YAMAPをはじめとした登山地図GPSアプリに表示される、国土地理院の地形図。登山の装備表などで、この地形図とセットで必携とされるのがコンパスです。ただし、単に購入して持っていくだけでは、登山で地形図とコンパスを使うことはできません。今回は登山前に必要な準備である、地形図に磁北線を記入する方法を紹介します。
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2023.06.28
YAMAP MAGAZINE 編集部
最近はスマートフォンのアプリにもインストールされているコンパス。その赤い針が指す方向は、もちろん「北」だと思いますよね。しかし、赤い針が指す方向へまっすぐ進んでいったとしても、実は北極点に到達することはできないのです。
コンパスの赤い針が指す方向へ進んでいくと到達するのは、北磁極という別の場所。この方向を「磁北(じほく)」と呼びます。
北極点に到達するには、YAMAPをはじめとした登山地図GPSアプリにも掲載されている国土地理院発行の地形図で、真上へ進んでいけばOKです。この方向を「真北(しんぽく)」と呼びます。
日本の場合、磁北は真北に対して西に傾いています。そしてその傾きの角度(磁針方位・西偏角度・磁気偏角などと呼ばれる)は緯度によって変わり、北へ移動するほど大きくなります。
たとえば、磁気図に記載された2020年1月現在の基準日(北磁極の位置は常に変動しているため、磁気図に記載された偏角は変化し続けている)において、日本最北端・宗谷岬の磁針方位は西偏10度20分、日本最南端・沖ノ鳥島の磁針方位は西偏3度10分と、かなりの差があります。
前述の通り、北極点と違い北磁極は常に移動しており、磁針方位も変化します。近年はその動きが加速しており、かつては10年毎に国土地理院が公開してきた西偏角度の最新データである「磁気図」が、2010年からは5年毎に更新されています。日本の主な山で2015年と2020年を見比べると、全国的に10分〜30分ほど西偏角度が大きくなっています。
このように真北と磁北の方向に差があるため、地形図を用いてコンパスワークを実践するには、事前の準備が必要となります。コンパスの赤い針が指す方向を示す、磁北線を地形図に記入するという作業です。
緯度によって異なる磁針方位ですが、それぞれの地形図には、掲載されている範囲の磁針方位が記載されています。余白が小さな新地形図の場合は、左横下部の余白を見てみましょう。この地形図の場合は、西偏7度の磁北線を記入することになります。
つまり上の写真のような線を記入することになるのですが、どのようにすればよいのでしょうか。分度器やコンパスを使用する方法もありますが、ここではもっとも正確な角度で記入できる、三角関数を利用した方法を紹介します。
この中であらかじめ知ることができるのはAの数値、すなわち余白を除いた地図面の高さです。国土地理院の地形図の場合、余白が小さな新地形図は高さ42cm、余白が大きな旧地形図は高さ37cmです。そして磁北線を記入するために知りたいのはBの数値ですね。
WEB上の計算サイト(例:https://keisan.casio.jp/exec/system/1260261251)では三角関数を自動計算することができます。これに西偏角度(θ)を入力すれば、サイン(sinθ)・コサイン(cosθ)・タンジェント(tanθ)の数値がわかります。そしてtanθ=B/Aですから、A×tanθ=Bとなるのです。
とはいえ、いちいち三角関数を調べるのも大変ですよね。本記事では磁針方位ごとのBの数値を予め計算した表(偏差タンジェント表)を作成・掲載しました。これによると西偏7度の場合の新地形図でのBの数値は約5.16cmとなります。
すなわち地図面の右上端から5.16cmの場所と地図面の右下端を結べば、西偏7度の磁北線が記入できるのです。通常の定規の目盛りが0.1cm刻みなので難しく思えますが、5.1cmと5.2cmの間の“だいたい”の位置で問題ありません。
ちなみにこの記入には、50cm近い長さの定規が必要です。なければ代わりに、折り目をつけて短い定規を当てたり、テープが硬い鉄製のメジャーを当てたりしてなぞれば、簡単に記入できますよ。
1本目の磁北線が記入できたら、あとはこれと平行に2本目、3本目と等間隔に磁北線を記入していきます。間隔に決まりはありませんが、4cm間隔に記入すると便利です。登山で使用する地形図の縮尺は1/25000なので4cmは地図上では1kmとなり、距離感を把握しやすくなるのです。登山ではコンパス越しに磁北線を見るので、赤など目立つ色で濃くはっきりと記入するのがポイントです。
三角関数の話が出てきた時点で、数学嫌いの方は苦手意識を抱くかもしれません。ここまでの話が難しいと感じた場合でも、安心してください。登山地図GPSアプリYAMAPでは、ボタンをオンにするだけで簡単に磁北線を表示でき、印刷することも可能です。
ただし画面を拡大・縮小できるため、印刷した時に紙の地形図のようなキリの良い縮尺にすることは困難。距離感を正確に把握したい場合には、地図上の水平距離1cmが実際の250mとなる25,000分の1の地形図を併用すると良いでしょう。
最近は市販の登山地図でも、磁北線が予め記入されているものが増えてきました。しかし、その必要性と原理を理解して自分で記入することで、実際にコンパスを使用する際の理解度がより深まります。
次回の記事ではいよいよ、山登りで活躍するコンパスワークを紹介します。
執筆・素材協力・トップ画像撮影=鷲尾 太輔(登山ガイド)