心が折れたこともあったけど、今は人生でいちばん山が好きです|YAMAP動画コンテスト2021受賞者: 岩月淳さん

YAMAP動画コンテスト2021で「山の日賞」を受賞した岩月淳さんは、愛知県在住の美容師。登山やトレイルランニング(トレラン)を楽しみながら、大切な家族との思い出を動画にしています。そんな岩月さんは、挫折を体験し山から離れていた時期があるのだそう。詳しいお話を伺いました。

2022.03.26

YAMAP MAGAZINE 編集部

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登山もマラソンも、最中はつらい。だけど達成感が喜びになる

―まずは、山に向かうようになったきっかけを教えてください。

3歳くらいから中学3年生まで、祖父に連れられて毎年のように御嶽山に行っていました。祖父は山岳信仰をルーツとする御嶽教を信仰していたんです。若い頃は白装束を着てちょっとした修行もしていたそうですが、僕が生まれてからは、年に一度家族で行く程度でしたね。御嶽教を押し付けられたことはなくて、ただ山登りに連れていかれてました。

―自分の意志で山に登るようになったのはいつでしょう?

18歳のとき、富士山に登ったのが最初です。友達とノリで「一度は富士山に登ってみよう」という話になり行きました。

―その後も継続的に登山をしているんですか?

初登山から4年連続で富士山に行って、4つの登山口すべてから登りました。美容師になって最初の10年間は休みがほとんどなかったけど、年に一度は友達と北アルプスに行っていましたね。槍ヶ岳とか白馬岳とか。

その後、31歳のときに美容師として独立しました。独立してからは忙しくてまったく山に行けなくなり、体重がどんどん増えたんです。あるときお客さんに「岩月君、太りすぎじゃない?」と言われて、ダイエットがてらランニングを始めたら、それがきっかけでマラソンにハマって。大会にも出るようになりました。

―スポーツはもともと得意なんですか?

いえ、中学はバレー部だけどレギュラーじゃなかったし、高校は帰宅部だったし、それ以降もスポーツは全然やっていませんでした。でも、マラソンってセンスがなくてもできるんですよ。頑張ったら頑張っただけ結果が出る。日々の練習は楽しいことがひとつもないけど、大会で結果を出せると嬉しいから続けられるんです。
それって、登山と似ているかもしれません。登山も、登っている最中はつらいじゃないですか。だけど山頂に着くと達成感がある。

―たしかに樹林帯の急登を登っているときなんかは、「私はなんのためにこの苦行を……?」と思います。

思いますよね。アルプスに行くときは車中泊して朝方に登りはじめるんですが、「俺、本当に今から登るのか……?」と思います。

―登る前から? ワクワクする気持ちはないんですか?

ないんですよね、あまり(笑)。8合目を過ぎてようやくワクワクしてくるタイプです。

トレランにハマるも、ある挫折が……

―今もマラソンを続けているんですか?

いえ、目標にしていたサブ3(フルマラソンを3時間以内で走ること)を達成できたので、マラソンからトレランに転向しました。

―サブ3を達成して、「じゃあ次は2時間50分を切ろう」とはならなかったのでしょうか。

それはなかったですね。サブ3達成後に100kmマラソンも達成したので、それ以上の欲求がもう湧かなくて。ちょうどサブ3を達成する少し前にトレランにハマったので、そっちに全振りすることにしました。トレランとマラソンは、走り方や筋肉の付き方が違うんですよ。トレランばかりやると平地で遅くなっちゃうんです。

トレラン初期は愛知県の猿投山を走っていたのですが、そこは平坦な部分が多く、とても爽快に走れました。ペースも自由だし、平地と違って景色が変わるから疲れません。

―疲れないんですか? 普通の登山でもきついのに、山道を走るって相当きついと思いますが……。

トレランってものすごく荷物が軽いんです。だから、普通の登山の荷物を背負っている人がトレランの荷物にしたら、かなりラクに走れると思いますよ。それに、走りっぱなしじゃなくて登りはけっこう歩くし、立ち止まったり写真を撮ったりもするし。

―そうなんですね。じゃあ、転向してからはトレランにどっぷり?

それが、トレランを始めて3年くらい経った頃、「信越五岳トレイルランニングレース」という110㎞のレースに参加したんですが、80㎞地点でリタイアしちゃって。

―身体を痛めたのでしょうか?

