山の紅葉をスマホで美しく撮る|山岳スマホ写真家が秋の上高地・穂高・雲ノ平を歩いたら

自然の美しさが一段と増す中での、秋の山歩き。色鮮やかな紅葉や、秋ならではの美しい風景を、感動と共に写真で残したい──。

そんな方のために、スマホ撮影で楽しむ秋山の魅力を教えてくれるのは、山岳スマホ撮影の第一人者、Madoka.さんです。この秋に歩いた上高地や穂高岳、雲ノ平などの写真もご紹介いただきながら、スマホ撮影のポイントをわかりやすく解説してもらいました。

2024.10.09

Madoka.

山岳スマホフォトグラファー

INDEX

紅葉、澄んだ空気、日々変化する山容。人を惹きつける秋山の魅力

見頃を終え、足元に積もった落葉。どこか寂しさを感じつつも、色も褪せ霜を纏(まと)う姿は情緒的で美しい(2023年10月24日、上高地〜徳沢にて。iPhone 13 Proで撮影)

みなさんこんにちは、山岳スマホフォトグラファーことMadoka.(instagram@mdk.w)です。

前回、山でのスマホ撮影についての記事を書かせていただいてから早くも1年が経ち、季節もぐるりと巡りました。

今年の夏山もたくさんの冒険に溢れ、北アルプスなどでは、未曾有の水不足という他人事ではない環境問題にも直面しながらも、まだ見ぬ自然との触れ合いに感動の連続でした。

さてみなさんは、山を歩くのに好きな季節はありますか?

私は、秋の山がとても好きです。

夏とは違うスンッと澄んだ空気、カラッと気持ちの良い山歩きができて、身につけるものもふわふわぬくぬく。そして秋が深まるにつれ、徐々に人も少なくなり、比較的安定した気候ながらも、朝夕の気象現象が一段とエモーショナル!

これらが、私の感じる秋山の魅力です。

そんな私に、山が秋を迎える直前の9月初旬、YAMAP MAGAZINE編集部から提案がありました。

「初心者にも撮れるような、山の紅葉スマホ写真について記事を書きませんか?」

実はこれまで、紅葉にフォーカスした山歩きをしてこなかった私。当初、この提案に対しては正直不安しかありませんでした。

「断った方がよいのかもしれない…」とも考えましたが、「自分の山歩きをさらに深め、この大好きな季節の私らしい捉え方をあぶり出せるチャンスかも」と考え、この提案をお受けしようと決意。

そして、いつも以上に山そのものを楽しみながら歩く、大好きなシーズンをスタートさせました。

前置きが長くなりましたが、今回改めて紅葉というものを「意識」することで得られた変化と気づき、スマホを使った秋の楽しみ方について、私なりに記していこうと思います。

スマホ撮影3つの心構え|私が辿り着いた「秋の愛で方」

毎度その岩々しい山肌が心をざわつかせる屏風岩。空高く伸びる色とりどりの落葉樹を見上げ、秋の気持ちよい山歩きを捉えた一枚(2023年10月26日、本谷橋付近にて。iPhone 13 Proで撮影)

まずは、紅葉をより意識しながら歩くと、一体何が起きたでしょうか。

当たり前のことかもしれませんが、今まで以上に視線が上を向き、周囲を見渡す仕草が増え、色彩に敏感になっていることに気づきました(意識ってすごい!)。

いつもの景色も季節が巡れば違って見えます。どうやらもっと楽しい世界が広がっているんじゃなかろうか…と気づけたことが、何よりも大きな収穫でした。

これまでにも、感覚的にカメラを向けて偶然撮れた「好み」な写真もありますが、一体どんな風に切り取れば、誰よりもまず自分がワクワクする一枚を残せるだろうかと、いつも以上に心の声に耳を澄ましてみることに。

そのような中で私なりに導き出した、秋を愛(め)でるスマホ撮影、3つの心構えがコチラです。

①「好き」を撮る|好きなものにまさる被写体はない
②「色」を遊ぶ|色の割合、入れる場所で写真が変わる
③「らしさ」を際立たせる|撮った写真と対話して一歩先のクオリティに

