夏に山ごはんを作るとき、やっぱり気になるのが食材の持ち運びや調理方法。お肉はちょっと危ないかな? 生モノで食中毒は起きない? など不安に思う声もよく聞こえてきます。でも、山では自分が食べたいと思うものを食べるのが一番の栄養になるんです! ポイントをしっかり押さえれば、登山にNGな食材なんてありません。今回は、食べたい食材を山に持っていくための注意点を、食中毒予防の観点で解説。下味冷凍して山に持っていく「タンドリーチキン」や、フードジャーで温かいまま持ち運ぶ「鹹豆漿(シェントウジャン)」のレシピも紹介します。
ヤッホー‼さん&shihoの山ごはんを始めよう #03/連載一覧はこちら
2020.08.31
ヤッホー‼さん&shiho
管理栄養士・山の料理研究家
ヤッホー!!さん:僕が食べたくなるのは、とにかく肉。山に限らず、どんなときでも肉を食べなきゃパワーもスタミナも出ないって感じだよ。
shiho:登山は負荷が強い運動だから、筋肉の疲労回復のために「たんぱく質」をしっかりと摂らなければ駄目だよね。登山中にアミノ酸(たんぱく質の構成成分)のサプリメントを飲む人も多いけど、がっちりした筋肉質の男性であれば、それだけでは絶対に物足りないよね。
ヤッホー!!さん:そう! やっぱりカラダがボリュームのある肉を求めている。とはいっても、登山で肉っていうのは食中毒のことを考えるとなかなか難しい。山ではコンビーフ、焼き鳥の缶詰といった、保存性の高い加工品を山に持って行く人が多いんだ。
shiho:私は山に普通のお肉を持って行くのもありだと思う。食中毒を起こす細菌やウイルスを「つけない」「増やさない」「やっつける」という食中毒予防の三原則をきちんと守れば、食中毒もそんなに怖くないと思うよ。
shiho:食中毒予防は家で準備をする時から始まっているんじゃないかな。山ごはんでは現地での調理過程を減らすために野菜などをあらかじめ切って持って行くことが多いので、仕込みをする時、まずはしっかり手を洗って食中毒を起こす細菌やウイルスを食材に付けないことが大切。もちろん、現地で調理を始める前にも手洗いは必要だよね。
ヤッホー!!さん:山では手を洗うことはできないから、アルコール除菌スプレーとか除菌用ウエットティッシュを必ず携行すること。でも、ちょっと前まではこんなことを言うと、「装備が増える」とか「荷物が重くなる」と登山客からお叱りを受けることもあったんだよ。
shiho:管理栄養士としては当然に思える衛生管理も、山の世界ではあまり重要視されていなかったのでしょうね。でも、これからの新しい生活様式を踏まえた登山スタイルでは、「除菌グッズも必需品!」とキッパリ言っても理解してもらえるんじゃないかな。
shiho:夏場で特に重要なのが、生鮮食材を持ち運ぶときの温度。いかにして細菌が増えやすい危険温度帯(10℃~60℃)にさせないかという工夫が大切だよね。
ヤッホー!!さん:連泊するような山行であれば、インスタントやフリーズドライ食品を使うことになるけど、日帰りや一泊程度の登山であれば、冷凍した食材を、保冷バッグ+保冷剤を使って持ち運べば、調理する時まで充分に冷えているので生鮮食材でも大丈夫。
shiho:保冷剤として、凍らせた500mlのミネラルウォーターのペットボトルを使えば、調理に使ったり、下山時に飲用として使ったりできるから装備の負担にもならないと思う。
ヤッホー!!さん:どのくらいの時間持ち運ぶと、どのくらいの温度になってしまうかは、持っている装備の性能によっても異なるから、一度家で試しておこう。
shiho:ほかにも、日帰り登山であれば、熱い汁ものをフードジャーに入れて持ち運ぶのもありだと思う。この場合は調理から6時間以内、中身の温度が60℃以下になる前に食べることが大切です。いくら保温力が高くても外気温の影響を受けてしまうので、冬の寒い時期は保温バッグなどに入れて持ち運んだほうがよいよね。
shiho:食中毒を起こす細菌やウイルスの多くは、充分に加熱することでやっつけることができるので、一年を通じて、山ごはんの基本は「加熱調理すること」といえるよね。
ヤッホー!!さん:一年を通じてというのが大事。冬でも食中毒のリスクがあるとういことはあまり知られていないんじゃないかな。
shiho:そう、実際に食中毒は夏に多くなるわけじゃないよね。気温の高い季節には細菌性の食中毒が、気温の低い季節にはウイルス性の食中毒が多くなるから一年を通じて発生しているってこと。冬の食中毒の代表といえるノロウイルスも加熱することでやっつけることができる。
ヤッホー!!さん:冬は体を温めるためにも加熱調理は欠かせないかなぁ。そういえば、昔はちょっとくらい消費期限が切れた食材でも「加熱すれば大丈夫!」って言って、食べちゃっていた気がする(笑)。
shiho:う~ん…。熱に強い芽胞を形成したり、毒素を産生したりする細菌もいるので、加熱調理すれば絶対に大丈夫とは言い切れないな。やはり「つけない」「ふやさない」「やっつける」の3つを徹底させることが大切だよ。
