登山で計画の次に重要なのが、時間の管理。出発にとまどったり、登るペースが想定より遅くなったりすれば、下山前に日没を迎えて遭難することも。登山中の理想のタイムスケジュールを組むため、歩行ペースから、休憩のとり方、水分・食事のタイミングについて、登山ガイドが解説します。
2023.02.02
YAMAP MAGAZINE 編集部
登山のタイムスケジュールの土台となるのが、登山計画書。まずはその計画に無理がないかの確認から始めます。計画なしには、時間の管理もできません。
そして、登山のスケジュールを組むときに、注意すべきポイントは主に3つです。
▼参考記事
登山計画書(登山届)の作成でリスクを減らす【山登り初心者の基礎知識】
自動車の利用であれば、大都市圏では渋滞などの交通事情も加味しないと、計画通りの時間に登り始められません。レンタカーであれば、当日朝だと受付が混雑して意外と時間がかかってしまうことも。
冬場であれば、登山口までの道の冬期通行止めの有無を確認するのはもちろん、林道が凍結していないか、また、高速道路が雪で通行止めになっていないかも、出発前に確認が必要です。
駐車場が小さければ、登山口から離れた場所での駐車を余儀なくされることも多々あります。八ヶ岳の入山拠点の一つである桜平駐車場は、一番下の場所で登山口から3kmも離れています。これを想定していないと、歩行時間や距離は当初の計画と誤差の範囲ではなくなります。
中央アルプス最高峰として人気の木曽駒ヶ岳(2,956m)は、玄関口である菅の台バスセンター駐車場が300台収容と大規模でありながら、夏〜秋の週末には早朝から満車になることもあります。
地方の公共交通機関を利用する場合は、時刻表のチェックは優先事項。
奥高尾縦走路でも人気の高い城山(670m)の登山口のひとつ、大垂水バス停は、1日3往復しかバスが停車しません。同縦走路の陣馬山(855m)からの下山口としてよく利用される陣馬高原下バス停も、基本的に1時間に1本のみの運行です。
次のバスまで2〜3時間待ちぼうけ……という事態を避けるには、あらかじめ時刻を調べた上で、下山時の最後のほうがバス停までの駆け足にならないようにしましょう。
登山GPS地図アプリの「YAMAP」や登山地図などに記載されているポイント間の所要時間(コースタイム)は、ずっと歩き続けていることを想定した時間。休憩時間は追加して考える必要があります。
写真撮影や、道中の茶屋・山小屋のグルメ、山中にある寺社仏閣への参拝など、登山の目的にもなる“お楽しみ”を満喫するため、「ゆとりをもった時間」で計画を立てるのが登山の基本。
登山口から下山口までの時間を、歩行時間のみで計画していないか、今一度チェックしてみましょう。
ご来光や夜景を見るため、日の出前・日没後に行動する特殊な場合を除き、登山は原則、明るい昼間に行うレクリエーション。
特に日没が早い晩秋〜冬場の樹林帯では、午後4時前には薄暗くなります。下山の予定時刻は、遅くとも日没の2時間前になるよう、登山計画を立ててください。
宿泊する場合、山小屋やテント場への到着は、午後3時前が原則。日没間際の行動は危険なだけでなく、夕食時の午後6時以降のチェックインはスタッフも忙しく、負担をかけてしまいます。
▼参考記事
初めての山小屋泊|基本とルールと必要な装備【山登り初心者の基礎知識】
休憩やお楽しみの時間を除く、登山の大半を占めるのが“歩く”時間。どのように歩くかは、疲労やリスク回避、スケジュール通りに安全に下山できるかにつながってきます。
一般的に登山の場合は、最大心拍数(220−年齢)の75%程度の心拍数で歩くと、疲れにくいと言われています。そのためには、1分間の歩くピッチを意識する必要があります。
年齢や体力によりますが、登山では1分間に60〜80歩程度で歩くのが無理のないピッチ。ゆるやかな場所や下りで早足になってしまうと、ピッチが乱高下してしまい、疲労の原因になってしまいます。
自分にとって無理なく快適なピッチを保った上で、急な登りは小股、ゆるやかになったら大股、と歩幅でスピードを調整しましょう。こうすることで心拍数も一定に保たれ、疲労の防止につながるのです。
YAMAPアプリや登山地図には山頂だけでなく、分岐や茶屋、トイレなどのランドマークにもポイントが設定され、ポイント間のコースタイムを確認できます。まずは最初のポイントで、登山口からの所要時間や現在時刻を確認しましょう。
登山の地図やアプリ画面に記載されているコースタイムと、登山計画書のポイント通過予定時刻を照合しながら、自分のペースが順調なのか、遅れ気味なのかを確認。ポイントごとに、こまめにこれを繰り返していきます。
▼参考記事
YAMAPプレミアムユーザー向け機能「到着予想時刻」とは
ペースが遅れ気味だからといって、焦りは禁物。むやみにペースを上げることは、疲労だけでなく、転倒や滑落でのケガの原因にもなります。