いえ、心が折れたんです。レース中、急に「俺、なにやってるんだろう?」って思っちゃって。たぶん誰しもそういう瞬間はあって、そんな気持ちをなだめつつ淡々と進んでゴールするんですけど、そのときはもう、ポキッと心が折れちゃいました。それで一旦トレランを終了し、1年間は山に行きませんでした。

動画作りがきっかけで、ふたたび登山をするように

―山の動画を作りはじめたきっかけを教えてください。

トレランで挫折して山に行かなくなった頃、キャノンのミラーレス一眼を買って、家族で出かけるとき動画を撮るようになりました。その動画をきれいに編集して残したくて、YouTubeで動画編集のやり方を調べて。気づけば動画作りが趣味になっていました。

そのうちに「久しぶりに山に行って、それを動画にしてみようかな」と思いついたんです。それが2020年のYAMAP動画コンテストに応募した竜ヶ岳。それからまた山に登るようになりました。

―動画を作りはじめたのはわりと最近なんですね。

写真は18歳の頃から一眼レフで撮っているのでもう20年くらいやっていますが、動画はまだ2年くらいです。

―コンテスト受賞作のタイトルは「今こそ地元の山を遊び尽くそう」。コロナ禍で遠出しにくい今、とても共感できるテーマだと思います。なぜこのテーマにしたのでしょう?

2020年にもYAMAP動画コンテストに応募したんですが選ばれず、2021年は絶対に受賞したいと思っていました。だけど、コンテストに向けて新たに撮影しようとしたタイミングで緊急事態宣言が出てしまって。地元で撮るしかないとなったとき、「地元」と「コロナ禍」と「トレラン」をかけ合わせた動画にしようと思いつきました。

―動画を作るようになって変わったことはありますか?

2021年の一年間、動画を撮りながらアルプスを登ったんですが、一泊二日でもザックが20kgを超えてしまいました。かなりつらかったので、今年はその反省を活かして機材の軽量化を試みています。

また、昨年は映像を撮るのが登山のメインになっていました。たとえば、本当は早く進みたいのに停滞して2時間くらいタイムラプスを撮るなど。「登山中は楽しくないけど、帰ってきてから編集するのが楽しい」といった状態ですね。なので、今年はもっと登山そのものを味わおうと思います。

動画は、大好きな家族との思い出を残すためのツール

―岩月さんのYouTube動画にはよくご家族(特に娘さん)が登場しますが、普段から動画はよく撮るんですか?

はい、プライベートでもかなり撮っています。子どもが小4と中1なんですが、子どもたちの動画もほとんど編集して残していますね。

―それはお子さんも嬉しいでしょうね!

いえ、子どもはあまり……(笑)。大人になったら喜んでくれるかもしれないですけど。家族の中で僕だけですね、何度も動画を見ているのは。

―自分で作った動画を何度も見るんですか?

はい。暇さえあれば動画を流して「娘、はやく帰ってこないかな~」とか考えています。

―仲良しですね。YouTubeには娘さんと一緒に登山している動画もありますよね。

娘と行った登山の動画は、YouTubeにアップする前に必ず娘のチェックを受けます。娘が「ここは嫌だからカットして」と言えば編集しなおしますよ。コケちゃったところとか、僕としては可愛いし面白いから動画に入れたいんですけど、本人は嫌みたいです(笑)。

―岩月さんにとって動画作りの動機は、「人に見てもらうため」というよりも「自分や家族の思い出を残すため」なのでしょうか。ホームビデオやアルバムのような。

そのとおりです。なので、もうひとつYouTubeアカウントを持っているんですが、それは完全非公開。スマホに入りきらないからYouTubeにアップロードしてどこでも見られるようにしているだけで、人に見せるためじゃないんです。

―登録者数を増やしたい気持ちはありますか?

増えたら嬉しい、くらいの気持ちです。たくさん見てもらうためにはしっかり企画を立てたり、カメラに向かって喋ったほうがいいんだと思いますが、あまり得意じゃなくて……。今後は、そういうことも少しずつやっていければ。

―最後に、山は好きですか?

今はめちゃくちゃ好きです。トレランで挫折してからの1年間以外はずっと好きですね。小さい頃からずっと山にかかわっているので。最近は、今までの人生でいちばん山が好きかもしれません。

岩月淳さんのYouTubeチャンネル

文章:吉玉サキ
写真提供:岩月淳さん

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。