山開きの7月から閉山の9月上旬まで、多い年で30万人を超える登山者が国内外から押し寄せる国内最高峰・富士山(3,776m)。
今回は、富士山の東側から登り、標高2,700m付近まで豊かな自然と高山植物が楽しめる「須走ルート」を紹介します。
吉田ルートや富士宮ルートに比べて登山者数が少なく、下山時は御殿場ルート同様、火山砂利の道を豪快に下って楽しむ「砂走り」があることも特徴。
ルートの魅力だけでなく、安全に登山を楽しむための注意点も交え、登山ガイドの福田正浩さんに解説いただきました。
2024.09.06
福田 正浩
登山ガイド
富士山の4つの主要登頂ルートの1つ、須走(すばしり)ルート。富士山の壮大な自然を味わいつつ、涼しい樹林帯を満喫できるのが最大の魅力です。樹林帯を抜けるとどこからでもご来光を楽しむことができます。
五合目の標高は1,970m。富士山の4つあるルートの中で2番目に標高が低いため、富士山・最高峰である「剣ヶ峰」までは標高差約1,800mを登ることになります。
山小屋の数が少なく、やや難易度も高いため、登山経験者向きのコースでもあります。
ポイント
①樹林帯を涼しく歩ける
②富士山の壮大な景色が楽しめる
③吉田口や富士宮口に比べ、登山者数が圧倒的に少なく、ゆったり歩ける
コース情報
コース定数:38(コース定数とは?)
コースタイム:9時間
歩行距離:11.4km
累積標高差(上り)1,763m
累積標高差(下り)1,763m
マイカーで須走ルートへアクセスする場合、道の駅すばしり北側のすばしりドッグランに隣接する「マイカー規制乗換駐車場」(須走多用途広場)に車を駐めてシャトルバスに乗り換えます。
五合目には、一番手前にインフォメーションセンター、そしてトイレ、山小屋「菊屋」と「東富士山荘」があります。
水分や行動食も、もし足りなければこちらで買い足しましょう。お食事も美味しいので、下山後に頂くのも楽しみですね。
その奥に、事前登録と保全金のブースがありますので、こちらで登録と寄付が可能です。
外来種の種を、富士山の環境内に持ち込まないため、登山靴のソールについた土などを払うマットで土をよく払い、登山開始です。
須走口五合目には、古御岳(こみたけ)神社が鎮座し、山の神であり木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)の父である大山祇命(おおやまつみのみこと)が祀られています。ここで登山の安全祈願をして登っていきましょう。
ゆっくり深呼吸しながら1時間半ほど登ると、最初に見えてくるのが長田山荘です。こちらで、標高2,400mです。まだまだ樹林帯は続きますが、ひと息ついてからのんびり登っていきましょう。
長田山荘から約1時間歩くと、本六合目の瀬戸館へ到着します。こちらを過ぎると、樹林もまばらになってきますので、水分が不足している場合はしっかり購入しておきましょう。
本六合目を出て1時間半ほどで、標高3,090mの大陽館さんに到着します。こちらの山小屋はトイレがとてもキレイですし、アニメ「ヤマノススメ」にも出てきた「手作り豚汁」が食べられるのもこちらです!富士山をゆったり楽しんでほしいという、女将さんの想いのつまった素敵な山小屋なので、おススメです。
大陽館を越えると標高も3,000mを越えてくるので、高山病にならないように、しっかりと深呼吸をしながら登っていきましょう。次の山小屋である見晴館の標高は3,200mです。
吉田口の下山道との合流点まで来れば、分岐点に立つ下江戸屋さんに到着します。少々、吉田口の下山道が急であり、それを登らなければならないため、ここからが正念場です。
登りの方は、右手に続く道をロープに沿って登っていく方が楽です。看板標識も「富士山頂」を示しているので、こちらを利用しましょう。
