2022年10月4日よりアニメ最新作となる「Next Summit」シリーズが放送開始された、女の子だけのゆるふわアウトドアアニメ『ヤマノススメ』。今回は、11月29日・12月6日深夜に放映された第9話と第10話を振り返りながら、メインキャラクターである雪村あおいと倉上ひなたの絆を、ヤマノススメの大ファンである山岳ライター鷲尾太輔さんが紹介します。
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2022.12.07
鷲尾 太輔
山岳ライター・登山ガイド
『ヤマノススメ Next Summit』で好評を博しているのが、放送回ごとに異なるエンディング映像ではないでしょうか。各話の登場人物が手書き風のタッチによるスライドショー形式で登場し、その回の印象をより味わい深いものにしてくれますね。
ここで流れるのがエンディングテーマ『扉を開けてベルを鳴らそう』。オーケストラによる交響曲的な調べにあわせて、あおい(声:井口裕香さん)とひなた(声:阿澄佳奈さん)が思春期の戸惑いや決意を歌い上げています。
多くの放送回では主に2人での歌唱ですが、第9話はひなたの独唱であったのにお気づきでしたか(ちなみに第5話はあおいの独唱でした)。特にBメロ後半の「〜少しずつ前に進めているかな?みんなで歩けてるかな?」と問いかけるフレーズでは、あおいとひなたそれぞれの個性を(声優さんの歌唱力に脱帽しつつ)強く感じました。録画や見逃し配信で視聴可能なファンの方は、ぜひ聴き返してみてください。
本作のメインキャラクター・雪村あおいは、高校進学以前はインドア派の代名詞的存在。小学校の時にジャングルジムから落ちたトラウマで高所恐怖症になり、以降は読書や手芸に没頭。クラスメイトとの関わりも極力持ってきませんでした。高校になって再会した幼なじみのひなたから半ば強引に登山に誘われて、次第に山登りにのめりこんでいきます。ところが、富士山へのチャレンジ(アニメ:セカンドシーズン新八合~十一合目/原作:単行本第3巻・二十一合目『それぞれが見た朝日』)では高山病でリタイア。そんな挫折を経験しながらも、前に進みたいという切実な“願い”を感じるエンディングでした。
もうひとりのメインキャラクター・倉上ひなたは、あおいとは対照的に活発で社交的な性格。第7話の高尾山への初詣でも、あおい以上にクラスメイトと交流していました。
けれども、富士登山を果たせず元気がないあおいを最初はそっと見守りつつ、あおいがひとりで出かけた天覧山(アニメ:セカンドシーズン新十二合目/単行本第3巻・二十三合目『ともだち』では多峯主山)に現れて話を聞いてあげるなど、実は繊細な気遣いができる一面も。しかしそれはひなたの心中に恥じらいつつ秘めたるもの。問いかけのフレーズでは敢えて声を張った少し“強がり”な面を感じる歌唱に感じました。
もちろんこれはあくまでも筆者の感想。ファンの方それぞれが2人の歌唱を聴き、2人に思いを重ねていただきたいと思います。今回はそんな2人とそれぞれの家族との絆にも注目して、第9話・第10話を振り返ってみましょう。
第9話前半『渓流釣りって、人生?』では、第7話であおい・ひなた・ここなの初日の出登山にも同行してくれたあおいの父・誠が登場。今度は3人を名栗川への渓流釣りに連れて行ってくれました。原作(単行本第11巻・七十六合目『渓流釣りに行こう!』)ではあおい・ここなの2人でしたが、アニメではひなたも同行。いきなりの引きを逃がしてしまい結局ひとりだけ坊主だった(1匹も釣れない)ひなたが加わることで、やはりストーリーがいきいきとしましたね。
度々の登場で勘違いしがちですが、普段は多忙であおいともほとんど会えない誠。帰路の車中では、翌日から単身赴任先へ戻ることが語られます。釣りを通じて父親との貴重な時間を満喫することができたあおいでした。ちなみに4人がヤマメを賞味したのは、飯能市上名栗にある「西山荘笑美亭」という地元の食材を使った手作りの料理が魅力の民宿がモデル。渓流釣りだけ体験するなら、第6話「ひかりのデート大作戦!」で登場した名栗湖の奥にも「有馬渓谷観光釣り場」がありますよ。
第9話後半『ひなた一家と、いざ鎌倉!』は、多忙な仕事に疲れ切って自宅のソファに倒れこんでいるひなたの母・舞に、ひなたがコーヒーをいれてあげるという、ひなたの気遣いが感じ取れるシーンからスタート。気分転換に「山と海の両方に行きたい!」という舞の希望を叶えるためにひなたの父・健一が提案した行き先が鎌倉でした。
