普段使いから登山まで|パタゴニア/ボルダー・フォーク・レイン・ジャケット

2024年春、パタゴニアから新しいレインウェアのシリーズが登場します。パタゴニアのレインウェアというと、「トレントシェル」というモデルがその顔として長く定番の座を保っていますが、新シリーズはそれとは少し異なる特性を持っています。

新シリーズの名は「ボルダー・フォーク・レイン・ジャケット」。それはこれまでのモデルと何がどう違うのか? 昨シーズンに登場した「グラナイト・クレスト・レイン・ジャケット」と比較しながら、山岳ライターの森山憲一さんがフィールドテストしました。

2024.03.13

森山 憲一

山岳ライター/編集者

INDEX

日常から山へシームレスに使える、ボルダー・フォーク・レイン・ジャケット

パタゴニアのプロダクトのファンです。

これまで、夏冬問わず多くのパタゴニア製ウェアやギアを使ってきました。何がいいのかと聞かれても言葉にしにくいのですが、あえてひと言でいうと、長く使えば使うほど感じられる”味”ということになると思います。

その具体的なポイントをひとつあげるとすれば、耐久性の高さ。型が崩れたり、生地がへたったり、縫製がほつれたりすることが他メーカーに比べて少ないと感じています。デザインやカラーリングもシンプルながら飽きがこない。

私は20年以上前に登場した初代のR1プルオーバーを持っていますが、今でも着続けているほどです。「長く使えるものが環境によい」ということをパタゴニアはモットーとして掲げているけれど、言うだけのことはあるなと常々感じているのです。

レインウェアもすでに廃番となった2モデルを持っていますが、やっぱり飽きがきません。圧倒的に軽いとか特別蒸れないとかの際立った特徴があるわけではないのだけど、なんとなくこれらをチョイスすることが多く、結果的に出番が多くなっています。

そのパタゴニアの最新レインウェアが「ボルダー・フォーク・レイン・ジャケット」。パタゴニアのレインウェアのラインナップのなかでは、ライトユース向けといえるポジションになります。

私がテストしたのは「フォージグレイ」というブラックに近いカラーのもので、最初見たときは「あれっ」と思いました。パタゴニアのロゴがない。よく見ると、右腕に同色の目立たないロゴがあったのだけど、左胸のいつもの場所にいつものロゴがないのです。

これはこの春からパタゴニアが始めた「スタイル・チョイス」という試みのひとつ。同じモデルでもカラーによってロゴのデザインや位置まで変えることで、まるで別の製品かのようなイメージを持たせているのです。たとえばフォージグレイは「ファンクショナル」というソリッドで機能的なイメージ。一方で、通常のパタゴニアロゴを用いてオーソドックスなイメージを持たせているカラーもあれば、クラシックなロゴを採用してレトロなイメージを醸し出しているカラーもあります。

ひとつのウェアでより幅広いスタイルの選択肢を提供できるわけで、これはなかなか面白い試みかと思います。

さて、そのボルダー・フォーク・レイン・ジャケット、早速山で実際に使ってみました。

防水透湿素材らしいパリッとした張りのある生地感で、最近のパタゴニアにしてはフィットも比較的ゆとりがあります。裾も長めで尻まで覆ってくれるので、生地のしっかり感も相まって守られている感じがします。

というと、冬用のハードシェルのように聞こえますが、そうではありません。そのひとつの証がフード。ヘルメットには非対応でコンパクトなものになっています。

薄すぎない生地とゆとりのあるフィットにコンパクトなフード。歩いているうちにこれらが何を意味するのかわかってきました。「日常着として使っても違和感がないようにしているのだな」と。

山岳専用に特化したウェアは、ぴったりフィットしすぎていたり、軽さを優先するために生地が薄かったり、ポケットが少なかったり、フードが大きすぎて邪魔だったり、あるいはカラーリングがビビッドすぎたりして、日常着としては使いにくい面があります。その点、ボルダー・フォークはデイリーユースから登山まで、どこで使っても違和感がない感じがします。

ボルダー・フォークはもともと、釣り用のレインジャケットとして開発されたといいます。そういう動きの少ないライトユースからアクティブな登山まで、幅広い汎用性を持っているのがボルダー・フォークの持ち味なのだと感じました。

とはいえ着心地はさすがのパタゴニア。ゆとりがあるのだけどバタつきはしません。なんともしっくりくるのです。この言葉にならない絶妙なフィット感は本当にパタゴニア最大の魅力だなと感じます。それはもしかしたら私の上半身にフィットしているだけなのではとも思うのですが、それでもこのしっくり感は、パターンニングをミリ単位で長年磨き上げてきた賜物であると思えてしかたないのです。

