山と山麓スポットが手軽に楽しめると人気急上昇中の茨城県「常陸国(ひたちのくに)ロングトレイル」。今回は海を見渡す絶景が楽しめる「石尊山」と「常陸牛」や「あんこう鍋」などの絶品グルメ、そして大人気「チームラボ」の野外アートを、登山系YouTuber・モデルの山下舞弓さんと一緒に紹介します。
2025.01.09
大関直樹
フリーライター
茨城県の県北エリア6市町にまたがり、自然と歴史・文化の魅力を感じることができる「常陸国ロングトレイル」。YAMAPマガジンでも過去6回に渡って紹介してきましたが、今回は山と海、そしてアート&グルメを楽しむコースを案内します。ナビゲーターは、登山系YouTuber・モデルの山下舞弓さん。さて今回は、どんな山旅になるのでしょうか?
また、紹介コースは2025年1月31日(金)まで実施中の「常陸国ロングトレイル デジタルバッジキャンペーン」の対象エリアなので、ぜひ最後までチェックしてみてくださいね。
YAMAP MAGAZINEでは、これまでも「常陸国ロングトレイル」を紹介してきましたが、改めてその魅力を振り返りましょう。
常陸国ロングトレイルの5つの魅力
1.低山の多様な自然・・・標高500mほどの低山歩きで、展望、滝など変化に富んだ自然を楽しめます
2.自由な計画性・・・単に山頂を目指すだけでなく、スタート&ゴールを自分で自由に設定できます
3.歴史あるスポット・・・「常陸国風土記」(717~724年に書かれた茨城県の地誌)の時代からの遺構など、歴史を感じるスポットが数多く残っています
4.地域色豊かなグルメ・・・山麓には、地域色豊かな特産品グルメが目白押し。下山後のお楽しみも盛りだくさんです
5.多彩なエリア・・・山間エリアや沿岸エリアなど、それぞれに個性があり、自分の好みのコースを選べます
また、2024年9月には各エリアの特徴を楽しいイラストで紹介するイラストマップが完成。茨城県内の道の駅、県北地域の市町関連施設で無料配布しているほか、下記からダウンロードもできますので、ぜひ御覧ください。
JR日立駅から、北茨城市にある石尊山(せきそんざん・412m)をめざします。山頂から太平洋の美しい眺めを堪能したら、下山後は岡倉天心が思索の場所として自ら設計した六角堂へ。さらにチームラボが制作したイルミネーションや日本画の優れた作品を展示する美術館などを巡ります。宿泊は、源泉かけ流しの温泉と地元産の新鮮な料理が楽しめる老舗旅館。今回も盛り沢山のモデルコースを紹介します。
9:41 JR日立駅
JR東京駅7時53分発の特急ひたち3号に乗り、9時41分に日立駅に到着。レンタカーを借りて、石尊山の登山口、西明寺公民館駐車場に向かいます。駐車場の入口は、少しわかりにくいので注意しましょう。
10:50 石尊山登山口
石尊山は、標高こそ412mですが、眺望が抜群なことで人気の山。学区内の小学生が登山学習を行うなど、地域からも愛される故郷の山です。また、登山道は、地元のサークルが整備を行っているので、とても歩きやすくなっています。
山頂までは、いくつかのルートがありますが、今回は急坂で登り応えのある男坂コースを選びました。
石尊山という山名は、神奈川県伊勢原市にある大山阿夫利神社(おおやまあふりじんじゃ)のご神体である巨石を崇敬する石尊信仰に由来しているそう。その信仰が全国に広まったため、常陸国を始め日本各地に「石尊山」という山が点在しています。
登り始めてから約20分、西明寺という石碑が立つ観音堂に到着しました。ここは、江戸時代に制定された「常陸三十三観音霊場」という巡礼地の第二十番札所だったところ。当時の人々は、お遍路さんのように常陸国にある33の寺院を巡ることで、極楽往生できると信じていました。しかし、幕末に水戸藩主・徳川斉昭が行った寺社改革により廃寺となり、現在は、観音堂のみが残っています。
急登に汗をかくこと約30分、尾根に出たところでは、見渡す限りの大絶景が広がっていました。遠くには福島県の海岸線まで見渡せます。
山下さん:山から海が見えるとテンションが上がりますね。登り始めてから1時間も経たないうちに、こんな素晴らしい景色に出会えるなんて驚きました!この景色は、本当に感動的です、標高が412mしかないなんて思えません。
11:30 石尊山山頂
石尊山からは十里上峠(とりあげとうげ)を経て、女坂を使って西明寺公民館駐車場にいったん下山。