以下、それぞれについてもう少し詳しくお話ししていこうと思います。

なお、スマホ撮影の基本設定などについては、こちらの記事で詳しく紹介しているので、併せて読んでみてください。

①「好き」を撮る|好きなものにまさる被写体はない

目の前に聳(そそ)り立つ屏風岩。色づいた木々がその岩肌をまるで額装しているかのような、勢いのある姿が印象的な一枚(2023年10月26日、本谷橋付近にて。iPhone 13 Proで撮影)

前回の記事でも書きましたが、やはり「好き」にまさるものはなく、「好き」だからこそ目に止まり、カメラを向けようと思い、それらと真剣に向き合うことができるのだと思います。

私も今回、今まで積極的には触れてこなかった紅葉と向き合うにあたって、どんな風に撮ったらいいんだろう?と最初のうちは戸惑いを感じていました。

しかし、歩きながら気になるのはやはり自分が「好き」なもの。

ならば、その「好き」なものを秋らしく、いつもと違う形で捉えたら面白いんじゃないか、何も無理に上手く撮ろうとせずとも撮影の仕方も可能性を広げられるんじゃないか、と視野を広く持つきっかけとなりました。

「好き」を撮る第一歩は?

ということで、まずはふとした瞬間に目に入ってきた「なんだか気になる」に注目してみましょう!

パッと目に映った光景の中で、正直なところ最初は何を「好き」と感じたのかもわからないことも多いでしょう。それでも、なぜだか無性に惹かれるといった感覚がありますよね。

そんなときはとにかく、カメラを向けて撮ってみるのが一番。

そのとき撮ったものが、奇跡的にその「好き」な部分を表現できた一枚になっていることもありますし、後から見返すと、なんでこれ撮ったんだっけ?と自分でも思い出せないものもあったり…。

この繰り返しの中で、いろんな撮り方を試行錯誤し、自分の傾向、つまりは自分の「好き」なポイントを探っていきます。

今回の場合、紅葉そのものが好きなのか、紅葉を楽しむ人の表情やたたずまいが好きなのか、いつもと違う表情となる山が好きなのか、などなど。

そして、「この季節にしか出会えないその瞬間」を自分はどう切り取ってみようか、と考えてみましょう。

ただカメラを向けるのも楽しいですが、そこに秘められた自分だけの「好き」な部分を主役に切り取った一枚は、自分にしか撮れない特別なものとなるはずです。

試行錯誤しながら撮影した写真の具体例

上の写真では、まずは好きな被写体をドドンッと捉えてみました。秋が匂う木々の表情を額縁に、屏風岩をとにかく大きく捉えてみる…。

色づきのよい木を画角内に入れ、横向きで撮ってみたり。

自分が好きな岩肌の表情にフォーカスして、赤と緑で挟んでみたり。

そんなこんなで、前景にする色や木のバランスを求めて移動しながら立ったりしゃがんだりして、同じ被写体をいろんなパターンで数十枚と撮影し、ビビッと来た一枚がこれ。

「屏風岩ってかっこいいよなぁ」という漠然とした「好き」をもとに、そのどこがその「好き」をより表しているのかを探してみました。

どこを切り取れば、自分以外の人が見ても「この人はソレのココが好きなんだな」と感じてもらえるか、くらいのマニアックさでいいんじゃないかと思っています(笑)。

これらの写真に「好き」を収めるのに、操作上のテクニックは特に必要ありません。強いていうならば、「しっかりとピントの合う倍率で撮影する」ということくらいでしょうか。

自分の「好き」から目を背けず、その「心が動く瞬間」を大切にして、躊躇せずにいっぱい撮ってみよう!これがスタートです。

②「色」を遊ぶ|色の割合、入れる場所で写真が変わる

弓折乗越〜鏡平の下りで目を奪われた、秋色賑やかな山肌(2023年10月12日、弓折乗越〜鏡平にて。iPhone 13 Proで撮影)

秋は、いつにも増して「色」を楽しむ季節。

春の新緑や夏のお花畑など、それぞれの季節にそれぞれの楽しみ方があるように、秋の紅葉は特にインパクトを感じる色彩の世界が広がっています。

「やはり紅葉といえば…の定番のあそこに行けば、よいものが撮れるのかな?」と、誰もが美しいと感じられるような日本の紅葉を写真に収めたいと思う一方で、「でも、紅葉関係なしに私には10月に絶対に行きたい場所がいくつかある…それらを逃していいはずがない!」など、自問自答の日々(笑)。

