年の瀬も近づいてきた今日この頃、温かな料理が恋しくなる季節ですね。それは山でも同じ。山頂についてほっと一息ついた後に、冷た〜いおにぎりなんて食べてたら、心まで凍えてしまいます。そこでおすすめしたいのが「缶詰鍋」。缶単(かんたん)で滋味深く、しかも体もあったまる。まさに心の缶全(かんぜん)栄養食品なのです。ということで、いよいよ最終回となってしまった缶詰博士こと黒川勇人氏が手がける本連載。最後もとくとご賞味あれ!
超絶美味な山ごはん! 缶詰博士が教える珠玉の缶たんレシピ講座 #08/連載一覧はこちら
2021.12.22
黒川 勇人
缶詰博士
缶にちは! 雪中の閉め切ったテントでガスバーナーを使い、一酸化炭素中毒でちょっと幻覚を見たことがある缶詰博士・黒川勇人です(生きてて良かった。バーナー類はテント外での使用が原則!)。
いよいよ冬山シーズンの到来であります。冬山での料理といえば、手間が掛からず、体が温まるものが一番。となれば、缶詰を使った鍋料理などいかがだろう。
さば缶やさけ缶を使ったレシピはクックパッドにたくさん載っているし、お隣の韓国では、キムチ鍋にスライスした「スパム」を加える「プデチゲ」が大衆食だ。加熱調理済みの缶詰を具にすれば、燃料が節約できる上に、手早く作って食べて、体を温められる。
ということで、今回はみんな大好き「さば缶」を使った鍋を提案申し上げたい。料理名は「さば缶のカレー豆乳鍋」であります!
竹やぶのある登山道。典型的な里山の風景だ
やって来たのは、千葉県のとある低山。高速道路の渋滞に巻き込まれながらも、朝8時には登山口をスタート。しばらく竹やぶの登山道が続く。
竹やぶを見ると、子供の頃を思い出す。竹は軽くて扱いやすいので、秘密基地を造る資材に最適なのだ。倒れた竹を組み合わせて、かなり立派な基地を造ったものだけど、何日かすると誰かに壊された。その度に再建し、また壊される。あの無限ループも楽しかったなァ……と、そんなことを思い出しながら登っていく。
切り株に紅葉。オブジェのようだ
やがて道は雑木林を経て、杉林に変わった。ふと見ると、登山道の脇に切り株があり、その上に黄色く色づいた葉が乗せてあった。きっと先行している登山者が乗せたのでありましょう。切り株は周縁部にだけ苔が生えている。何故そうなるのか15秒考えたが、周縁部は水分を多く含んでいるからだろうと推測した(本当はどうなのか不明)。
ともあれ、ドーナツ状の苔の中に置かれた黄色い葉が、まるでオブジェのようだった。
さば缶のカレー豆乳鍋の材料
展望台に到着したところで、ひと休み。まだ昼には早いが、ここでさば缶のカレー豆乳鍋を作って早弁をする目論みなのだ。
材料は、画像左奥から塩むすび1コ(コンビニで購入)、フリーズドライのほうれん草と人参(ナルゲンの広口丸形ボトル30mlに入っている)、清水食品「サバカリー・インドカリー仕立て」が1缶、無調整豆乳200mlが1パックであります。
サバカリー・インドカリー仕立ての内観
本日の主役、サバカリー・インドカリー仕立てを開缶! 料理名に「カレー」の文言が入っているのは、このカレー味のさば缶を使うからだ。
2018年のブーム以降、人気が続いているさば缶だが、近年のトレンドはカレー味。1990年代に初めて世に出たさばカレーは、千葉の缶詰メーカー2社が開発したものだった。以降、定番商品として造り続けていたのはその2社だけで、1社は後に撤退してしまった。つまり、さばカレーは知る人ぞ知る缶詰だった。
それが2018年になって、マルハニチロが「さばのカレー煮」を発売。その後は立て続けに宝幸、極洋、高木商店といったメーカーが続々と参入し、お洒落女子御用達の「カルディコーヒーファーム」までオリジナルさばカレーを発売。現在では、8社のメーカーが10種類以上を製造している。トレンドになったのであります。
そんなさばカレーの中でも、今回の清水食品「サバカリー・インドカリー仕立て」はひと味違う。何と、カレーの名店「新宿中村屋」と一緒に開発したさばカレーなのだ。
サバカリーに豆乳を合わせる
日本で初めてインドカレーを提供したのが新宿中村屋だ(それまで日本にあったのはイギリスカレー)。一方、日本で初めてツナ缶を製造・販売したのが清水食品。パイオニア精神あふれるこの2社がタッグを組んだこの「サバカリー・インドカリー仕立て」は、ココナッツの甘い風味がスパイスと絡み合い、かつ脂が乗ったさばのうま味と合わさって、誠にウマい。
さばとカレー汁を残さずクッカーに入れた後、無調整豆乳を200ml注ぐ。さらにフリーズドライのほうれん草と人参を加えて、火に掛ける。
アルコールストーブで調理。シェラカップがフタ替わりだ
クッカーの中はしゃばしゃばのスープ状態なので、火力の調節が出来ないアルコールストーブでも焦げ付く心配は少ない。フタ替わりにシェラカップを被せて保温し、さらに加熱時間が短く済むようにした。
3分ほど経ったところで、スープが煮立ってきた。底から静かにかき混ぜて、全体が熱々になったところで火から下ろす。
脂が乗ったさばが美味しい
かくのごとし。さば缶のカレー豆乳鍋の缶成であります!
スパイシーな本格インドカレーが、豆乳でかなりマイルドになっている。辛さは減ってしまったが、その分、豆乳の濃厚なコクが味わえる。フリーズドライの野菜からもうま味が出ているし、主役のさばが脂乗り抜群で美味。生臭さは皆無だ。
以前、モルディブでフィッシュカレーを食べたことがあるけど、あれも生臭さは感じなかった。原料の魚の鮮度が良いことと、「モルディブフィッシュ」という調味料のおかげだという。モルディブフィッシュはかつお節とほとんど同じもので、いわば出汁の役割がある。それがスパイス類と魚とを、違和感なくつないでくれるわけ。
実はこの「サバカリー・インドカリー仕立て」にも、かつお節が入っているのだ! 恐るべし新宿中村屋、隙がない。
塩むすびをIn
さばを食べ終えたあとで、塩むすびをIn。崩して混ぜればおじやの缶成であります。
おむすびに付いていた塩気が加わったことで、味が引き締まり、あらためて美味しくなった。それにしても、かなりボリューミーな昼食になってしまったなァ(しかも早弁)。
眺望に見とれておじやが冷めていく図
さて、今回で僕の連載はいったん終了であります。この仕事のおかげで、久しぶりに登山の魅力を思い出すことが出来て嬉しかった。そこにライフワークの缶詰も絡めることが出来て、ダブルで嬉しかった。
プライベートでも登山は続けているので、今後も缶詰ネタをたくさんためておくつもり。みなさんとはいずれ再開できる日が来ると思う。缶謝(感謝)!
清水食品「サバカリー・インドカリー仕立て」150g 参考小売価格:税込324円
スーパーやコンビニ、ドラッグストア、通販などで購入可
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