自分は「山の人」というよりも「山YouTubeの人」|YAMAP動画コンテスト2021受賞者:イタガキ▲さん

YAMAP動画コンテスト2021で「YAMAP賞」を受賞したイタガキ▲さん。8年前からYouTubeチャンネル「ITAGAKI.TV」に登山動画を投稿し、多くのファンに支持されているベテラン登山系YouTuberです。本業も動画クリエイターであるイタガキ▲さんに、登山や映像制作のモチベーションについてお話を伺いました。

2022.02.16

YAMAP MAGAZINE 編集部

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受賞作のテーマは「カップラーメン」

ー今回の動画コンテストでYAMAP賞を受賞した作品『カップラーメンの美味しい食べ方』、山の動画のはずなのに室内でカップラーメンを食べる寸劇から始まっていて、思わず笑ってしまいました。なぜこのテーマで動画を作ったのですか?

動画の「柱」を決めるとき、それが美しい風景とかだと、どうしても他の人とかぶってしまうと考えました。そこで山ごはんに着目したのですが、私は山でちゃんとした調理をすることがなくて。自分のYouTube動画を見返したらかなりカップラーメンを食べていたので、その場面をつなぎ、冒頭の寸劇を足しました。

ー冒頭がまるで映画のようでした。

謎ですよね。なんで英語なんだ、みたいな(笑)。音楽をつけたら映画っぽい雰囲気になったので、寸劇部分も映画っぽくしてみました。

ー寸劇は何度かテイクを重ねたのでしょうか?

ほぼファーストテイクなんですけど、ラーメンをすするところは何回もいろんなパターンで撮ったので、途中でラーメンがなくなってしまうハプニングがありました。

インドア派が登山を始めたきっかけは「アクアリウム」

ー登山を始めたきっかけを教えてください。

もともと趣味でアクアリウムをやっていたんですね。熱帯魚を飼う水槽に水草を植えて、実際の風景のようなレイアウトを作るものです。かなりどっぷりやっていて、アクアリウムの道具を扱うショップの店長と仲良くなりました。

アクアリウムで作る風景って、山岳風景を模したものがけっこうあるんです。岩があって緑が生い茂っていて、そこを魚が泳ぐと美しい。そんな話を店長としているうちに、「山に行っちゃおうか」という流れになり、燕岳に突撃したのが最初の登山です。そのとき燕山荘の前から見た稜線や山々の景色が素晴らしすぎて、それが登山の原体験となっています。

ーそれまでは、あまりアウトドア派ではなかった?

完全にインドア派でした。でも、33歳のときに運転免許を取って車を買って、それがきっかけでアウトドアに意識が向くようになりました。燕岳に行ったのもその頃です。

ーイタガキ▲さんはYouTubeでよく山道具の紹介をしていますよね。

山に行く理由っていろいろあると思うんですが、私は「お気に入りのウエアを着て気持ちのいい場所に行く」ことにすごく意義を感じていて。私、シェルジャケットが大好きなんですよ。見た目も機能性も好きだし、着ると気合が入るんです。ミュージシャンが衣装を纏ってステージに立つような。だから、そこは無頓着にはできませんね。逆に、山ごはんには無頓着なんですけど。

ー山ごはんのために登山する人もいますよね。

登山のモチベーションは人それぞれなので、山ごはんや写真がメインの人もいれば、山小屋や植物が好きな人もいますね。

ーイタガキ▲さんにとって、登山のモチベーションのひとつが山道具?

まさにそうです。たとえば山域によってテントが要るとか、雪山だとピッケルが要るとか、「この山に行くためにはこのアイテムが必要!」ってゲームみたいに装備を揃えていくのが楽しいです。

ー登山歴8年とのことですが、登山を続けている理由はどこにあるのでしょう。

どんどんレベルアップしていけるところですかね。道具も集めればキリがないし、山域も広げていけるし、やろうと思えばどこまでも成長していける。登山は本当に果てしない趣味だと思います。

「求められるもの」と「作りたいもの」の間で悩むことも

ーイタガキ▲さんは登山系YouTuberとして活動されていますが、本業も映像編集のお仕事ですよね。映像に関わりはじめたきっかけは?

