山開きの7月から閉山の9月上旬まで、多い年で30万人を超える登山者が国内外から押し寄せる国内最高峰・富士山(3,776m)。今回は、静岡県側(御殿場市)の富士山南東側から山頂を目指す「御殿場ルート」を紹介します。
主要な4ルートの中では出発点の標高が1,440mと最も低く、傾斜が緩やかなので、山頂までの距離・標高差ともにタフなのが特徴。その分、4ルートの中では最も登山者が少なく、静かな登山を楽しむことができます。
下山時には、クッションのような火山砂利を一気に下る「大砂走り」で、富士山ならではのダイナミックさとスリル感が味わえます。
ルートの魅力だけでなく、安全に登山を楽しむための注意点も交え、登山ガイドの福田正浩さんに解説いただきました。
2024.09.01
福田 正浩
登山ガイド
山小屋も登山者も少なく、富士山の壮大な自然を、静かに楽しむことができるのが御殿場ルートです。富士山の東側に登山道が整備されているので、日の出(御来光)は5合目からでも眺めることができます。
スタート地点である新五合目は、富士山の4つあるルートの中で最も標高が低く1,440mとなるため、標高差約2,300mを登ることになります。したがって、山行時間が長くなりますので、それなりの筋力と持久力が必要になります。余裕を持った登山計画を立てましょう。
山小屋は基本的にアットホームな雰囲気で、それぞれのよさがあります。詳しくはルート紹介の中で触れていきますね。
ポイント
①壮大な自然が楽しめる
②吉田口や富士宮口に比べ、登山者数が圧倒的に少なく、ゆったり歩くことができる
③富士山名物「大砂走り」を体験できる
コース情報
コース定数:52(コース定数とは?)
コースタイム:12時間30分
歩行距離:17.0km
累積標高差(上り)2,341m
累積標高差(下り)2,341m
御殿場口は富士山の4つあるルートのうち唯一、登山口までマイカーでアクセスできます。駐車場は第2、3駐車場が利用可能です。第1駐車場はバス、タクシーのみで、トレイルステーションがあるため、一般車両は利用できませんので、ご注意ください。
登山開始の前に、まずは新五合目のトレイルステーションで、天候の確認をしましょう。
バスで来る方は、時刻表のチェックも必ず行いましょう。登山において予想以上に時間がかかってしまい、バスに乗れないといったケースも多々ありますので、最終バスの時間と、バス以外の交通手段はあるのか、しっかり確認しておきましょう。
しっかりしたトイレもあります。
富士山では、今年から入山規制における事前登録が必要になり、静岡県側でも、入山のための事前登録が必要になります。そのためのブースがこちら。保全協力金も、こちらで支払えます。
登山の注意点などは必ず確認し、安全登山を心がけ、決してムリはしないようにしましょう。
富士山保全協力金は、富士山の貴重な自然の保護と、登山道整備のために利用されますので、お気持ちを御寄付頂きたいと思います。その返礼として木札がもらえますので、お土産にしてはいかがでしょうか。
さて、いよいよ登山開始!
登山口から15分程度歩くと、1つ目の山小屋「大石茶屋」さんがあります。かき氷が有名で、下山時に頂上から降りてきて、暑いなぁと感じた時はこれに限ります!お土産も豊富なので、是非色々見てみてください。宿泊も10名以内であれば可能です。
登山道は次の写真のような感じです。
足元は砂地で滑りやすく、場所によってはズブズブと埋まってしまい、歩きにくいと思うので、焦らずゆっくり歩きましょう。歩幅を小さく、体力を使い切ってしまわないように温存しながら歩くことをおススメします。
この地点には現在山小屋はありませんので、ひと呼吸いれてから、2つ目の山小屋「半蔵坊」を目指して頑張りましょう。この後、旧二合八勺、旧四合目を経て、新六合目となります。その間は山小屋はありませんので、適切な量の水分や行動食を用意しておきましょうね。
素晴らしい眺望!日本とは思えない壮大な自然ですよね。広大な富士山の自然を満喫しながら歩きます。
やっと2つ目の山小屋「半蔵坊」に到着!こちらの山小屋の夕食は餃子と豚汁です。定員12名と宿泊可能人数は少なめですが、プライベート感満載でゆったりくつろげる山小屋です。
七合目手前で標高3,000mを越えます。このあたりが体力、筋力的にもしんどいところですが、もう少し頑張ればまた山小屋が見えてきますので、頑張って歩きましょう!残念ながら休館してしまった日の出館(七合目)の跡を越えると、わらじ館、砂走館が見えてきます。
わらじ館はスイーツが有名で、ワッフルやどら焼き、強力餅、あんみつなどが楽しめます!麺類も豊富で、担々麺やあんかけ拉麺、鍋焼きうどんまで!
