テント泊の縦走登山は重い装備を背負うため、なるべく軽量化して歩きたいところ。特に悩ましいのが食料です。 必要以上に食料を軽量化すると、食事の満足度が下がって登る意欲が落ちたり、体に不調が出たりしてしまうことも。今回はテント泊の登山に必要な食事の条件や、おすすめ食材、軽量化の技を紹介します。
2023.03.29
YAMAP MAGAZINE 編集部
まずは縦走登山の食事の条件として、おさえておきたいポイントを解説します。
テント泊の装備を背負って歩くため、「いかに持ち運ぶ食事の重量と体積を減らすか?」が最初の重要なポイント。単純に2泊3日の縦走の場合でも、山に入る前の朝食と下山後の夕食を抜きにしても、山にいる7食と行動食に予備食料を持ち歩くことが必要になります。
アルファ米やフリーズドライを上手く活用すると、驚くほど軽量化・小型化できます。最近はコンビニやスーパーでも味の良いものが販売されているほか、スープ専門店のポタージュやチャウダーなど、普段の自宅の食事でも満足できるものが増えてきました。
ネット通販などを活用しながら、自分だけのお気に入りのフリーズドライを見つけてみてください。
調理に必要な燃料(ガス等)を多く消費する料理は、燃料の分だけ重くなってしまいます。そのため縦走では、簡単、短時間で作れる料理が良いでしょう。
アルファ米やインスタント麺のように、お湯を沸かして注ぐだけ、もしくは煮るだけのシンプルな調理であることが重要です。
縦走登山に必要なカロリーはもちろん、5大栄養素を意識しておくと、バテや足のツリを予防できます。長期間になるほどじわじわと食事の重要性が増してきますので、アルファ米やインスタント食材で軽量化をしつつ、足りない栄養素はサプリメントなどで補うと、翌朝の回復も違ってきます。
炭水化物
エネルギー源となる「糖質」と、腸内環境の改善に使われる「食物繊維」から成り立ち、長距離を長時間歩く登山では一番必要な栄養素です。
脂質
糖質と同じくエネルギー源となる栄養素。ナッツ類やゴマに良質な脂質が含まれています。
たんぱく質
筋肉や内臓、皮膚、髪の毛を作る素になる栄養素。縦走登山ではBCAA(必須アミノ酸)サプリ等も併用して積極的に摂取し、疲労した筋肉を修復します。
ミネラル
骨や血液の素となり、体の調子を整えます。登山では発汗によってナトリウムが失われるので足のつり防止のため、塩分補給も大切です。
ビタミン
体の調子を整える栄養素。タンパク質等、他の栄養素の吸収を促進するビタミンB1等の重要な栄養素もあります。
アルファ米はお湯を注ぐだけでホカホカのご飯ができる便利なお米です。登山者の間で愛用者が多いメーカーが尾西とモンベル。白米からピラフ、チャーハン、エスニック料理まで、さまざまなバリエーションが販売されています。
縦走に持っていくときは、少しでも荷物を減らすため、パッケージを開封。中に入っているプラスチックスプーンと脱酸素剤を取り出し、中身のアルファ米だけをジップロックへと詰め替えるのもおすすめです。
1回分では大きな差にはなりませんが、縦走登山の場合は何食分もあるため、このように詰め替えることによって数百グラムの軽量化になります。
元々のパッケージは1袋だけ持っていき、食べる時には茶碗代わりに、何度も再利用する方法も。下山後はゴミとして処理できます。
途中、山小屋の食堂を利用して持って行ったアルファ米が余っても、災害用の備蓄として使えるので、常に家にストックしておきたいところ。賞味期限も長く、買い足しながら使っていくローリングストックがおすすめです。
最近では、日清食品のお湯でもどせる「カレーメシ」をアルファ米がわりにする人も増えています。1食あたりの価格が安く、お湯で戻す時間が少なくてすむことも人気な理由のようです。
ご飯ものと合わせて準備したいのが麺類。インスタントラーメンが定番で、乾麺をパッケージから出してジップロックへ。複数持っていくなら、スープの小袋はどちらの麺とセットになるかマーカー等で目印を書いておくと良いでしょう。
パスタはゆで時間が2〜3分のパスタを持っていくのが多数派。マ・マーの「早ゆで3分スパゲティ1.6mm」や、はごろもフーズの「サラスパ」など、比較的スーパーや大手のネット通販で手に入りやすくておすすめ。マ・マーには、マカロニの早ゆでタイプもあります。
一般的に家庭で使われているパスタでも、塩を入れた水に漬けたまま持ち運び、茹で時間を大幅に短縮する技もあります。ただ、縦走では重量が増してしまうので、1泊2日か日帰りでの活用がおすすめです。
パスタの場合にはゆで汁が出てしまいますが、手慣れた登山者のなかには、水分量ギリギリでゆでる人も。後にその場所を使う人のことを考え、余った汁を地面に捨てるのは避けましょう。テント場に野生動物が寄ってきてしまう可能性もあります。なお、茹で汁に粉末スープを入れるという活用法も試してみてください。
グラノーラなどのシリアル類は軽量で保存もでき、調理をしなくても食べられるため、縦走の食事に適しています。
