登山用トレッキングポール(ストック)の正しい選び方と使い方|登頂と下山の強い味方【山登り初心者の基礎知識】

トレッキングポールは、山での歩行をサポートしてくれる心強い存在。膝や関節への負担を軽減させ、バランスを保つのに一役買ってくれます。正しく使えば、けがや転倒のリスクを減らせ、登りと下りが快適に。「まだ使ったことがない」という方のために、登山ガイドの上田洋平さんに監修いただき、トレッキングポールの適切な選び方と使い方を紹介します。

2024.02.29

YAMAP MAGAZINE 編集部

INDEX

トレッキングポールに適した登山シーン

GRIPWELL(グリップウェル)カーボンスーパーライト/ブラック/UNISEX(YAMAP STORE

トレッキングポールとは、登山用の杖のこと。「ストック」とも呼ばれ、登りや下りの足への負担の軽減のほか、足場が悪い道などでも安定した歩行のサポートをしてくれます。

基本的には2本で使用します。長く歩く縦走や、体力に自信がない時、バランスよく歩きたい時などに用いられます。

1本使いは、片手で安全を確保しなければならない場合に適しています。

登山道を保護する視点を忘れずに

トレッキングポールの先端は「石突(いしづき)」といいます。岩場や雪渓で使う場合は、滑りにくくするためにゴムキャップを外して使用しますが、基本的に石突にはゴムキャップを付け、登山道の保護を心がけましょう。

ゴムキャップは外れやすいので、山に落とすことがないよう、注意が必要。有名な山の登山道では必ずといっていいほど、落ちています。

ゴムキャップが抜けやすくなる理由

海外大手メーカーを取り扱う国内代理店の担当者によると、先端に泥汚れや砂が付いた状態でゴムキャップを装着すると、特に摩擦抵抗が下がり、ゴムキャップが抜けやすくなってしまうとのこと。

同様に、ゴムキャップ内部に砂などが付着した状態で装着しても、砂滑りを起こして抜けやすくなっている場合も多いようです。

さらに、先端部が岩稜帯での使用で削れて細くなってくると、新品のゴムキャップを装着しても抜けてしまうケースも。気づかずに装着し、落としてしまうケースも多いとのことです。

このほか、泥の中に先端が埋まったときは、取れていないか確認しましょう。脱落防止ストッパー付きなど、取れにくいゴムキャップもあります。雪上では基本的にキャップは使いません。

登山でトレッキングポールを使うメリット

膝や腰の負荷が軽減される

舗装されていない登山道では、想像している以上に足に負担がかかります。トレッキングポールを使えば、歩行時の負担が軽くなり、姿勢が保たれるので疲れにくくなります。

安定性を保つ

登山道は舗装されたアスファルトの道とは違い、でこぼこした道が多いため、バランスが保てずに転倒してしまうことも。しかし登山用ポールを使用することで、足場が悪くてもバランスを維持でき、怪我や転倒の予防になります。

トレッキングポールの選び方

トレッキングポールにもさまざまな種類があり、登る山やコンディションに合わせて選ぶことが重要です。価格帯や重量、強度、振動の吸収性などを考慮し、自分の登山スタイルに最適な素材を選んでください。

伸縮式か、折りたたみ式か?

折りたたみ式のトレッキングポール。ヘリテイジ ULトレイルポール(ウルトラライト トレイルポール MODEL 2023)(画像提供:ヘリテイジ)

トレッキングポールは、主に伸縮式と折りたたみ式があります。

【伸縮式のトレッキングポール】
伸縮式のトレッキングポールは、一般的な登山で使用されることが多く、こまめに長さを調節することができます。

長さ調節は、ポールの接続部をねじってロックする「ツイストロック式」と、ワンタッチのレバーで調節できる「カムロック式」、シャフトを引き伸ばすだけで自動的に固定できる「ラチェットロック式」などがあります。