富士山ホテルの下を通過すると、右手に鳥居が見えてきます。
鳥居をくぐると、上江戸屋に到着します。
こちらが本八合目となり、標高は約3,400mです。上江戸屋の前を通過すると、吉田ルートの登山道へアクセスできます。上を見上げると、吉田ルートの最後の山小屋である、八合五勺の御来光館さんが見えます。
ここから山頂までは標高差約300m。山頂で御来光を見る場合は登山道での渋滞がありますので、2時間程度、ゆっくり時間をかけて登っていきましょう。
(ここから頂上までは、吉田ルートの紹介記事をご覧ください)
山頂からの下山道は、吉田ルートと須走ルートの分岐点が、八合目の下江戸屋のところにあります。誘導員が立ってくれている時間帯もありますが、もしいらっしゃらない場合は、十分な注意が必要です。
分岐を左に行くと吉田ルート、右に行くと須走ルートです。
下江戸屋の入口の前を通過していくと吉田ルートになり、分岐点から下に見えるのが須走ルートの見晴館で、鳥居も見えます。こちらに進めば須走ルートですので、間違えないように注意しましょう。
須走ルートにも、御殿場ルートの「大砂走り」と同じように、柔らかな砂の道を一気に駆け下りることのできる「砂走り」があり、七合目から砂払五合目まで続いています。1歩で2mほど進めてしまうので、足の筋力など残っていれば楽しく下山できますが、滑って転倒してしまうとケガにつながりますので、油断せず、安全に下りていきましょう。
また、砂の中に小石や岩が潜んでいる場合もあり、転倒の原因になることもあります。一歩一歩着実に進みましょう。
見晴館の下で、須走ルートの登山道と下山道の分岐があります。こちらも、間違えないように注意が必要です。
ガスっていると、下山道も見づらくなりますので、道幅を示すロープを頼りに進んでください。
砂走りの様子は↓のような状況です。
砂走りを楽しんだ後は樹林帯に入り、しばらく行くと砂払い五合目に到着します。ここでありがたいのが、吉野屋です。
体力が尽きてしまった時、須走口五合目まで水分がもたない時など、大変助かります。「お疲れ様でした!」と声もかけてもらえますし、あともうちょっと!の気力をふりしぼるためのエネルギーを、こちらで充電させてもらいましょう。
ここまでくれば、あと40分程度で五合目に戻ることができます。
各合目毎にある山小屋に有料(200〜300円/回)のバイオトイレが設置されています。
コイン式で硬貨を入れると個室の扉が開くタイプや、トイレの入口で料金を支払うタイプ等、さまざまです。
山小屋付近には休憩するのに適したテーブルやベンチ、スペースがあるのでゆっくり休めます。
下山後は、近隣の温泉で汗を流しましょう。足湯や日帰り温泉施設などが充実しており、お土産を買ったり、ご当地グルメを堪能したりといった楽しみもあります。
富士山に一番近い道の駅。マイカー規制乗換駐車場に隣接しているのでアクセスしやすく、新鮮な地場産品や、ここでしか手に入らないものも多数販売されています。
無料で利用できる足湯もありますので、こちらでゆっくりしてからマイカーで帰る、というのもよいのではないでしょうか。
詳細はこちら:公式サイトを見る
御殿場プレミアム・アウトレットの敷地内にあるホテルクラッド内の温泉施設です。温泉は、美肌を作るとされるメタケイ酸を含んだ自家源泉で、富士山の大パノラマが望める露天風呂が自慢。
食事処も充実しており、静岡のご当地グルメや和洋中のビュッフェが楽しめるレストラン「ダイニング花衣」や、地元のB級グルメやアルコール、軽食などを揃えた「木の花カフェ」もあります。
詳細はこちら:公式サイトを見る
金時山の麓・足柄の小高い丘に立つ温泉です。刺激の少ないアルカリ性単純温泉で、疲労回復や筋肉痛、ストレス解消、神経痛などに効果があるといわれています。
落ち着いた雰囲気の内湯もあり、露天風呂からの富士山の眺めは最高です!
