早いもので2025年もあとわずか、山でもさまざまな出来事がありました。今回は安全登山の観点から、2025年に発生した山岳遭難の傾向や、今年激増したクマの出没・被害の増加などをチェックした上で、ヤマップが行っている登山保険事業や安全登山への取り組みも紹介します。
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2025.12.12
YAMAP MAGAZINE 編集部

長野・富山県境に連なる後立山連峰と剱・立山連峰(撮影:鷲尾 太輔)
2025年夏山シーズン(7〜8月)の全国における山岳遭難発生件数は、これまで最多だった2023年(738件・809人)を大きく上回る808件・917人に。過去最多を更新しました。
エリア別では日本アルプス・八ヶ岳・富士山など人気の山域を有する長野県・富山県・山梨県の順に件数が多く、この3県だけで全国の35%以上を占めています。
もちろん、これらの県では前年比も以下の通り大幅に増加しています。
・長野県:143件(前年比+27件)
・富山県:90件(前年比+26件)
・山梨県:51件(前年比+12件)
また、年齢層別では山岳遭難者の割合に変化が見られます。
・2024年夏:70歳代=166人(22.6%)、60歳代=164人(22.3%)、50歳代=148人(20.1%)
・2025年夏:60歳代=199人(21.7%)、50歳代=190人(20.7%)、70歳代=166人(18.1%)
上記の通り、50歳代が増加し70代は減少傾向に。また4位にあたる40歳代も111名(前年比+28名)とこれまた増加。山岳遭難者全体に占める年齢層別の割合が、いわゆる中年世代にシフトしつつあると言えます。
40〜50歳代といえば、社会的にはまだまだ現役まっさかり。しかし加齢によって、身体能力は加速度的に低下している可能性もあります。忙しい仕事の合間で何とか休日を確保し、十分なトレーニングなしに登山するといったケースも想像に難くありません。
次に紹介する注目ポイントにも、体力低下やトレーニング不足が原因と見られる結果が表れています。

データ出典:警察庁「令和7年夏期における山岳遭難の状況」
このグラフは2025年夏期に救助された山岳遭難者の負傷程度の割合を示したグラフです。これによると、約半数の49.5%が「無事救出」となっています。一見すると死に至らず負傷もせずよかった…と思うかもしれません。
実はこの「無事救助」となる救助要請の原因は、疲労による行動不能、ちょっとした体調不良、道迷いが大半を占めるそう。これは日常的にウォーキングなどの運動習慣がない人が、登山という比較的きつい運動をすることによって起こりがち。こうした体力的に余裕のない人が、特にスケジュール終盤の下山中に陥ることが多いようです。
2025年11月下旬に北アルプスがまたがる「富山・長野・岐阜三県山岳遭難防止対策連絡会議」が開催されましたが、長野県からは「ビギナー中高年」とよばれる人の遭難が増加しているとの報告がありました。
さまざまなメディアやSNSで発信されるその絶景や感動的なイメージから、北アルプスは憧れの対象になりがちですが、日本アルプスのような本格的な山域は、ビギナー(登山初心者)が簡単にチャレンジできる山ではありません。
すなわち、山岳遭難の傾向として疲労、技量・装備不足による救助が増加している背景に、「登山者の質の変化」があるようです。客観的には安易ともいえる救助要請が増加していることもあり、警察官・消防隊やそのヘリコプターによる救助を有償化すべきという議論も絶えません(※)。
※埼玉県はすでに県の防災ヘリコプターによる救助活動に手数料を徴収

本当に必要な救助要請とは /長野県 ジャンダルム(PIXTA)
2025年は、この山域での若い世代の入山が増えたという報告もあります。日常的なトレーニングや定期的な登山による体力・身体能力の維持・向上と、自分のレベルに見合った体力度や難易度の山・コースを選ぶことが重要なのは、中高年層に限ったことではありません。
登山初心者であればなおさら。低山やハイキングから徐々に標高差や行動時間が増えるコースへ、着実にステップアップしていくことが、山岳遭難の防止にもつながります。
自分のレベルに対して無理のない登山計画を立てるためには、2025年現在10県および2山系が発表している登山コースの体力度と難易度を示した「山のグレーディング」や、YAMAPのモデルコースに記載されている必要な体力が数値化された「コース定数」などを参考にするのがおすすめです。
▶︎参考記事:山岳遭難救助のプロフェッショナルが伝授する安全登山の心得
▶︎参考記事:「疲労での救助要請」と「ポールだのみ」の悩み|長野県遭対協常駐隊の活動を知る【南部編】

