パタゴニアの大定番「フーディニ・ジャケット」の最新作と、山歩きの旅へ

登山時、ちょっと寒いなと感じた時、頼りになるのがウィンドシェル。各ブランドからさまざまな商品がでていますが、中でもパタゴニアの「フーディニ・ジャケット」はもう20年以上前から続いている定番商品です。「フーディニ」はなぜこれほど長年愛され続けているのかを山岳ライター・高橋庄太郎さんが伊豆大島の三原山(747 m)でフィールドレビューしました。

2024.05.23

高橋 庄太郎

山岳/アウトドアライター

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国内外を問わず、歴史あるアウトドアメーカーであれば、そのブランドの“顔”となる「大定番」アイテムがひとつやふたつはあるものだ。多くのユーザーから信頼され、人気を継続していく、時代を超えうる名品である。

パタゴニアにはそういう大定番がいくつもある。僕が昔から愛用しているものであれば、例えばナノ・パフ・ジャケット。化繊の中綿の薄手インサレーションだ。世の中にはもっと軽くて暖かいジャケットも発売されているのだが、このジャケットは軽量性のみを重視せず、多少重くてもある程度の厚みを持った表地で、非常に丈夫。ラフに扱っても問題なく、じつに頼もしい。ショーツでいえば、バギーズ・ショーツも同様だ。同じくタフで、めったなことでは破れない。僕のワードローブには着古したバギーズ・ショーツが何着もある。

そんなパタゴニアのウェアのなかで、忘れてはいけない大定番のひとつが、ウィンドシェルの「フーディニ・ジャケット」だ。もちろん僕も長々と現在まで付き合ってきた。

フーディにジャケットをもっと知りたい方はこちら

僕の山歩きとともにあった、ブルーの1着

僕とこのジャケットとの付き合いが始まったのは、15年くらい前だろうか? フーディニの発売開始が2002年だというから、昔からのパタゴニアファンの僕としては、初めて手を出したのは意外と遅かったような気もする。

これまでに愛用してきたフーディニはたしか3着。しかし、あまりにも傷みが激しかったり、知人にあげたりして、現在手元に残っているのはブルーの1着だ。

いつ買ったのか定かではないが、おそらく2016~2017年あたりに手に入れたような記憶が残っている。

袖にはなにやら油のような付着も残っており、もはや洗ってもきれいにはならない。それどころか、汚れた部分は硬く変質し、小さな穴までいくつか空いている。

いつこんな状態にしてしまったのか、まったく思い出せない……。

だが、このロゴが剥がれかけた感じ、そして落としきれない汚れには、自分がここまで着込んできた歴史を感じ、なんだか愛おしくなる。これ程度の傷みは大した問題ではなく、まだまだ着られるはずだ。

最近のパタゴニアは、新しいものを買わず、昔のものをリペアなどしながら長く着続けることを推奨している。高尚な理念はすばらしいが、モノを売らなくても本当に大丈夫なのかと、メーカーとして経営のほうは大丈夫なのかと心配になるほどだ。

そんなパタゴニアのフーディニは、モデルチェンジのたびに進化を遂げているようだ。それを知っている僕は、そろそろ新しいフーディニも試してみたいと考えていた。アウトドア系のライターとしての現場仕事、すなわちフィールドを歩き回る日数は非常に多く、もう一着持っていたほうがなにかと便利でもあるからだ。

フーディニを持って、風吹く東京の離島へ

僕は新しいフーディニ・ジャケットと旅へ出ることにした。

最新型のフーディニは7色ものカラーを展開していたが、僕の選択はヌーボーグリーン。グレーがかったシックな色だ。外観は僕が愛用していた旧型のブルーとはパッと見は同じだが、細かなディテールは意外と異なる。これは楽しみだ。

旅の行き先は伊豆大島だ。東京の竹芝桟橋からはジェット船で1時間45分程度だが、東京からの始発が遅いうえに、伊豆大島からの終発は早い。島の中央にそびえる三原山に登ろうと考えれば、1泊するのが現実的だ。せわしない日帰りよりも、そのほうがのんびりでき、むしろ楽しさは倍増する。

すでに春とはいえ、ジェット船の船室は肌寒く、僕は船中でフーディニを取り出し、袖を通した。新しいフーディニのデビューは山中になると考えていたのに、まさか船の中になってしまうとは! だが、街中でも着られる汎用性の高さがこのジャケットの売りでもある。これでいいのだ!

さて翌朝。僕は三原山の登山口に到着すると、まずは外輪山から内側に下っていった。

朝は風も弱く、とくに外輪山と内輪山(中央火口丘)の間の森の中は、ほぼ無風である。このような状況ではフーディニの出番はない。

まるでファストハイキングのようにスピーディに歩いていると、Tシャツで1枚でなければ汗ばむほどだ。

“島登山”好きの僕にとって、伊豆大島の三原山はたびたび訪れる山である。じつは半年前、雪が降りそうな真冬にも登ったばかりだ。

そのときに比べれば、三原山の植物たちの緑は色鮮やかになりつつあった。とはいえ、森の中から溶岩原へ出てくると、風が急に強くなってくる。いかにも火山らしく、標高はそれほどでもないのに、本州でいえば森林限界を超えているような環境なのだ。調子に乗って汗ばむほどのスピードで歩いていたこともあり、これだけ晴れているというのに、風によって体感温度がだんだん下がりつつあるのを実感する。

晴れていても強い風。フーディニの出番がやってきた

そろそろフーディニの出番かな?

