登山用のクッカー(調理器具)はバックパックに入れて運ぶ必要があるため、軽量・コンパクトなものが好まれます。しかし、数あるクッカーの中から、自分の用途に合った大きさ、材質のものを最初から選ぶのは難しいのも事実。山での調理に最適なクッカーの選び方とおすすめの商品を、登山ガイドがわかりやすく紹介します。
2023.07.06
YAMAP MAGAZINE 編集部
クッカーとは、野外用の調理器具の総称で、ドイツ語でコッヘルともいいます。登山用には、軽量・コンパクト・耐久性を備えたものが好ましいとされ、選ぶ上でのポイントは次の3点が挙げられます。
1.用途に合った「素材」
2.料理の種類に合った「形状」
3.人数に合った「サイズ」
インスタント麺やアルファー米を食べるためにお湯をわかすだけでいいのか、ちょっと贅沢な山ごはんのために炒め物をするのか、自分が山で楽しみたい料理のスタイルを事前に決めておくと、さらに絞りやすくなります。
まず最初に考慮したいのが素材。クッカーに主に使われている素材は、アルミ、チタン、ステンレスの3種類です。
それぞれの特徴を下の表にまとめるとともに、素材のメリット、デメリットを解説します。
アルミは重量、熱伝導率、耐久性、価格のいずれも欠点が少なく、バランスの良い素材。最初にクッカーを購入するなら、アルミ製がおすすめです。
【メリット】
・アルミのクッカーは、登山の持ち運びにも問題無いレベル。チタンより重く、ステンレスより軽量。大手ブランド・モンベルの本体750ml、フタ430mlがセットになったアルミ製クッカーは222g。
・熱伝導率が高いため、火の熱が伝わりやすく、燃料の消費を抑えられる。
・熱ムラがなく、比較した素材のなかでは料理が焦げ付きにくいのも特徴。
・耐久性という点では、柔らかい素材のため、チタンやステンレスより劣る。一般的なアウトドア向けの製品は、板厚を増して強度を上げているため、通常の登山用バーナーを使った料理での使用には問題ない。
・価格はチタンに比べて安価。大きさにもよるが、国内主要ブランドの本体フタとセットのもので3,000〜4,000円台から購入できる。
【デメリット】
・大きなデメリットは特にないが、重量にシビアな山行をする人にとっては、チタンよりも重いことがネックに。
チタンの最大の特徴は、なんといっても「軽量」なこと。比重(物質の質量 / 同一の体積の水の質量)を比べると
鉄:7.87
チタン:4.51
アルミ:2.73
アルミの方が比重は軽いのですが、強度を出すために板厚を増す必要があります。一方、チタンは強度が高く、薄い板厚で製品を作れるので、商品の軽さとしては、チタンに軍配が上がります。
【メリット】
・3つの素材の中では最軽量。チタン製品に強いエバニューの容量500mlのモデルで約75g。
・強度が高く、耐久性にも優れているので、薄く加工できる。
・熱伝導率は良くないが、火の当たる部分の加熱速度が早く、燃料消費はアルミ、ステンレスと比べると少ない。
・金属臭がしないため、食べ物や飲み物の風味を壊さない。
【デメリット】
・熱ムラができやすく、料理が焦げ付きやすいので、炒めものなどの調理は得意ではない。
・今回比較する素材の中で最も高価。大手ブランドの500mlのモデルで市場価格でも5,000円強はする。
ステンレスは安価で、素材の加工もしやすいことから、家庭やオートキャンプの調理器具によく使われています。ただし重量があるため、軽量性が求められる登山での持ち運びには向いていません。
【メリット】
・強度が高く、耐久性は高い。
・3素材の中で最も安価。
・熱ムラが無いため、料理が焦げ付きにくい。
【デメリット】
・重さがあるため、登山での持ち歩きには適していない。
・伝導率が低く質量が大きいため、加熱速度が遅く、ほか2素材より燃料を消費しやすい。
以上の特徴から、登山ではバランス型の「アルミ」、軽量化重視の「チタン」が現実的な選択肢となります。
クッカーの形状には次のようなさまざまな種類があり、料理の種類によって最適な形状は異なってきます。
・丸型
・バーナー一体型
・角型
・フライパン型
お湯を沸かしてカップラーメン、アルファー米、フリーズドライ食品、スープ類を作るといったシンプルな調理はどの形のクッカーでもできます。
そのなかでも、お湯を沸かすということに特化しているのが、「バーナー・クッカー一体型の丸型タイプ」です。
ジェットボイルのような一体型クッカーは燃焼効率も高く、素早くお湯を沸かせます。ジェットボイルの公式サイトによると、主要モデルのマイクロモ(容量800ml)であれば、500mlを2分20秒(公式サイト情報)で沸騰させられます。
クッカーとバーナーが一体となっているため、重量は約340g。一般的な日帰り登山では問題ない重さですが、軽さを重視する長期縦走やウルトラライト(UL)の人にとっては、少し悩ましい重さです。
とはいえ、寒くなる季節に休憩ですぐにお湯がわかせるメリットは、ほかのクッカーにはないアドバンテージなのは間違いありません。
袋ラーメンなどをゆでるのに最適なのが角型クッカーです。四角いので袋のインスタントラーメンがすっぽり入ります。角型は物を収納するときにデッドスペースができにくいメリットもあります。