shiho:時短調理法のテクニックのひとつに“下味調理(冷凍)”があります。ジップ付き袋の中で事前に下ごしらえをしたものを冷凍しておけば、食べたい時に解凍して加熱するだけ。作業が楽になるだけなく、中まで味がしっかりしみ込みます。また、凍らせた状態で持ち運べば保冷剤代わりにもなるので、山でもぜひ試していただきたい調理法です。今回は初心者でも作りやすいタンドリーチキンをご紹介します。
*材料(1人分)
鶏もも肉:1/2枚
塩・こしょう:少々
A無糖ヨーグルト:大さじ1.5
カレー粉:小さじ2
ケチャップ:大さじ1
ウスターソース:大さじ1
おろしにんにく:1/2片
おろし生姜:1/2片
※チューブならそれぞれ2㎝くらいが目安
オリーブ油:大さじ1/2
*つくりかた(調理時間約10分)
【下準備】
・鶏もも肉一口大に切り、をジップ付き袋等に入れ、塩・こしょうを振ってよく揉み込んだら、Aを入れ、再度よく揉み込み、全体をなじませてから冷凍しておく。
【1】オリーブ油を引いたら鶏肉を並べ、弱めの中火にかける。(並べてから火にかけることで加熱ムラを防ぐことができます。)
【2】焦げ付かないように時々返しながら両面を色よく焼く。
shiho:完成したタンドリーチキンはコンビニで購入したサラダと共にピタパン(中が空洞になっている平たいパン)に挟むのが食べやすくおすすめです。
ピタパンはカルディなどの輸入食材店でも購入できますし、なければお好きなパンに挟んでも良いです。
ヤッホー!!さん:現地での調理はただ焼くだけなので、とても簡単。ボリュームがあって大満足。男性におすすめな一品だね!
shiho:次は台湾の朝ごはんでは定番!鹹豆漿(シェントウジャン)を作ります。鹹豆漿(シェントウジャン)は温めた豆乳にお酢を加えることで、おぼろ豆腐のような優しい食感に仕上げたマイルドな風味のスープで、台湾に行くと屋台などでよく見かけます。最近では日本でもメジャーになってきました。
今回は料理初心者でも失敗なし! フードジャーの保温調理機能を利用して、温めて注ぐだけで簡単に作ることができる方法をご紹介します。
登山では全員がコッテリした肉を食べたいわけじゃなく、すっぱいものを食べたくなったり、さっぱりしたものを食べたくなったり、人それぞれだと思います。温かいスープでホッと一息つきたいとき登山で疲れた体を優しくいたわってくれるスープです。
*材料(1人分)
無調整豆乳:300ml
A
干しエビ:1g
ザーサイ:10g
長ネギ:10g
塩:1つまみ
酢:大さじ1/2
パクチー:適量
仙台麩:適量
※本場では揚げパンを添えて頂くことが多いですが、手に入りづらいので、今回は仙台麩(揚げ麩)で代用しています。
ラー油:適量
shiho:我が家ではサーモスの「スープジャー」を愛用しています。理由は容量やデザインが選べて広口で食べやすいということ、そして意外と重要なのが「開けやすい」ということです。フードジャーは熱いものを入れて時間が経過すると内部圧力に変化が起きるため、女性の力ではフタが開けられないといったトラブルになることがあります。私自身、海外メーカーの商品を使用していたときに、山頂で開かなくなるというトラブルがありました。
ちなみに我が家では、小学生の娘→300ml、具沢山の汁物が好きなshiho→400ml、とにかくお腹を満たしたいヤッホー!!さん→500mlとそれぞれ容量を分けています。様々なメーカーから販売されているので、ぜひお気に入りのフードジャーを探してみてはいかがでしょうか?
*つくりかた(調理時間約10分)
【下準備】
・フードジャーに熱湯(分量外)を入れ、2~3分したらお湯を捨てる。(プレヒート)
こうすることで保温効果が高くなり、温度低下による食中毒予防になります。
・ザーサイと長ネギはみじん切りにしておく。
【1】鍋に無調整豆乳を入れ、沸騰直前まで温める。
【2】プレヒートしておいたフードジャーにAを入れ、【1】を注ぎ、蓋を閉めて全体が混ざるように優しく上下を返す。
【3】食べる直前にパクチーと仙台麩を乗せ、ラー油をかける。
ヤッホー!!さん:台湾旅行の時に食べた朝食を思い出す優しい味だね。刺激が欲しい人はラー油を多めにかけるのがオススメ。
ヤッホー!!さん:今回は食中毒予防の観点から考えてみました。山の安全は、事故や遭難だけでなく、細菌やウイルスといった目に見えないものから身を守ることも重要。山の衛生管理は今後の大きな課題のひとつじゃないかな?
shiho:ただ単に雑誌やサイトに掲載されたレシピをそのまま作るのではなく、自分のカラダが何を求めているかを考えて、それをどのように持ち運んで、どのように調理するかを考えることも、山ごはんの楽しみ方だと思います。
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