フーディニは裏返した胸ポケットに本体を収納できる、いわゆるパッカブル仕様だ。収納時は実測で18×10×8㎝くらいだが、これはたんにポケットを裏返したときのサイズ。だいぶ緩やかに収納されている状態であり、圧縮すると実際は半分以下のサイズになってしまう。

それほど小さいから、僕は今回バックパックのウエストハーネスのポケットに押し込んでおいた。

腰元にあれば、着たいときにすぐ取り出せて便利だからだ。

現地で撮影してきた画像をこうやって自分で再確認していても、ポケットから取り出したフーディニがまるで手品のように広がっていく様子がおもしろい。

よくもまあ、あんなに狭いポケットに収納できるものだ。とんでもない収納性のよさである。僕が初めて購入したフーディニは、ここまで小さくはならなかった気がする。生地が進化しているのであろう。

ともあれ、こんなふうにスルスルっと取り出せるのは、リサイクルナイロン100%のフーディニの生地がとてもなめらかで、摩擦感が少ないからだ。

微妙な光沢感や風合いもなかなかよいではないか。

この生地のストレッチ性はほどほどである。縦横にはほとんど伸びないが、斜めには少しだけ伸びる。

こんな「ほとんどストレッチしない」という点をデメリットと捉える人も多いだろう。だが僕は、立体裁断され、正しく縫製されていれば、ウィンドシェルにストレッチ性はあまり必要ないと考えている。それどころか、僕はストレッチ性がない生地のほうが好みなのだ。

というのも、ストレッチ性があると、ヤブ漕ぎのときなどに木の枝や葉がウェアに引っかかりやすく、歩きにくいのだ。以前、北海道の知床で登山道すらない山中をヤブ漕ぎして進んだときも、フーディニのつるっとした生地はまるでレインジャケットのように滑りがよく、ハイマツやクマ笹のなかでもストレスが少なかったのである。それでいて、破れることもなかったのだから、すばらしい。

パタゴニアの定番であるナノ・パフ・ジャケットやバギーズ・ショーツは、比較的厚手の生地によって耐久性を増している。それに対してフーディニは超薄手の生地のままでもかなり強度が高い。ヤブ漕ぎなどで使うたびに、僕は大したものだと感心したいたのだった。

強風下では要注意! 吹き飛びそうなほどの軽量性

この最新型フーディニはパタゴニアのカタログ的なスペックでいえば、わずか重量105gである。しかし僕が着用したものを自宅で計ってみたところ、実際はなんとMサイズで100gキッカリだった。まさか公表されている数値よりも、もっと軽いとは!

こんなフーディニ・ジャケットだから、強風時に着用するときは要注意だ。

確実に手で持っていないと吹き飛ばされてしまうのだ。

以前、僕は北アルプスの白馬岳の近くでグリーンのフーディニを拾ったことがある。あれも誰かが強風のときに着ようとしたものが、風で凧のように吹き飛ばされてしまったものかもしれない。

フーディニを着用した僕は、強風の中、三原山の内輪山を歩いていく。

こういう「晴れていて強い風」というコンディションは、山中で僕がいちばん好きな状況だったりもする。

三原山の火口はいつものように荒々しい姿を見せていた。この窪んだ地形のためか、海上から吹く風の向きはわりと一定なのに、内輪山の上では意外と変化があった。

ちなみにこの火口、1984年に公開された映画『ゴジラ』では終盤の舞台となっている。三原山を人工的に噴火させ、この火口にゴジラが落下して映画は終わるのだ。しかし、これだけ晴れていると、そんなおどろおどろしい雰囲気はまったく感じられない。

内輪山を時計回りに歩きながら遠くを見る。西のほうには伊豆半島が眺められ、南の海上には利島や新島が浮かんでいた。

だが、すべてが青で空と海の境目はぼんやりとしていてわからない。こんな風景もまた島登山の魅力なのである。

超薄手の生地が生み出す、体温調整の幅広さ

突然、風が止み、急に気温が高くなってくる。正確に言えば、もともと気温は高く、風によって体感温度が低くなっていたのだろう。

僕はフロントのファスナーを開き、軽く腕まくりをして体温調整を行なった。

フーディニの袖は軽く伸縮させてある。そのために、腕まくりしたときにずり下がりにくく、同時に無用なまでの圧迫感はなくしている。

なお、伸縮していないときは袖の口径が7㎝ほどで、最大に伸ばすと口径は9.5㎝ほどになる。よほど腕が太かったり、細かったりしない限りは、多くの人が僕と同じように腕まくりしながら着用できるはずだ。僕が着込んでいたブルーのフーディニの袖も同様のデザインだが、この部分に関してはいまだ機能が一切劣化していない。おそらくこの最新型フーディニも同じように長くへたらないと思われる。