大きめの丸型クッカーは、大人数で鍋物などを作るときに活躍します。
目玉焼きやチャーハンなどの炒めものを作りたい場合に最適なのが、フライパン型。コーティングされているモデルだと、料理がクッカー本体にこびりつかず、ティッシュでさっと汚れをふきとれ、洗い物ができない山の上では助かります。
丸型のクッカーには、本体や丸型のふた部分をフライパンとして使え、炒めものができるモデルもありますので、ご購入時に確認してください。
ごはんを炊くのに適しているのが、アルミ製飯ごうのメスティンに代表されるふた付き角型モデル。ふたでしっかりと密閉できるため、クッカー内の圧力が高まり、美味しくごはんを炊けます。
登山でのテント泊の食事には、主食のご飯にアルファー米を使う場合が多いですが、時間や燃料に余裕のあるときに食べる炊きたてのご飯は、最高の贅沢。丸型も、ふた部分に重りを乗せることで、密閉度を高めて炊飯できます。
ここまでの説明で分かってくるのが、丸型の万能性。どんな調理もこなすバランスの良さを持っており、最初のクッカーは丸型にしておけば、ほとんどの場合には困りません。
その後、登山でもこだわった料理を食べたくなったり、振る舞いたくなったりしたら、炒めものを美味しく作れるフライパン型がおすすめ。炊飯をしたいとなったら、ふた付きの角型を買い足せばいいでしょう。
素材、形状とイメージが整ってきたところで、最後の選択の基準は「サイズ」。いつもグループ登山で、ほかのメンバーの分も一緒に作る場合は大きめのサイズ、ソロ登山やグループ登山でも食事は各自で作る場合は、ソロ用の小さなサイズというのはイメージがつくと思います。
それでは「具体的にどれくらいの容量がいいのか?」と迷うところですので、選ぶ基準を説明します。
ソロで使う場合の目安の容量は、約500ml〜900ml。料理をする場合には、小さすぎても食材が入らず、調理しづらいからです。
900mlでも沸騰した時にこぼれずに沸かせるのは700〜800ml。これだけあればラーメン(300〜500ml)とコーヒー(150〜200ml)を作っても少し余裕があります。
内径11cm、外径12.5cm以上の丸型クッカーだと、250サイズのガスカートリッジ(直径11cm)や小型バーナーを収納できるのでおすすめです。レトルト食品の温めやインスタントラーメン作りにも使えます。
もし料理はせず、カップラーメンやアルファー米のお湯を沸かすだけと割り切るのであれば、500ml以下のULな小型サイズも選択肢に入ってきます。
グループで使う場合は「500ml×人数分の容量」を一つの目安にして下さい。
登山用のクッカーだと2000ml程度が最大サイズなので、それ以上の大人数の分を料理する場合は、複数のクッカーを持っていくとよいでしょう。
登山におすすめな形状は丸型で、素材は価格を重視するならアルミ、縦走などで軽量性を考えるならチタン。
グループで登山する場合も各自で料理することが多いため、ソロ登山でもグループ登山でも使えるように、まずはソロ用の500ml以上のサイズを買うとよいでしょう。
登山用のクッカーの選び方が分かったところで、次は登山ガイドの経験をもとに、おすすめのクッカーを紹介していきます。
キャンプ用品メーカーの雄、コールマン。女子高生たちのキャンプの成長を描いた人気アニメ『ゆるキャン△』の主人公が使っていたクッカーのモデルと聞いて、侮ってはいけません。
容量900mlポットと400mlカップに、収納袋のメッシュポーチがセットに。内側にはフッ素コーティングがされ、ポットには注ぎ口が付いているのも地味に助かるポイントです。250サイズのガスカートリッジをすっぽりと収納でき、重さ約250gも合格点。
硬度の高い特殊アルミ素材を使うことによって、チタンと間違えるほど軽く、わずか152gを実現。容量は1200mlあるので、2人分の料理まで作れます。
内側には、焦げ付き防止技術のプラズマコーティング加工が施されているため、炒めものの料理をしても焦げ付きがほぼ無く、山の上での後片付けに困りません。
生米を炊いて美味しいごはんを食べたいなら、メスティンがおすすめ。アルミ無垢の製品だと焦げ付きやすいので、コーティングされているものが後片付けが楽です。
メスティンとはアルミ製飯ごうの総称。トランギア社製がこれまでの代表格でしたが、今では各種アウトドアメーカーから多様なモデルが発売されています。
袋ラーメンを割らずに調理できるクッカー。四角い鍋が大小2つ、フライパンが1つのセットになっているため、その時の料理によって使い分けが可能。大小の鍋は重ねて携帯でき、省スペースになります。
EPIgas製のチタンクッカー。アルミを底面に吹き付けるアルミニウム溶射(Aluminium Thermal Spraying、ATS)という技術によって、熱伝導率の低いチタンでもクッカーの底面全体に熱が行き渡るようになっています。
鍋には注ぎ口がついているので、沸かしたお湯をこぼさず注げるのもポイントです。
今回は登山用クッカーの選び方とおすすめ製品について紹介しました。お気に入りのクッカーを見つけて、より快適で美味しい山ごはんを楽しんでください。
執筆協力・写真提供:上田洋平(登山ガイド)