原作(単行本第11巻・七十四合目『似たもの親子?』)では再びソファで寝てしまいましたが、アニメではハイテンションに「レッツゴー!」と叫ぶ舞。これに「いざ鎌倉!」と応じるひなたの様子は似たもの同士の親子とも感じ取れるシーンですが、疲弊していた母のいきいきとした姿にひなたが敢えて同調したのかも知れませんね。
鎌倉アルプスは、大平山(159m)・勝上山(147m)・天台山(141m)など鎌倉市街の北側にそびえる山々の総称。2019年の台風15号・19号で壊滅的な被害を受けましたが、2022年4月に復旧工事が完了し、再びハイキングが楽しめるようになりました。
作中で登場した明月院の初夏の紫陽花、あるいは建長寺の秋の紅葉など山麓の寺院と組み合わせて季節に合わせた様々なコース設定が可能で、稜線からは相模湾も一望。天気が良ければ、富士山・真鶴半島・伊豆大島などを眺望することができます。
おすすめはあおいとひなた一家と同じく、JR北鎌倉駅から鎌倉駅への縦走。作中同様に、下山後には鎌倉駅からそのまま歩けば由比ヶ浜で海を見ることができます。さらに江ノ電(江ノ島電鉄)に乗って稲村ヶ崎まで行けば、江ノ島を前景にそびえる富士山を望むことも可能ですよ。
山頂では舞が途中駅で購入した駅弁を食べたり、健一が持参したアルコールストーブでお湯を沸かすシーンなどが原作通りに描写されていました。さらにアニメオリジナルの演出として、のどかに食事をしているあおいに食べ物を狙うトビに注意の看板を見せ、舞が「私たちは狙われているのよ!」と注意を促すシーンが。これに「まさにトンビに油揚げだね」とひなたが応じ、息のあった母子関係を見せてくれました。
もうひとつのアニメオリジナルシーンが、下山後のかわらけ投げ。素焼き陶器・かわらけに息を吹きかけ(厄をのせ)、厄割り石めがけて投げ割る厄除け儀式です。厄でなく仕事のストレスをぶつける舞のハイテンションぶりを、あおいとひなたも呆れつつ見守っていましたね。このかわらけ投げは「鎌倉宮」という神社で体験できます。
最後は海岸まで歩いた4人。「山を降りてからの方が歩いたかも」と言って小腹を空かせたあおいに、舞がスタート地点の北鎌倉駅で購入しておいた鳩サブレを手渡します。あおいが「ひなたと同じだ、気が利いてるな…」と心の中で感じるくだりや、「ごめんねうちのお母さんマイペースで」というひなたのフォローに「ひなたがなんでマイペースなのかわかったよ」をあおいが応じる場面も、原作に忠実でしたね。夕焼けの砂浜で戯れる2人、特にあおいは舞との交流を通じて、ひなたへの理解を深めたのでした。
あおいとひなた一家が歩いたコースはこちら
第10話『新しい季節』前半(単行本第11巻・七十三合目『天覧山で記念写真!!』)は、高校1年生の修了式を終えたクラスメイトと記念写真を撮るためのグループ登山。広く見晴らしの良い撮影場所として天覧山(197m)を提案したあおいですが、思った以上に大勢のクラスメイトが賛同し、あおいは“山のプロ”としてリーダーに任命されました。そんなあおいの緊張をほぐすために、ひなたは校内で「みんなに頼られてるよ!」と励まします。
それでもあおいの不安と緊張は解けないまま、クラスメイト一行は天覧山へ向かいます。途中でおやつをゲットしたあおいのバイト先である洋菓子屋・すすきは、“夢彩菓 すずき”という実在のお店をモデルにしています。あおいの言葉どおり飯能銀座商店街の西端にあるので、聖地巡礼の際には、ぜひ立ち寄ってみてください。
天覧山へ向かう道中でも、中腹の広場でも、そして展望台のある山頂に到着しても、それぞれの興味に任せて勝手気ままに行動するクラスメイト。このままでは“山頂で記念写真を撮る”という目的が達成できません。高尾山への初詣にも同行したみおの「もっと遠慮なく言っていいんだよ!」という助言も消化しきれないあおいに手を差し伸べたのは、やはりひなたでした。
あおいの「みんな、集まって写真を…」という遠慮がちな声は、まとまりがないクラスメイトの耳には届きません。ここでアニメオリジナルの演出が…ひなたが無言でウィンクして、あおいの背中をそっと押すのです。一歩進んだあおいは意を決したように大声で「みんな注目して!!写真撮ろう!!」と呼びかけます。
ひなたの温かい手がきっかけでリーダーシップを発揮したあおい。率先して近くにいた登山者にシャッターを押してくれるよう頼むシーンも、原作通りに描かれていました。ひなたの優しい気遣いが存分に発揮された、今話の白眉とも言える名演出でしたね。
あおい・ひなたとクラスメイトが歩いたコースはこちら