テラス席のある砂走館(すなばしりかん)では、晴れれば絶景を見ながらゆったりと過ごせますので、休憩にピッタリです。時間配分も忘れずに!宿泊者の夕食は手作りカレー(宿泊者以外も食堂で注文可)。御殿場ルートの山小屋は食事が自由におかわりできるところが多いですが、こちらもおかわり自由です!嬉しいですね。
さらに登っていくと、ゆっくりと富士山の自然を味わってほしい!という、女将さんの想いがたくさんつまった「赤岩八合館」さんに到着です。こちらの山小屋の名物も、おかわり自由の手作りカレー。元気に登山が続けられるようにとの思いを込めたニンニクや、地元御殿場で育てた自家製野菜がたっぷり入っています。
雲海の絶景が目の前に広がり、居心地のよさバツグンです。
その後、ブル道(ぶるどう、荷上げ用のブルドーザーが行き来する道)を何度か通過します。
八合目(3,390m)の見晴館跡を越えると、つづら折りの登山道を進み、山頂へ。足元の溶岩はだんだんと大きくなり、歩きづらくなります。しっかりと深呼吸しながら、ゆっくり焦らず登りましょう。
頂上付近になりますと、落石が起きる可能性もあります。「落(らく)!」という声が聞こえたら、必ず上を確認し、落石に当たらないように十分注意してください。
そしてついに!山頂到着!
御殿場口の山頂に着くと、正面には富士山の湧き水と言われている「銀明水」(実際は雪解け水です)、右手に旧郵便局(現在は使用不可)があります。
左に進むと、富士山の頂上にあるピークの1つ「駒ヶ岳」を越えたところに富士宮口の頂上と、浅間大社奥宮、頂上富士館さんがあります。
浅間大社奥宮では、御朱印や金剛杖の刻印(ここだけは焼印ではなく、赤いインクの刻印になります)、お守りなど。郵便局でははがきや登山証明書もあり、富士登山の記念にもなります。
頂上富士館さんでは、山で食べたらとっても美味しいカップラーメンやカップうどんなどがありますので、寒い場合は暖かい食べ物や飲み物でしっかりカラダを温めましょう。お土産やバッジもありますよ。
山頂のトイレは頂上富士館の裏手にあり、頂上富士館と郵便局の間を進み、左に行くとありますので、下山前にこちらで済ませておきましょう。
上の写真が、大砂走りの入口になります。真っすぐ行ってしまうと宝永山になりますので、間違えないように注意しましょう。登山道には太い柱に「御殿場ルート」と書かれていますし、小さい案内板もありますので、見失わないようにしっかり確認しながら歩きましょう。
また、新五合目近くの大石茶屋まで山小屋さんはなく、大砂走り前の最後の山小屋はわらじ館になりますので、行動食や水分がない場合はしっかり購入しておきましょう。
御殿場ルートでは、新五合目の大石茶屋を過ぎると新六合目までトイレがなく、新五合目〜新六合目間の所要時間も長いため、最初に新五合目の駐車場付近のトイレ、あるいは大石茶屋のトイレでしっかり用を足しておきましょう。
山小屋付近には休憩するのに適したテーブルやベンチ、スペースがあるのでゆっくり休めます。
御殿場登山口周辺は豊かな自然が多いので近隣には温泉施設はないのですが、少し車を走らせればゆったり過ごせる温泉を堪能できます。
御殿場口から御殿場方面に向かい、30分程度で行けるのがこちらの「大野路(おおのじ)」です。
富士山の湧水をたっぷり使った、肌に優しいお風呂で、開放的な露天風呂や展望風呂、家族風呂があります。
自然素材を活かしたアスレチック遊具が並ぶ「親子チャレンジ広場」やマスの釣り堀、グラウンドゴルフもあり、登山帰りでなくともゆったり過ごしつつ、遊ぶこともできる施設です。
詳細はこちら:公式サイトを見る
名古屋方面に行かれる場合は、富士宮市方面の温泉施設である天母の湯がおススメです。
1時間410円(2024年9月現在)とコストパフォーマンスに優れた温泉施設です。隣接する焼却炉の熱で富士山の湧き水を沸かしているので、エコな温泉施設です。
詳細はこちら:公式サイトを見る
富士宮ルートからもアクセスが容易なので、たくさんの方が利用されていますが、大きな温泉施設なのでゆったり過ごすことができます。もちろん食事処もあり、お風呂の種類も多いです。
詳細はこちら:公式サイトを見る
御殿場口でのルートについて、だいたいイメージが掴めたでしょうか?