ボルダー・フォーク・ジャケットのディテール

パタゴニアオリジナル素材のH2Noを採用。世界的なPFCフリーの潮流に先んじて、メンブレン(防水透湿膜)にも表面撥水加工にも有機フッ素化合物を使用していない完全PFCフリー仕様となっているのは注目ポイントかと思います。蒸れ感は特別少ないわけではありませんが、特に劣っている感じもせず、レインウェアとしては標準的なところ。

ザックのウエストベルトに干渉しにくい高めの位置にポケットが設けられています。行動中にも使いやすいので、これはうれしいポイント。

左胸にチェストポケットも設けられています。容量がたっぷりあり、いろいろ入れられます。

ボルダー・フォーク・レイン・ジャケットには収納袋が付属していません。レインジャケットはそれでいいと個人的には考えています。というのは、ジャケットは使用頻度が高いのでいちいち袋に収納するのはかえってわずらわしいから。そこで私は、レインジャケットはザックの隙間にそのまま押し込むか、あるいは上のようにフードに収納してしまいます。これで十分です。

本格的に山を攻めたいならば、グラナイト・クレスト・レイン・ジャケット&パンツ

さて、昨年登場した「グラナイト・クレスト・レイン・ジャケット&パンツ」も同時にテストしてみました。

こちらはボルダー・フォークに比べると生地がかなりしなやかでストレッチ性もあり、着たときのフィットもさらに突き詰められているので、動きやすさが一段上に感じます。重量的にはボルダー・フォークと同等なのですが、より薄い生地が使われており、透湿性も高めに感じます。生地が薄いのに重量が変わらないのは、脇下にピットジップが付いていたり、大型フードを採用していたりするなど、より多機能仕様にしてあるからでしょう。

こういうふうに腕を上げても動きが軽い。よくよく見ると、ボルダー・フォークより凝った立体裁断がなされています。生地の軽さだけでなく、こういう部分も動きの軽さにつながっているのだと思います。

グラナイト・クレストにはパンツもあります。これがまた、レインウェアにしては異例なほどのフィット感で、バタつきがほとんどなく、足さばきがとても軽快です。とくに裾に向かって締まっているところが好印象。裾がバタついてわずらわしかったり、泥汚れが付きやすかったりするのはレインパンツあるあるですが、グラナイト・クレスト・レイン・パンツはゲイターを付けているかのような足さばきの軽さがあります。

ただし個人的にはパンツは少し細すぎ、長すぎました。私は太ももが太く、脚が短く、尻の大きさに比してウエストが細いというアンバランスな体型なので、昔からジーンズなどがあまりフィットしません。通常体型の人は問題ないでしょうが、私のような体型の人は要注意です。

フードはヘルメット対応のたっぷりした大きさがあり、安心感が高いです。3,000mの稜線で風雨にたたかれたりしたときはありがたく感じるでしょう。フィット調整は、後頭部のほか、左右のドローコードで調整もできます。このあたりも、後頭部アジャスターしかないボルダー・フォークに比べて本格仕様になっているところです。

ボルダー・フォークと比べると山岳仕様をかなり突き詰めているグラナイト・クレスト。デイリーユースにはあまり向いていないと思われますが、3,000m級の山を含めて登山でバリバリ使いたいならやはりこちらかなという印象です。

グラナイト・クレスト・ジャケット&パンツのディテール

ボルダー・フォーク・レイン・ジャケット同様、高めの位置に設けられてザックのウエストベルトに干渉しにくいポケット。チェストポケットも付いており、こちらにはボルダー・フォークにはない機能がありますが、それについては後述。

グラナイト・クレスト・レイン・ジャケットはピットジップで脇下を開けられる仕様。雨の中、長い登りを歩くときなどは汗をかいて蒸れることがあります。ここを開けることで、雨は防ぎつつも効果的に換気できるのでより快適に行動できるわけです。

大型のフードはヘルメット対応。ヘルメットの上からかぶっても写真のように余裕があります。フィットの調整は、後頭部のドローコードと、首元左右に設けられたドローコードの3点で行なえるので、より精密なフィット調整ができます。

防水透湿素材はボルダー・フォークと同じH2Noですが、三層構造の表地と裏地にはより薄手の生地が使われていて、かなりしなやかな質感でストレッチ性も備えています。表地は、古くなった漁網を活用したリサイクルナイロンが使われています。