その中で導き出したのが、「好き」をどのような「色」で彩るか、という自分らしい答えでした。

秋、紅葉といっても表現の仕方はさまざま。いつどこで何を、どんな風に撮るかも自由。写真はもちろん、その場に行く楽しみを何よりも大切にしましょう。そのときの気持ちは、写真にも必ず反映されるものです。

紅葉とは別に撮りたい被写体が決まっている場合

勇ましい槍ヶ岳の姿を眺めながら下山する途中、目の前に現れた秋色に思わず足を止め撮影した一枚(2023年10月12日、鏡平付近にて。iPhone 13 Proで撮影)

何を主役にして際立たせるのか、どう彩りを加えるのかを意識しながら撮影しましょう。主役がブレないように!

紅葉そのものを写す場合

下山後に梓川沿いを歩き、対岸の紅葉を慈しむ(2023年10月26日、河童橋付近にて。iPhone 13 Proで撮影)

紅葉の彩りをより魅力的にするために、どういう構図で切り取るのか。
どこにフォーカスして、何を排除し、余白はどの程度必要なのか。

上の画像では、色が段々と変わっていく様を手前の低木、中程の高木、山肌の木々と3分割で表現し、その他のモノは限りなく排除することで目一杯に紅葉の姿を捉えてみました。

これまでの作品を例に

双六〜三俣稜線上から槍ヶ岳を振り返る。それぞれの存在感が陰影によって浮かび上がっている「光と陰」が印象的な一枚(2021年10月4日、双六〜三俣稜線上にて。iPhone 11 Proで撮影)

光と色の関係を利用した表現がこちら。

雲の影と対照的に、オレンジ色に色づく山肌にちょうど光が当たる姿は、秋を伝えるに足る十分な情報。そこをしっかり自分の中で認識して表現しようとすることで、写真の出来や方向性が大きく変わった好例です。

<撮影のコツ>
❶明るい部分だけにフォーカスする表現もあるが、この場合、光が特徴的な瞬間なので、あえて広角で撮影することで対比を演出
❷明度を下げ、影を強めることで見せたい部分の色味を浮かび上がらせる
❸雲の浮遊感を大切に、山の輪郭はハッキリとさせることで写真全体を引き締める

次は、前穂高岳から奥穂高岳に向かう縦走路である「吊り尾根」で見つけた、インパクトのある一本のナナカマドを撮影した写真。「色」の鮮度と割合がポイントとなる2枚の写真を比較してみましょう。

2023年10月6日、iPhone 13 Proで撮影

1枚目の画像は、主役を前穂高岳とし、山頂に向かう稜線の険しさと奥行きを表現しながらも、朝陽によって鮮やかさを増した紅葉の赤を目立たせることで、力強い朝陽とともに秋らしさに焦点を当てた一枚。

2023年10月6日、iPhone 13 Proで撮影

2枚目の画像は、秋を表す植物が大きな割合を占めながらも、主役の前穂高にピントを合わせ、場所と時間がわかる構図にしています。また、明度と彩度を抑え、秋の空気と哀愁感を表現した一枚です。

<撮影のコツ>
❶どこにピントが当たっているかで主役が変わってくるので、被写体の分量に関係なく、どこにピントが欲しいのかをハッキリさせる
❷逆光の場合、ホワイトバランスで白飛びを調整
❸鮮やかな紅葉の彩度をあえて下げることで、作品の空気感(テイスト)に変化を与えることができる

これらは、何を伝えたいのか、どんな気持ちを乗せたい作品なのかによって、工夫したいポイントとなります。

③「らしさ」を際立たせる|撮った写真と対話して一歩先のクオリティに

険しい山肌に生える木々。厳しい環境でも健気に、凛と、美しく色づく命に光は照らす(2023年10月26日、本谷橋付近にて。iPhone 13 Proで撮影)

ここからは、いよいよ無事下山した後のお楽しみです。
「どんなものが撮れているかなぁ」と改めて撮ってきた写真をじっくり見返して、自分のベストショットを選んでいきます。

