YAMAPがこれからも登山者のインフラであり続けるために|YAMAPの中の人 #05

登山地図GPSアプリ「YAMAP」はダウンロード数がすでに240万を超え、今や安全登山を支える「登山者のインフラ」になりつつあります。単なる機能としての登山アプリを超え、安全登山のために何ができるのか日々試行錯誤する人たちをちょっとだけ覗いてみませんか? 安全登山には人一倍思い入れがあるという、アウトドアライターの米村奈穂さんが、YAMAPで働く「中の人」に迫る本シリーズ。第5回は、インフラエンジニアとして、日々YAMAPのシステムを守り続ける「縁の下の力持ち」が登場します。

GPS登山アプリの「中の人」ー安全登山のためにYAMAPができることー #05連載一覧はこちら

2021.06.10

米村 奈穂

フリーライター

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GPS登山地図アプリ・YAMAPがどんな状況でも使える環境を保つ「縁の下の力持ち」。インフラエンジニアの川原さんの仕事は、YAMAPのシステムが安定して動き続けるよう管理すること。話を聞いてみると、システムのインフラを守ることは、同時に、登山者のインフラも守ることと、熱い思いで業務にあたっていた。

ヤクザルと喧嘩した少年時代

YAMAPスタッフからは、愛着を込めて「かっぱさん」と呼ばれている。トレードマークは、なんといっても、チャーミングな笑顔と、この純白のタオルのねじり鉢巻だ

「amazonはご存知ですか…?」

インタビュー中に、取材対象者にここまで言わせてしまった…。

YAMAPの中の人を取材し続けて早5人目。今回の取材対象者は「サーバーインフラの構築と運用など」とある。これまでもインタビュー中にカタカナが飛び交うことは多かったが、なんとかついていけた。しかし、いよいよ置いて行かれそうな予感。事前に、小学3年生に説明するつもりでとお願いする。それで前述の言葉が出てきたのだろうか。こちらの頭上に浮かび続ける?(ハテナ)が見えたのだろうか…。

初めてお会いした時、川原さんは頭にねじり鉢巻をしていた。思わず頬がゆるむ。YAMAPの中の人々はいつもそう。仕事内容からこちらが勝手に想像するイメージより、ずっとソフトだ。

生まれは鹿児島県の枕崎。馬蹄形をした鹿児島の左側の西の端に位置する。小学校時代はさらに南下し、屋久島で過ごす。我々山好きからすると垂涎ものだ。

「よくテレビで、子どもたちが海に飛び込んだりするシーンがあるじゃないですか。まさにあんな感じで川や滝壺に飛び込んでいました。山の麓にアスレチックみたいな場所があったんですが、そこで遊んでいたら背中をポンポン叩かれて、振り向いたらヤクザルでした。キーッとなって軽い喧嘩みたいになってしまって(笑)。遅くまで魚釣りをして、怒られるかなと思いながら帰っても、許されてしまうくらい大量の魚を釣ったことも。その頃の屋久島はまだ、手つかずの地みたいな雰囲気がありました」

屋久島でランニングをしていた父親の後ろを、自転車でついていっていたのがきっかけで走り始め、陸上部に入部。今でもジョギングが日課で、年に 2 回のフルマラソン出場を目標にしている。

Before コロナのとある日のジョギングの風景(本人提供写真)。YAMAPには登山を始め、トレランやロッククライミング、その他スポーツを極める人が多いという。もちろん走ることについては川原さんが群を抜いているとの声も

トレーニング効果を高めるため、できるだけ、朝何も補給していない状態で走る。テレワーク中、一段落着いたときにも走る。ランニングハイになったタイミングでいいアイデアが浮かぶこともある。自己ベストは2時間51分と聞いて、やっぱり今回のインタビューは置いて行かれそうだと予感する。

対会社から、対ユーザーへ

だいぶ自動化は進んでいるものの、YAMAPを何事もなく使い続けてもらえるよう、いつも気を張ってモニタリングしている

YAMAPへの入社は、転職サイトを通じてのスカウトがきっかけだった。前職もインフラエンジニアをしていた。

「前職は、ヤマップのように会社が個人に向けて提供しているサービス(B to C:Business to Customer)を扱うのではなく、会社に向けたサービス(B to B:Business to Business)を扱っていました。

B to B も、結局はB to B to Cなんですけど、我々からすると、間にBが入っているので、Cのリアクションがダイレクトには伝わってこない。B to Bの仕事は、専門的な仕事を任せられるので、技術的に得るものは大きく、専業の部分的なスキルを上げることはできて満足していました。一方で、インフラエンジニアとして事業全体を支えるような仕事がしたいという思いもありました」

転職サイトに、自分の技術の棚卸しのつもりでWEB履歴書を登録していた。それを見たYAMAPからメッセージが届く。YAMAPからはどんな誘いがあったのだろう?