ボルダー・フォークと同じく、収納袋が付属していません。が、こちらは左胸ポケットに本体を収納することができるポケッタブル仕様になっています。

レインパンツには見えないすっきりしたシルエット。とくに膝下のフィットは秀逸で、レインパンツを履いているとは思えないほど足さばきが軽快です。全体に細めでストレッチ生地でもないのですが、脚を大きく曲げても不思議とストレスがありません。ヒザ周りの裁断が絶妙に作られているのだと思います。

サイドファスナーはここまで大きく開きます。残念ながらダブルファスナーではないので、ヒザ周りだけ開けて換気するような使い方はできませんが、靴を履いたままでパンツを脱ぎ履きすることがラクにできます。

ポケットは右ももにひとつだけ。ジャケットを着ているときでもアクセスしやすい位置に設けられています。

裾には左右にこのようなループが設けられています。ここにストラップなどを取り付ければ、裾のずり上がりを防ぐことができて、ちょっとしたゲイターのようにも使えるようになっています。

用途に応じてレインウェアを選ぼう

2種類のレインウェアを着て山を歩いてきましたが、実際に使ってみたら、それぞれの狙いがよくわかりました。

ボルダー・フォーク・レイン・ジャケット → 幅広い汎用性の高さ

グラナイト・クレスト・レイン・ジャケット → 本格登山に特化した性能

初めてレインウェアを買うという人におすすめできるのはボルダー・フォークかと思います。というのは、ボルダー・フォークならどんな用途で使っても、一定以上の満足感を得られる懐の深さがあると思うからです。

一方で、すでにレインウェアを使っていて、レインウェアに求めるものがはっきりしている人、もしくは北アルプスなどでもガンガン使いたい人は、グラナイト・クレストのほうがマッチするでしょう。

どちらも価格的にも重量的にも似たようなものなので、こういった製品特性の違いはカタログを見ているだけではなかなかわからないところ。ぜひ店頭で実物を手に取って、自分に合ったものを選んでほしいと思います。

レインウェアのメンテナンス

さて最後にひとつ、メンテナンスについて重要なことを。

PFCフリーであることはすでにふれました。これは世界的に法整備が進んでおり、向こう数年のうちにパタゴニアにかぎらず多くのメーカーが対応するようになっていくはずです。

ただしPFCフリーの撥水加工は、有機フッ素化合物を使用した旧来の撥水加工に比べて、皮脂汚れなどの油分が付着しやすいという特性を持っています。皮脂が付着すると撥水性能が落ちるので、旧来のもの以上に洗濯をまめにすることが大切になります。

とはいえ、毎度毎度必ず洗えというわけではなく、汚れや臭いが気になったら洗う…という程度で十分で、そこは普通のウェアと変わりません。洗剤はできれば防水透湿素材専用のものを使ったほうがいいけれど、家庭用の中性洗剤でも汚れは十分落とせます。

防水透湿ウェアはできるだけ洗わないほうがよいと思い込んでいる人も少なくないけれど、実はそれは間違い。PFCフリーかどうかにかかわらず、普通に洗ったほうがよいのです。

パタゴニアにはさまざまなメンテナンス法をまとめた記事もあります。適切にメンテナンスをして、できるだけ長く快適にレインウェアを使うことをおすすめします!

原稿:森山憲一
撮影:矢島慎一
協力:パタゴニア

森山 憲一

山岳ライター/編集者

森山 憲一

山岳ライター/編集者

1967年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学教育学部(地理歴史専修)卒。大学時代に探検部に在籍し、在学中4回計10カ月アフリカに通う。大学卒業後、山と溪谷社に入社。2年間スキー・スノーボードビデオの制作に携わった後、1996年から雑誌編集部へ。「山と渓谷」編集部、「ROCK&SNOW」編集部を経て、2008年に枻出版社へ移籍。雑誌『PEAKS』の創刊に携わる。2013年からフリーランスとなり、登山と ...(続きを読む

1967年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学教育学部(地理歴史専修)卒。大学時代に探検部に在籍し、在学中4回計10カ月アフリカに通う。大学卒業後、山と溪谷社に入社。2年間スキー・スノーボードビデオの制作に携わった後、1996年から雑誌編集部へ。「山と渓谷」編集部、「ROCK&SNOW」編集部を経て、2008年に枻出版社へ移籍。雑誌『PEAKS』の創刊に携わる。2013年からフリーランスとなり、登山とクライミングをメインテーマに様々なアウトドア系雑誌などに寄稿し、写真撮影も手がける。ブログ「森山編集所」(moriyamakenichi.com)には根強い読者がいる。