詳細はこちら:公式サイトを見る
須走口でのルートについて、だいたいイメージが掴めたでしょうか?
霧状の雲に覆われて登山道が見えにくい、雷雲が集まりやすいなど、天候の変化にも注意が必要です。まだ、風が強く吹き抜けることも多いので、事前にしっかり天候及び風向・風速をチェックし、ケガや低体温症などに注意しながら、富士山を楽しんでください!
<東京・大阪・名古屋方面から>
・JR御殿場線 御殿場駅→富士急行バス 須走口五合目
・小田急電鉄 新松田駅→富士急行バス 須走口五合目
アクセス詳細:富士急行バス公式サイト
通常、須走口五合目駐車場までは、高速道路東富士五湖道路の須走IC、または東名自動車道御殿場ICから国道138号を経て「ふじあざみライン」(無料)を利用します。
ただし混雑時期(2024年は7月10日〜9月10日)にはマイカー規制が実施され、この期間はふじあざみラインは通行できません。
マイカー規制期間中は、自家用車は「道の駅すばしり」北側のすばしりドッグランに隣接する「マイカー規制乗換駐車場」(須走多用途広場)に駐車(無料)し、そこから須走口五合目行きのシャトルバスまたはタクシー(有料)に乗り換えます。
シャトルバスは、登山便は朝6時から18時までの間、下山便は朝6時45分から18時45分までの間、60分間隔で運行しています。
富士山では開山期(7月上旬〜9月上旬)になると、初心者も含め多くの人々がその山頂を目指します。
登山道は整備されていて歩きやすいですが、3,776mの日本一の頂に立つのは簡単ではありません。
初心者の方は、以下の3つを準備していくと登頂率を上げることができます。
整備されているとはいえ、大小の石がゴロゴロと転がっているのが富士山の登山道。
スニーカーでは滑りやすく転倒の危険があるため、登山靴を履くようにしたいところ。
登山靴は足首までサポートされていて足を捻りにくくソールが硬いため、不整地や岩場を歩いても安定して歩くことができ、疲れにくくなります。
突然の天候急変に備えてレインウェアも必須装備。上下セパレートタイプのものを準備しましょう。
また、夏でも朝の山頂付近は約5℃程度と平地の真冬と同じくらいの寒さとなるので、防寒着(ダウンジャケット等)も必要になります。
近年、主に外国人の軽装登山が問題になっていますが、現地で大変な思いをしないように、必要な装備はしっかりと揃えましょう。
装備について詳しく知る:「まず揃えたい山道具の基本6アイテム|登山装備のチェックリスト」
急にそんなに揃えられないし、富士山に登った後、登山を続けるか分からない、という方は山道具をレンタルするのもよいでしょう。五合目の登山口にレンタルショップがあるので、受け取り、返却が現地でできて便利です(要事前予約)。
ちなみに、YAMAPレンタルでも山道具のレンタルサービスを展開しており、道具別のレンタルのほか、初めて富士登山に挑む方向けのこだわりの山道具をパッケージにした「富士登山7点セット」(13,500円/3泊〜)も提供しています。
富士山は五合目(須走口は約2,000m)から登れるとはいえ、約1,700mの標高を登る必要があるため、体力が必要です。
富士山に登る前に、ほかの山へ練習登山に行くのがおすすめです。
登山が初めての場合、標高差(登山口から山頂までの高低差)300mくらいの山からスタートし、標高差1,000mの山を日帰りで登れるようになっておくと、富士山本番では楽に登れるようになります。
富士山は標高3,776mの山のため、高山病対策も不可欠。
寝不足は避け、ゆっくり登る、水分をたっぷり摂取することを意識して下さい。
頭痛やめまいが激しければ登山はあきらめ、高度を下げましょう。
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執筆・写真協力:登山ガイド・福田正浩