コース選び上手への道|単独・同行者ありの注意点も【山登り初心者の基礎知識】

「次の休日は山に行きたい」と思い立ったものの、どの山の、どのコースを歩けばいいのかわからない──。時間やコースが決められている登山ツアーでなければ、プランは自分で決めるもの。その自由さが、山登りの楽しみの一つでもあります。今回は1時間あたりに登る標高のめやすから、単独や複数人で行動する場合の注意点など、「山とコース選び」のポイントを紹介します。

2022.11.02

YAMAP MAGAZINE 編集部

INDEX

登山レベルやアクセスに合わせたコース設定

コースの形式は4種類に分類可能

さまざまな山に設定された多様なコース。どのコースを、どのような基準で選んで良いのか迷いがちです。実は至ってシンプル。基本的なコースの形式は、大きく分けて4種類に分類できます。

一般的な登山者にとって無理のないペースとされるのは、登りが1時間あたり300m。下りは1時間で400m。標高差600mを登って下ると、休憩なしでも3時間半ほどかかります。登山経験が数回ほどの初心者なら、理想的には、1日の歩行時間は長くても4時間以内、標高差600mまでのコースが無難です。

往復型

周回コースが通行止めで2022年現在は往復コースのみの日向山(撮影:鷲尾 太輔)

登りと下りともに全く同じコースを歩く往復(ピストン)型。景色が帰りも同じなので変化に乏しいですが、登りと下りでは景観の印象が違って見えることがあるので油断は厳禁。天候の悪化や体調不良の際には、途中で同じ道をそのまま引き返せるので、登山初心者にはおすすめです。

初心者おすすめの往復コース
唐沢山 往復コース(栃木県)
尾白川渓谷駐車場発着|日向山往復コース(山梨県)

周回型

御在所岳・中道コースのシンボルが地蔵岩(susanさんの活動日記より

登山口と下山口が同じでも、登りと下りで別のコースをグルっと周遊するのが周回型。景色が変化に富み、飽きることなく楽しめます。車を駐車した場所にまた戻って来れるのもメリット。

天候の悪化や体調不良の際には、現在地から登山口まで近い場合には来た道を引き返すか、そのまま歩き通したほうが近いのかを判断する必要があります。コースによっては、登山口から近い部分が往復型で、途中からグルっと周回して戻るコースもあります。

初心者おすすめの周回コース
上日川峠バス停発着|大菩薩嶺・大菩薩峠周回コース(山梨県)
中登山口-御在所岳 周回コース(三重県)

縦走型

城山〜高尾山の間にある一丁平は桜・紅葉の名所(撮影:鷲尾 太輔)

いくつもの山を次々と踏破し、最初から最後まで違うコースを歩くのが縦走型。登山の醍醐味のあるコースです。歩き通すことが前提となるため、天候や体調の悪化に備えて、退避できる山小屋・避難小屋のほか、コースの途中から最短距離で山麓に下山できる「エスケープルート」が豊富なコースを選びましょう。

初心者おすすめの縦走コース
小仏バス停-景信山登山口-ヤゴ沢作業路登山口-小仏峠-城山 縦走コース(東京都/神奈川県)
須磨アルプス 須磨浦公園駅-板宿駅(兵庫県)

ベースキャンプ型

テント泊などに適したベースキャンプ型(撮影:鷲尾 太輔)

山麓の宿泊施設やキャンプ場に宿泊するのがベースキャンプ型。着替えや寝具など登山中に不要な荷物はベースキャンプに置き、日帰りと同様の軽さの装備で複数の山々を登れます。日本アルプス・八ヶ岳などの高山では、中腹の山小屋やテント場に宿泊する「セミ・ベースキャンプ型」も人気です。

初心者おすすめのベースキャンプ型コース
・えびの高原宿泊・韓国岳登山口-韓国岳 往復コースえびのミュージアムセンター発着|神秘的な水面をめぐる白鳥山往復コース(宮崎県/鹿児島県)
・立山室堂宿泊・立山室堂ターミナル-一ノ越-立山-浄土山 周回コース(富山県)

それぞれの登山形式に適したスタイルは?