こうした場合はスケジュール通りの登山に固執せず、なるべく早いタイミングで、いさぎよく引き返すか、エスケープルートでの下山を検討することが、安全登山には重要です。
「何時までに頂上に着かなかったら引き返す」と決めている登山者は多くいます。
登山を開始したら20〜30分以内に最初の休憩。靴ひものゆるみやザックのフィッティングのチェック、体感温度に応じて衣服を調整します。喉の乾きを感じる前に、口を潤す程度の水分摂取もおすすめです。
それ以降は、1時間に1回程度の休憩が望ましいとされています。しかし、あくまでも目安。疲労が蓄積する前に、あるいは細い稜線など休憩に適さない危険な区間にさしかかる前に、休憩するタイミングを適宜設けます。
休憩の種類は大きく分けて以下の3種類です。
特に荷物が重い場合はザックを下ろして再び背負うという動作も、あまり頻繁に行うと身体に負荷がかかります。喉の乾きや空腹感がなければ、ザックを背負って立ったまま2〜3分呼吸を整えるだけでも、適度な休憩になります。
ベンチや東屋が設置されていたり、広くなっている場所では、ザックを下ろして5〜10分程度の小休止。ここでは水分や行動食の補給、衣服の調整、ペースの確認などをします。
ちなみに、汚れを気にして、ベンチの上にザックを置くのはマナー違反。ザックは地面に置いて、ひとりでも多くの人が休憩できるように配慮します。
山頂や展望ポイントなどでは、30分程度の大休止をとります。記念撮影をしたり、お弁当を食べたりしながら、のんびりと山の上からの絶景を楽しみましょう。
ただし、悪天時やそもそも気温が低い雪山などでは、長時間の休憩は体温の低下につながるので要注意。行動時間の長いロングコースなどでは、大休止を設けず、小休止で水分と食料の補給を繰り返しながら、1日を歩ききることもあります。
水分も食事も一気に大量に摂取するのではなく、こまめに少量ずつ摂取するのが登山の原則。例えば、暑いからといって大量の水をがぶ飲みしてしまうと、多量の発汗や尿意を催す原因となります。
食事も同様で、筋肉に血流が集まっている登山中にお弁当などを一度に全部食べてしまうと、血流不足の胃腸が消化しきれず腹痛などの原因になることも。
胃腸が食べたものを消化吸収するためのエネルギー消費(食事誘発性熱産生)が大きくなりすぎて、かえって疲労する場合もあります。
昨今の異常な猛暑ですっかりおなじみになりましたが、発汗によって失われるのは水分だけではありません。塩分などの電解質も補給しないと、足のつりや熱中症の原因になってしまいます。
経口補水液やスポーツドリンクがおすすめですが、甘い飲み物が苦手という人は、塩飴や塩分タブレットなど行動食で電解質を補給しても良いでしょう。
▼参考記事
登山に必要な水の量はどのぐらい? 必要量と補給タイミングを解説【山登り初心者の基礎知識】
登山はハードで長時間に及ぶスポーツ。きちんと食べてエネルギーを補給しないと、ハンガーノック(シャリバテ)を起こし、ひどい場合には行動不能となることもあります。
特に重要なのが、身体を動かすエネルギー源となる糖質(炭水化物)。おにぎりは代表的な炭水化物ですが、重いのが難点。カロリーメイトなど、軽量でハイカロリーな行動食も多数あるので、登山にとり入れてみるのもおすすめです。
▼参考記事
登山の行動食おすすめ。定番からお手軽コンビニ系まで一挙紹介!【山登り初心者の基礎知識】
お手製の山ごはんや、山小屋ならではのグルメは登山の大きな楽しみ。しかし「こまめに」「少量ずつ」というポイントとは背反するのも事実です。
これらを楽しむ際には、その後の行動予定に留意しましょう。トイレのある場所をチェックするほか、胃腸が食べたものを消化吸収するためのエネルギー消費が大きくなって疲労する場合に備え、無理のないスケジュールを立てたいものです。
YAMAPの活動日記では、たくさんの登山者がどんなスケジュールで登山を楽しんだのかを確認できます。「歩行ペース」「休憩ポイントや休憩時間」「飲食の内容」などは、個人の体力差やルートの状況によって人それぞれ。他の登山者と比較しすぎず、自分ならではの、ゆとりを持ったスケジュールで登山を楽しんでください。
登山にあたり、命を守るために身につけておくべき装備・道具や、知っておくべき知識・技術は色々ありますが、登山保険もぜひ入っておきたい、大事な備えのひとつ。
YAMAPグループの「外あそびレジャー保険」は、いざ遭難救助が必要になったときの高額費用や、部位・症状別のケガの補償をしてくれるだけでなく、登山以外での外遊びや日常のケガの補償もしてくれます。
また、遭難・行方不明時には、同じ山に登っていたYAMAPユーザーから目撃情報を募ることができるサービスも提供。
期間は7日から選べるので、単発での山行にも対応。登山や海・川でのアクティビティによく行く方にも便利な保険です。
執筆・素材協力・トップ画像撮影=鷲尾 太輔(登山ガイド)