伸縮式のトレッキングポールは一般的に、折りたたみ式に比べ、高い耐久性があるとされています。

【折りたたみ式のトレッキングポール】
折りたたみ式のトレッキングポールは、伸縮式のものに比べて軽量であり、折りたたみ時の最大長も短くなることが多いので持ち運びに便利です。簡単に折りたため、行動しながら作業できます。

ただし剛性(曲げやねじりに対する変形のしづらさ)が低く、耐久性が劣る場合があります。不要な荷物を削って重量を軽くしたUL(ウルトラライト)ハイクやロングトレイル、トレラン向きのポールは径が細く軽量な分、耐久性が低いため、通常の登山に使用すると折れる危険があります。

日本の山域は急勾配の登山道も多く、細い径のポールを使って体重をかける動きをすると、簡単に折れてしまうので、目的に応じてポールを使い分けるなどの選択が必要です。

ブラックダイヤモンドの「ディスタンスZ」やモンベルの「U.L.フォールディングポール」、ヘリテイジの「ULトレイルポール」など、簡単に折りたたむことができ、使用時にはスピーディーに広げることができるタイプもあり、ULハイクやトレランで愛用されています。

トレイルランやULハイク向きのBlack Diamond(ブラックダイヤモンド)ディスタンスZ(画像提供:ロストアロー)

素材は「アルミ」と「カーボン」の2タイプ

トレッキングポールに使用される素材は、主にアルミニウム、カーボンの2種類です。アルミニウムをカーボン繊維で包んだ、ハイブリットタイプもあります。

【アルミニウム素材】
比較的低価格。金属は曲がりやすいため強度が高く、頑丈なポールを求める人に適しています。カーボン材と比べてやや重くなりますが、多少曲がっても山で使い続けられるメリットがあります。

LEKI(レキ)マカルーライトAS(画像提供:キャラバン)

【カーボン素材】
軽量であるため、長時間の登山に適しています。登山において軽量化は重要なポイント。ですが、比較的高価になります。曲がってすむことがある金属と比べて、折れやすい素材であることも念頭において取り扱う必要があります。

重量よりも耐久性を重視している三段折り畳み式のLEKI(レキ)ブラックシリーズFXカーボン(画像提供:キャラバン)

トレッキングポールで有名なメーカーで、アルミ素材・カーボン素材で作られているものの重量の比較は以下の表の通り。

※全て2本ペアの場合の重量を記載しています

アルミ合金 カーボン
モンベル アルパインポール
約420g
アルパイン カーボンポール
約354g
ブラックダイヤモンド パーシュート
S/M=474g
M/L=508g
ディスタンスカーボンFLZ
(トレイルラン、ULハイク用)
95~110cm=324g
110~125cm=352g
125~140cm=380g
LEKI マカルーライト AS
67~135㎝
516g
ブラックシリーズ FX カーボン
‎456g

長さやサイズが異なりますが、カーボン素材の方が比較的軽量なことがわかります

グリップは「T型」か「I型」

T型・I型両方、用途に合わせて使えるmont-bell(モンベル)2-Wayグリップ アンチショック(画像提供:モンベル)

持ちやすさ、操作性、快適性に大きく影響するグリップ部分には、「I型」と「T型」があります。

I型は前に進む推進力に優れており、本格的な登山や長い距離を歩く縦走に適しています。グリップが長く、持つ場所を下にして斜度に対応できるタイプなどもあります。

I型はT型と比べると腕の負担が大きく、慣れるまで腕が疲れることも多いです。2本使う場合と1本のみで使う場合があります。

1本使用が多いT型
T型は握力が弱い方に適しており、低山などの起伏が少ない登山向けです。T型はステッキ型1本のみで使われます。杖のように、歩行バランスの補助に使われます。

グリップ素材
グリップの素材にはさまざまな素材があります。トレッキングポールを握っている際に「滑りやすい」という方にはゴム素材、快適な握り心地を求める方には軟性・弾力性に優れたコルク素材がおすすめ。