マイカー・レンタカー利用の場合、冬場は登山口への路面凍結にも注意が必要(撮影:鷲尾 太輔)

登山の交通手段は、電車やバス、タクシーなど公共交通機関を利用する場合と、マイカー、レンタカーでアクセスする場合に分かれます。往復型・周回型はいずれも可能ですが、スタート地点とゴール地点が異なる縦走型は公共交通機関が便利。逆に宿泊装備など荷物が多いベースキャンプ型は、マイカー・レンタカー利用が快適です。

単独と複数登山の注意点

誰と登るかが大事

山登りでは、単独と複数の場合でそれぞれの楽しみがあります。ただ、複数だから安全という思い込みは厳禁。誰と登るかによって注意点が変わってきます。

単独で登山する場合


誰にも気を遣うことなく、自分のペースで歩ける単独(ソロ)登山。山と向き合える魅力がある一方、リスクも高まります。

警察庁の統計でも、山岳遭難のうち、トップの割合を占めるのが単独での入山。自分の体力と技術にあった山・コース選びはもちろんですが、家族や友人など「待つ人」への登山前の連絡や伝言も重要です。

もしも携帯電話の圏外の場所で遭難した場合、警察・消防などに救助要請をしてくれるのは「待つ人」だけ。登山計画書を共有するほか、家族らに登っている現在地を教えてくれる、YAMAPの「みまもり機能」も活用すれば、捜索や救助で役立ちます。

自分よりも経験豊富な人と登る場合

山のあれこれを教えてもらうことも魅力(撮影:鷲尾 太輔)

いわゆる「山の先輩」と一緒に行く登山は心強いもの。相手が自分の体力と技術に合わせたコースを選んでくれれば、山の知識やおすすめの道具を教えてもらいながら楽しめます。

ただし「おんぶに抱っこで任せきり」は絶対に避けましょう。相手がどんなに経験豊富であっても、その人がケガをしたり体調不良になってしまったときに、サポートをしたり救助要請をするのは自分です。

連れて行ってもらうという意識ではなく、コース選びの段階から積極的に加わるなど、登山前から自分も主体的に関わるようにしてください。頼りにしていた人とはぐれてしまい、現在地や下山路がわからず、遭難するケースも報告されています。

自分よりも経験の浅い人と登る場合

相手の目線に合わせることが大切(撮影:鷲尾 太輔)

今度は逆に、自分がリーダーシップを発揮するメンバーの構成。相手の体力と技術を考慮し、自分が行きたいという理由でなく、相手が無理なく歩ける基準で山・コースを選びましょう。この場合も、過去の山行のペースや運動歴などを加味しながら、計画の段階から密に連絡しましょう。

行く前の準備としては、持ち物の確認の徹底も重要。例えば、レインウェアやヘッドランプの場合には、「夏でも雨で低体温症になることがある」「アクシデントで日暮れ後の下山になると、ライトがないと身動きがとれなくなる」などと説明し、必需品であることを納得してもらいます。

自分がリーダーとなる場合のもうひとつのポイントが、山ごはんや茶屋グルメ、下山後の温泉、お酒などのプラスαのお楽しみの用意。「また一緒に登山したい!」と言ってもらうのに、効果は絶大です。

高齢の親や知人と登山する場合

経験者でも年齢に合わせた心拍数の意識が大事(PIXTA)

山頂からの絶景を親に見せてあげる……。とっておきの親孝行になりますが、体力と技術だけでなく、加齢には最大限の配慮が必要です。登山において無理のない心拍数は、一般的に「最大心拍数(220–年齢)の75%程度」とされ、年齢が上がるにつれ、よりゆっくりのペースが理想的になります。年齢に合わせた心拍数で歩けるように、ペースには注意しましょう。

加齢によって大きく衰えるのが、バランス感覚。若い人よりも転びやすいことを考慮し、滑りやすい足場の悪いコースを避ける、トレッキングポール(ストック)を積極的に使用してもらうなどの配慮が必要です。

子どもと登山する場合

子どもとの登山は様々な配慮が必要(撮影:鷲尾 太輔)

自然教育的な点はもちろん、我が子の成長ぶりを目の当たりにするのは純粋に嬉しいもの。ただし子どもは元気いっぱいに見えて疲れやすく、コースタイムの1.5〜2倍程度を想定したスケジュールを立てましょう。

登りでは子どもが前。下りでは子どもが後ろになるよう歩き、子どもが転倒した時に下側で受け止められるようにしておくのが基本。大人よりトイレの間隔が短いことも考慮して、携帯トイレやペーパー類も必携です。

子どもは大人よりも高山病にかかりやすく、自覚症状をうまく訴えられないもの。おおむね標高2,500m以上の登山は、小学校低学年以下の場合は避けた方が良いでしょう。

登山ツアーに参加する場合

登山ツアーでも、スケジュールと地図の確認は入念に(PIXTA)

交通機関や宿泊施設などが手配され、同行するガイドや添乗員のサポートが心強いのがツアー登山。表記は旅行会社によって異なりますが、どの程度の体力・技術力が必要かを示すレベル基準が各コースに記載されています。

その会社のツアー商品で過去に自分が歩いたコースと同じものがあれば、そのレベル基準を参考に参加するツアーを選びましょう。ツアーとはいえ自分の足で歩くのが登山、「連れて行ってもらう」という意識は避けたいものです。

登山計画書も基本的には旅行会社が作成・提出しますが、参加前にはスケジュール表と地図を照らし合わせて見るのがおすすめ。受け身的に参加するだけよりも、登山の思い出がずっと鮮明なものになります。

初めましての山友とは、事前に入念な情報交換を!