あのときのアレ!と選ぶものもある一方、第三者的な目線から純粋にピンとくるものを探し出すこともあります。

撮影する枚数は人それぞれだとは思いますが、私の場合だと一回の山行で数百枚、多いときには1000枚以上撮影します。

でもその中で、そのときの感情がよみがえり、心が震える瞬間とその姿が収められていると感じるものは、多くてもだいたい10枚程度という現実(実力)。

その10枚程度の写真たちでさえ、どこか惜しいと感じる部分が見えてくるもので、それをまた次のチャンスに生かしていきます。とにかく、その繰り返しのような気がしています。

また山で素敵な瞬間に出会えば、それを残したい、前よりもっとよいものにしたいとシャッターを押してしまうのが、写真の沼なのでしょう(笑)。

選び抜いた写真から「らしさ」の原点を探そう

さて、次は選んだ写真を見ていきます。

なぜ、あなた(私)はその写真を選んだのでしょうか。改めて掘り下げてみるとどこかに必ずポイントがあるはずなのです。

ここまでに挙げた作品例も、前述のとおり「好き」な被写体の中にある、さらにピンポイントに心惹かれた「好き」を探ることに全集中して撮影したもの。

作品を見る人によって、感じること、見えてくるものはさまざま。写真の楽しみ方も自由ですが、自分の中でしっかりこだわりを持って撮るということが、写真撮影自体をより楽しくさせ、作品はより深みを持つのだと信じています。

そして、それこそが私が考える「自分の武器」となり得る「らしさ」の原点となってゆくのだと思っています。

それが見つかれば、次のステップ「編集」に移りましょう。ここまで来れば、あとはその「好き」な部分をより自分好みに表現するのみです。トリミングするもよし、コントラストをつけるもよし、色を調整するもよし、明度を上げ下げするもよし。色々と調整してみましょう。

しっかりこだわって「好き」と向き合ってみると、さらに写真の面白さが倍増していきます。ちなみに、わたしはこの段階で胃がひっくり返りそうなくらいキュンキュンが止まらなくなって、ひとりニヤニヤするのがたまらなく楽しいんです(笑)。

編集の仕方については前回の記事にて簡単な解説をしているので、そちらをご覧ください。

秋・紅葉の上高地を歩いて撮った、スマホ写真の実例で解説

リフレクションが写し出す秋(2023年10月24日、上高地〜徳沢にて。iPhone 13 Proで撮影)

梓川沿いを歩いていると、目をやらずにはいられない光景に出会います。上高地が観光地であるのと同時に、山岳リゾートの入り口であることを、これでもかと五感をもって味わう…。街で過ごしていれば出会うことがなかったであろう大自然のスケール感と険しい山容に、わくわくせずにはいられません。

この日は、風もなく水量も落ち着いていたため、とても綺麗なリフレクションに出会うことができました。

この場合、主役は山並みと紅葉となりますが、どちらかといえばリフレクションを通してその姿を感じてもらえるように、あえて実際の空は最小限におさめ、リフレクションの中で青空を写し込む形としています。

上下を逆さまにしても楽しめるような一枚。

表現の仕方も「個性」であり、「らしさ」の追究として、終わりのない写真の楽しさです。

2023年10月26日、本谷橋付近にて。iPhone 13 Proで撮影

今回の山行は行きと帰りに同じ道を通ったのですが、帰りの方が紅葉の色づきがより鮮やかになっていました。大好きな屏風岩がなんと映えること!

木々の隙間から色んな表情を見せてくれる屏風岩に、つい足が止まり、心が動くたびにカメラを向けシャッターを切る…。

ちょうど頭上が開けた場所で「屏風ノ頭」が覗き、色とりどりの紅葉が包み込むような景色に出会えたので、広角モードで秋色満載に写してみました。

木々も気持ちよさげに空高く伸び、屏風岩もそんな木々よりも遥か空高く聳(そび)え立ち、太陽はポカポカで、なんとも健やかな時間が流れていたことを思い出させてくれる一枚に。

