山に入れば、性別に関係なく、自分のことは自己責任。しかし、生理や体調面のトラブルなど、女性ならではの悩みは、状況に関係なくいつでも起こりうることです。
女性が快適な登山をするためには、適切な準備が必要。
登山ガイドの宮本佐知恵(みやもとさちえ)さんに監修いただき、女性ならではの悩みに焦点をあて、対処法と必要な持ち物を解説。
日帰り・宿泊と楽しみ方の幅広い登山シーンを考慮して、それぞれの観点から登山を快適に楽しむコツをお伝えします。
2024.03.18
YAMAP MAGAZINE 編集部
『楽しみにしていた予定に生理が重なってしまった……』
そんな残念な出来事は、女性なら誰でも一度や二度は経験があるはず。生理中は体調を崩しやすい時期なので無理は禁物ですが、前々から決まっていたグループでの登山など、急に予定を変更できない場合もあります。
生理中に登山をする場合は、準備をしっかり整えて出かけましょう。山ではトイレが少なく、あったとしても水が使えない場合が多いため、生理に対して普段よりも万全な持ち物の準備が必要です。
登る、降りる、しゃがむなど、下半身の動作が多い登山では、普段用のナプキンではズレやすく、擦れによるかぶれなどの心配があります。
特に山の中ではトイレが少なく、頻繁にナプキンを変えることもできないため、長時間の装着が可能なタンポンをナプキンと併用し、できるだけ経血が外に出ることを防ぐ、という対処法がおすすめです。
アンダーウェアを、生理の時も履ける吸水ショーツに置き換えることで、登山中の動作の中でもズレや擦れを心配することなく、長時間快適に行動することができます。
持ち帰らなくてはいけない使用済みナプキンの量も減らすことができ、洗って繰り返し使えることも考慮すると経済的にもメリットがあります。
デリケートゾーンの不快感は精神的なストレスだけでなく、痒みやかぶれの原因にもなります。山のトイレにウォシュレット機能などがついている可能性は限りなく低いため、デリケートゾーンの清潔を保つために、ウェットティッシュを携行するのがおすすめです。
デリケートゾーン専用の拭き取りシートもありますが、ノンアルコールのウェットティッシュや赤ちゃん向けおしりふきなどでも代用が可能です。
ただし、アルコール成分が含まれていたり、香りのついているものは注意が必要。使いすぎは逆効果になるため多用は避け、必要のあるときにのみ使用しましょう。
ウェットティッシュはデリケートゾーンだけでなく全身に使えるため、入浴できないテント泊や山小屋泊で身体を拭いたり、食事前に手を拭くなどにも応用できます。できるだけ持ち物を減らしたい登山時は、ひとつのアイテムにいくつかの役割を担ってもらいましょう。
山の上のトイレでは、使用済みのタンポンやナプキンは原則持ち帰りがルール。
ひとつひとつをナイロン袋に入れていくと持ち物もゴミの量も増えてしまうため、開け閉めが可能な大きめのジップロックに収納するのがおすすめです。密閉性が高いため匂いが気にならず、複数のゴミをひとつの袋に収納できるため管理がしやすくなります。
ときには、宿泊を伴う登山に生理が重なってしまうことも。日をまたぐ山行の際には、必ず替えのショーツを持っていきましょう。1日につき1枚、予備でもう1枚あると安心です。日帰り登山であっても、下山後の着替えとして1枚持参しておくことがおすすめです。
「山×女性のカラダ」がテーマの対談記事もぜひ参考にされてみてください。経験談や対処法について、リアルな声を知ることができます。
生理は体調次第で早まることもあります。予期せぬタイミングに備え、登山時に必ず携帯するエマージェンシーキットのなかに、ナプキンや吸水ショーツを入れておくと安心です。ナプキンは、非常時には怪我などの流血を抑えるガーゼの役割も果たしてくれます。
薬局で購入できる鎮痛剤は、頭痛だけでなく生理痛にも役立ちます。こちらも、生理かどうかに関わらず携帯しておくとよいでしょう。
