北海道北見市にお住まいの会社員、三浦奈津美さん。YAMAPフォトコンテスト2021では、月明りに照らされたチングルマの写真で「山の日賞」に輝きました。明るくパワフルな三浦さんは、子どもが大きくなって自分の時間ができたことで写真と登山を始めたそう。山の話や撮影にかかるお金の話など、赤裸々に語っていただきました。
2022.04.09
YAMAP MAGAZINE 編集部
―写真を始めたきっかけについて聞かせてください。
本格的に撮りだしたのは2017年からです。もともと、コンデジで子どもの写真を撮ることはあったんですよ。子どもが3人いるんですけど、上の子たちがサッカー少年団に入っていて、よく練習や試合の写真を撮っていました。
私はシングルマザーで、今は子どもたちが独立したため家に一人なんです。そんなふうに自分の時間ができた頃、持っていたコンデジでなんとなく写真を撮りはじめました。桜やねこやなぎの芽吹き、ふきのとう、雪解けの景色など、身のまわりの小さな景色ですね。
―山の写真を撮りはじめたのはいつでしょう?
登山を始めたのは写真よりもっと遅くて、3年くらい前です。登山が趣味の知り合いと山に登る機会があって、登ってみたら景色がとても綺麗だった。それからほとんど毎週末、登るようになりました。一眼レフを買ったのもその頃です。
―すぐに登れるようになりましたか?
最初は知り合いに山の基本を教わりました。疲れないための歩き方や休憩をとるタイミング、必要な水分量など。それから、一人でも登るようになりました。
そのうち夜や早朝も撮りたくなり、テント泊をしようと思いました。でも、テント泊の装備にカメラと三脚を合わせると25㎏くらいの荷物になる。はじめはそれが背負えなかったので、トレーニングをして身体を鍛えました。
―どのようなトレーニングをしたのでしょう?
ジムに通いました。私は身体が小さくて、80ℓのザックを背負うと「ザックが歩いてる」って言われるんです(笑)。体重も足りないから、身体を作ることから始めないといけない。半年ほどジムに通って、体重と筋肉量を増やしながら体幹を鍛えました。その甲斐あって25㎏を担げるようになり、今はテント泊で撮影しています。
―すごい!
でも、本当は登山が得意ではなくて、写真を撮りたい一心で登っています。だから、もしもヘリコプターで山頂に行けるならそのほうがいいです(笑)。荷物も重いし、軽い凍傷になったこともあるし。
―凍傷!?
冬の山で朝日を撮ったとき、気温がマイナス20度くらいだったんです。早く下山しなきゃいけないんですけど、ついつい熱が入って滞在時間が長くなっちゃって……。下山したら足がやや変色していました。
―それで冬山をやめようとは?
思いません(笑)。すぐ秀岳荘(※札幌にある老舗の山道具店)に行って、暖かい靴とダウンを買いました。そうやって登るたびに試行錯誤して、最近ようやく、マイナス20度の場所に1時間くらい居られる装備を整えました。
―受賞作はとても幻想的な景色ですね。光っているのは、太陽ではなく月なのだとか?
満月の夜の景色です。大雪山系の黒岳に石室というテント場があり、その付近で撮りました。手前のふわふわしているのはチングルマです。
―撮る前から、頭の中に構図のイメージはありましたか?
おおよそのイメージはありましたが、ちょうど烏帽子岩の上に満月が来たのを見た瞬間、「これでしょ!」とインスピレーションが湧きました。時期的にチングルマが綿毛なのもよかった。ふわふわなので、月光がより美しく反射してくれたんです。
―三浦さんのInstagramを拝見しました。山の写真も素敵ですが、動物たちの写真がとても可愛いです。
実は、動物をメインに撮る予定はありませんでした。でも、札幌で写真展をやらせてもらったとき、たまたま撮っていた鹿やキツネをポストカードにして並べたら、とあるホテルから「動物のポストカードを作りませんか?」とお声がかかったんです。せっかくのチャンスを断りたくないので、動物を撮っているお友達に「2ヶ月で10種類くらいの動物を撮らせてほしい」と頼み、教わりながら撮りました。
―思い出深い動物について教えてください。
大変だったのはナキウサギの出待ち。狭い場所だったので、立ちっぱなしで8時間待ちました。自宅から撮影地まで車で3時間かかるので、「撮れなかったら明日また来よう」というわけにもいかず、粘りました。黒いナキウサギはめずらしいんですよ。
あとはモモンガ。モモンガは夕方になると出てくるんですけど、日が沈みきってからだと、私の持っているレンズでは撮れないんです。というのも、いいレンズは私の車2台分の値段がするから買えなくて……。夕方のモモンガはなかなか撮れないので、朝、モモンガが巣穴に戻ってくるのを待ち構えて撮りました。
―山に行ったものの、思ったような写真が撮れないことは?