自分の「好き」を美しく彩る紅葉が魅せてくれる世界観に無性にわくわくし、思わず時間を忘れるほど…。紅葉に対してこんな感覚になったのは、初めてのことでした。

2023年10月26日、横尾〜徳沢迂回路にて。iPhone 13 Proで撮影

生い茂る木々がどこまでも黄色く、その中でもふと素敵だなと思った瞬間を撮影してみました。頭上から降り注ぐ太陽によって透明感を増した姿が、とても好みの色合い。

しかし、ただカメラを向けただけでは思った通りの世界観にはならず…。

撮った写真をその場で見返し、何か違うと感じては、もう一度景色に目を向けて、「自分はこの景色のどこをよいと感じているのか」「どこをセンターにどこまでの範囲で写せば、それが伝わる一枚になるか」「色の鮮やかさがポイントなのか、逆に明度を下げてみようか」など、観察と撮り方の試行錯誤を繰り返して撮っていった一枚。

こんな悪戦苦闘をしているときは、見た景色を目の中でそのままパシャっと撮れる機能が内蔵されていればいいのに…、などとくだらないことを思っては、写真の腕を上げたいなと改めて思ったりします。

実際には、こういう苦労があるから楽しいのでしょう。

2023年10月26日、岳沢湿原にて。iPhone 13 Proで撮影

六百山をメインの被写体として、枯れた植物を下半面に広く配置することで、写真を見たときの印象が枯葉色となるように色を意識して撮影。前景は写真の物語性を深めてくれる部分なので、何の何色を、どんな風に、どのくらいの割合で入れるか、色々と試してみるのがおすすめです。

ここは夏に通ると、植物の色彩が豊かでトロピカルな楽園気分になるのですが、10月の終わりともなればすっかり植物は枯れ、茶色い世界に変身。

これだけ見たら色も単調、撮り甲斐のない景色と感じる方もいるかもしれませんが、夏の姿を知っているがゆえに、猛烈に秋を感じて撮りたくなった景色でもありました。

河童橋から見上げる西穂、ジャン、奥穂、吊り尾根、前穂、明神のあの景色こそ、THE上高地!と感じるものですが、岳沢湿原で出会える水の綺麗な色と水辺の植物、そして、この六百山もとても素晴らしい眺めです。河童橋まで行かれた際には、ぜひ少し先の岳沢湿原にも足を運んでもらいたいなと思います。

紅葉の赤・黄色だけじゃない秋もいい|心が動いた瞬間を大切にスマホ撮影を楽しもう

2023年10月24日、横尾付近にて。iPhone 13 Proで撮影

山の秋は短く、まもなく閉ざされる山岳地帯も。雪が降れば埋もれてしまう足元の世界にも、秋ならではの哀愁が漂います。

グンと冷え込む秋の朝には、これから訪れる厳しく長い冬に向けて、色を失いかけた植物たちが寒さに耐えていこうとする、逞(たくま)しささえ感じる姿を見せてくれます。

iPhoneで接写を楽しむ場合には、ぜひ超広角モードを駆使して遊んでみましょう。被写体に対して3cm以内に迫ってみると、マクロの世界にスイッチ。小さな植物やその他被写体の目線に立った世界観を臨場感たっぷりに撮影することができ、夢中になること間違いなしです。

長く退屈な林道歩きも、登山道脇の植物たちが四季それぞれの表情で楽しませてくれ、自然の中に身を置く楽しさを教えてくれます。

池塘に咲く結晶(2023年10月11日、雲ノ平にて。iPhone 13 Proで撮影)

前日の雨と雪を経て、とても冷え込んだ朝。テント場は貸切。こんなにも冷え込んだ朝は、何か特別なものに出会えるのではないかと日の出に合わせてお散歩に出かけると、想像以上の光景が広がっていました。

雲ノ平の名物でもある池塘(ちとう)たちが凍り、創り出したさまざまな結晶の数々…。神秘以外の何物でもなく、どうしてこんな形ができるのか説明ができない自然からの贈り物に心から感激し、夢中でシャッターを切った中の一枚。

凍る池塘の表面スレスレまでスマホのカメラを寄せ、写したい対象に広角レンズを極限まで近づけるとこのような世界観が撮れました(マクロ撮影)。

夢中で池塘に張り付くこと、1時間余り。気づけば陽も高くなり、気温が上がればいつしかそれらも溶け…、雲ノ平のいつもの光景に戻っていました。山に冬が訪れる直前のさまざまな条件が重なったこの時期ならではの現象に、心も大いに震えました。