山は標高が高いため平地より紫外線が強く、稜線などの景色のよい場所に出れば強い風が吹くこともしばしば。肌は平地にいるよりもダメージを受けやすく、日焼けや乾燥による肌荒れに注意が必要です。
肌に塗布する化粧品やケア製品だけでなく、ウェアや小物などの身につける物も含めて、普段以上に念入りにケアを行いましょう。
前述の通り、登山では日常生活よりも紫外線対策が重要です。日焼け止めは登山の必携品と考えて、忘れずに持って行きましょう。日焼け止めは、汗などで気付かぬうちに流れ落ちてしまうことがあるため、こまめに塗りなおすことも忘れずに。
顔や腕はもちろんですが、つい塗り忘れてしまいがちなのが「首」と「手の甲」。特に首は太陽光を浴びやすく、汗もかきやすい部位のため注意が必要です。
気温が低く乾燥しやすい山の上では、保湿に関しても平地より念入りに行う必要があります。保湿用のクリームや唇など局所に使えるワセリン等は小さい容器で持っていくと役に立ちます。
化粧品などを携行する場合には、持ち運びに適した量とサイズを意識しましょう。日常生活用のものはかさばりやすいため、小さめの別容器などに入れ替えてコンパクトにすると◎。
アウトドア環境下では、何ステップもある化粧やケアは面倒、せっかく持っていったとしても結局使わなかった、という経験者の声も。持っていく物はなるべく厳選して、最低限に抑えましょう。UPF付きのBBクリームと色付きのリップクリーム、アイブロウ程度でも十分です。
最近では、環境保護や携行性に配慮した「アウトドアコスメ」と呼ばれる専門のものもあるのでぜひチェックしてみてください。
山の上での水は大変貴重なうえ、環境保護の観点から、水場で石鹸などの使用は控えるのが基本のマナー。液体系のクレンジング製品は漏れの不安もあるため、山でのメイク落としにはクレンジングシートがおすすめです。
翌日をさっぱりとした気分で迎えるためにも、持ち物リストに加えてみてください。
日焼け止めクリームなども重要ですが、山でのもっともシンプルな日焼け対策は、肌の露出を減らし紫外線が肌に届くのを防ぐことです。衣類や小物で物理的に日陰の状態を作ることで、紫外線の影響を抑えることができ、体力の消耗を防ぐことにも役立ちます。
夏山などの湿度が高い環境で、どうしても長袖や長ズボンがつらいと感じるときには、半袖・半ズボンにアームカバーやタイツをあわせるスタイルもおすすめです。
登山では、帽子も必携品のひとつ。キャップやハットなど種類が豊富ですが、紫外線対策の観点ではハットが優勢。耳や首裏などの日頃意識しない部位をしっかりカバーできます。
瞳の色が濃い日本人は、欧米人と比べると眩しさへの耐性が高いため、サングラスをかける習慣を怠りがちです。しかし、標高の高い場所は平地より紫外線が強いため、皮膚だけでなく目にもダメージを受けやすい特性があります。
紫外線を浴び続けてしまうことで角膜の炎症が起きてしまった場合、目の充血や乾燥などのトラブルが起きる可能性があるため、サングラスを装着することがおすすめです。
筋肉は、体を動かすというメインの役割以外にも、体内で熱をつくるなど、体温の上昇にとても大きな役割を果たしています。
しかし女性は、男性に比べて「筋肉量が少なく、脂肪が多い」というカラダの特徴を持っているため、作られる熱は男性と比較すると、どうしても少なくなっています。
さらに脂肪には、一度冷えてしまうと温まりにくい性質があるため、女性は特に冷えが起こりやすいのです。
登山は男女関わらず身体を動かすアクティビティですが、身体的な特性上のハンデは避けられません。停滞中の身体の冷える速度なども男女で差があるため、女性ならではの適切な防寒や冷え対策を行っていきましょう。
「血流の関所」ともいえる、首・手首・足首。大きな血管が通る箇所であり、温めることで全身の血流がよくなり、冷え対策に繋がります。