登山口で「初めまして」は避けたいところ(撮影:鷲尾 太輔)

ここまで紹介したケース以外に、最近はSNSで知り合った人同士で登山することも増えてきました。友人・知人の場合と同様に事前の登山計画から一緒に行うのが理想ですが、住んでいる場所が離れていて初対面が登山口という場合も。こうした場合は事前になるべく詳細かつ緊密な情報交換を行いましょう。

可能であれば、SNSのメッセージのやりとりだけで済ませず、オンライン通話で会話をしながらお互いの登山歴やそのときのペース、持参する装備などを確認することが理想。体力と技術だけでなく、ストイックにガツガツ登るのか、景色をまったりと楽しみたいのかという登山への向き合い方のほか、リーダーシップを発揮できる慎重な人柄なのかを把握することが、トラブル発生時に誰も対処できない「インスタントパーティー」の懸念を払拭するために重要です。

登る山の情報チェックのポイント

正確で新しい情報を入手するために

山小屋の談話室も情報収集にうってつけ

登りたい山を見つけるきっかけとして、その山ならではの絶景がアップされているInstagramやYouTubeを活用するのは、登山へのモチベーションづくりにも有効です。

特に直近の投稿であれば情報の鮮度も高いですが、これだけを鵜呑みにするのは避けたいもの。複数の情報を入手し、自分の体力や技術的な難易度で無理のないコースかを検討しましょう。

信頼性ある登山地図やガイドブック

様々な種類の登山地図やガイドブック(撮影:鷲尾 太輔)

コースタイムやトイレ、山小屋、水場、バス停などの情報が記載された登山地図のほか、コース上の見どころや注意点が記載されているガイドブックは、読んでいるだけでも想像をかきたてられ、登山欲が湧いてきます。またプロの編集の手が入ることによって、デジタル時代にも高い信頼性があります。

発刊が古いものだと、コースタイムが見直し前の情報だったり、台風やがけ崩れなどでコース自体が変わっていることも。特に図書館などで閲覧する場合などは、初版・増刷・改訂の年月日を確認しましょう。

地元自治体や観光案内所

テレビアニメの影響で登山者も多く立ち寄る西武線・飯能駅の観光案内所(撮影:鷲尾 太輔)

遠方の山へ出かける場合、その地域の情報入手先のひとつとなるのが、市区町村の観光課や観光協会。

しかし、地域によって情報の発信に温度差が大きいのも実情。毎日のようにSNSで最新情報を配信しているところもあれば、「今年は職員が誰も歩いていないのでわからない」という地域も。問い合わせをして不安があれば、他からの情報を参考にしてください。

山小屋は最新情報のエキスパート

南八ヶ岳の赤岳鉱泉・行者小屋はインスタグラムで日々最新情報を発信中(撮影:鷲尾 太輔)

その山のことを知り尽くしているのが、登山道整備や時には救助活動も行う山小屋。かなり鮮度の高い情報入手先です。

とはいえ、予約の問い合わせ以外でやみくもに電話をかけると、限られたスタッフで様々な業務をしている山小屋の営業に支障が出てしまいます。

現在は多くの山小屋が公式サイトやSNSで最新情報を発信しており、まずはこれらをチェックしましょう。それでも分からない情報があれば、ランチタイムとチェックイン、夕食などの忙しい時間や、消灯時間後を避け、問い合わせをしましょう。

鮮度の高いYAMAPの活動記録

投稿したユーザーと同じレベル・スタイルで登山できるとは限りません(撮影:鷲尾 太輔)

YAMAPアプリには、日々たくさんのユーザーが活動日記を投稿しています。前日など直近の状況もリアルタイムで分かり、活用しない手はありません。

ただし、投稿したユーザーと自分の体力度や技術レベルがまったく同じであることは稀。体力にゆとりを持って登山できたという内容の投稿を見て「自分でも登れる」と判断することはNGです。

特にトレイルランニングの活動日記は、ハイカー向けのコースタイムよりもかなり短い時間で、長い距離を踏破しています。必ずYAMAPアプリのモデルコースに記載されたベーシックな活動時間・活動距離も確認してください。

山登りの楽しさを満喫するためにも事前の準備を(撮影:鷲尾 太輔)

事前のチェックや情報収集は、仕事で忙しい人には面倒に感じるかも知れません。けれどもこれらをきちんと行うことで、当日の山登りの充実度が大きく変わります。山への期待をふくらませつつ、楽しみながら取り組んでみてください。

そもそもの目的を明確に

歩くことは脳の健康にもおすすめ(撮影:鷲尾 太輔)

なぜ山に登るのか?