「『インフラの担当者を探しているので、遊びに来ませんか?』というカジュアルなものでした。それで、ちょっと話だけ聞いてみようかなと。最初はCTOの樋口浩平さんとお話しさせていただいて、飲みにも行きました。浩平さんには今でも気軽に相談させていただいていますが、最初にお会いした印象も、良い意味で CTO らしくないというか(笑)。物腰が柔らかく、とても話しやすい方だなと思いました。その時、一緒に飲みに行ったメンバーも、同世代のエンジニアたちで、和気あいあいと話ができて、いい会社だなと思いました」

転職を決心されたのはどういうところで?

「第一印象でいい会社だなと思ったのと、やっぱりアウトドアの会社なので、すごくみんな健康そうに見えたんですよね。また、YAMAPが資金調達をしていたニュースを見て、勢いがあるなと思いました。その時、自分は40歳を過ぎていたんですけど、40を過ぎたおっさんに声をかけてくれる会社もそんなにないだろうと。そして、ユーザーに近いところで仕事ができるという思いもありました」

YAMAPのサーバーを守るインフラエンジニア

その後、川原さんはインフラエンジニアとしてYAMAPに入社した。これまでも、このシリーズの中でYAMAPのエンジニアの話を聞いてきた。地図を作るバックエンドエンジニアの樋口さん。アプリを開発するAndroidエンジニアの落石さん。なんとなくエンジニアの仕事の中身は分かってきたが、YAMAPには、一体どれだけエンジニアの種類があるのだろう。

「YAMAPが主に提供しているサービスには、スマートフォンのアプリとウェブサイトの二つがあります。まず、アプリ開発エンジニアと、ウェブサイトを作るフロントエンドエンジニアです。フロントエンドエンジニアはデザイナーが全体設計したものをウェブサイトにつくり替えていきます。エンジニアのくくりで言えば、デザイナーもエンジニアに入ります。

アプリやウェブサイトに「活動日記」や「山の情報」などを表示するのに必要な情報(データ)を、データベースから抽出するシステムをつくるのがバックエンドエンジニア。インフラエンジニアの私は、さらにその後ろに位置します」

それぞれは次のように関わっている。データベースの中に、YAMAPに必要なデータが入っている。バックエンドシステムは、データーベースとやり取りして、アプリや Web サイトからリクエストされたデータを提供する。アプリを除く、フロントエンドやバックエンドのシステムが稼働するためにはサーバーが必要。インフラエンジニアの仕事は、それらのサーバーが安定して動くような環境を整えて運用、管理することだ。

「サーバーは分かりますか? でっかくて、なかなかフリーズしづらいパソコンのようなものです。それを高い負荷などによって、意図せず停止しないようにするのが私の仕事です。例えば、サーバーに今どれだけ負荷がかかっているかを監視しています。

YAMAPでは登山者の安全と楽しみを守るために、動作が遅くなる、活動日記が保存できない、緊急時に適切な情報が取得できないという状況にするわけにいきません(※インターネットに接続できなくても、サーバーが停止していてもスマートフォンにダウンロードした地図はご利用いただけます)。

YAMAPでは、ユーザーのアクセス数が増えることが負荷に直結しています。サーバーのCPU(パソコンの演算装置)の負荷が閾値を超えるとアラートを鳴らすような仕組みを運用したり、負荷に耐えきれなくなって、追加でサーバーが必要になった時には、自動でサーバーが追加されるような仕組みも運用しています。

たまに、携帯にサーバー監視のアラートが飛んでくることがあるんですが、ジョギング中に確認したりすることもあるんです(笑)」

テレビ砲の洗礼を受け、アクセス集中

川原さんをYAMAPにスカウトし、今も相談しながら業務を進めることが多いというCTOの樋口浩平さんは「システムの土台をがっちり支える堅い担当業務とは裏腹に、普段の川原さんはダジャレや小ボケで場を和ませるお茶目な方」と微笑む。「採用時はここまで見抜けなかった」そう

YAMAPは、ユーザー数が急速に増えてきた印象があるが、インフラ担当として苦労したことはあるのだろうか?