山下さん:石尊山の登りは、ジグザグではなく直登が多いので、意外と登り応えがあります。反対に下りは、緩やかな落ち葉の絨毯の道で、そのコントラストが楽しいですね。道に石仏があったり熊野古道っぽい雰囲気があったりで、古くから多くの人が歩いた歴史の面影を感じました。尾根の絶景は、思わす「おおーっ!」と声が出ますよ(笑)
13:00 十石堀親水公園
今度は近くにある十石堀(じっこくぼり)親水公園へ車で向かいます。十石堀とは、約350年前に農民が自主的に掘り進めた約15kmの農業用水施設。険しい山の斜面に用水路を築くのは、当時としては画期的だったそう。
現在でも、水源から約2kmの区間は建設当時の姿が残っており、2019年に「世界かんがい施設遺産」に登録された貴重な史跡です。
14:00 六角堂(茨城大学五浦美術文化研究所)
十石堀親水公園から車で約20分、五浦(いづら)エリアに建つ史跡、六角堂へ。ここは、近代日本美術の父とも呼ばれ、日本美術院の創設者として知られる岡倉天心が国際的な活躍の拠点とした場所。彼が思索の場所として自ら設計した六角形の建物のほか天心の旧宅・庭園などが展示、公開されています。
六角堂(茨城大学五浦美術文化研究所)
開館時間:8時30分~17時30分(入場は16時まで)※季節により変更あり
定休日:毎週月曜(祝日の場合は、翌日)
入館料:400円
https://rokkakudo.izura.ibaraki.ac.jp/
15:00 五浦観光ホテル別館 大観荘
北茨城市にある五浦海岸(いづらかいがん)は、太平洋の荒波に侵食された5つの入江が連なっていることから五浦と呼ばれています。日本の渚100選や茨城百景などに選ばれている名勝地に立つ「五浦観光ホテル別館 大観荘」は、オーシャンビューの露天風呂や客室が自慢の老舗ホテル。
源泉71度でかけ流しという贅沢な天然温泉。疲労回復や美肌効果が期待できると、宿泊者からも大好評です。温泉ソムリエの資格を持つ山下さんは、次のように教えてくれました。
山下さん:ナトリウムカルシウム塩化物泉なので肌触りが柔らかく、湯上がりにはお肌がつるつる・もちもちになりますよ。湯口のお湯は熱いんですが、浴槽が広いのでちょうどいい温度になり、いつまでも入っていたくなります。
食事は、地元産のこだわった食材が並びます。五浦の近くには大津漁港と平潟漁港という2つの港があるため、新鮮な魚介類が豊富。メヒカリやタイ、ボタンエビの刺し身は、採れたてを味わうことができます。11月から3月頃までは、五浦名物のあん肝をふんだんに使ったあんこう鍋がおすすめです。
山下さん:ロケーションに温泉、お料理とどれも大満足の宿でした。地元愛にあふれるふたりの女将さんとのおしゃべりも、とても楽しかったです。日本の老舗ホテルの底力を感じました(笑)。今度は、プライベートでもぜひとも訪れてみたいです
五浦観光ホテル別館大観荘
宿泊料金:18,700円~(1泊2食・2名1室・平日)
https://www.izura.net/
18:00 チームラボ幽谷隠田跡
五浦観光ホテルから車でわずか2分のところには、チームラボによる体感型のアートスポット「チームラボ 幽谷隠田跡(ゆうこくおんでんあと)」があります。ここでは、五浦の森の中にある棚田跡を中心に、自然と融合したデジタルアート作品を10点ほど公開。グランピングや温泉施設も併設されており、泊まって楽しむこともできます。
「チームラボ 幽谷隠田跡」の開設にあたって、チームラボでは付近の植生を調査し、植物とライトアップが一体化した幻想的な作品を生み出しました。森のなかに足を踏み入れると、人や動物の動きを感知して光や音がシャワーのように降り注ぎます。次々と現れる作品に驚かされ、約1時間の森歩きはあっという間。園内はアップダウンもあるので歩きやすい靴が必須で秋から冬にかけては寒さ対策として防寒着を持参しましょう。
山下さん:私はもともとチームラボさんの作品がとても好きなのですが、自然の中で楽しめるのがとてもいいですね。樹木の葉が風で揺れたり、虫の声が聴こえてくる中で光のイルミネーションに包まれていると、まるで異世界に迷い込んだような不思議な気分になりました
チームラボ 幽谷隠田跡
営業時間:季節によって変わるので、公式HPを参照のこと
定休日:毎月第1火曜
料金:2,200円 ※現地で購入の場合は+200円
https://www.teamlab.art/jp/e/izura/