1924年に世界最高峰のエべレストで消息を絶ったイギリスの登山家ジョージ・マロリー。記者の問いに、「そこに山があるから」と答えたそうです。現在の私たちが楽しむ山登りは、マロリーのような人類未踏の地への冒険ではなく、休日の余暇や自然の中でのリフレッシュが目的。

山頂からの絶景はやっぱり山登りの醍醐味(撮影:鷲尾 太輔)

「山の自然に触れたい」「次の登山に備えてトレーニングしたい」というのも立派な目的。さらに、歩くことが体だけでなく、脳の活性化につながることは、医学的にも証明されています。Appleのカリスマ創業者スティーブ・ジョブズも、歩きながらのミーティングで様々なアイデアを生み出していたことは有名なエピソード。

とはいえ、山を登ることと一緒に楽しむ目的によっては、事前の入念なチェックが必要。期待外れになることなく、楽しめる方法を解説します。

花や紅葉は見頃の情報が勝負

気温によって色づきの時期が変わる紅葉(撮影:鷲尾 太輔)

春夏の花々や秋の色づく紅葉が目的であれば、見頃のタイミングで訪れたいもの。自治体のホームページやトラベルガイドには例年の見頃が掲載されていますが、その年の気候によって変動します。

最近はツイッターやインスタグラムなどのSNSで日々の開花や紅葉の情報を発信する観光協会や山小屋が増えています。もちろん登山地図GPSアプリ「YAMAP」の活動記録を見れば、最新状況もチェックできます。紅葉の場合には、YAMAP独自のリアルタイム紅葉モニターもぜひ活用してください。

茶屋・山小屋のごはんは時間に注意

マナスル山荘本館のランチ(撮影:鷲尾 太輔)

茶屋や山小屋のグルメを目的にする場合は、営業日や時間のチェックは必須。例えば首都圏の登山者に人気の奥高尾縦走路にある城山(東京都/神奈川県、670m)・景信山(東京都/神奈川県、727m)・陣馬山(東京都/神奈川県、854m)の茶屋は、基本的に週末・祝日のみの営業です。

絶品のビーフシチューや揚げたてのから揚げ定食が人気の入笠山(長野県、1,955m)にあるマナスル山荘本館のランチ営業は11:00〜13:00のわずか2時間(2022年現在)。「お目当てのグルメが食べられなかった……」というショックは意外と深いダメージになるので、事前に公式サイトやSNSを確認しましょう。

宿泊施設・テント場は予約を確認

テント場も予約制が増加中(撮影:鷲尾 太輔)

天候悪化などの際の“緊急避難場所”という役割から、かつては「予約しなくても泊まれる」というイメージが強かった山小屋ですが、それは過去の話。新型コロナウイルスの流行から、ゆとりを持った就寝スペースの確保や個室制の実施が一般化。定員を制限する山小屋も多く、事前の予約は必須です。

その山小屋が管理するテント場も、事前予約制の場所が増加中。もし予約が必要なテント場であれば、予約開始日も必ず確認しましょう。北アルプス・槍ヶ岳(長野県/岐阜県、3,180m)の山頂直下にある槍ヶ岳山荘のようにテントを設営できるスペースが少ない稜線上のテント場は、夏山シーズンの週末ともなれば、予約の開始日で埋まってしまうこともあります。

法要・神事や祈祷の場合も

高尾山薬王院の春季大祭(撮影:鷲尾 太輔)

山岳信仰の対象であり山中に寺社仏閣がある山では、年中行事のスケジュールの確認がおすすめ。年に一度の大法要・例大祭などに合わせて登山すれば、いつも以上に神聖な祈りの場としての山を実感できます。もちろん、山中や山麓の駐車場は混雑します。混雑を避けるために境内への立入が制限される寺社もあるので、注意が必要です。

1日のうちで決まった時間に鐘をついたり神事や祈祷などが行われる寺社であれば、その時間にあわせて山登りのスケジュールをたてるのも一興。梵鐘の音、法螺貝や太鼓の響き、経文や祝詞を唱える声など、耳でもその山のありがたさを感じ取れます。

執筆・素材協力・トップ画像撮影=鷲尾 太輔(登山ガイド)

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。