スポンジタイプは衝撃や汗を吸収するなどの特徴があるので、よく手に汗をかく方は試してみてください。

トレッキングポールの使い方

トレッキングポールは、歩行中のバランスを保つために役立つアイテムですが、正しい使い方を知らなければ、その効果を得ることができません。ここからは、トレッキングポールの使い方についてお伝えします。

歩行時は肘が90度になるように

まず、ポールを正しい高さに調整することが重要です。ポールの先端が地面についたとき、肘が90度になるように高さを調整してください。

次にストラップの長さを調節し、手とストラップの間に隙間がないようにフィットさせれば、余計な動きが省け、疲労を軽減できます。

トレッキングポールは、必ずストラップの下から手を入れて持ちましょう。下から手を通すことで、トレッキングポールから手を離しても、下に落ちにくくなります。

また、歩くときは脇を締め、腕を伸ばしすぎないように注意してください。これにより、歩行中にバランスを崩すことを防ぐことができます。

登り道では平地よりポールを短く調整

登りで使う場合は、平地で使うときの長さと比べてポールを短く調整

トレッキングポールを登りで使う場合は、平地で使うときの長さと比べてポールを短く調整します。

足を前に出すと同時にポールを前に出して地面を突き、歩行のバランスをとりながら登っていくと、足と腕に体の重さが分散されます。腕と足の4点で体を支持することで体の負荷が軽減され、楽に登ることができます。

下り道は平地より長く

下り道で使う場合は、平地で使うときの長さと比べてポールを長く調整します。足を出す前に「ポールを先に出す」のが重要です。トレッキングポールはストラップの下から手を入れるのが基本ですが、場合によっては上から持つと歩きやすい場面もあります。

下り道では、ふくらはぎの筋肉で体のバランスをとるため、膝の衝撃をやわらげるように、慎重にポールと足を運んでいきます。

トレッキングポールは、あくまでバランス保持のための道具。転倒防止などの危険を回避するために使うものではないことを理解しましょう。

もちろん全体重をポールにかけるのはNG。足にしっかりと体重をかけ、ポールを持つ腕のみに頼らないようにしましょう。

下り坂では膝の負担を軽減

下り坂では重心が前方に移り、膝に負担がかかりやすくなりますが、トレッキングポールを使うことで負担を軽減できます。グリップをしっかりと握り、自分のペースで歩くことが重要です。

手を使う岩場ではポールをしまう

岩場ではトレッキングポールをしまうのが安全。トレッキングポールを持ったままだと、いざというときに手が使えず、危険です。

大手ポールメーカーによると、トレッキングポールを使用しているときは、通常の平地の歩行時は約5kgf(5kgの荷重)、大きな段差の登り下りでは約23kgf(23kgの荷重)、転倒途中などの危険回避では登り下りの倍以上、約48kgf(48kgの荷重)がかかっているそうです。

トレッキングポールには全体重をかけず、正しい使い方をしましょう。

※kgf(重量キログラム)=重さ・力の単位

正しい使い方で山を快適に歩こう

膝や腰などの負荷を軽減し、登山時の安定性を保ってくれるトレッキングポール。体力に自信がない方やバランスよく歩きたい方、長い道のりを歩くときは、ぜひ取り入れてみましょう。正しい使い方をすると、驚くほど疲れが軽減されるはずです。

監修:登山ガイド 上田洋平さん

1979年2月10日生まれ。愛知県名古屋市出身、神奈川県藤沢市在住。2児の息子の父。

日本の山々だけでなく、海外の山々(アフリカ最高峰キリマンジャロ、南米最高峰アコンカグア)への登山経験を経て、2017年から富士山の登山ガイド。

2019年4月に日本山岳ガイド協会登山ガイドステージI資格、2022年4月に登山ガイドステージII資格を取得し、専業ガイドに。

山岳写真を撮るため、フルサイズ一眼レフ、ジッツォの三脚、雲台、標準ズームレンズ、望遠ズームレンズを担いだ登山も敢行。キャンプ、空手、筋トレ、旅行、読書、トレイルランニング、ギター、ゲームなど趣味多数。

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執筆・素材協力=上川菜摘、野々下桂子

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。