登山を始めるきっかけで多いのが、「職場の仲間に誘われて」というパターン。仕事とプライベートを分けたいという人もいる一方、なぜ同僚たちと行くグループ登山が増えているのでしょうか。そこで、登山コミュニティをもつ企業の登山部員たちに、心身のリフレッシュだけではない、グループ登山の魅力を伺う「登山部インタビュー」連載をスタートしました。
登山コミュニティをもつ企業にグループ登山の運営方法や魅力を伺う「登山部インタビュー」連載。第五回にご登場いただくのは、都内4拠点でシェアオフィスを運営する「MIDORI.so」から生まれた「open country」というハイキングコミュニティです。2022年、運営者と利用者のふたりからはじまった小さな登山コミュニティは、現在では参加者のべ160名の広がりをみせる大きなコミュニティへと発展しました。国籍を問わず誰もが参加できるうえ、登山だけにこだわらない独創的な企画を提案するopen country。発起人のひとりである涌井駿さんに、これまでとこれからのお話を伺いました。
2024.12.20
YAMAP MAGAZINE 編集部
< 話を聞いた人 >
MIDORI.so コミュニティオーガナイザー・open country発起人:涌井駿さん
▼みどり荘オフィシャルサイト
https://midori.so/
▼open country公式Instagram
https://www.instagram.com/_opencountry_/
── 近年、働き方の多様性が広がるなかで新たな仕事場として広がりを見せている「シェアオフィス」ですが、涌井さんは「MIDORI.so」でどんなお仕事をされているのでしょうか。
涌井さん:僕は、MIDORI.soでコミュニティオーガナイザーとして仕事をしています。簡単に言うとシェアオフィスの会員同士のコミュニケーションを加速させるための役割です。シェアオフィスは共有空間のため、シェアオフィスの会員同士の働きやすさのために環境を整えたり、シェアオフィスで実施するイベントなどの企画をしています。
個性を持った人たちが集まる空間だからこそ、個人同士がつながることで新しい何かが起こったりすることも多いんです。なので仕事に活かせる企画から「THE 仕事」じゃないイベントの企画などもしています。
── メンバーのみなさんとのコミュニケーションがメインの仕事なんですね。
涌井さん:そうと言っても過言ではないですね。open countryも、もともとは、僕とMIDORI.soメンバーだったオーストラリア人のルーシーが、たまたま同じ「登山」という趣味を持っていて休日に一緒に山登りに出かけたことがきっかけで始まりました。
── 個人同士の登山がコミュニティに発展したのはなぜですか?
涌井さん:日本の山って、日本語の情報ならたくさんあるんですよね。それこそYAMAPとか、ネットで検索しても情報が色々出てきますよね。でも英語の情報って案外少なくて、海外から来た人たちにとってあんまり親切じゃないなと思ったんです。「自分たちで情報を英訳したりして、登れる山を増やしていこうよ」っていう話を山の中でしていて、それが発展していまのopen countryのスタイルが生まれています。MIDORI.soは幅広い国籍のメンバーが在籍していることもあって、そういった課題にも敏感だったんだと思いますね。
── では、参加者の方の国籍も幅広いのでしょうか?
涌井さん:そうですね。僕たちはInstagramのアカウントでイベント情報を発信しているんですが、基本英語で情報を発信しています。なので参加者の方も8割くらいは海外の方ですね。もちろん、MIDORI.soに入居している日本人の方も参加されることはありますが、外国人のメンバーたちが口コミで広げてくれていることもあって国籍はかなり幅広いです。最近はMIDORI.soとは関係ない方がInstagramを見て参加してくれるので、働く場所起点で始まった活動とはいえ、独立したコミュニティとして発展しています。
──「open country」というコミュニティの名前も、経緯が関わっているのでしょうか?
涌井さん:そうです。「country」という言葉は、「国」という意味と別に「土地」というような意味があって、ダブルミーニングになっているんです。クローズドなコミュニティというよりは、ポジティブで、オープンなコミュニティを目指していて、『国籍を問わず、日本という土地で行ける場所を広げていこうよ』というような意味があります。ぼくたちは親しみを込めて「オプカン」と呼んでいます。
── ハイキングイベントの実施エリアはどのあたりですか?
