ここがこうあってほしいと感じるところがそうなっていることが多く感じます。開発陣が現場で感じたことを少しずつ積み上げていったんだろうなということが伝わってくるようです。

一方で、あれもこれもと欲張らず、割り切るところはバサッと割り切っています。そのひとつはオールシーズンの対応力であり(後述)、メッシュパネルを省略したフロントドアなどでありましょう。「日本の夏山縦走での使い勝手のよさ」に思い切って特化して開発されているのだと思います。

このへんも言葉であれこれ言うのが難しいので、写真で見てもらいましょう。

付属のフットプリント。個人的にフットプリントはあまり好きではなく、これを付けるくらいならフロア生地を丈夫にしてほしいと思うのですが、この付属フットプリントはちょっとアリかなと思ってしまいました。ペラペラで約80gしかなく、持っていくことがほとんど苦にならないのです。フットプリントって通常150gくらいあるのですが、これはその半分。フットプリントってこれでいいんじゃないでしょうか。

ポールは半分(写真では左側)がスリーブ式で、半分(同右側)が吊り下げ式という変わった構造。これによるメリットはとくに感じているわけではありませんが、テントの前後をあまり行ったり来たりせずに素早く設営できるということはあるかもしれません。

本体とフライシート、フットプリントの位置合わせを間違えないように、4隅のうち1箇所だけ赤いテープを使っています。こういうのって細かいことですが、ここだけ色違いのパーツを手配しないといけないわけで、製作上の手間・コスト的には思いのほか面倒なことなんじゃないかと思うので、ユーザー的にはうれしい配慮です。実際、手間をかけてくれているだけの効果は感じます。

入口のパネルはメッシュにすることもできるテントが多いのですが、マウンテンショットはメッシュパネルを省略。ここは好みが分かれるところかもしれません。私はメッシュにして使うことはあまりないのでむしろ歓迎でしたが。

その代わりというべきか、随所(計5箇所)にメッシュ部分を設けているので、フロントパネルを閉めても通気性は保たれます。これのおかげでベンチレーターも省略できています。(写真ではちょっとわかりにくいですが三角形になった部分がメッシュ)

これはテント内側から入口を見たところ。右の写真のように、フライシートは上から開けることもできるのです。フライシートを閉めたままちょっと換気したいというときに便利です。

そしてこれ! 入口と反対側にジッパーで開くスリットが設けられているのです。もうひとつの前室として使えてすごく便利。私は寝るときにここに水筒を置いておくようにしています。

テント場で燦然と光るTNF

ザ・ノース・フェイスを知らない登山者はあまりいないでしょう。しかし、ノースフェイスのテントを持っている人は、これまた多くはないのではないでしょうか。実際、山のテント場でもあまり見かけません。

「ノースはテントを作っていないのかな?」と思いきや、じつはそうでもなく、ラインナップはけっこうな数があります。そもそも、1970年代に「ジオデシック」という構造を初めてテントに取り入れたのがノースフェイスであり、テント作りにはもともと歴史があるブランドなのです。

ではなぜあまり見かけないのか。

それはノースフェイスのテントは、ヒマラヤやアルパインクライミングなどのエクスペディション用か、あるいはキャンプ用の両極端に寄っており、日本の縦走に向いたほどよいモデルがあまりなかったからであります。

とはいえまったくなかったわけではなく、とくに日本主導で開発されたモデルにはなかなかよいものもありました。

私が覚えているところでは、5年くらい前にあった「ロック1LT」というモデル。そしてマウンテンショットの前身となった「FP1」というテント。どちらにも共通するのは、マウンテンショットにも通じる、かゆいところに手が届くソツのない作り。いかにもノースフェイスらしい完成度の高さが印象的なモデルでした。

マウンテンショットは、それらのよさを引き継いでさらに磨き上げたという感じ。ノースフェイスからついに登場した「日本国内山岳テントの決定版」となり得るモデルじゃないかと思います。

ところで、じつは私、いちばん気に入っているのは、TNFイエローのフライシートに記された、THE NORTH FACEのロゴだったりもするのです。だって、ノースのテントだぜ!? カッコいいじゃん!!