逆に夏場などの暑い時期には、ここを冷やしてあげることで体の熱をスムーズに放出することができます。
そんな血流の関所と呼ばれる部位などを温めるために重要なのが、「防寒小物」。ネックウォーマーやグローブ、靴下、ニット帽などを活用して冷えに対するケアを行いましょう。
「耳」も、冷えることで頭痛などの原因に繋がります。耳まで隠れるニット帽やネックウォーマーを選ぶなどの工夫を行うとよいでしょう。
冷えは、血流の悪化を引き起こし、時には内臓にも影響を及ぼします。身体の中心であるお腹も、ケアを忘れたくない重要な部位。ベスト型のアウターや腹巻を活用して、体幹を冷やさないように意識しましょう。
腹巻といえば、ちょっとふるくさく、ダサいイメージがあるかもしれませんが、最近はお腹の不安解消や防寒対策として愛用するハイカーが増加しています。
お腹を保温することは、トイレの不安を解消することにも繋がります。着脱が簡単なファスナー式など、登山やアウトドア向けの機能的な腹巻も増えているため、ぜひチェックしてみてください。
体内に取り入れる飲み物からも、冷えは起こります。寒さを強く感じる朝晩や冬時期の登山では、身体に取り入れるものにも気を配りましょう。
寒い時期の登山では、保温機能のある水筒に温かい飲み物を入れて持っていくとよいでしょう。ガスバーナーなどでお湯を沸かす手間と時間が省けます。温かい飲み物の具体例としては、白湯、しょうが湯、ココアなどがおすすめ。
カフェインには、利尿作用と交感神経を刺激する特性があるため、温かい飲み物として用意していたとしても、身体を冷やしてしまいます。コーヒーや緑茶はカフェインが含まれる飲み物のため、飲み過ぎには注意しましょう。
登山では長時間にわたって体を動かし続けるため、日常生活に比べて比較にならないほどのカロリーを消費します。
きちん食べ物と水分をとらないで激しいエネルギー消費を行うことで、血糖値が下がり、急にひどい空腹感に襲われて全身に力が入らなくなってしまう「低血糖」の状態を引き起こしてしまうことも。これを登山用語で「シャリバテ(ハンガーノック)」といいます。
身体を動かすためのエネルギーが不足すれば、人間の体は自然に最も重要な生命を守るための動きにエネルギーを使おうとします。当然身体は動かなくなり、徐々に冷えにつながっていくのです。
つまり、登山では基本となる「行動食摂取」も、重要な冷え対策のひとつ。エネルギーの原材料とも言える糖質と、糖質がエネルギーに変わる動きを助けるビタミンB1の摂取を意識的に行いましょう。
ビタミンB1は食べものからも摂取できますが、持ち物をできるかぎり減らしたい登山などでは、ゼリー飲料やサプリメントを使って摂取することも可能です。
糖質を摂取できる食べもの:ごはん・もち・パン・ジャガイモ・砂糖など ビタミンB1を摂取できる食べもの:きなこ・胡麻・ピーナッツ・胚芽米・豚肉など |
女性は、特有の悩みに応じて、荷物もついつい増えてしまいがち。しかし、登山をするために必要な、男女共通の基本の持ち物を忘れてしまわないように注意しましょう。基本の持ち物に関しては、下記の記事で紹介しているのでぜひ参考にしてください。
登山の持ち物選びは常にトライ&エラー。小さな失敗を重ねてアップデートされていくものです。ぜひ、失敗を恐れず、生理など女性特有のお悩みとの上手な付き合い方を見つけてくださいね。本記事が登山を愛する女性たちへの小さな手助けになっていたら嬉しいです。
横浜生まれ。八ヶ岳山岳ガイド協会所属登山ガイド。Field & Mountain (Yamakara)、トラベルギャラリーなどでツアーガイドを行う傍ら、YAMAPにて登山地図の制作にも携わる。
趣味のアドベンチャーレースを中心にMTBやパックラフト、沢登りなど、アウトドア全般を満喫している。