第9話『新しい季節』後半は、丹沢山塊・鍋割山への登山(原作:単行本第11巻・七十七合目『鍋割山で鍋焼きうどん!!』)から始まります。こちらは原作の2人にここなも加わった3人でアニメに登場しました。
とはいえ、クラス分けの心配で浮かない顔をしているあおいに「そんなことだろうと思って、この山に誘ったのよ」「なるようにしかならないんだからさ」とひなたが元気づけるシーンは、ここなが空になった土鍋を返却しにいって2人きりになった場面として描写。
鍋割山頂にある鍋割山荘の鍋焼きうどんは、数ある山グルメの中でも屈指の人気を誇る名物。あおいを身体の芯から温めて元気づけようとするひなたの妙案に、ぴったりでしたね。
丹沢山塊は『ヤマノススメ』キャラクターたちの地元・奥武蔵や、奥多摩・高尾陣馬と並んで首都圏の登山者に人気がある山域。中腹までケーブルカーでアクセスできる大山(1,252m)、日本百名山の一座・丹沢山(1,567m)、最高峰・蛭ヶ岳(1,672m)、玄関口でもある塔ノ岳(1,490m)など、魅力的な山ばかり。3人が登った鍋割山(1,272m)も含め、ほぼ全山から相模湾や富士山の眺望を楽しむことができます。
また、早春(例年3月中旬〜4月上旬)に咲くミツマタや初夏(例年5月上旬〜下旬)に咲くツツジ、紅葉(例年11月上旬〜12月上旬)など、四季折々の森の表情を楽しむことができる山域でもあります。
そんな鍋割山の山名にちなんだ鍋焼きうどんですが、週末・休日などは営業終了の13時より前に売り切れることもしばしば。定休日もあるため、鍋焼きうどんをあてにして食糧を持たずに登ることは避けましょう。
またルート中間にある分岐・後沢乗越は道間違いが多発するポイントとして、つい先日も神奈川県自然環境保全センターから注意喚起されました。特に下山の時は注意が必要な場所です。
>あおい・ひなた・ここなが歩いたコースはこちら
いよいよ迎えた2年生の始業式(原作:単行本第12巻・八十合目『新しい季節』)。あおいの自宅前まで迎えに来て、一緒に登校するひなた。桜舞う通学路を歩きながら「新学期らしい清々しい朝じゃない」「2年生も頑張ってこー!!」と、結局最後までクラス分けの心配で悩んでいたあおいの前で元気に振る舞う描写も、原作通りでした。
ネガティブなあおいの予感は的中し、案の定ひなたと別のクラスになってしまいます。早くも新しいクラスメイトと談笑して打ち解ける“コミュ力ある”ひなたとは対照的に、なかなか話の輪に加われないあおい。新年度早々「2年生早く終わらないかな…」と思う様子など、原作通りの展開が続きます。
そんなあおいがガチガチに緊張して臨んだ自己紹介。そこで挙手だけでなく起立までして「雪村さんは富士山に登ったって聞いたんですけど本当なんですか?」と助け舟を出したのが、第7話の高尾山への初詣で遅れがちになりかばんをあおい持ってもらったかすみでした。フォローのお礼をするあおいに「友達なら当然でしょ」とクールに返答するかすみですが、その行動には高尾山で深めた絆が根底にあったのではないでしょうか。
学校の玄関から出てきたあおいを待っていたひなた、ここからのひなたの一連の台詞はアニメオリジナル。特に「あおいはもっと自分に自信を持って!」というメッセージは、ここまで割と間接的な気遣いが多かったひなたが、珍しくストレートに言葉で伝えた決め台詞。あおいの心の奥深くに、届いたようですね。
心の中で「ちょっとずつ自分を変えて行こう」と決心するあおい。『ヤマノススメ Next Summit』はいよいよ佳境に入りますが、新年度となる春を迎えて、あおいの中で変化が起こることを予感させるエンディングでしたね。
それではまた次回、第11話もお見逃しなく!
YAMAPは電波が届かない山の中でも、自分の現在地とルートがわかる登山GPS地図アプリ。登りたい山を見つけたり、山の友だちをつくったり、初心者から上級者まで楽しめるコンテンツを楽しんだり、山歩きに関するあらゆることが詰まっている、日本最大の登山・アウトドアプラットフォームです。(2022年11月時点で340万ダウンロード)
YAMAPでは、過去のアニメ(サードシーズン)に登場した山をアニメのストーリーに沿って歩ける「ヤマノススメ巡礼マップ」もリリースしています。楽しく安全な聖地巡礼登山のパートナーとして、ぜひ活用してください。
ヤマノススメ巡礼マップ(筑波山)
ヤマノススメ巡礼マップ(天覚山・大高山・子の権現)
ヤマノススメ巡礼マップ(赤城山・地蔵岳)
ヤマノススメ巡礼マップ(瑞牆山・金峰山)
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