強風、無風、変わるコンディションのなかで

それにしても、三原山は、山頂部分がわかりにくい山だ。

内輪山の南端に758m地点があり、そこが最高地点ではあるのだが、目立つ標識がなく、通り過ぎてしまう人は多い。

一方、東側には749mの剣ヶ峰というポイントがあり、こちらには立派な標識が立っている。しかし、そこに「伊豆大島 三原山 758m」などと表示されているのだ。非常に紛らわしい。


これはどういうこと? などと思いながら、その剣ヶ峰で僕はゆったりと休憩。のんびりできたのはいいものの、強風に長い時間さらされていたために、再び肌寒くなってきた。

火口を覗き込むと、岩肌から湧き上がる真っ白な蒸気も強風に流され、まさに霧散している。

そろそろ頃合いかと、再び出発。

風の侵入を防ぎ、体温をキープするためにフードをかぶった。

フーディニのフードは後頭部のドローコードで簡単に締められる。

軽量化を突き詰めたウィンドシェルにはこういうパーツを省略しているものも多いが、この点はさすがパタゴニア、しっかりとしている。

ドローコードはジャケットの裾にもつけられていて、腰元からの風の吹き込みも遮断してくれる。

僕の旧型の青いフーディニにもドローコードはつけられていたが、引き絞れたのは背中側のみだった。しかし新型は360度ぐるりと引き絞ることができるようになっている。無論、新型のほうがしっかりとフィットして機能的だ。こんなことからもこのジャケットは“進化し続ける定番”であることが伝わってくる。

内輪山から下山を開始する。これだけの青空だというのに、天気予報によれば、これ以降は崩れていくらしいのだ。

本当かな?

だが、天気はたしかに崩れ始めていた。

“山の天気は変わりやすい”という常套句があるが、暖かな黒潮の影響を大きく受けながら洋上に浮かぶ伊豆大島の天気の変わりやすさは、それ以上かもしれない。

電波が入るところで、最新の天気予報をチェックした。

フーディニの胸ポケットには、僕が使っているスマートフォンがジャストサイズで収納できた。しかもこれだけの重量があるデバイスを入れていても内部で無用に動かず、邪魔にならないのがいい。ディスプレイが大きなタイプを使っている人には入らないかもしれないが、少なくても僕にはちょうどいいサイズ感なのである。

ここで、旧型のブルーのフーディニのポケットにはスマートフォンが入らなかったことを思い出す。つまり、最新型の胸ポケットはいくぶん大きさを増しているようなのだ。もしかしたら、スマートフォンのようなものを入れやすくするための改善なのかもしれない。

フーディニはこんなレイヤリングにも使える!

下山口へと歩を進める。いつの間にか小雨がパラついてきた。

まずはフードをかぶってしのぎ、その後にレインウェアを取り出した。

いうまでもなく、フーディニはレインウェアではない。だがその生地にはDWR(耐久性撥水)加工が施され、撥水性にも長けている。

ただ、これは初期性能と考えたほうがよく、着こんでいくうちに撥水性は落ちていくと思われる。僕が着込んできたブルーの旧型フーディニもいまや撥水性はゼロである。しかし、フーディニの真価はそこからだ。撥水性が落ちる代わりに柔らかくなった生地は肌触りのよさが増し、吸汗性、吸水性も高まっている。そんな着用感もいいものだ。

そういえば、発汗量が多い僕は、レインウェアを着ていると内部が汗でベタつくことが多い。

だが、肌触りがいいフーディニをインナーとして合わせると、そのような不快感が格段に減る。場合によっては、こんな着方もできるのはフーディニの応用力の高さゆえであろう。

せっかくレインウェアを着込んだというのに、雨が降っていた時間はわずかだった。

僕はまたフーディニで歩き始めた…。

今年はどんな夏がやってくるのだろうか? 僕は早くも山行の予定を立て始めた。北アルプスに南アルプス、北海道の日高山脈、そして僕の故郷の東北の山々。どこも夏でも肌寒さを感じる山域だ。きっと今年もフーディニが僕の山歩きを助けてくれるに違いない。

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原稿:高橋庄太郎
撮影:矢島慎一
協力:パタゴニア

高橋 庄太郎

山岳/アウトドアライター

高橋 庄太郎

山岳/アウトドアライター

出版社勤務後、国内外を2年間ほど放浪し、その後にフリーライターに。テント泊にこだわった人力での旅を愛し、そのフィールドはもっぱら山。現在は日本の山を丹念に歩いている。著書に『トレッキング実践学 改訂版』(ADDIX)、『テント泊登山の基本テクニック』(山と渓谷社)など多数。イベントやテレビへの出演も多い。