横尾登山ゲート(撮影:YAMAP安全推進事業部)
自分のレベルに見合わない登山者の入山を事前に防止することも目的に、2025年秋に北アルプストレイルプログラム(登山道維持に登山者が参加する取り組み)の一環で行われたのが、奥上高地・横尾地区への登山ゲート設置です。
山岳観光リゾートである上高地から、国内有数の険しい山々が連なる槍ヶ岳・穂高連峰への玄関口となる横尾。特に秋は絶景の山岳紅葉が人気の涸沢カールを訪れる登山者が急増します。
登山ゲートでは事前にダウンロード&記入も可能な「登山準備・登山ルール確認票」を回収しつつ、登山準備と登山ルール・マナーの確認を入山前に実施。これによって、準備不足の登山者や明らかに宿泊地への到着が日没後になるような時間帯に来訪する登山者は、入山を控えるように促されました。
ただし、これは期間限定かつ局所的な対策です。どの山域であっても、装備面・体力面・スケジュール面などあらゆる点において、自分のレベルに相応しくない山・コースへ入山してしまう「遭難予備群」にならない自覚を持って計画・準備することが、安易な救助要請をしないためにも重要です。

山岳遭難が増加傾向にある岐阜県の金華山(PIXTA)
ここまでは北アルプスなど高山についてのトピックをお伝えしてきましたが、先に紹介した富山・長野・岐阜三県山岳遭難防止対策連絡会議において、岐阜県からは意外な報告がありました。
山頂から望む蛇行した飛騨川を含む絶景が「岐阜のグランドキャニオン」とよばれて人気が高まる遠見山(272m)や、山頂に岐阜城がそびえる金華山(328m)など、標高が低い里山の方が、2025年は北アルプスよりも山岳遭難が増えているというのです。
しかも、樹林帯で遠望がなくルートも入り組んでいる低山で起こりやすい道迷いは少なく、転落・滑落といった重篤な負傷となる態様が多い傾向になっています。
トレーニング不足や加齢によって低下してしまう身体能力。特に転ばずに歩くための平衡感覚や、転びそうになった時に踏ん張る足の筋力が低下していると、何でもないような場所で少しバランスを崩しただけでも大きな転落・滑落につながることがあります。低山といえどもあなどらずに入山することの重要性は、岐阜県に限った話ではありません。

2025年に急増したクマの出没と被害
山だけでなく社会問題にもなっているのが、2025年に激増したクマの出没と人的被害です。クマに人が襲われる人的被害の件数と死者数は、2025年4月〜10月末段階で過去最悪ペースを更新しています。
気候変動や電源開発などによってクマの生息域である山林の環境が変化していることや、人を恐れない個体や冬眠しない個体などクマ自体の生態が変化しつつあるなど、様々な要因が議論されています。しかし根本的な要因や抜本的な解決策は見出されていないのが現状です。
登山においてもクマ撃退スプレーや熊鈴・ベアホーンを携行するなどの対策が有効ですが、もっとも重要になってくるのが、事前の情報把握。登山を予定している山や山域での直近の出没情報などは確認しておくと良いでしょう。

フィールドメモに追加された「クマ情報」
YAMAPにはユーザーの方が登山中に気づいた情報を書き込むフィールドメモ機能があり、そのルートを計画している人も閲覧できます。2025年10月にはこのフィールドメモに「クマ情報」が追加されました。
こうしたフィールドメモや直近の活動日記、また各都道府県が発表しているクマ出没情報などを事前に確認して、クマと遭遇しないことが予防措置としてもっとも有効なのではないでしょうか。
▶︎参考記事:登山者の最大のクマ対策は遭わないこと|熊鈴の有効性と知っておくべき前提【クマとの共存。vol.1】
▶︎参考記事:登山前に兆候は把握できる|羅臼ヒグマ人身事故の教訓。活動日記などで確認を【クマ担当記者寄稿】

ここからは、登山者の方により安全に山を楽しみ無事に帰宅してもらえるようにと、ヤマップが2025年に取り組んだことに触れていきます。
残念ながら、YAMAPユーザーの方が山岳遭難の当事者となってしまうこともあります。ご家族・ご友人など「下山を待つ人」や、警察・消防など「捜索・救助活動を行う人」からの遭難者の位置情報や登山計画などの遭難救助相談件数も推移表の通り増加しています。
従来、こうした相談はヤマップの有志メンバーが交代制で(夜間・休日も)対応していました。さらに2025年3月からは、24時間365日対応の「遭難者検索システム」提供を開始しています。
ヤマップと「登山届協定」を締結した道府県の警察や救助機関であれば、ヤマップを介さずとも24時間365日いつでも遭難者の位置情報や移動経路などを即時に把握することができ、より迅速な捜索・救助活動が可能になりました。
ヤマップと「登山届協定」を締結した自治体の山域へ登山する際は、登山計画書の作成だけではなく、ぜひYAMAP上での「提出」まで完了をお願いします。

