暗くなってしまった夜道で、足元や進む先を確認するために必要な「ヘッドライト」。日帰り登山の場合でも、トラブルで下山が遅れて日が暮れてしまった場合には必ず必要なアイテムです。山の中は、日没前であっても想像以上に暗くなります。今回は登山ガイド・上田洋平さんの監修解説で、安全のために欠かせないヘッドライトの選び方と使い方を紹介します。
2024.02.19
YAMAP MAGAZINE 編集部
ヘッドライトは主に夜間の行動に使用するアイテムですが、日帰りのトレッキングやハイキングにおいても必需品です。日照時間が短い季節だと早朝の薄闇の中で行動するシーンも多くなるほか、予期せず下山が遅れてしまったときでも、ヘッドライトさえあれば安全に歩くことができます。
スマートフォンで代用をと考える人もいるかもしれませんが、スマートフォンのライトは遠くを照らすことは想定されておらず、日が落ちた山道を歩く際には、光源として不十分です。
また片手がふさがって危ないのに加え、貴重な通信手段のバッテリーの消耗にも直結します。このような理由から、ヘッドライトの携行は日帰り登山であっても登山者の鉄則になっています。
ヘッドライトは、製品ごとに明るさ、給電方法、防水性などの違いがあります。それぞれの項目ごとのチェックポイントをご紹介します。
LEDライトの明るさは「ルーメン(lm)」という単位で表し、数値が高いほど明るいことを意味します。登山向けとして、日帰りから宿泊までをカバーする汎用的なタイプを使用したい場合には、200ルーメン(lm)を目安にして選ぶとよいでしょう。
また、登山で使用するヘッドランプはルーメンの数値だけではなく、照射距離も考慮して選ぶ必要があります。最低でも30m、夜間の行動が必要なシーンでは50m以上の照射距離のあるモデルがおすすめです。
ヘッドライトの給電方法は、大きく分けると「乾電池式」と「充電式」の二種類に分けられます。
「乾電池式」のメリットは、登山口近くのコンビニなどで乾電池を手に入れやすい点。充電式と異なり、『充電忘れ』などのリスクを回避できます。また、比較的安価なモデルが多いこともメリットのひとつといえるでしょう。
「充電式」のメリットは、ランニングコストが安く、高出力のモデルが多いことが挙げられます。充電する手間が発生する点がデメリットですが、自宅で充電しておくことと、野外に出た際にはモバイルバッテリーを持参することで、急なバッテリー切れにも対応できるでしょう。
ただし近年は、「乾電池」と「充電」の両方に対応したヘッドライトも増えています。ハイブリッド型であれば、どちらかの給電方法が使えなくても、別の方法で給電ができるため安心です。
ヘッドライトには、雨などによって濡れてしまっても問題なく動作する防水性も必須です。ヘッドランプの防水性能はIPコードで表示されるのが一般的です。防水性能は末尾の数字で表され、無保護の0から8段階で保護等級が設けられています。
ヘッドライトの防水性能は、IPX4以上があれば十分といえます。大雨の中でも問題なく使えるレベルを求める場合、IPX6以上あれば安心。性能が高くなるほど価格も高くなるので、必要十分なレベルのモデルを選びましょう。
基本性能に加えて、連続照射時間や点灯モードの切替などの機能もチェックしましょう。
■連続照射時間
日帰り登山・低山ハイキングでの万が一に備える目的であれば、連続照射時間が4時間程度であれば問題ないと言えます。
ただし、製品情報に記載されている連続照射時間は、フル充電の状態で、なおかつ同じ照度で連続使用したときの数値です。実際には何度も明るさを変えながら使用することが想定されるため、あくまでもこの数字は目安と考えてください。
とはいえ、基本的にバッテリーを無駄遣いしないように注意すれば、どのモデルも一晩中使い続けることができます。行動中だけでなく、テント内での照明としても使用することを想定する場合には、予備のバッテリーや乾電池を必ず用意しましょう。
■点灯モードの切替
ヘッドライトには、製品ごとに違いはあれど、複数の点灯モードが備わっているものがほとんどです。具体的には、照射距離を変えられる機能、光の色を変更できる機能、点滅機能などがあります。
◯照射距離
照射距離を変えられる機能は、夜道を歩く時、調理作業をする時など、必要とする光量を調整できるため便利な機能と言えます。
◯光の色
光の色はおもに、白色・電球色・赤色などが搭載されている場合が多く、それぞれに目的・用途があります。自分の使用用途にあった機能が搭載されているものを選びましょう。
①白色
陰影がしっかりと視認でき、地形の起伏などの確認に適しているため、登山の行動中におすすめ。
②電球色
目に優しく温かみがあるため、食事や団欒のシーン、作業用の手元灯として使いやすいです。
③赤色
光の反射が抑えられ、目への刺激も少ないため、山小屋などで寝ている人を起こさないように作業したい際などに役立ちます。天体観測や動物観察などに最適。
■誤作動防止機能
ヘッドライトはボタンが表出しているため、誤作動が起きやすいという難点がありますが、近年のヘッドライトでは一部、スイッチロックと呼ばれる誤作動防止機能が施されているものもあります。これにより電池の予期せぬ浪費を防ぐことができます。