「入社した2019年からアクセス数は2倍くらいに増えていて、日々のアクティブユーザー数も当時の3倍くらいの状態なんですけど、そんなに苦労した実感はないです。それは、インフラ運用に関連した技術の進歩と、各エンジニアチームの技術力の高さに助けられている感じですね。

例えば、バックエンドチームのエンジニアは、システムのボトルネックを見つけたら、すぐに改善してくれたり、システムの観点からインフラに対するアドバイスもしてくれます。また、インフラ運用の技術に関しては、自動化がとにかく進んでいるんです。例えば、リクエストの数や、CPU 負荷に応じて、サーバーのリソースを自動的に増やすことは簡単にできるようになっています。

YAMAP には、これらの運用技術と各エンジニアチームの力で、今後ますます加速するユーザー数の増加に耐えられるだけのポテンシャルがあると思います」

とはいえ、アクセスが集中して、繋がりにくい状況になったこともある。

「2020年に、とあるテレビ番組に大々的に取り上げていただいたときに、通常の30倍のアクセスが発生しました。負荷の見積もりが甘く、接続しづらい状況になってしまいました。その時は、最大限までサーバーのリソースを拡張して、嵐がおさまるのを待つしかなかったですね」

YAMAPで山の余韻に浸る時間

日々のYAMAPのアクセス数の動向に特徴はあるのだろうか?

アクセス数のピークの時間帯をグラフに表したもの。平日と休日ではその動向にも違いが見られ、YAMAPユーザーがどのように行動し、YAMAPを活用しているのかがわかる

「アクセス数には波があって、平日はまず朝の通勤時間帯にひと山くるんです。次はお昼の12時くらい。そして帰宅時間の17、18時ころ。その次が20〜22時ころ。

これが土日になると、朝の6時とかになるんです。おそらく山に登る前にチェックしていると思われます。その後、下山する13時くらいから増え始めて、16時ころに落ち着きます。その後のピークが、日曜日の夜20時から22時くらいまで。平日のピーク時の1.5〜2倍くらい上がります。

下山後、ユーザーさんが活動を終了させた時に、山行などの活動の軌跡情報がサーバーに飛ぶんですが、その時よりも、日曜日の夜のアクセス数が大きくて、データーベースに負荷がかかります。おそらく、山から帰って自分の活動日記を編集したり、他の人の活動日記を見たりしているのかなと思います」

なんと、みんな四六時中「山」のことを考えているではないか。YAMAPのアプリは、登山中に使われるイメージだが、山を下りてからも山の余韻に浸る時間を提供してくれていたのだ。

川原さんに今後の目標を聞いてみた。

「“YAMAPっていいね!”と言ってもらいたいのは、いの一番にユーザーさん」と言う川原さん。「YAMAPユーザーさんにいいサービスだと喜んでもらいたいですね」

「ユーザーが増えても、今まで通り、何も変わらずに使えるサービスを提供していきたいです。変わらないというとネガティブな印象がありますが、今までのユーザーに対しても、新しいユーザーに対しても、同じクオリティでサービスを届けたい。そのために、今やっていることを粛々と続けていけたらなと思います。

YAMAPって他のアプリとは違う側面があると思うんですよね。これがないと登れないとか、命綱のように使われている方もいらっしゃいます。電気、水道、ガス、YAMAPみたいに、山を登る人たちのインフラを支える気持ちで、山の安心、安全と楽しみを提供し続けていけたらなと思っています」

YAMAPのシステムのインフラを守っているのと同時に、登山者のインフラも守っている。何気なく使っているアプリの向こう側に、日々私たちを支えている縁の下の力持ちがいた。

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(撮影:YAMAP 﨑村 昂立)

米村 奈穂

フリーライター

米村 奈穂

フリーライター

幼い頃より山岳部の顧問をしていた父親に連れられ山に入る。アウドドアーメーカー勤務や、九州・山口の山雑誌「季刊のぼろ」編集部を経て現職に。

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