霧状の雲に覆われて登山道が見えにくい、雷雲が集まりやすいなど、天候の変化にも注意が必要です。まだ、風が強く吹き抜けることも多いので、事前にしっかり天候及び風向・風速をチェックし、ケガや低体温症などに注意しながら、富士山を楽しんでください!
<東京・大阪・名古屋方面から>
・JR御殿場線 御殿場駅→富士急行バス 御殿場口新五合目
アクセス詳細:富士急行バス公式サイト
御殿場口新五合目までは、御殿場市街や富士宮・裾野方面から「富士山スカイライン」(無料)を利用します。富士山の他の登山口では、自家用車の通行を規制するマイカー規制がありますが、御殿場ルートにはマイカー規制はありません。
記事の冒頭でも書きましたが、駐車場は第2、3駐車場が利用可能です。第1駐車場はバス、タクシーのみ、そしてトレイルステーションがあるため、一般車両は利用できませんので、ご注意ください。
富士山では開山期(7月上旬〜9月上旬)になると、初心者も含め多くの人々がその山頂を目指します。
登山道は整備されていて歩きやすいですが、3,776mの日本一の頂に立つのは簡単ではありません。
初心者の方は、以下の3つを準備していくと登頂率を上げることができます。
整備されているとはいえ、大小の石がゴロゴロと転がっているのが富士山の登山道。
スニーカーでは滑りやすく転倒の危険があるため、登山靴を履くようにしたいところ。
登山靴は足首までサポートされていて足を捻りにくくソールが硬いため、不整地や岩場を歩いても安定して歩くことができ、疲れにくくなります。
突然の天候急変に備えてレインウェアも必須装備。上下セパレートタイプのものを準備しましょう。
また、夏でも朝の山頂付近は約5℃程度と平地の真冬と同じくらいの寒さとなるので、防寒着(ダウンジャケット等)も必要になります。
近年、主に外国人の軽装登山が問題になっていますが、現地で大変な思いをしないように、必要な装備はしっかりと揃えましょう。
装備について詳しく知る:「まず揃えたい山道具の基本6アイテム|登山装備のチェックリスト」
急にそんなに揃えられないし、富士山に登った後、登山を続けるか分からない、という方は山道具をレンタルするのもよいでしょう。五合目の登山口にレンタルショップがあるので、受け取り、返却が現地でできて便利です(要事前予約)。
ちなみに、YAMAPレンタルでも山道具のレンタルサービスを展開しており、道具別のレンタルのほか、初めて富士登山に挑む方向けのこだわりの山道具をパッケージにした「富士登山7点セット」(13,500円/3泊〜)も提供しています。
富士山は五合目(須走口は約2,000m)から登れるとはいえ、約1,700mの標高を登る必要があるため、体力が必要です。
富士山に登る前に、ほかの山へ練習登山に行くのがおすすめです。
登山が初めての場合、標高差(登山口から山頂までの高低差)300mくらいの山からスタートし、標高差1,000mの山を日帰りで登れるようになっておくと、富士山本番では楽に登れるようになります。
富士山は標高3,776mの山のため、高山病対策も不可欠。
寝不足は避け、ゆっくり登る、水分をたっぷり摂取することを意識して下さい。
頭痛やめまいが激しければ登山はあきらめ、高度を下げましょう。
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執筆:福田正浩