ありますあります! でも、納得いく写真が撮れなくて手ぶらで帰ってきても、「次に山に行くためのトレーニングができたぞ!」と思うようにしています。
―三浦さんは会社員をしながらたくさんの写真を撮影していますよね。
週末はほとんど撮影に出かけています。金曜の夜に家を出て、日曜の夜に帰ってくる感じ。平日は、仕事が終わったあとに現像や写真展の準備をするので、寝るのは深夜です。
―ハードですね。撮影の際、宿泊はどうするのでしょう?
テント泊か車中泊です。移動にかなりガソリン代がかかるので、宿泊代は削っています。食事代もなるべく安く済ませたいから、必ずおにぎりを作って持っていきますよ。
―登山は装備と交通費にお金がかかるし、写真を撮るとなると、機材にもお金がかかりますよね。
本当に! なんで私、こんなにお金のかかる趣味にハマっちゃったんだろう。大富豪でもない、ただの事務員なのに(笑)。
―三浦さんは個展を開いたり、カレンダーを販売したりされていますよね。
撮影にはどうしても経費がかかるし、それを自分のお給料だけで賄おうとすると足りなくなってくる。まだ末の娘に仕送りもしていますし。じゃあどうしようかなと考えていたところ、友人に「カレンダーを作って売ってみたらどう?」と提案されたんです。最初は無理だと思ったんですが、背中を押されてやってみたら、なんと初版で130部売ることができました。
―どのような方法で販売したのでしょう?
8割がfacebookからの販売です。あとは道の駅や、知り合いのお店に置いてもらいました。そのほか、ドリップコーヒーのパッケージに写真をプリントしたものや、ポストカードも作って。それらの売上で、レンズを1本買うことができました。
―すごいですね!
私は自分の仕事だけじゃ、撮りたい写真を撮るための経費を捻出できないので。今は、自分の写真から経費を生み出すことを考えるようになりました。自分にできることを精一杯やるしかないんです。
でも、そうやってがむしゃらにやっていたら、メーカーさんから機材提供のお話や、秀岳荘さんから個展のお話をいただけるようになりました。ありがたい限りです。
―三浦さんは北海道内で活動されていますが、本州の山を撮りたい気持ちはありますか?
あります! 有名な涸沢カールを撮ってみたいんですが、自宅からだと最低でも5日は休みが必要になるので、今の会社にいるうちは難しいですね。でも、体が動くうちにどうしても行きたい。年齢が年齢なので、体力的にいつまで山に登れるんだろうという焦りがあります。
あと、いつかは世界で撮りたいです。娘がベルギーの大学にいるんですが、たまに送ってくれる風景写真が素敵なんですよ。それを見て、海外で撮ってみたいと思うようになりました。
―お子さんたちは、三浦さんの撮影活動についてなんとおっしゃっていますか?
娘はすごく応援してくれています。彼女は医療職に就く予定で勉強しているんですが、「私が医者になったら食べさせてあげるから、ママは写真だけ撮って生活していいよ」なんて言ってますね。
上のお兄ちゃん2人は、「早くいい人見つけて結婚すれば」なんて言ってます。そんなこと言いながらも、私が今、写真をめいっぱい楽しんでいることは伝わっているみたい。
―たしかに、写真の話をしている三浦さんはとても楽しそうです。
今が人生でいちばん楽しいんですよ。子どもたちからも、「ママは今がいちばん幸せそうだよね」と言われます。
―素敵ですね。登山について、ご家族から心配されることは?
心配はしていないみたいです。危ないエリアには一人で行かないなど、私が安全面に配慮しているのは子どもたちも知っていますから。「なにかあっても山岳保険に入ってるから安心して!」と言ってあります。
うちは本当に自由な家族なんですよ。お盆もお正月も集まらないけど、家族になにかあればすぐに繋がる。楽しいことだけじゃなくて、家族の誰かが泣いていたら寄り添います。よく「便りがないのは元気な証拠」と言いますが、まさにそれがぴったりの家族です。
三浦奈津美さんのHP
文章:吉玉サキ
写真提供:三浦奈津美さん
YAMAP MAGAZINE 編集部
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