涌井さん:東京・神奈川を中心にした低山が多いです。もともとは本格的な登山もしたかったんですが、現在は『歩きながら会話を楽しんで、新しい友だちをつくる』というのがメインの目的になっています。実際、登山口まで公共交通機関などで移動しやすい場所の方が、集まりやすいですしね。でも、低山をただ登るだけだと面白くないので、観光地を経由したり、別のコンテンツを盛り込んで企画をしています。
── 実際にどのような企画を実施されているのでしょうか。
涌井さん:最近だと、フラワーピッキングツアーというものを企画しました。ハイキングのあとに花農家さんの畑に立ち寄って、自分たちでブーケを作らせてもらったり、現在open countryのイベントを中心となって主催してくれている仲間の ディーンによる水彩画デッサンのワークショップをしたりしました。これはすごく人気で、すぐに募集枠が埋まってしまうイベントになっていますね。
涌井さん:ほかには、ビール屋さんで働く友人に協力してもらい、年末にビールタップを担いで高尾山に行く「忘年山行」も企画したことがあります。タップは本当に重いので、参加メンバーで交代しながら担ぎましたね。それ以外にも、山にこだわらず山手線沿線を歩くシティハイクのイベントを企画したこともあります。
── グループ登山を企画する際に、気にかけていることや注意していることはありますか?
涌井さん:イベント募集の時には、行程をイメージできるよう、必ず行く山のレベル感、所要時間、歩く距離などを記載するようにしています。ほかにも、持ち物や水の量などはアナウンスするように心がけていますね。当日は、主催者側は水や行動食を少し多めに持っていくようにするのと、必ず道中でひとりひとりに「調子どう?」「○回目だね」「ペース大丈夫?」というような声をかけるようにしていますね。
あとは基本、複数人のオーガナイザー(リーダー)で企画をするようにしています。そうすることで余分に持っていく水などを分担することもできるし、歩くペースが合わなくなってしまうようなケースでもリーダーがひとつの団体を見ることができる。アクシデントは起こるものとして計画を立てています。
── 初対面の人同士のコミュニケーションとして、山登りは有効だと感じますか?
涌井さん:感じますね。やっぱりみんなで登った、という達成感があるのではないでしょうか。それに身体を動かしているからか、最初は口数が少なくても、下山する頃にはみんな仲良くなってる。各自で連絡先を交換して、仲良くなっている人も多いですよ。グループで山を登るってことは、やっぱり仲間とペースを合わせたり、協力し合わなくちゃいけない。それって仕事やプライベートでの人間関係とおなじなので、1日でそれを擬似体験できるというか、主催する側も参加する側も良い経験になっていると思いますね。
── イベント以外でも参加者との接点はありますか?
涌井さん:先日、MIDORI.soでオフ会をやりました。これまでのイベントの写真を飾って、以前のイベントの話などで盛り上がりましたね。今後も定期的に実施したいなと思っています。
涌井さん:それ以外にも、参加者は東京に住んでる人が多いから、街で偶然遭遇することも結構ありますね。公園歩いてたらいた、とか(笑)友だちができるのは、大人になってからでも良いことですね!「次いつやるの?」と声をかけてくれたり、楽しみにしてくれている人がいることが嬉しいし、やりがいにもなっています。発起人の僕とルーシーは仕事の都合だったりでメインの主催者からは離れてしまいましたが、新しい世代のリーダーたちが活動を続けていってくれているので、これからも登山を通したコミュニティが広がっていくことが楽しみです。
自然の中でリフレッシュできるだけじゃなく、仲間との結束力も深まる「登山」。同じ景色を見て、同じ達成感を味わうことで生まれる一体感は、心の距離を縮め、信頼や絆を育んでくれます。仲間との絆が深まることで、日々の仕事にも思わぬ変化が生まれるかもしれません。
「次の週末は、会社の仲間や友人と一緒に登山をしてみようかな?」
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