あまり見かけないけど知る人ぞ知る実力派ブランドとか、自分以外に使っている人をあまり見ないオリジナルな道具とかに弱い私は、「ノースのテント」というだけで心躍るものがあるのです。

私が心躍るだけでなく、実利的な面もあろうかと思います。山岳テントは色とか形とかある程度似通っているので、広いテント場では、自分のテントが一瞬わからなくなるときがあります。そのときにひときわ存在を主張するTNFのロゴ

使っている人が多くないからこそ、より際立つ存在感。カッコいいだけじゃなくて、自分のテントをすぐ見つけられる。TNFのロゴにはそんな効果もあるんじゃないかな~と。

まあ、昨年問題になったテント場泥棒にも注意が必要かもしれないけど!

まとめ

最後に注意点。

マウンテンショットはとてもよくできたテントですが、万能ではありません。マウンテンショットのよさは、開放感の高さと、テント側壁が垂直に立ち上がる居室空間の広さにあると書きました。この2点は、冬には弱点となり得るのです。

冬に使うテントに求められるのは、気密性の高さ(=保温力)と、風への強さです。このふたつ、マウンテンショットは高いほうとはいえません。

上に出した競合モデルと、冬期の対応力を比較するとこんな感じかと思います。

マウンテンショット、タニ < トレックライズ << ステラリッジ、カミナドーム

ステラリッジとカミナドームは、基本設計段階から雪山登山での使用も考えられており、単体でもある程度機能するうえに、雪山用オプションも用意されています。トレックライズはマウンテンショットやタニと同じような立ち位置ですが、丈夫な素材を使っているぶん、過酷な状況にもやや有利と思われます。

つまり、マウンテンショット(とタニ)は、オールシーズンすべての山行をひとつのテントですませたいという人にはあまりすすめられないテントなのです。そういう人には私だったらステラリッジかカミナドームをすすめます。

逆に、「雪山登山はやらない」あるいは「雪山用テントは別に持っている」という人には、
このテントはかなりおすすめできます。

個人的には、現行のスリーシーズン用テントのなかでトップクラスの完成度の高さと感じます。夏の北アルプス縦走なんかには最高なんじゃないでしょうか。もちろん、低山で使ってもいいですし、雪山でないかぎりは、使用範囲はとても広いと思います。

ということで、いまのところ、欠点らしき欠点を見つけられておりません。もっと使い込んだときにどう感じるかですが、印象はあまり変わらないような気もします。果たして……?

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森山 憲一

山岳ライター/編集者

森山 憲一

山岳ライター/編集者

1967年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学教育学部(地理歴史専修)卒。大学時代に探検部に在籍し、在学中4回計10カ月アフリカに通う。大学卒業後、山と溪谷社に入社。2年間スキー・スノーボードビデオの制作に携わった後、1996年から雑誌編集部へ。「山と渓谷」編集部、「ROCK&SNOW」編集部を経て、2008年に枻出版社へ移籍。雑誌『PEAKS』の創刊に携わる。2013年からフリーランスとなり、登山と ...(続きを読む

1967年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学教育学部(地理歴史専修)卒。大学時代に探検部に在籍し、在学中4回計10カ月アフリカに通う。大学卒業後、山と溪谷社に入社。2年間スキー・スノーボードビデオの制作に携わった後、1996年から雑誌編集部へ。「山と渓谷」編集部、「ROCK&SNOW」編集部を経て、2008年に枻出版社へ移籍。雑誌『PEAKS』の創刊に携わる。2013年からフリーランスとなり、登山とクライミングをメインテーマに様々なアウトドア系雑誌などに寄稿し、写真撮影も手がける。ブログ「森山編集所」(moriyamakenichi.com)には根強い読者がいる。