ただし、味の好き嫌いもあるため、いきなり山へ大量に持っていって好みに合わないとかなり辛い思い出になってしまうため、家で試食をしてから山へ持っていくことをオススメします。
フリーズドライ食品は凍結させた食品を真空状態に置き、水分を昇華させ乾燥させたもので、もとの食品の味・香り・栄養素が残りやすいのが特徴です。水分を除くため軽量化でき、登山で自炊する際に重宝されています。
種類としてはカレー、丼物、スープなどがあり、長期縦走の時はパッケージから出してまとめてジップロックへ詰め替えると軽量化できます。
スーパーやコンビニでも販売されていますが、大手のアウトドア量販店でも多くの種類があるので、ぜひ一度のぞいてみてください。
カレーや丼物などのレトルト食品は水分が多いため、縦走登山に持っていくには少し重くなるのが難点ですが、1日目や2日目に食べてしまうのであれば、あえて持っていき、縦走の序盤で豪華な食事を楽しむのもありです。
縦走後半では後述する山小屋の食事をうまく取り入れて栄養のバランスをとりましょう。
炭水化物だけ補給するのは2〜3日程度の山行でしたら問題ないかと思いますが、それ以上の長期間山へ入る場合は体の調子を整えるため、ビタミン・ミネラルを適度に補給したいところ。
軽量で手軽にビタミン・ミネラルを補給できるのが乾燥野菜や海藻類の乾物です。
ご飯や麺類の主食にまぜて調理するだけでビタミン・ミネラルを補給できます。
高野豆腐や大豆ミートは軽量かつ保存性も高い貴重なタンパク源です。うまく活用して栄養補給して下さい。
ドライフードばかりで必要な栄養素をすべて補給しきれない場合は、サプリメントを併用して上手に栄養を補給するのも大切です。
歩き始める前に摂る朝食には、急激に血糖値を上げる糖類よりも、ゆっくりエネルギーに変わる炭水化物がオススメ。
・アルファ米ごはん&フリーズドライ味噌汁といったお米中心の食事
・棒ラーメン、うどん、そばなどの麺類でもOKです。
長距離を歩く縦走では昼食は基本的には行動食で済ませ、行動時間を確保します。
一般的な行動食は、エナジーバー、ナッツ類、シリアル、魚肉ソーセージ、チョコレート、ようかん、エナジージェルなどがありますが、栄養・軽さ・味を考慮して好きなものを持っていくと良いでしょう。
※行動食について詳細は別記事を参考にしてください。
登山の行動食おすすめ。定番からお手軽コンビニ系まで一挙紹介!【山登り初心者の基礎知識】
登山では早出早着が基本のため、夕食の時間はたっぷりあるはず。炭水化物に加えタンパク質を補給し、1日の疲れをしっかりと癒せるような料理を食べると良いでしょう。
・アルファ米&フリーズドライのおかず
・ラーメン、パスタ、そばなどの麺類
上記が基本メニューです。
高野豆腐や大豆ミートを入れてタンパク質の補給、乾燥野菜などを入れてビタミン・ミネラルを補給することを忘れずに。長期縦走ではサプリメントなどで必要な栄養素をしっかりと補うのがおすすめです。
ここまでは軽量化を優先した食事を紹介してきましたが、毎回アルファ米やフリーズドライばかりでも飽きてしまうことも。
そんな時は山小屋で食事を注文してみるのもオススメです。昼食に限らず、夕食・朝食を提供している山小屋もあります。詳細は各山小屋のホームページを確認するか、電話で山小屋へ問い合わせましょう。
※感染症対策で提供を中止している山小屋が多いため、食事が提供されているか事前に下調べをしてください。
ここでは具体例として、北アルプス表銀座縦走3泊4日の食事プラン例を考えてみたいと思います。
朝:高速道路のサービスエリアで丼物
昼:コンビニおにぎり
夜:アルファ米・レトルトカレー・スープ
朝:インスタントラーメン
昼:行動食
夜:アルファ米・レトルト丼物・スープ
朝:そば
昼:行動食
夜:パスタ・スープ
朝:インスタントラーメン
昼:行動食
夜:下山後にレストランで食事
コンビニおにぎり:1食分
アルファ米:2食分
レトルトカレー:1食分
レトルト丼物:1食分
インスタントラーメン:2食分
そば:2食分
パスタ:1食分
スープ:3食分
行動食:3食分
今回は食事に飽きの来ないように、米類にコンビニおにぎり・アルファ米、麺類にラーメン・そば・パスタと異なる食材を持ちました。
さらに簡素化や軽量化するのであればすべてアルファ米やパスタにするなどの案も考えられます。うまく山小屋の食事を活用すればさらに軽量化できます。
今回は長期間の縦走登山の際に持っていく食事の軽量化についてお伝えしました。
1泊2日や2泊3日の短期間の縦走であれば、もちろん体力と相談ですが、好きなものを持っていって、楽しく山ごはんを作るのも良いと思います。
長期の縦走では食料の重さの差がかなりシビアに効いてくるので、しっかりと軽量化して体力を温存し、快適な登山を楽しんで下さい。
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執筆協力:上田洋平(登山ガイド)