雲ノ平から眺める水晶岳(2023年10月11日、雲ノ平にて。iPhone 13 Proで撮影)

一年前に出会った印象的なアーベントロート(夕焼けで山肌が赤く染まる光景)をもう一度見たくて、同じ時期に再訪。奇跡的に条件にも恵まれ、今年もまた赤く染まる水晶岳を拝むことができました。

10月は一年の中でも特に、朝夕の空が色濃く焼ける印象があります。今年はより近くで、昨年とは違った写し方にトライしたかったので、当日は一日かけてロケハンをし、お天道様に祈りながら(雲の動きをアプリで逐一チェックしながら)そのときを待ちました。

さまざまな偶然が重なって起こる現象にこうしてまた出会えると、心から感謝の気持ちが湧き上がります。雲ノ平らしい池塘を前景に、池塘リフレクションも狙い、手前から「うっすらと染まる草紅葉」×「夕焼け」×「赤く染まる水晶岳」という構図にしてみました。

雲ノ平から眺める水晶岳(2023年10月11日、雲ノ平にて。iPhone 13 Proで撮影)

山が夕焼けに染まる時間はあっという間。時間にして1〜2分でしょうか。心の準備はしていたものの、最も赤く染まる瞬間を逃すまいと必死でした。

赤く染まる山そのもので画面をいっぱいにすることで、山の迫力、色のインパクト、山肌の表情を楽しめる一枚にしています。

昨年の作品は、祖母岳から撮影したため少し距離があり、iPhoneのズームでは少し物足りないところがあったので、今年こそ繊細な山肌と輪郭をしっかり捉えたくて、撮影場所をより近くにしてみました。

この撮り方がもともと好きなので、被写体に対する「撮り方」で自分らしさを表現することを今回のテーマとしています。

最後に

夕焼けに沈みゆく黒部五郎岳(2023年10月11日、雲ノ平にて。iPhone 13 Proで撮影)

私が秋を好きな理由のひとつに、「夏とのギャップ」というのもあります。陽の長さや強さ、角度、また雲の形や植物の姿など、夏を駆け抜けたその哀愁に満ちた姿に、どうしてか心の平穏と刹那の「キュン」がたまらなく訪れるのです。

山の秋 × 写真というとやはり、色鮮やかな紅葉をイメージされる方も多いかと思います。しかしながら、紅葉の鮮やかな色彩の裏側で、色を失いかけている姿や、突然の気温低下で夏と冬がせめぎあうような姿が垣間見られたり…。

日常の仕事をこなしてまた一週間後に訪れると、目に飛び込む景色はあっという間に冬支度を済ませたかのような移りゆき。そんな変化にも「秋の尊さ、美しさ」は詰まっていると思います。

そのすべてを「秋山」として楽しむことで、より多くの秋と出会うことができ、スマホで世界を切り取るプロセスを通じて、自然が教えてくれるさまざまなことを自分らしい視点で捉えられるような気がしています。

目や心に、焼きついて離れない景色に出会えるこの素敵な季節。

カメラやスマホを手に、自分の「好き」と「色」と「らしさ」を詰め込んだ、自分にしか撮れない一枚を残してみてはいかがでしょうか。

池塘の神秘(2023年10月11日、雲ノ平にて。iPhone 13 Proで撮影)

過去の作品例(Instagramでもご覧いただけます)

三俣に浮かぶ槍ヶ岳(2020年10月6日、黒部源流にて。iPhone 11 Proで撮影)

鏡平を照らす一寸の陽射し(2021年10月6日、弓折乗越付近にて。iPhone 11 Proで撮影)

前穂高岳東壁と三段紅葉(2022年11月2日、横尾大橋にて。iPhone 13 Proで撮影

Madoka.

山岳スマホフォトグラファー

Madoka.

山岳スマホフォトグラファー

「YAMAPフォトコンテスト2020」では、『陰影~夕刻の女王~』という作品で、YAMAP賞(大賞)を受賞。平日ハイカー。公共交通機関で行けるところなら、どこへでも。好きな山は、富士山、谷川岳、穂高をはじめとした北アルプス。神奈川県在住、東京都内勤務。