緑色が2025年現在ヤマップと登山届連携協定を締結している31道府県
この「遭難者検索システム」が利用可能な、ヤマップと「登山届協定」を締結した自治体も昨年2024年から4県増えて31道府県に。直近では2025年12月12日に千葉県と協定式が行われました。
関東地方(および本州)で唯一クマが生息していないと言われている千葉県は昨今注目の山域ですが、低山ながら地形が複雑で、過去には大規模な道迷いの事例もあります。
YAMAPでの登山計画作成・提出をすることで、より「遭難者検索システム」が有効活用されることになります。「登山届協定」を締結した自治体への登山はもちろん、登山の際は登山計画の作成と提出をぜひお忘れなく。

登山者の安全だけでなく安心も担保するため、ヤマップは損害保険会社である株式会社ヤマップネイチャランス損害保険をグループ会社として設立。2024年5月に登山保険事業をスタートしてから、1年半が経過しました。
※YAMAPアウトドア保険はヤマップグループが提供する保険の総称です。
登山はもちろん、日常生活やレジャー・スポーツも補償対象の「外あそびレジャー保険」と、YAMAPアプリを使って活動した登山中の補償に特化し歩行距離に応じて保険料が変動することが特徴の「山歩(さんぽ)保険」。いずれもそれぞれのニーズを抱いたユーザーの皆様からの支持を受け、すでにのべ保険契約が10万件を突破(※)しています。
※2024年5月から2025年9月までののべ契約件数
高額になる可能性があるヘリコプターや捜索隊による遭難・捜索費用は、公的機関・民間を問わず補償されますが、実際に保険金が支払われた事例の94%(※)はケガなどの費用です。
※ヤマップネイチャランス損害保険による保険金支払い実績の集計(2024年5月〜2025年7月)
その中には異常な猛暑で今夏も急増した熱中症や、クマやイノシシなどの野生動物に襲われた場合の骨折などのケガの費用など、近年リスクが高まっているケースもカバーする、心強い補償内容となっています。

登山保険は山岳遭難の当事者になってしまった場合のサポートですが、ヤマップでは保険を販売するだけでなく、山岳遭難防止のための活動も積極的に行ってきました。
その代表例が、遭難しないための知識を学ぶセミナーです。2025年はオンライン開催6回とリアル開催2回の計8回にわたってセミナーを開催。のべ2,000人の方にご参加いただきました。登山ガイドや山岳ライターなど一線で活躍する山のプロを講師に迎えた充実の内容で、いずれも高い満足度に。
また、今年から「YAMAPアウトドア保険」の公式アカウントでの、安全登山に関わるお役立ち情報の発信も力を入れて取り組み始めています。
ヤマップでは、2026年もこうしたセミナーや発信などを通じて、山岳遭難防止活動を継続していきます。

2026年も安全に、安心して、登山を楽しみましょう(撮影:鷲尾 太輔)
豊かな自然を五感で享受できる登山は、かけがえのないアクティビティです。
しかし同時に、悪天候や野生動物襲撃などの外的リスク、体力・体調・技量の不足や不良などによる内的リスクがあることも見過ごすことはできません。
自身の体力・技術レベルが目標とする山やコースに合った登山計画はもちろん、登山計画書の提出と共有や、万が一の山岳遭難に備えた登山保険への加入など、安全・安心をきちんと担保することが、登山を心おきなく満喫するための鍵にもなります。
2026年も安全に、安心して、心ゆくまで登山を楽しんでください!
執筆・素材協力=鷲尾 太輔(山岳ライター・登山ガイド)
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承認番号 YN25-423(2025年12月08日)
山歩保険(正式名称:歩行距離連動型保険料適用特約付き傷害保険)
外あそびレジャー保険(正式名称:遭難捜索費用拡張補償特約付き傷害保険)
※「YAMAPアウトドア保険」はヤマップグループが提供する保険の総称です。
取扱代理店 株式会社ヤマップ
引受保険会社 株式会社ヤマップネイチャランス損害保険