ここまでにご紹介した選び方のポイントをおさらいしながら、登山におすすめのヘッドライト製品を3つご紹介します。
ドイツ生まれのポータブルライト専門ブランドLED LENSER(レッドレンザー) 。「MH3」は、市販の単3電池x1本で使用でき、操作もシンプルな初心者でも扱いやすいヘッドライトです。
最大光量は200ルーメンで、日帰り登山のお守りヘッドライトや、キャンプなどのアウトドアシーンでは問題なく使用できるスペック。複雑な機能を削ぎ落し、弱・強点灯の2モードで操作もわかりやすいのが特徴です。防塵・防水等級もIP54と高く、悪天候でも安心して使用できます。
「MH3」はライト本体をベルトから取り外し、ザックやウエアへ装着する補助ライトとしても使用可能。初心者ハイカーの最初のヘッドライトにおすすめの製品です。
ヘッドランプやランタンといえば海外ブランドが主流な中、独自の視点で製品開発を進める大阪発信の新進気鋭のブランドmilestone(マイルストーン)。特に登山者の間で人気急増中なのが、給電方法が「乾電池式」と「充電式」の両方に対応している「MS-H2 ハイブリッドモデル ウォーム」です。
点灯モードはスポットとワイドとミックス(スポットワイド併用)の3種類。光の色は乱反射が少なく目に優しいとされている、黄味がかった電球色を採用しています。ワイド照射(80lm相当)で連続照射時間は150時間と、より長く使用できることに特化して開発されているため、バッテリー切れの心配は少なくなるでしょう。
Patagonia(パタゴニア)の創業者イヴォン・シュイナードが立ち上げたアメリカのクライミングギアブランドBlack Diamond(ブラックダイヤモンド)。「スポット400-R」は高い防塵・防水等級と複数の点灯モードが特徴で、夜や悪天候時の野外行動には最適なモデルです。
白色光は無段階で光量を調整でき、点滅モードや赤色灯モードを搭載しています。給電方法は「充電式」で、本体側面にあるバッテリーセーバーで電池残量を細かく確認できます。重量や光量も、登山での使用においてバランスのとれたモデルです。
クライミングギアとヘッドライトというジャンルで絶大なる信頼を獲得しているフランスのメーカー「PETZL」。「スイフト RL」は最大900ルーメンの高照度と自動光量調整システム(リアクティブライティング)を備えた革新的なヘッドライトです。
自動光量調整システムとは、そんなときに、光を当てた対象物からの反射光をセンサーで察知し、適切な光量に調整するシステム。遠くを見るときと足元を見るときでは光量を調整する必要がありますが、それをヘッドライトが自動で行ってくれるというものです。
給電方法は「充電式」。容量2350mAhのリチウムイオンバッテリーが標準装備されていて、付属のUSBケーブルで簡単に充電できます。本体上部にあるインジケーターを見れば、充電池の残量が5段階表示で確認できる仕様。これにより、充電のし忘れや、残量不足で使えなくなるというトラブルも回避できる万能ヘッドライトです。
ヘッドライトを購入したあとは、当日までそのままにせず、事前に使い方やバッテリーなどを確認しておきましょう。事前に確認しておくことで、必要なシーンで安心して使用することができます。
ヘッドライトは、製品によってボタンの数や照射モードの種類が異なります。多くの場合は、ひとつかふたつのシンプルなボタン数で、長押しや軽いタッチを用いたモード調整機能が搭載されています。事前に取扱説明書などを読んで、ヘッドライトの操作に慣れておきましょう。
ヘッドライトには電池式と充電式があるので、それぞれ予備の電池やバッテリーなどを持っていくようにしましょう。登山をする前には電池が入っていて、問題なく使えるかどうかを確認することを忘れずに。突然の故障やバッテリー不足によるトラブル防止のため、予備のライトを持っていけば安心です。
ヘッドライトのバンド部分は、頭位の大きさに合わせてサイズ調整が可能になっています。使用する時にサイズを調整しようすると、行動のタイムロスにもつながりかねないため、サイズ調整も事前に行っておくことがおすすめです。
ヘッドライトは自分の身を守るための大事なアイテム。真っ暗な登山道を歩くとき、明るい光があるだけで不安がひとつ解消されます。自分にあったヘッドライトを選び、いざという時に取り出しやすい場所に入れ、常に準備をしておきましょう。
1979年生まれ。名古屋市出身、神奈川県藤沢市在住。2児の息子の父。日本の山々だけでなく、海外の山々(アフリカ最高峰キリマンジャロ、南米最高峰アコンカグア)への登山経験を経て、2017年から富士山の登山ガイド。2019年4月に日本山岳ガイド協会登山ガイドステージI資格、2022年4月に登山ガイドステージII資格を取得し、専業ガイドに。
山岳写真を撮るため、フルサイズ一眼レフ、ジッツォの三脚、雲台、標準ズームレンズ、望遠ズームレンズを担いだドM登山も敢行。キャンプ、空手、筋トレ、旅行、読書、トレイルランニング、ギター、ゲームなど趣味多数。