中学生のとき、家にあった家庭用ビデオカメラをいじりはじめたのが最初です。昔、ラジカセで自分の声を録音して遊んだことがある人も多いと思いますが、その延長でビデオを撮ってみたらなんだか楽しかった。それで、友達と遊ぶときや旅行にビデオカメラを持っていくようになりました。映像作品ってわけじゃないけど、撮った映像にBGMをつけて遊ぶとかして。その後、大学で映像を学び、そのまま映像関係の仕事に就きました。

ーもともと映像畑の方がYouTubeを始めたんですね。

私の仕事は撮影してもらった映像を編集することなので、自分では撮影しないんです。だけどもともとビデオが好きなので、撮影したい気持ちが高じてYouTubeが趣味になりました。

自分で撮影するようになってからは、映像の見え方も変わってきましたね。たとえば、「ずっと自撮りしながら登ると画のバリエーションが少なくなるから、飽きずに見てもらうためにいろんな画角で撮ろう」とか考えるようになった。まだまだ勉強しながらやっています。

ーYouTubeを始めたことで、心境の変化などはありましたか?

好きでやっていることなんですけど、常に「なにかに追われて生きている」感じがしています(笑)。私が始めた頃のYouTubeはあくまで趣味のひとつだったけど、今は表現手段になっている。意識しないようにしても、どうしても「戦う場所」「結果を残す場所」という感覚はありますね。

ー視聴者さんの反応が気になるとか?

気になりますね。「求められるもの」と「作りたいもの」の間で悩むのって、創作する人がみんなぶつかる問題だと思うんです。たとえば、ファーストアルバムが売れたからセカンドアルバムも同じテイストで作ったバンドが、「サードアルバムは音楽性を進化させよう!」って意気込んだらファンに「前のほうがよかった!」って怒られるとか(笑)。世の中のトレンドもあるし、どんなものを作るかは常に考えています。

ー今まで作った山の動画で、もっとも自信のある作品は?

西丹沢で撮った動画です。でも、自分なりの答えというか、「これが俺の登山動画だ!」というものはまだ作れていません。作風を統一している登山系YouTuberさんも多いですが、私はたびたびカメラや撮り方を変えて、試行錯誤を続けています。いろんなものを取り込んで、柔軟に変化していけたらいいなと。

ー撮影せずに完全プライベートの登山をすることはありますか。

やってみたい気持ちもあるけど、つい撮っちゃいますね。 いい風景を撮っているときが最高に楽しいから、カメラのない登山ができなくても別に困らないです。登山の軸が「映像」にあるので。私は「山の人」というよりは完全に「山YouTubeの人」ですね。

ーYouTubeをやっていてよかったと思うことは?

人との大切なつながりができたことです。YouTubeがきっかけで、同じように山の動画を作っているJINさんや市川(ickw)さんと出会って仲良くなりました。コロナ前はよく3人でご飯を食べに行ったり、山に行ったり。私は飲み会が一番好きなので(笑)、こうして人とつながっていくのが一番楽しいかもしれません。

ふだんはわりと人見知りなんですが、山では不思議と人に話しかけますね。登っているとき、下りてきた人に「どこから来たんですか?」とか尋ねます。どこから来てどこに下りるのかだけでも、すごく興味があって。そういうコミュニケーションができるのは、山ならではの独特な文化ですよね。

常に試行錯誤して、進化しつづけたい

ー今まで行った中で、特に好きな山は?

また必ず登りたいのは八ヶ岳です。どこのピークに登ってもすべての山々が見渡せて、視界にちょうどいい感じに収まるというか。ほかの山も好きだけど、なぜか八ヶ岳が一番「また登りたい!」って気持ちが湧いてくる。不思議な魅力を感じます。

ー印象に残っている「景色」について聞かせてください。

印象深いのは、やっぱり最初に登った燕岳の景色です。でも、実はあまり景色を覚えていないタイプなんですよ。そのときは感動しても、記憶に残らない。映像で残すから満足しちゃうのかな。

好きな景色で言えば、稜線や雲海など、引きのアングルで見た絶景はもちろん好きだけど、植物などの「ミクロな景色」も意外と好きです。地面に霜がおりて凍りついているのを見ると、テンション上がりますね(笑)。

ーこれから行ってみたい山はありますか?

もともと岩のごつごつした山が好きなので、何年か前から目標にしているのは剱岳です。できれば2泊以上して臨みたい。コロナ禍でまだ行けていないので、今年こそは行きたいです。

ー登山系YouTuberとして、今後どのような活動をしていきたいですか。

リアルイベントをやりたいです。コロナ禍前にオフ会を開催して、ケータリングやドリンク、ゲームや景品など、すべて自分で用意したんですね。それがとても楽しかったので、落ち着いたらまたやりたい。私個人だとできることが限られるので、企業に協力していただいてもっと大きなイベントを開催したい……なんて野望もあります。たとえば登山アプリの企業とコラボするとか(笑)。

動画クリエイターとしては、根本的な部分は変わらないと思いますが、常に試行錯誤して進化しつづけたいです。

イタガキ▲さんのチャンネル「ITAGAKI .TV」

文章:吉玉サキ
写真提供:イタガキ▲さん

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。