10:10 茨城県天心記念五浦美術館
10時に五浦観光ホテルをチェックアウトしたら、車で3分の茨城県天心記念五浦美術館へ。
この美術館では、横山大観、下村観山、菱田春草、木村武山といった五浦ゆかりの芸術家たちの作品を鑑賞することができます。また、近現代の日本画を中心とした企画展を年に5~6回ほど開催しているほか、岡倉天心記念室では、近代日本美術の発展に貢献した岡倉天心の生涯を書簡や遺品などで紹介しています。
美術行政家であり思想家でもあった岡倉天心は、1889年に東京美術学校(現在の東京藝術大学)を開校。天心は校長に就任し、森鴎外らを招聘しますが、天心を排除する動きにより辞職。その後、今も「院展」で知られる日本美術院を創設して五浦に移住し、教え子だった横山大観、下村観山、菱田春草、木村武山などを呼び寄せて新しい日本画の創造を模索します。
生活上の苦境に耐えながらも大観ら五浦の作家達は、近代日本画史に残る名作を発表。天心も日本や東洋の文化や美術を世界に紹介するなどし、現代日本の美術教育を築いた功績で広く知られています。
茨城県天心記念五浦美術館
開館時間:9時30分~17時(入場は16時30分まで)
定休日:月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
入館料:一般210円(岡倉天心記念室)※企画展は、別途料金
https://www.tenshin.museum.ibk.ed.jp/index.html
12:00 和風ステーキ 一ツ木
茨城県の名物として「奥久慈しゃも」と並んで知られているのが「常陸牛」です。県内の指定生産者によって30ヶ月以上にわたってじっくり育てられた黒毛和牛は、きめ細かな肉質が特徴。赤身とほどよく入ったサシが織り成す霜降り肉は、見た目も味わいも抜群。
そんな、常陸牛のなかでも品質にこだわった素材を生かした肉料理を楽しめるのが「和風ステーキ 一ツ木」です。
メニューは、常陸牛のサーロインステーキ、テンダーロインステーキのほかに地元の人でもなかなか食べることのできない希少な「花園牛」のステーキも。また、ハンバーグ(1430円)やビーフカレー(1210円)などリーズナブルな価格のメニューも人気。今回は、看板メニューである常陸牛のサーロインステーキ200gをいただきました。
山下さん:口の中に入れただけで、とろけます。ジュワッと広がる肉汁もしつこさがなくて、本当に美味しいです!下山後に、このステーキが食べられると思ったら、急な登りも頑張って登れそうです(笑)
オーナーの長谷川さんにおすすめのメニューをうかがったところ、次のように答えていただきました。
長谷川さん:常陸牛、花園牛の品質にはこだわっています。お食事メニューのほとんどに常陸牛、花園牛を使っていますので、ステーキ屋さんのハンバーグやカレーもぜひ試していただきたいです。高速代の方が高いと笑いながら遠方から食べにいらっしゃる客様もいらっしゃいますよ。
和風ステーキ 一ツ木
営業時間:11時30分〜14時、17時~20時30分(ラストオーダーは、20時)
定休日:月曜、第三火曜
https://www.hitotsugi.com/
【今回紹介したスポット一覧|茨城県・常陸国ロングトレイル】
*「常陸国ロングトレイル×YAMAPデジタルバッジキャンペーン」に関連し、地元施設で割引などが受けられるキャンペーンも実施中です。
詳しくはYAMAP MAGAZINE記事の「割引・特典協力店舗一覧」をチェック!
山下さん:山と海、アートと温泉、そしてグルメと、今回も思う存分楽しめました。常陸国ロングトレイルは、何度訪れても素敵な山や美味しいグルメに出会えることに驚きます。茨城県のポテンシャルは計り知れません(笑)。冬から春にかけては、空気も澄み渡って低山歩きが楽しい季節なので、今回の記事を参考にYAMAPユーザーさんも常陸国ロングトレイルを満喫してください!
岡倉天心を始めとした芸術家たちが愛した五浦を巡る山旅は、アートが好きな方にとってはきっと心に残るものものだと思います。冬は晴天が続くことの多い五浦エリアは、12月から2月にかけて石尊山から素晴らしいオーシャンビューが望めます。そして泉質のよい温泉で心も体も温めて、ちょっと贅沢にあんこう鍋や常陸牛に舌鼓を打ってみるのも楽しいですよ!
文章:大関直樹
写真:西條聡
モデル:山下舞弓
協力:茨城県県北振興局